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*藤袴 -thoroughwort-*

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「ねーってば、泳ごーよーぉ」
「お前はここに何をしに来たんだ?」

ナルの腕を掴み下から下から見上げるように窺うのは麻衣。
しかし普段ならともかく仕事の時は一切妥協を許さない博士様は冷たい瞳でその発言を切り捨てた。

「うー....シゴトです」
「判ってるのならとっとと機材を片付けろ」
「でーもー、調査終わったんだからちょーっとぐらい遊んでも良いと思うわけですよー」
「撤収」
「ふぁーい」

頑張って良い募る麻衣であったが、やはりというか何というか許可は降りなかった。
「折角の海なのにー」とぶーぶー文句を言いながらも麻衣は手を動かしケーブルを片付けてゆく。
ただ、ひとつの動作を繰り返す度に「つまーんないのー」「ケチなんだからー」などの文句が呟かれるのはご愛嬌。

「折角、水着持って来たのになぁ...」

ポツリと呟いた言葉は誰にも聞かれる事は無かった。



□□□□



「ありゃ? んー....いちにーさん......足りない」

ケーブルの数を数えていた麻衣はその数が1本少ない事に気付いた。
その呟きにデータの検証をしていたナルが視線を上げた。

「ナルー、ケーブルが1本足りないよー」
「ちゃんと見たのか?」
「見たよー。3回数え直したもん」

ぷっくり頬を膨らませた麻衣を一瞥するとナルは顎に手を当て何やら考えた。

「海岸側に置いた分はどうした?」
「あ......取って来る」

海の事は考えない様にしていた所為ですっかり抜け落ちていた。
ガックリ肩を落としつつ麻衣は部屋を出て行った。
そんな麻衣を目の端に捕えたナルは、しばし考えたのち自分もペースを後にした。



□□□□



「ぬぉぉぉぉ、良い天気ーーーーーー!! やっぱちょっと早いけど泳ぎたかったなー」

大きく伸びをした麻衣は残念そうにしながらも残っていたケーブルを回収した。
さて、ベースに戻ろうと振り返って目の前にあった黒い物体に驚いた。

「ほぇ、な、ナル!?」

ジロリと睨まれた麻衣は、笑って誤摩化した。

「どしたの?」
「別に」
「?」

何とも言えないナルの様子に麻衣は首を傾ける。
ケーブルの回収ひとつまともに出来ないとでも思われたんだろうか.....
とは言え、ベースに戻る事なくその場に留まっているナルからそんな不穏な空気は感じない。

「10分くらいなら構わない」

......つまり、ちょっとだけ海で遊んで良いと?
きょとんと見つめ返した麻衣にナルは「それとも帰るか?」と旅館に視線をやる。

「いやいやいや!!海、海で遊ぶ!!!」

慌てて叫んだ麻衣に「煩い」と眉を顰めるが特に何を言う訳ではない。
「うわーいvv」と、散歩に連れて来てもらえた仔犬の如くはしゃぐ麻衣は靴を放り投げ、パシャパシャと音を立てて
海の中へと入って行った。
ナルからすれば何が楽しいのか判らないが、これで麻衣の機嫌が急降下する事はないだろうと砂浜に佇んでいた。
そんなナルに気付いた麻衣は、ニヤリと笑うと両手で掬い上げた水をナルにぶっかけた。
「隙ありーーーーっ♪」と笑う麻衣にナルの顳かみに青筋が浮かぶ。

「.............麻衣」

ひじょーに低い声にも麻衣は特に怯む事はなく笑い海の中でくるくる回って遊んでいた。
ナルが海に入ってくる事はないと安心して....
確かに他の者ならば絶対零度の視線と心臓串刺しの厭味で終わるであろう。
いや、存在自体無視かもしれないが、相手は麻衣。
ナルがそれだけで終わらせるはずが無い事を彼女は失念していた。
波に気を取られていた麻衣に気付かれないよう海に入ったナルは、麻衣の頭を鷲掴むと同時に足払いを掛けて倒した。

「うみゃぁぁぁっ!!!」

盛大な悲鳴をあげて倒された麻衣を波が襲う。
頭までずぶ濡れになった麻衣を勝ち誇ったように(@麻衣視点で)見下ろすナル.....
ぷちっと麻衣の中で何かが切れた。

「なにするかこのヤロウーーーっ!!!」

そう叫んだ麻衣は立ち上がる勢いを利用し、再び大量の水をナルにぶっかけた。
両者の髪からポタポタと流れ落ちる海水と広がる不穏な空気。

ふふふふふ

仮にもコイビト同士が海に来てココまで殺伐とするとは.....
と、彼らの関係を知っている者ならば乾いた笑いを零すことだろう。

沈黙を破り「いざ勝負!!!」と、大声で叫んだ麻衣は、足を振り上げ水を飛ばす。
その攻撃を見切っていたナルは数歩左にズレ距離を取る。
麻衣は更に反対の足を振り上げるも今度はナルが間合いを詰める。
伸びて来たナルの手を払い除けると麻衣はその場所にしゃがみ水を掬う。
....ここに某少年が居たならば「見応えのある勝負ですねぇ」とでも言ったかもしれない。
「おりゃぁーっ!!」と年頃の女の子としてはあるまじき声をあげて渾身の一撃を繰り出す麻衣。
それを紙一重で躱し遂にナルは麻衣の身体を海の中に沈めた。



□□□□



「うぅぅ、負けたー」と言いながら麻衣はシャツの裾を絞る。
そんな麻衣を見つつ、大きく溜め息を吐いたナルは滴る水を鬱陶しそうに掻き上げた。
その姿に麻衣が見蕩れた事は内緒だ。
が、耳まで真っ赤ではどんな言い訳をした所で無駄であろう。
勿論ナルにもバレバレである。
しかしナルはその事には一切触れる事はせず「帰るぞ」とだけを言うとナルは踵を返した。
パチパチと瞳を瞬いた麻衣であったが、その何とも不器用な背中に向かってふわりと嬉しそうに笑うと
バシャバシャと勢いよく走り出しナルの腕にしがみ付いた。

「えへへへ〃 楽しかったねー♪」

一瞬、眉を顰めたナルには構わず麻衣はご機嫌に笑う。
もう一度大きく溜め息を吐いたナルは腕にぶら下がる麻衣はそのままに足を旅館へと進めた。

「寒い」
「うん。熱っーーい紅茶淹れたげるvvv」
「当然だな」

珍しくナルの方から呟かれた言葉に麻衣の笑顔は更に深まった。




end  





調査なのにリンさんはドコ行った!!って突っ込みは無しの方向でお願いします@真顔
というか「うふふ」「あははは」の少女漫画的せおりー部分が甘くならないこの2人に爆笑


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早朝の電車は不快指数100%を越えている。
すし詰め状態の車内でリンは小さく嘆息した。
出社しようと駐車場へ行けば、愛車が影も形も残さず消えていて。
盗難かと慌てたが、柱に貼り付けられた「借りるぞ」という簡単な書き置きはナルの字だった。
それは彼が夜中か早朝かに勝手に乗って出かけた事を意味している。
仕方なく電車を選んだわけだが、こんなに混むとは予想もしていなかった。
目の前では茶というより金に近い髪の女子高生が友人と楽しげに話している。
まだ少女だと言うのに、その化粧の濃さは一体。
色んな意味で溜息を落とせば、急にその少女が振り返った。
目を吊り上げてこちらを睨んでくる相貌に、リンは嫌な予感がした。
そしてそれは、的中する。
「ナニすんのよ、この痴漢!!」
少女の甲高い声が車内に木霊する。
ざっと冷たい視線が注がれ、リンは弁解する暇もなく少女と共に着いたばかりの駅に無理矢理降ろされた。
「違います!!私は無実です!!」
哀れな男の叫びがホームに木霊する。


こうして、彼の受難の日々が始まった。






今日も今日とて、不憫な一日。



「あっはっはっはっは。そりゃ、災難だったなー」
応接室のソファから転がり落ちる勢いで笑われ、リンは憮然と淹れ立ての紅茶を啜った。
駅長室で弁解を続ける事三時間、漸く解放されたリンを待っていたのは遅刻による減給と倍に増えた仕事量だった。
理不尽だと言いたい。
全てはナルが愛車を乗って行った所為だと言うのに。
「リンさん、大丈夫ですか?おかわり要ります?」
「すみません。では、お願い・・・・・・」
しますと言いかけ、顔を上げたリンは近くに麻衣の姿がない事に内心で首を傾げた。
ふと辺りを見回すと、二メートルほど離れた場所に立つ麻衣の姿。
「た、谷山さん?」
「すみません、リンさん。半径二メートル以内に近付くなってナルが・・・。所長命令だから、逆らえなくって・・・・・」
「ナル・・・・」
彼は自分の部下の事を全く信用していないらしい。
「おはようございます。何か所長からリンさんの半径一メートル以内に入るなと言われたんですが、何かしたんですか?」
不思議そうに首を傾げて所長室から出てきた安原に、リンは頭を抱えたくなった。
麻衣よりも距離が一メートル短い事を喜ぶべきか、痴漢疑惑が晴れていない事を嘆くべきか、更には男である安原にまで注意喚起する所を落ち込むべきか。
どういう反応をすべきか迷う所だ。
「いや、それがさあ・・・・・・」
笑いすぎて滲んだ涙を拭いつつ、滝川が安原に事情を説明する。
それを聞いた瞬間、安原もぶはっと盛大に吹き出した。
「さ・・・・・災難でしたね。それにしてもリンさんに痴漢疑惑なんて、失礼な話ですよね?そんな事できるわけがないのに」
「そうだよな~」
「安原さん、滝川さん・・・・・・・」
付き合いの長い上司ですら全く信用してくれなかったと言うのに、微塵も自分を疑っていない二人にリンは感動した。
思わず涙が出そうになる。
しかし、その感動は長くは続かなかった。
「リンさんみたいなへタレが痴漢なんて出来るわけないじゃないですか~」
「そうだよな~。夜の店に入るだけでも躊躇して店の前をウロウロとしてるヤツなんだからさ」
「それで通報されたんでしたっけ?」
「あの時も必死こいて弁解してたな~。たまたま俺が通りがかったから良かった物の、下手すりゃ不審者扱いで刑務所行きだぜ」
本当に涙が出そうになった、さっきとは別の意味で。
ある意味これは信頼されているのだろう。
自分にとっては不名誉な意味で。
今度こそ本気でリンは泣きたくなった。


時計の針は正午を指している。
そろそろ昼食にしようかとデータを保存したところで、タイミングよくドアがノックされた。
「リンさん、そろそろ昼食にしませんか?谷山さんがお茶を淹れてくれてるんですが、どちらで食べられます?」
「では、応接室に出てきます」
「わかりました」
鞄の中から弁当箱を出し、部屋を出る。
そこにはすでに安原とナルがソファに座っていた。
「珍しいですね、ナルがこちらにいるなんて」
「何か食べないと麻衣が煩いからな」
煩わしそうに溜息を吐くが、それが本心からでない事は一目瞭然だった。
本当に嫌なら、彼は誰の指図も受けない。
それがこうしてこの場にいるという事は、彼が麻衣に対して相当心を許している証拠だ。
微笑ましい。
「・・・・・・・リン、お前はそっちに座れ」
顎で指された場所は、他のソファよりも幾分か距離をとられた場所。
思わず口の端が引き攣った。
彼はまだ痴漢疑惑を解消していないらしい。
「もう、ナル!!何でそんな意地悪するの?リンさん、可哀想でしょ!!」
頬を膨らませ、トレイに人数分の紅茶を載せた麻衣が給湯室より姿を現す。
彼女がリンの弁護に入ったのが気に食わないのか、ナルの眉間に皺が寄った。
「お前がそう言うから僕だって譲歩してやっただろう?」
「譲歩ってねぇ・・・・最初はリンさんのソファ、応接室の入り口まで離してたでしょ!!あれじゃあ、依頼の人が来たとき邪魔で入れないんだから、当たり前!!」

そうか、最初はオフィスの隅っこに指定されてたのか。

悲しくなって、リンは少し涙目になった。
しかも、フォローしてくれるはずの麻衣の突っ込みもズレている。
自分が可哀想ではなく、依頼人の邪魔になると言う理由でソファの位置は直されたのか。
距離が縮まった事に喜ぶべきか、苛めのような状況に泣くべきなのか。
反応に悩む所だが、それよりも今は食事を優先しよう。
経済状況が赤字のため、毎日朝食は抜いているのだ。
空腹で仕方がない。
「リンさん、お弁当なんですね」
「ええ。外食する余裕はないので」
「リンさん、料理上手そうですよね。何が入ってるんだろう?」
期待の眼差しで麻衣と安原がリンの弁当を凝視する。
あわよくばおかずの交換をしてもらおうとさえ企んでいた。
しかし、二段重ねの弁当箱を開けると、そこには大量に敷き詰められた茹でたもやし。
一段目から現れたのも、やはり茹でもやし。
「・・・・・・・・・・・もやし?」
「はい。コレが一番安いんです」
嬉しそうに頷き、もしゃもしゃともやしを頬張る姿は涙を誘う。
「・・・・・・・・リ、リンさん。良かったらコレ、食べます?」
あまりの哀れさに恐る恐る麻衣が差し出したのは、野菜サンド。
同じ物がナルの前にも置かれている所を見ると、今日の彼の昼食は麻衣が作ったらしい。
「い、いいんですか!?」
「は、はい!!」
急にテンションの上がったリンに怯えつつ、麻衣は野菜サンドを差し出す。

ああ、もやし以外の食料なんてどれぐらい振りだろう。

感極まってリンの瞳に涙が浮かぶ。
サンドイッチにもう少しで指先が届く瞬間、横から伸びた手が麻衣の手首を掴み、そのまま自分の元へと引き寄せた。
リンの物になるはずだった野菜サンドは、あっさりとナルの口の中へと消える。
あまりの衝撃に悲鳴すら出なかった。
呆然とリンは消えた野菜サンドの行方を見つめる。
ふっとナルの口元が皮肉げに笑った。

わざとだ、絶対。

麻衣の手作りの物が他の者に食べられるのが我慢ならなかったらしい。

なんて独占欲、なんて狭量。

「もう、ナル!!いきなり何するの!!あれ、リンさんのだったんだよ?」
「もう一つ」
「ナル、聞いて・・・・・」
「うわー。所長の『あ~ん』を見れるなんて・・・・・カメラ用意しとけば良かった。安原、一生の不覚です」
「え?」
「え・・・って、さっきのですよ。谷山さん、気付かなかったんですか?」
安原のしたり顔に、麻衣の頬は一気に紅潮した。
普段が恋人同士のやり取りなんかとは対極に位置しているナルだ。
何も言わないけれど、麻衣にだって恋人同士でのやり取りに憧れくらいは持っている。
不意打ちとはいえ、結構嬉しかった。
「麻衣、もう一つ」
無表情のままだが、ナルは麻衣へと顔を向け、口を開ける。
「う・・・うん」
真っ赤になりながら、麻衣はおずおずとサンドイッチをナルの口元へと運ぶ。
「お前も食べろ」
そう言ってナルは自分の分のサンドイッチを麻衣へと差し出す。
しばらく差し出されたサンドイッチとナルを見比べていた麻衣だが、覚悟を決めたようにサンドイッチを頬張った。
「いやぁ、初々しいですね。此処に滝川さんがいなくて良かった。いたら絶対に煩いですからね」
「そうですね・・・・・・」
一つ、また一つと少なくなっていくサンドイッチを名残惜しげに見つめながらリンは頷いた。

ああ、私の分のサンドイッチはどうなったんでしょう?

結局、リンの昼食はもやしオンリーだった。


夕刻。
本日の仕事を根性で終わらせたリンは、スーパーのタイムサービスに乗り込もうと意気込んでいた。
自分の長身はこの時のためにあるんだと、彼は本気で考えている。
身支度を整え、あとは戦場(スーパー)へ向かうだけとなった時、ドアがノックされた。
非常に嫌な予感がする。
「リン、ちょっといいか?」
聞こえてきたナルの声にリンは卒倒しそうになった。

残業か、残業なのか?

今日を逃すと食料を安く手に入れるのは難しいというのに。
青冷めつつ、リンはドアを開けた。
しかし予想に反して、ナルは書類を持っていない。
「どうかしましたか、ナル?」
「悪いが麻衣をマンションまで送ってくれないか?僕はまだ仕事が終わりそうもない」
「もう、私なら大丈夫だって。一人で帰れるよ。リンさんだって忙しいだろうし・・・・」
「いえ、大丈夫です。送りますよ、谷山さん」
気付けば口が滑っていた。
今はまだ日が出ていて明るいが、すぐに暗くなるだろう。
そんな中、麻衣を一人で帰すとなっては後でナルに何をされるか。
考えるだけで、恐ろしい。
「決まりだ。じゃあ、麻衣。コレを必ず持って行け」
そう言ってナルが差し出したのは、催涙スプレーとスタンガン、手錠が二組、更にはスパナまで。
「手錠は右手はハンドルに、左手はギアに繋いでおけ。そうすれば襲ってこないだろう」
ナルの非常な一言にリンは目を剥いた。

人を一体何だと思っているのだ!?

「わかった。それでもダメな時はスタンガンだね」
さらりと恐ろしい事をのたまう麻衣にリンは固まる。
「車内でスプレーは自爆になるから、なるべく使うな」
「だとすると、スパナかぁ・・・・・。狭い車内で振り回せるかなぁ?」
「脳天に叩き込めれば一発だ。ちゃんと手加減しろよ、死なない程度に」
恋人同士の危険な会話を聞きながら、リンは意識を飛ばしかけた。
そして、深く深く思った。

そんなに信用がないなら、最初から頼まなければいいのに、と。





■ 水杏りん様より(誕プレ/ナル麻衣+不憫)'10.7.10
<今日も今日とて、不憫な一日。>
不憫マイスターの称号を分け合う水杏りん様よりプレゼントを貰っちゃいました!
もうタイトル見た瞬間噴き出しました(笑)
痴漢に間違えられただけでも不憫なのに、その後のみんなの対応がまたw
水杏りんさん、ありがとうございました☆


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555キリ番をお踏みになられました、きみ子様リクエスト作品です。

<リク内容>
ナル麻衣。
本国イギリスにて麻衣に言い寄る男+嫌味を言う女、ナルが安原を使って牽制&報復。
麻衣自身はまったく気にしないが、ナルが切れ、麻衣をとっても大事にしている感じ。
イギリス関係者やイレギュラーズの反応も。
えーっと、きみ子様。すみません、1話ではまとまりませんでした。







ここはSPRの某一室。薄暗い室内でモニターだけが光を放っている。
“ピッ” という電子音が聴こえたあと、静かな声が響いた。

「以上が、僕からの報告です」
「なんて女なのかしら!」
「まったくですわ!」
「これは逆恨みっちゅうやつちゃいますやろか?」
「それよりこっちの男だろう問題は!!!」

憤慨した様子で一斉に声を荒げるのは、綾子、真砂子、ジョン、そして滝川だ。
リンでさえ “誉められた言動ではありませんね” と憤りを表している。
そんな中、なんの反応も示していない青年が一人。
その事にムッとした滝川は、怒りに任せて青年に詰め寄る。

「おい、ナル! お前も何とか言ったらどうなんだ!!」


一拍置いて向けられたナルの視線に滝川は固まった。

「そんな大声を出されなくても、聴こえていますよ滝川さん」

いつに無くゆっくり丁寧に告げられた言葉と、微笑みを湛えているにも関わらず
熱湯も瞬時に凍りそうな視線がナルの怒りの深さを表現している。


「所長、いかが致します?」

キランと眼鏡を光らせながら訊ねる安原に返されたのは、凄然とした微笑みだった。
(※凄然>寒く冷ややかなさま)   







イギリス、SPR研究所内にある小さなカフェに人目を惹く男女が座っていた。
男の方はライトブラウンの髪に深い緑色の瞳。柔らかそうな物腰は女性から好感を持たれそうだ。
対する女の方は、長い金の髪に茶色の瞳。少し気の強そうな雰囲気だが、男受けは良さそうだ。

「ねぇ、ケヴィン。私に協力してくれない?」
「突然なんだ、エルザ? また博士に相手にされなかったのか? いいかげん諦めたらどうだ、無駄なんだから」
「うるさいわね!! その無駄に良い顔を愛想で、とっととあの娘(こ)落としてよ!!」
「あの娘?」
「そうよ! 博士の側でヘラヘラ笑ってる目障りな小っちゃいのよ!!」

エルザはそれだけ言うと立ち上がり、カフェを出て行った。
ケヴィンと呼ばれた男は溜め息を付き、小さく笑った。

「エルザ、あれは小さいんじゃなくて華奢って言うんだよ」







「あちゃー、やっちゃったー」

そう呟くのは書類をぶちまけた麻衣。順番に並んでいたはずの報告書が見事にバラバラである。

「うー、これ並べ直すのか...はぁぁぁ」
「どうしたの? そんな大きな溜め息....うわぁ、これはスゴイ」
「ご、ゴメンなさい! 直ぐ片付けます!!」
「手伝うよ、コレは一人じゃ大変だよ」
「ありがとう」



「僕はケヴィン、君は?」
「マイです」

今2人が並んで歩いているのは研究室へ向かう途中の廊下。
並べ終わった報告書を運んでいるところだ。

「すみません。運ぶのまで手伝って頂いて」
「ノープロブレム。こんな重いもの一人じゃ運ばせられないよ。それに、可愛い女の子を助けるのはナイトの務めだからね♪」

そう胸を張るケヴィンに麻衣は笑った。

「ケヴィンさんって面白い人ですね。あ、もうそこですね、ありがとうございました。
 良かったらお礼にお茶淹れますんで飲んで行きません?」


「ただいまー」
「「「お帰り(なさーい)」」」
「遅かったわね。あら、ナンパ? 麻衣もやるわねー」
「違うよーもう、ケヴィンさんに失礼だよ綾子。書類運ぶの手伝ってくれたの!ケヴィンさん気にしないでその辺に座ってて下さいね」

そう言うと、給湯室に消える麻衣。
瞬間、合わされる研究室内の人々の目線。そして小さく頷き合う。

「ケヴィン、もうマイをナンパしたの?」
「人聞き悪いなぁ、セシア。大変そうだったから手伝っただけじゃないか」
「その優しさが男女共通なら良い人なんだけどねぇ、そう思わないアヤコ?」

肩をすくめトボケるケヴィンにセシアは呆れたと言い、綾子に同意を求める。

「あら? レディーファーストの染み付いた騎士の国の紳士ならそれ位、当然じゃない」
「そうなんですの?」
「真砂子ちゃん、綾子の言う事をあんまり真に受けちゃいかんぞー」

男は尽くして当然、と言い放つ綾子に不思議そうな真砂子。
そんな真砂子の将来を心配してしまうのは滝川の性分だろう。

「煩いわね、エセ坊主!真砂子、男に尽くさせてこそ女の魅力は上がるのよ!男がただ優しいなんて有り得ないんだから、レディーファーストなんてして当然と毅然とした態度で受け止めなさい。でないと付け込まれれるんだから!!」

色々有ったのだろう、妙に実感の篭った言葉が綾子から出る。



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「例えばどんな風に?」

首を傾けて訊く真砂子に、綾子は “そうねぇ” と思案する。

「例えば廊下なんかの角でわざとらしくぶつかって助け起こしてみたり、その人の行先を調べて “偶然ですね?僕もここ良く来るんですよ” とか言って現れてみたり...」
「うわぁー、それって下手をすればストーカーじゃないですか?」

と眉を顰めるのは安原だが、“それじゃぁ” と綾子に視線を向けた時には口元に意味深な笑みが浮かんでいた。

「散らばった書類を集めるふりして手に触れてみたり、書類の内容を確認するふりして無駄に顔を寄せてみたりとか?」
「そうよ、少年!天然を装って “可愛いね” だの “僕は好きだよ” なんて囁いた挙句に “そこ違うよ” なんて言って肩を抱いたり、ふらついたのを支える名目で腰を抱いたりもするんだから!!」
「それは忌々しき事ですねー。そう思いませんか、ケヴィンさん?」
「...そ、そーですね」

突然話を振られたケヴィンは、そう答えるのが精一杯だった。
何を隠そう今の会話、身に覚えが有り過ぎて途中から頬が引き攣っていたのだ。

「あ、あぁ。僕この辺りで失礼を...」
「おや? 谷山さんのお茶は飲んで行かれないんですか? それに何だか顔色も良くありませんよ?」
「そ、そんな事ありませ...」
「本当、あまり宜しくありませんわ」
「ここで休んで行かはったらどうですやろか?」
「おぉ、それが良い。安心しろ、俺は病人には優しいんだ」

全員から捲し立てられたケヴィン。
浮かしかけた腰は、あれよあれよと言う間に再びソファーに沈められた。
全員、微笑みを浮かべているはずなのに、言い様の無い威圧を感じるのは気の所為だろうか?
冷や汗の流れる思いをしたケヴィンは “お待たせー、皆も飲むでしょう?” とやって来た麻衣が天使に見えた。
にこやかにお茶を受け取った一同だが、ここで攻撃の手を緩めるような事はしない。

「麻衣、そのお茶はナルの分?」
「そうだよ」
「ナルもこっちに呼んでらっしゃいよ」
「そうですわ。篭ってばかりでは身体に良くありませんわ」

綾子と真砂子の言葉に “そーだね” と麻衣はナルを呼びに行った。


だらだらだらだらだらだらだら。
ケヴィンは汗の流れる音を生まれて初めて聞いた。
自室から出て来たディビス博士は事も在ろうにケヴィンの向かいに座った。
博士の隣には当然のようにマイ。片手に分厚い本、反対の手にはカップを持って優雅に紅茶を飲む姿は美しい。
しかし、一瞬。自分を見た時の瞳が怒りをたたえていた気がしたのだ。
そんなケヴィンの心情を余所に、ナルと麻衣はいつも通りの会話をしている。

「もう、休憩中くらい本置いたら?」
「お気遣い無く」
「明日休みだよねー?」
「一応」
「ウェスターさんとこ行かない?
「お一人でどうぞ」
「ムリー。だって道わかんないもん♪ 迷子になったら迎えに来てくれる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・午後」

長い葛藤の末、一緒に行く事にしたらしい。
確実に迷子になるだろう麻衣を探しに行くよりは一緒に行ってさっさと帰って来た方が
面倒が少ないと判断したのだろう。“わーい♪” とナルの腕に抱き着く麻衣。
そんなイレギュラーズやここ数日一緒に居た研究室内の人達にはもう見慣れた光景。
だが、ケヴィンには衝撃だった。

あのディビス博士が折れた?
しかも他人に抱き付かれる事を許容している!?

この状況を信じられないケビンが動けないで居ると、内線を知らせるコール音と軽く扉をノックする音が聞こえた。
電話はルイスが、扉には安原が向かった。


コンコン

「失礼致します。Mr.ヤスハラはいらっしゃいます?」
「おや、レイチェル嬢。と、エルザ嬢でしたか? 僕に何か?」
「お昼をご一緒した際、こちらをお忘れでしたの」
「あぁ! わざわざすみません、レイチェル嬢。次お逢いした時でも良かったのに」
「わたくしもそう思ったのですが、エルザが大事な物だったらと言うもので...」
「それは、お気遣いありがとうございます。エルザ嬢」
「いいえ、。当然の事です Mr.ヤスハラ」

にっこり微笑みながら答えるエルザだが、入ってきた瞬間から室内に目を配りディビス博士を探していた彼女は、ソファーに座るナルを見つけ瞳を瞬かせその腕に抱き着く麻衣にムッと眉を顰めた。

その実に判りやすい表情の変化は、エルザに興味の無いナルと明日の約束を取り付けてご機嫌な麻衣以外の誰もが認識するところだった。とにかく何とかナルと話したいエルザ。
ナルの向のソファーに既知の人物が座っているのを見付け、嬉々として話し掛けた。

「あらケヴィン♪ こんな所に居るなんて珍しいわね?」
「や、やぁ...エルザ」

もの凄い勢いでソファーに近づいた彼女と、まだ衝撃から立ち直れず引き攣った表情のケヴィン。
と、そこへ電話を終えたルイスが戻ってきた。

「すみません、博士。今、森チーフから先日のレイド伯爵の捜査の報告書とデータ全てを至急持って来て欲しいとの連絡がきたのですが...」
「全て?」
「はい」
「リン、ぼーさん」
「一人では無理ですね。我々も行ってきます」
「りょーかい」
「ほな、僕も行かせてもらいます」
「じゃぁ報告書は私が取ってくるわ」
「セシア、それも一人じゃ無理よ。私も行くわ」
「松崎さん。あたくしも行きますわ」

図ったように皆が一斉に研究室を出て行く。
最後に残った安原も “じゃぁ僕はレイチェル嬢をお送りしてきます” と出て行った。




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拍手[2回]



残ったのは、ナル、麻衣、ケヴィン、エルザの4人だけである。

「ありゃ? 皆、一気に出て行っちゃったねぇー」

のんきに呟く麻衣にナルは本から顔を上げずに問う。

「麻衣」
「ん?」
「明日」
「うん」
「他には?」
「...何が?」
「行きたい所は?」
「連れてってくれるの!?」

滅多にないナルからの言葉に瞳を瞬かせる麻衣。
断片的な言葉のやり取りにケヴィンとエルザは首を傾けたが、麻衣には十分伝わったらしい。
“気が向いたら” というナルの返事にも満面の笑みを浮かべている。
そして本を持っていない左手を開かせて指を絡めたり握ったりして喜びを表現している。

「麻衣、じっとしてろ」
「むーりー。だって嬉しーいんだもん♪」

今度はナルの肩に頭を寄せゴロゴロと猫のように懐いている。

「お前は散歩に行く前の犬か...?」

呆れた様に言うが、ナルは別に麻衣の行動を止めさせたりはしない。
そんな2人の様子に大ダメージを受けたのはエルザだ。
しかし、そんな事で諦める可愛い女じゃない彼女は、何とその状態のナルに話し掛けた。

「博士! お久し振りです♪」

最後にハートマークが付きそうな猫なで声だ。
ナルは煩わしそうに顔を上げたが、一瞥を与えただけで再び本に視線を戻した。

「相変わらずつれない人ですわね、博士」

再び話し掛けるエルザにナルは本から目を上げる事無く口を開いた。


「失礼ですが、どちら様でしょう?」


淡々と告げられた内容に凄まじい衝撃を受けたエルザ。
一瞬、呆然としたが心を奮い立たせ叫ぶように名乗る。

「....エ、エルザですわ! 博士、エルザ・メイヤーです!!!」
「残念ながら僕の記憶にあなたは存在しません」

やっと顔を上げたナル。しばし思案したのち、そう告げるとパタンと持っていた本を閉じた。
そして本を持つ方とは逆の手で麻衣の腕を引上げ立ち上がらせる。

「ナル?」
「休憩は終わりだ」

“え?でも” とケヴィンとエルザと見やる麻衣。

「彼らも仕事中だ。問題無い」

そう言うとそのまま、麻衣の腕を引き自室へと消えて行った。





<おまけ>

なぜ、レイチェルがこうもタイミング良くエルザを連れてこれたのか?  



実はエルザがカフェで喚いていた時、その近くの席に別の男女の姿が在った。
エルザに対し憤慨する女性。受付のレイチェル嬢である。
偶然、お逢いした “大天使様たち” に傾倒している彼女にとって、先ほどのエルザの発言は許し難いものだった。
さらに去り際、丁度近くを通ったエルザが発した言葉に、彼女の怒りは頂点に達した。


「あの容姿で博士の側に居ようなんて、おこがましいと思わないのかしら?」


ふふ、ふふふ。
と含み笑いをし、普段の彼女からは想像もできない低い声で訊ねる。

「Mr.ヤスハラ。今のお聞きになりまして?」
「もちろんです」

にっこりと微笑みを浮かべて肯定したのは誰もが恐れる安原修、別名=越後屋。
その手には抜かりなど無く小型カメラ。
先ほどのセリフもバッチリ入っている事だろう。

「では、僕はこの辺で」
「あら、どちらに?」

そう訊いたのはまだ20分ほど休憩時間が残っているからだ。

「優秀な調査員は迅速な行動が大原則ですから」
「そうですわね。わたくしに出来る事がありましたら何でもおっしゃって下さい」
「ありがとうございます」


「「ふふふふ」」


と微笑み合うレイチェルと安原の姿がそこには在ったとか.......






「気が済んだかエルザ?」
「く、悔しい!! 何であの娘なのよーっ!!!!」




end    




以上で「ウリエルの騎士」は完結です。
リクには越後屋を使ってとの事でしたが、彼には裏方に徹して頂きました。
でないと、ナルの出番が無くって.... え? 十分、出張ってました?
それは朽葉がヤスハラが書きやすいからです。すみません。
本文中に有りますレイチェル嬢の “大天使さまとの出逢い” は、GHのSSにございます。
タイトルもそこからです。お気づききなられましたでしょうか?
最後になりましたが、リクエストを頂きましたきみ子様
お楽しみ頂けましたでしょうか?
わたくしは書いててとっても楽しかったです。
特にナルの「お前は散歩に行く前の犬か...?」のセリフを思いついた時は
リードを持つナル。しっぽをパタパタさせて瞳をキラキラさせる子犬化した麻衣。
という想像をして一人悶えていた怪しい人でした(笑)
気に入って頂けたら幸いです。
朽葉

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5555キリ番をお踏みになられました、Heliodor 様リクエスト作品です。
<リク内容>
ナル麻衣。
もしも麻衣が元々幽霊が視える設定で2人が出逢ったなら?というパラレルな設定。
Heliodor 様すみません。リク2作目ですがやはり1話ではまとまりませんでした。
さらに色々勝手に捏造しました。
原作設定じゃなきゃ嫌、という方はお進みにならない方が良いと思います。




※『』の会話は英語だと思って下さい







「きゃっ! ど、どいてー!!!」

突如響いた叫び声に動く間も無く激しい衝撃が襲った。






「うっ....」
「気付いた!? よ、良かった〜」

目を開いた途端、視界に飛び込んで来たのは見知らぬ少女。
そうか、人間びっくりすると声が出ないのは本当だったか。そんな事を考えてしまったのは現実逃避だろうか?

「大丈夫? どっか痛いとことか、判んない事ない?」

起きてから一言も発せず瞬きを繰り返す僕に不審を抱いたのか少女はそんな事を訊いてくる。
痛いとこ...?

「僕は中庭を歩いていたはずなんだが?」
「うっ...ご、ゴメンなさい。その〜、私が木の上から落っこちました」
「.......」

そう言えば、悲鳴が聞こえた後に激しい衝撃を受けた気がする。人間が上から落ちて来たとすれば納得だ。
そもそもなぜ木の上なんかに?そこまで考えて僕は目の前で申し訳なさそうにしている少女との会話が英語でない事に気付いた。
ここはSPRの敷地の中だ。関係者以外は入れないはずである。研究員の身内か?
否、少女の顔立ちは東洋的で今話してたのは「ニホンゴ」だ。今の研究員で日本人と言えばまどかぐらいだ。
ならば?

「あ、あの〜。お、怒ってる、よね?」
「怒ってはいない」
「ほ、本当に?」
「ただ...」
「た、ただ?」
「どうしてこんな事になったのか?とは思う。悪いと思っているなら僕の質問に答えてもらおう」

怖ず怖ずと見上げながら訊ねて来る少女に僕は発生した疑問を解消すべく訊ねる事にした。
人の上に落ちて来たんだ、これくらいしてもらおう。僕の言葉に少女は神妙に頷いた。

「では、なぜ木の上に?」
「...5歳くらいの男の子が居た気がして」
「木の上に?」
「だ、だよね....あははは」

その答えに思わず眉を顰めてしまったのは僕の所為じゃない。

「う、嘘じゃないんだよ! その時は本当に居たっていうか....」
「まあいい。ここは何処か知っているのか?」
「ここ? えーっと医務室?」
「そうじゃ無い。この施設の名称や役割は?」
「SPR研究所。心霊研究だよね?」
「基本的に関係者以外立ち入り禁止なんだが、許可は?」
「そうなの? えっと、ドリー卿って人にとある人の実験に協力して欲しいって言われて」
「....」

一応関係者らしい。しかし実験に協力という事はこの少女が能力者なのだろうか?
そんな思考に浸りかけた時、奥の扉が開き救護士が姿を現した。


『あら、ディビス博士お目覚めですか? ご気分が悪かったりしませんか?』
『いいえ』
『そうですか、なら良かった。そちらのお嬢さんが引きずってこられた際には驚きましたわ』
『引きずって?』
『ええ。その子が一人で博士を運んでこられましたの。すみませんが、私はこれから学会に出かけないといけませんので、これで失礼させて頂きます』

そう言うと救護士の女性は黙礼し医務室を後にした。

「馬鹿力?」
「失礼な!! で、何の事?」

不思議そうな顔で訊いてくる少女。どうやら先程の英語での会話は聞き取れなかったらしく反射的に怒ったようだ。

「ここまで一人で僕を運んで来たと彼女は言っていた。意識を無くした人間は見た目以上に重い。
 その上どう見ても僕の方が大きい」
「女の人に手伝ってもらったんだもん!」
「女の人?」
「そ、キレイな人でね、薄い水色のワンピース着てたんだ。裾がヒラヒラ〜ってやつ。でも医務室に着いてさっきの人呼んでる間にどっか行ちゃったんだよね...そう言えば誰か捜してたみたい。キョロキョロしてたから」
「ワンピースだけ?」
「え? うん、そうだよ」
「この時期に?」
「.......」

僕の言葉に詰まった少女。それはそうだろう、今は12月だ。こんな時期にそんな格好は普通の人間はしない。



NEXT >


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※『』の会話は英語だと思って下さい 
 



「そーだよね.....あれ? そう言えばあの男の子も半袖だった気が....」


「ミーディアム?」
「みでぃあむ? 何それ?」
「違う....はぁ」
「何だよー、その憐れむような瞳はー」

思わず零れた僕の溜め息に、むーっと眉を寄せる少女。

「....ミーディアム、霊媒の事だ。えーっと...」

そう言えば僕はこの少女の名前すら知らない事に今気付いた。
僕が不自然に言葉を途切らせた事で少女も気付いたらしい。


「そう言えば名乗ってないねー。わたし麻衣、谷山麻衣。よろしく♪ で、あなたの名前は?」
「.....オリヴァー・ディビス」
「えーっと、でーびす君?」
「................オリヴァーでいい」
「オリヴァーだね。じゃぁわたしの事はマイって呼んでね」

ニコニコと僕の座るベッドに両肘を付いたまま笑う少女=マイ。

「では、マイは霊が視えるのか?」
「多分。他の人には視えないみたいだから」
「どう視える?」
「その時によって違う事もあるけど、生きてる人と変わらないなぁ。話し掛けたら普通に会話できるから人なのか霊なのか判らない事が多くて...」
「厄介な」
「ゔっ...だ、だから見分ける訓練の為に来たんだもん!」
「今も見分けれていなかった様だが? 注意力が足りないのでは?」
「....むぅぅー」

ナルの尤もな意見に唸るしかない麻衣。


「あれ....? そう言えばオリヴァーは私の言う事、疑わないんだね」

ぱちりと瞬きをし不思議そうに麻衣は訊ねる。つい先程まで唸っていたのに素晴らしい変わり様だ。

「僕は心霊研究者だからな。それが嘘か本当かくらい判断できる」
「そうなんだ〜」

“へー” と素直に関心する麻衣にナルは少し意地の悪い笑みを口元に浮かべた。

「それに、マイはどっから見ても腹芸ができそうに無いからな」
「へ?」
「頭が単純そうだ」

しれっと言われたナルの言葉に頭上に “?” をいくつも浮かべる麻衣。


「ば、バカっぽいって言いたいのかー!?」
「意外に早く気付いたな」
「何だとー! ホント大概失礼な奴め!!」

ぷっくりと頬を膨らませナルを睨む麻衣。その様子がナルに片割れを思い出させ苦笑を誘う。
麻衣はそれが余計に気に入らなかったらしい。ガバッと立ち上がる。

「もー大丈夫みたいなんで私はこれで失礼しますぅー」

そう言って扉に向かう、しかし途中でクルリと振り返ったかと思うと勢いよくベッドの傍に戻って来た。

「上に落ちてゴメンなさい。お陰で怪我しなくてすみました」

ペコリと萎らしく頭を下げた麻衣は次の瞬間、瞳に悪戯な笑みを浮かべた。
ナルが気付いた時には既に麻衣はベッドに乗り上げていた。
そして頬に軽いキスを贈り心底驚いたナルの様子に満足そうに笑うと踵を返した。

「じゃぁね♪」


『一体何だったんだ、今の...』

他人にあまり興味の無いオリヴァー・ディビス15歳。
一瞬にして思考を停止させられた初めての経験である(笑)





『ナル〜 お帰り♪』
『お帰りなさいオリヴァー』
『...ただいま』
『直ぐ晩ご飯にするから荷物置いたら降りてきてね』

笑顔で出迎えたのはジーンとルエラ。すれ違う際に掛けられた言葉に小さく頷き階段を上がった。


はぁぁ....今日は何だか疲れた。
持ち帰った本を机に置きリビングへ引き返す。遅くなると片割が煩くて適わない。
自室を出た所で車のエンジン音が聞こえた。恐らくマーティンが帰って来たのだろう。
階段を下りれば丁度、玄関の扉が開いた所だった。


『『お帰りなさい』』
『ただいまルエラ、ただいまジーン。オリヴァーもただいま』
『お帰り』

僕の答えに満足そうに微笑んだマーティンは後ろを振り返った。

『さぁ、どうぞ』
『お、おじゃましま〜す...』

怖ず怖ずと顔を覗かせた人物に僕の思考は再び停止した。


『まぁ! 可愛いお嬢さん。マーティンこの子が?』
『そうなんだ。今日からしばらく家で預かる事になったマイだ』
『あー、ハジメマシテ。マイ・タニヤマです。マイと呼んでクダサイ』



NEXT >


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※『』の会話は英語だと思って下さい




ニコニコと笑顔で会話するルエラとマーティン。しかしその息子は首を傾ける。

『預かるって? 僕、聞いてないよマーティン?』
『あぁ! ツインズ、君たちには内緒にしていたんだ。驚かせてみようと思って』

驚いたかい? なんて訊いてくる養父にジーンは苦笑した。
改めて、ルエラとマーティン、そしてジーンがマイに視線を戻すと
彼女は口元に手を当て、驚いた顔でジーンとオリヴァーを見比べていた。

「双子だったんだ......この世にこの顔が2つって凄いなぁ...」

ぽつりと呟かれた言葉に反応したのはジーン。

「今の日本語だよね? マイはもしかして日本人?」
「えーっと、そーです」
「うわぁ、よろしく僕はユジーン。ジーンって呼んで」

そう言うとジーンはにっこりと微笑んでマイの手を取りブンブンと振る。

「えーっと、よろしくジーン?」

へらりと笑ったマイに笑みを深めたジーンは片割れを紹介すべく後ろを振り返った。

「ほら! ナルも自己紹介しなよ!!」
「......」
「ナル?」

無言のナルに対し疑問符を浮かべたのはマイだ。首を傾け答えを待っている。

「.........それは愛称」
「そっか。よろしく、オリヴァー♪」


この会話に驚いたのは周囲だ。

「ナル知り合い!!? どこで逢ったのさっ!!」
「煩い」
「オリヴァー?」

叫んだジーンには眉を顰めたナルだが、両親の静かな視線にはちゃんと答える。

「今日。SPRの中庭?」
「その節はどうもゴメイワクをお掛け致しました」
「「「迷惑?」」」
「えーっと、木の上から落っこちました」
「まぁ! 怪我はなかったの!?」
「ナル偉いじゃない! ちゃんと助けてあげたんだよね?」

心配そうなルエラと嬉しそうなジーン。


「「.......」」


「えーっと違うの?」
「断りも無しにいきなり落ちて来た」
「ゔっ.....ち、ちゃんと “どいて” って言ったもん」
「声と同時に激しい衝撃を受けて、次に気付いた時には医務室。いつ避けられるのか教えて頂きたいものですね?」
「ゔぅぅ.....」
「でも結局ナルは避けなかったんでしょ?」
「避ける間もなかった。まったく僕の顔に傷でも付いたらどうしてくれるんだ」

この言葉に青筋を立てたのはマイ。


「こんのナルシストめ!! あんたなんかナルシストの “ナルちゃん” で十分だぁー!!!」


“びしぃっ”と指を差して宣言したマイにジーンが笑い転げたのは言うまでもない(笑)




end  



すみません。こんな感じに妄想してしまいました。             
ちなみに出逢った年齢引下げました。麻衣14歳、ナル15歳。       
実は出逢いだけでも                           
 出逢い1 イギリスの街中(→朽葉がイギリスの街を知らないので却下)  
 出逢い2 SPRで迷子の麻衣をナルが発見(→ナルが気に掛け無くて終わり)
 出逢い3 まどかが連れて来る(→ナルと麻衣が薄れそうなので却下)   
 出逢い4 SPRの中庭を通りかかったナルの上に木の上から麻衣が落ちて来る
 出逢い5 ディビス家にマーティンが連れ帰って来る           
と5パターン考えて、4と5で悩んだので混ぜ込んでみました。       

Heliodor 様リクエストありがとうございました。
ちょっとだけ幼い麻衣とナルの出逢いとなりましたがいかがだったでしょうか?
雰囲気は壊さない様心がけたつもりですがイメージと違ったらすみません。
少しでも楽しんで頂けたならと思います。



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7777キリ番をお踏みになられました、摩那さまリクエスト作品です。

<リク内容>
ナル麻衣。SPR内の皆様のお話。
これ以外特に指定も規定もありませんでしたので、朽葉が好き勝手書きました。








「「「乾杯〜!!!」」」
「さー飲むぞー!」
「ご飯も食べなさいよ、折角作ってきたんだから」
「もちろん頂きます。松崎さんの手料理は絶品ですからね〜」
「あら、判ってるじゃない少年。遠慮せず食べなさい」
「俺も食うぞー」
「あんたはちょっと遠慮しなさい」
「ひでぇ...」
「あはは」








「お花見しましょう♪」

日が傾き夜の闇が迫ろうという時間、勢い良く扉を開けるなりそう宣言したのは綾子。
花などに一切興味のない某所長は、麻衣の “いいなぁ、お花見” の一言に早退の許可を与え、自分に被害が及ぶ前に追い出そうとした。
が、そこは某越後屋の腕の見せ所

「良いんですか? 見張ってなくて?」
「必要を感じませんが?」
「でも桜は人を惑わすと言いますし」
「だから?」

それが何だと言わんばかりに眉を顰めるナル。対する越後屋は満面の笑みである。

「本当の桜の花びらは白いらしいんです」
「それで、何が言いたいんです?」
「所長はなぜ桜の花弁が、淡いピンク色になったと思われます?」
「突然変異でも起こしたのでしょう」

実に素っ気ないナルの答えに、安原は笑みを浮かべながら続ける。

「古くからの言い伝えなんですが “桜の木の下には死体が埋まっている” と。その死体の血を吸い上げ美しい花を付けるのだと...」
「バカバカしい」
「そうですか?」
「この世に一体何本の桜が生えていると? その全ての木の根元に死体が?」
「まさか! でも火のない所に煙は立ちませんからね?」
「果てしない確率ですね」
「でもそれを引いてしまう人、いらっしゃいますよね?」
「.......」



沈黙は肯定なり。
結局、安原に丸め込まれる形で不本意ながらもこの場に連れ出された黒衣の青年。
騒がしい一団とは距離を置いているものの立ち去る気配は無い。
美貌の青年が満開の桜の下で一人酒を傾ける様は何にもまして麗しい。
しかし悲しいかな酔っぱらいと化した一団には何の感慨も与えはしないようだ。
“はぁぁ” と大きく溜め息を吐いたナルの左肩に、いつの間に傍に来たのか麻衣が凭れ掛かった。

「こんなとこに来ても本?」
「連れて来られたんだ」

暗に来たくて来た訳じゃないと言うナル。

「でも上には満開の桜だよ? 一週間足らずで散っちゃうんだから、その間のほんの一瞬くらい
 瞳を向けても良いじゃん。良い事在るかもよ?」
「例えば?」
「桜の精が視えたり?」
「それは是非カメラの前にして欲しいな」
「この研究馬鹿」
「何とでも」

いつも通りのやり取りだが今日は麻衣の機嫌が良いようでナルの素っ気ない答えにクスクスと笑ったままだ。


「あーっ! 俺の酒かえせー!!」
「みみっちい事言ってんじゃないわよ、似非ぼーず!」
「はいはい、ノリオには僕の分あげますから」

酔っぱらいと化した滝川と綾子の叫びは少し離れた位置にいる麻衣とナルの元にも良く聴こえた。

「煩い」
「まぁ良いじゃん。お花見なんだし」
「ぼーさん達に花を愛でている様子は無いがな」
「あははは」

事実をバッサリと突く言い様に麻衣は爆笑する。

「何だ、お前も酔っぱらってるのか?」
「まっさかー、私飲んでないもん! ただ、ね」

そこで言葉を止め、桜を見上げた麻衣は舞い落ちる桜の花弁に手を伸ばす。


「誰かと桜を見上げて笑えるような心の余裕が出来るなんて思わなかったから、私は幸せだなぁーっと思っただけ♪」



end  




ナル麻衣にも関わらず越後屋が出ずっ張りでどうしょうかと思いましたが何とか麻衣を引っぱり出せました☆
摩那さまリクエストありがとうございました♪
リクを頂いた日の帰り道、闇夜に浮かぶ満開の桜を発見してしまいこの様な作品となりました。
夜桜見に行って他に人が居ないなんて有り得ないでしょうがどうか突っ込まないで下さい。お気に召して頂ければ嬉しく思います。 




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10000ヒットを記念して募集した限定リク第一弾! 昴さまリクエスト作品です。                     
<リク内容> ナル麻衣でナルが嫉妬して最後は甘甘







未来を確実にしてしまえば少しはこのイライラも治まるだろうか?



最近どうもナルの様子がオカシイ。どこが、と聞かれても答えられないのだが何となくそんな気がするのだ。
そしてそれを感じるのはどうやら私だけ...最近特に何かをやらかした記憶は無いのだが知らぬ間にやってしまっただろうか?

「う〜ん」
「どうかしたのかい、マイ?」

つい漏らしてしまった声がマーティンに聞こえたらしい。麻衣を見て首を傾けている。

「えぇっと、ナルが最近変な気がして...」

理由が判らなくて何かしたかなぁ?と考えてました、と正直に言う。

「オリヴァーが “変” か.....良し、ちょっと見て来よう」

そう言うとマーティンは立ち上がった。



コンコン

「オリヴァー、ちょっと良いかい?」
「マーティン? ...どうぞ」

普段あまり部屋には入って来ないマーティンがわざわざ来た事に軽い驚きを抱きつつナルは入室を促す。

「論文は進んでるかい?」
「...一応。何か?」

差し障りの無い会話から入ったマーティンに対し、単刀直入に用件を聞くナル。
マーティンは思わず苦笑する。

「実はね、今リビングでマイが唸ってるんだ」
「は?」

マーティンの言葉が思いもよらなかったのか幾度か瞬きを繰り返すナル。
そして眉間にいつもの皺を刻み“それが?”と言わんばかりの表情に変わる。


「聞けばどうもオリヴァー、君の様子が “おかしい” と言うんだ」
「僕は別に...」
「でも、マイは “なんとなくそんな気がする” と言っている。君が認める程のセンシティブが言うんだ、何か有ったんだろう?」

否定しようとしたナルを遮り笑顔で断言するマーティン。
咄嗟に言い返せなかったナルの負けである。

「大した事じゃない」
「恋人に心配掛けている時点でその言い訳は通じないよ」
「.......コイビト」
「違うのかい?」

心底驚いた顔で聞き返すのはマーティン。

「一応、多分...」
「......オリヴァー、マイにちゃんと告白したんだろうね?」
「.........」

まさかとは思うがこの息子は “愛してる” の一言さえマイに告げていないのだろうか?
仮にも実家に連れ帰って、両親(わたしたち)に紹介までした女性に
プロポーズは疎か告白さえしていないなんて事が有っても良いのだろうか?
いいや、良い訳が無い!!心の中で盛大に自問自答を繰り広げたマーティンは再び息子を見つめた。

「で、君は一体何を悩んでるのかな?」

マーティンの中でナルが何かをひとりで悩んでいる事は決定事項になったようだ。
ともすれば “恐ろしい” 部類に入る笑みを浮かべながら圧力をかける。

「.........」
「私には言えないかい?」

そう訊ねれば目の前の息子は少し困ったように眉根を寄せる。

「そういう訳じゃ.....」
「何と言えばいいのかが判らないのかな?」
「多分....」

他人との付き合いを全て “無駄なもの” として追いやってきた不器用な息子はどうやら “コイビト” に向ける心を
どう表現して良いか判らないようだ。あぁ、この子は “人を愛すること” がようやく出来たらしい。
マーティンの瞳が柔らかく緩み、口元にも嬉しそうな笑みが浮かぶ。そしてひとつだけ言葉を送った。

「“恋う” という心を理解する事など誰にもできやしないよ」

ただ “愛しい” のだから仕方が無い、と言う事を自分で悟る以外には...


「何が有ったのか、私に話すかい? それともマイと話すかい?」

そう聞けば、オリヴァーはしばし考えたのち私に向き直った。
そしてポツリポツリと断片的に話された内容を要約するなれば、先日本屋の帰りにとある店から出て来るマイを発見したらしい。
それがどうも一人では無く連れが居たようだ。相手はナルも知ってるSPR研究員のケヴィン・カルロー、性別 男。
しかも出て来た店がまた問題で、某高級ジュエリーショップ.....
そこは婚約、結婚指輪を扱う専門ショップでかなり値の張る一点モノの多い店だ。
それを見てからというもの、どうも思考がグルグルとして頭が回らないらしい。
えーっと......何故だろう、と本気で聞いて来る息子に、私は何と答えたものか真剣に悩んだ。
それは世間で言う “嫉妬” という感情だと教えるべきなのか?それとも自分で気付くまで放っておくべきなのか?
......放っておいたら一生気付かないかもしれない。それはマイに非常に申し訳ない上、笑えない。



NEXT >


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「オリヴァー....君は、マイとケヴィンが一緒にショップから出て来た時どう思った?」
「....どう?」
「......じゃぁ、何を考えた?」
「.......」

このままでは埒が空かないのは明白だ、質問の内容を変えよう。

「2人は楽しそうだったかい?」
「麻衣は...笑っていた」
「マイの瞳はケヴィンを見ていたのかな?」
「2人は一定の距離を取って歩いていたのかな?」
「それとも手を繋いでいた?」
「もし君の目の前で、ケヴィンが麻衣を抱き寄せたりしたら君はどうした?」

最後質問にオリヴァーはムッとした様に眉を顰める。
表情はこれほどまでに素直なのに一体何故気付かないのか不思議だ。

「マイとケヴィンが一緒にショップから出て来た時どう思った?」
「.....良い気はしなかった」

いくつもの質問の後、もう一度最初の質問を投げかければようやく答えが返ってきた。



一人になった部屋の中で、ナルは先ほどの会話を反芻していた。

「オリヴァー、誰かと生きていく為には努力しないと簡単に壊れてしまうものが有るんだよ」

と言うマーティンの言葉が頭の中で響いている。
腕を組み、瞳を閉じると椅子に深く腰掛けた。少し開いた窓から流れる風が頬を撫でる。
知っている。
今まで在る事が当然だったモノが一瞬にして失われる事を...僕も....そして、麻衣も....
“今” がずっと続くなんて “ありえない” 事なんだという事も。
でも、“それでも” を考えてしまう自分が確かに存在する事もまた事実。

「厄介な事だ」

でも、それを厄介だとは思うのに手放そうと言う気は微塵も起きないのだから仕方無い。
今は亡き片割れが聞いていたら驚きのあまり絶句するかもしれない。
大きく溜め息を吐くと、ただ開いていただけの本を閉じる。



「わっ、珍しい」

リビングに顔を出した僕に驚いた様子の麻衣。

「お茶」
「はぁい♪」

いつも通りの言葉にも楽しそうな返事が返る。
カチャカチャという食器の音とふわりと漂ってくる紅茶の香りに凝った感情も緩く綻んでいく気がする。

「ナル?」

いつの間にか瞳を閉じていたらしい、自分を呼ぶ声に顔を上げれば直ぐ近くで
僕の顔を覗き込んでいる麻衣が居た。

「どうしたの?疲れた?それとも眠い?」

見当違いなセリフを吐くが心配そうな顔で僕の隣に座る麻衣。
細い手が優しく髪を撫でる感触が心地良いと感じる様になったのはいつからだろう?
髪を撫でていた手を取るとその平に唇を落とす。

「なっ....////」

真っ赤に染まった麻衣の顔に満足するとその手を放した。

「お茶は?」
「....あ、あんたは...もう!!」

しれっと何事も無かったかの様に訊ねるナルに文句を言おうにも真っ赤な顔では何の説得力も無い事は明白だった。
ガチャンと少し乱暴にはなったが、まだ湯気の立つ紅茶をナルの前に置いた。

「そう言えば、ケヴィンの事って覚えてる?」

その名に眉間に皺が寄るが、瞳で肯定し先を促す。

「実はケヴィン、前に研究室に来てたエルザの事が、ずーっと好きだったんだって」
「.......エルザ?」
「そ。でね、エルザの誕生日に結婚を申し込むんだって指輪を買おうとお店の前に行ったのに一人で店に入れなくてね、2時間もその前でウロウロしてたんだって。で、たまたま通リ掛かった私に、スッゴイ形相で一緒に入って下さいって言うから笑っちゃった。指輪が気に入らなければ No って返事するって宣言されてたみたいで、エルザから Yes の返事が貰えた事に本当に喜んでたんだよ」
「...そんな物が欲しいモノなのか?」
「欲しいんじゃない、女の子なら?」
「........」

「マーイ! 手伝ってくれなーい?」
「は〜い♪」

キッチンから聞こえたルエラの声に笑顔で返事をし席を立つ麻衣。
リビングに残ったのは何やら難しい顔で悩んでいる青年のみ。


「指輪.......」




end  



この後ナルはどうしたんでしょうね?
指輪の知識なんて皆無でしょうがプライドの高い彼が誰かに訊くとも思えませんし
唯一相談するかもしれないのはマーティンぐらいですかねぇ...
ショップに乗り込んで麻衣みたく直感で決めたりして(笑)          
こっそり部屋にカタログが有ったら爆笑ものですね。
昴さまリクエストありがとうございました。
ナルが嫉妬してとのリクに「嫉妬」の意味を辞書で引いてしまいました。    
ナル麻衣にも関わらすマーティンが出張ってしまいました。スミマセン。
気に入って頂けたら嬉しく思います。


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