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*藤袴 -thoroughwort-*

☆次回イベント予定☆                                                ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★                  

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骨飛族も眠る真夜中
1件の居酒屋の扉が勢いよく開かれる。

カランコロン

「いらっしゃい、おう!クルー久々じゃないか?」

扉が開けた人物を見たとたん店主の嬉しそうな声がかる。
店内にいた客が扉を振り返ると王立軍の制服を着た美少女が立っていた。
赤みが強めの茶色い髪が腰辺りまで真っ直ぐ伸びサラサラと揺れている。
ぱっちりと大きな瞳は髪よりも深い茶色。一見どこにでも有る組み合わせ。
だが、見たことも無い位に整った顔立ちが全てを覆していた。
流れるように歩く様は、まるで水面を泳ぐ漁人殿のよう。
その輝かんばかりの瞳で見つめられるだけでこの世のありとあらゆる幸福を授かった気になりそうだ。
やや小柄だがそれが守ってあげたい!と言う男の庇護欲を非常にそそる。
しかし、強い意思を宿した瞳が決して弱い守られるだけのお姫様で無い事を物語る。
客全員から「ほぉぅ」と言う溜息とも付かぬ声が漏れる中、少女は店主に向かって嬉しそうに話掛ける。

「久し振り。色々忙しくってねー。ふふふ。いつもの頂戴♪」
「あいよ。飲みもんはオレンジジュースでいいかい?」
「うん。あ、はいお金」

そんな店主と少女のやり取りを呆然と見ていた客の1人が思わずと言う風に聞く。

「オヤジも隅におけないねー。いつの間にそんな可愛い子と知り合ったんだ?」
「レック羨ましいか?」

と言う店主の台詞に店内の客全員の首が激しく縦に振られる。
「?」きょとん。と言う形容詞が相応しい表情を浮かべ小首を傾げる少女に再び見蕩れる客に、店主が目を細めた時入り口から物騒な物言いが聞こえた。

「命が惜しいなら、あんま近づくんじゃねーぞ、お前ら。」
「グリエちゃん!?」
「どーも。お久し振りですお嬢さん」

明るく挨拶を交わしつつ自然に少女の隣りに座る。もちろん店の客への牽制を込めて...

「ヨザック?知り合いか?」
「ん?まあな。」
「グリエちゃんお友達?」
「いいえ、仕事仲間ってやつですよお嬢さん」
「お庭番?」
「そっちじゃありません」
「グェ、じゃなくって、えぇっと親分が言ってたお店の方?」
「えぇ。あ、ほら来ましたよ」
「ほい、クルーお待たせ」
「ありがと、オジサン」

どこの作法だろうか?いただきます。ときっちり両手を合わせて言い少女が食べようとすると「美味しそうっすね〜お嬢さん俺にも一口」とグリエと呼ばれた男が少女より先に料理に噛り付く。

「「「「「!?」」」」」

店内の客が唖然とする中、少女も男み何事も無かったかの様に食事と会話を続けている。

「美味しいグリエちゃん?」
「むぐむぐ。お嬢さんが通いつめるのも頷けますね〜この値段でこの味、中々無いですよね〜」
「でしょー」
「...おい、ヨザック」

ドスの効いた声で話し掛けてくるレックを一瞥しニヤリと笑う。

「何だ? レックそんな怖い顔してー」
「お前なぁ、何だじゃないだろう!そーんな可愛い娘と “はい、あーん” みたいな恋人的行動!!なんて羨まし....ゴホン。否...まぁ、とにかく。その...」

もごもごと口の中で言葉を濁すレックに対しヨザックは何か思い至る節があったらしく人の悪い笑みを浮かべた。

「どうしたレック? 顔が赤いぞ? もしかして...」
「な、なななな何だ!!」

意味深に言葉を区切られて、思わず吃ってしまうレック。
ヨザックはさらに笑みを深め、少女には聴こえない様に言う。

「まさかとは思うがお前、お嬢さんに惚れたか?」
「なっ!! そ、そんな、わ、訳ないだろ!!」
「そーかぁ?」

にやにやと人の悪い笑みを浮かべるヨザック。
しかし次の瞬間、瞳に載せられたのは獰猛な獣の色。

「悪い事は言わねぇ、お嬢さんだけはやめておけ。 .....命が惜しけりゃな」





 

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それは
“グレタもユーリと一緒にお忍びで城下に遊びに行ってみたいの!!”
という可愛いおねだりから始まった

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作 戦 会 議 ? 
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ここは血盟城の地下にある赤い悪魔の研究室。
鍛え上げた肉体の持ち主であろうと、どんなに強い魔力を有していようとも(特に後者の者は)決して誰も近づかない魔の部屋。
しかし今、その部屋に、この世の軌跡と称される美貌の持ち主(本人無自覚)で、稀代の名君の名高い当代魔王、ユーリ陛下とその御息女、グレタ姫が仲睦まじく紅茶をお飲みになられている。
他の魔族にとっては恐怖の部屋だが、栄えある罠女候補生であらせられるグレタ姫とユーリ陛下にとっては、お付きの者の目の届かない格好の隠れ家である。

曰く、 “誰にも邪魔をされない内緒話が存分にできる” との事。

陛下にひたすら愛を捧ぐ某閣下などが聞けば号泣しそうだ。
余談ではあるが、某閣下の娘は良く出入りし話の仲間に加わっている。
とにかく、今もその内緒話の真っ最中だったりする。

「やっぱり、クルトさんとこのベーグルは外せないと思う」
「美味しいの?」
「すんごく!でも屋台の干し肉のスープとか、子羊のルカッチャも捨て難い。う〜ん。ベーグルはお土産にしようか...?」
「持って帰れるの!? ならアニシナとギーゼラにも買ってこようよ♪」
「そうだね、うん。そうしよう♪ 良し、これで大体決まった!」
「楽しみだね、ユーリ♪」

楽しそうに微笑み合う御二人。
そーんな微笑ましいやり取りの後ろでは、 “ゴポッコポッ” という怪しさ満載の音と “ふふふふ、もう少しで完成です” という声がしているが、まったく気にならないらしい。

「そー言えばユーリは御忍びの時、何て名乗ってるの? ミツエモン?」
「うーん、一人の時は “クルー” って名乗るのが多いかな?」
「クルー?」
「うん。ロビンソン・クルーソーって探検家の名前から、正式にはフェイレン・クルーソーだね。で、ムラケンがロビンソン。通称 “ロビン” ちゃん。」
「へー。猊下も御忍び用の名前あるんだー。じゃぁ、グレタも御忍び専用の名前が欲しい!!
 ね! ユーリ!! グレタの名前、付けて♪」
「へ?」
「...ダメ?」

小首を傾げて上目遣いでの愛娘からのお願いに、お母様は落ちた。





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「城内の男共は、わたくしがキッチリと誤摩化すなり何なり致します故どうぞ、お気になさらずゆっくりと楽しんで来て下さい。あぁ! わたくしとした事が、これを忘れる所でした。どうぞお持ち下さい。そして是非とも感想をお聞かせください!!」
 
そう言って渡されたのは2つの腕輪。アニシナの瞳のような綺麗な青い腕輪だった。

「では、お気を付けて。グレタ。しっかりと市井を学んでくるのですよ」

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 愛 を 込 め て あ な た に
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赤い悪魔の力強い言葉に押され、秘密の魔道通路 “あなたに内緒で行きたいの〜君” を使って、こーっそり血盟城を抜け出した2人。
向かうは勿論、夜の城下だ。
町に向かう途中、ふと歩みを止めたグレタがユーリに訊ねる。

「ねぇ、ユーリ。グレタの名前決まった?」
「もちろん! 色々悩んだけど、ちゃーんと決めたよ。気に入ってくれるかな?」
「何? 聞かせて!!」
「 “イリー” 。“フェイレン・イリージア” でどうかな?」
「 “イリー” ?」

そう呟いた後、笑みを浮かべるグレタ。それを見たユーリもほっとした様に笑う。
そして膝を折り、グレタと目線を逢わせる。

「ちゃんと意味も込めてあるからね」
「どんな?」
「グレタにはお母さんが2人居るでしょう?その元気いっぱいの身体とグレタという名前はイズラさんから贈られた大切なもの」

“私も大好きだよ” と囁きグレタを抱きしめる。
髪を撫で、トントンと背中をあやす様に叩き、続ける。

「でも、イズラさんはもう、グレタを抱きしめてあげる事ができないでしょう?代わりと言ってはアレだけど、私は今、こうやってグレタを抱きしめる事ができる。けど、私も中々傍に居てあげられない。だから今回のこの名前が、遠くに居てもグレタの傍に私たちが居る事を感じられるようなそんな名前になってくれたら良いなと思って付けたの」
「.....傍に?」
「そう。産みの母、イズラさんと私、ユーリの名前を併せて “イリー” 私たち2人の大切な娘だという意味を込めて」


ぎゅーっと、強く。
強くユーリに抱き着いたグレタは瞳に涙を溜めながらも幸せそうに笑った。


「ありがとうユーリ。大事にするね」



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今日の血盟城は人々の笑い合う声があちらこちらより聞こえる
それはそうだろう
稀代の名君と名高い渋谷ユーリ陛下御生誕の日なのだから
お誕生日の御祝いにと昼の祝賀会には多くの貴族が訪れていた
普通なら夜通しパーティーをするところだが
それでは血盟城で働く人が休めないと仰せになられた陛下の一声で
夜のパーティーはごく内輪だけで行われる事となった
内輪だけとは言っても普段血盟城で働くものは誰でも参加OKなので
かなりの人数が集まった
皆、お酒も入り思い思いに楽しんでいる

「陛下? 眠いのですか?」
「.......へーかゆーな」
「すみません、ユーリ」

ぼーっと一点を見つめていたら超が付く過保護な名付け親が顔を覗き込んで来る
つい最近、ほんとーに最近だ
名付け親から....その、だ、こ、コイビトってヤツになった気恥ずかしさから
俺は目を合わせられない
とりあえず精一杯頑張っていつもの通りの会話をすればヤツは苦笑する
あぁ、こんちくしょう
そんな何気無い仕草までカッコイイんだから同じ男としては悔しい
ちょっとムッとした顔になるのはしょうが無い事だろう
そしたら何を勘違いしたのか悪戯な笑みを浮かべたヤツはこう言った

「もう誰も正気な者はおりませんから抜出しましょうか?」

いい加減飽きていた俺はその言葉に速攻頷いた


「転けないで下さいね」
「そんな鈍臭くないって....」

血盟城の庭に出た俺たち
こっちの空は星が綺麗だ....
何だよ、俺だってたまには星くらい見るぞ! 星の名前なんて知らないけど...
コイツは知ってるんだろうな、んで綺麗なお姉さんたちが惚れちまうわけだ
面白くねぇ
俺の隣りで静かに空を見上げる男を俺は盗み見る
まぁ盗み見ても速攻気付かれるんだけどさ
爽やかな笑みなんか浮かべて「どうしました?」なんて聞いて来る

「星が.....キレイだな」
「....そうですね。本当にどうしたんです突然?」
「べーつーにー」
「ユーリは星を見ていたんですね」
「アンタは違うの?」
「俺は....月を見ていました」
「以外、コンラッドなら星座の話で女の人の人気者な感じがするけど」
「星座? 1つか2つなら判らない事も無いですが....」

ちょっと困ったように笑う
ん、まぁいいや
今日は俺の産まれた日、その日にコンラッドが隣りに居る
俺に名前をくれて、俺を大切にしてくれて、俺を....愛してくれる
うん
それだけで俺、しあわせだよ


end  


29日マに合わなかった....ゆーちゃんハピバ♪
珍しく男の子な有利を書いてみました。




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「貴様!! 私を誰だと思っているっ!!!」
その日の始まりはそんな不愉快極まりないセリフからだった。

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特別御庭部隊のオシゴト。
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「申し訳ございません。本当に申し訳ございません」
「ふん! まったく教育の行き届いていない庶民はいかんな」
「嘆かわしい事ですね、父上」
「おぉ! お前もそう思うか? ハインツ」
「えぇ。でも父上、今日の所は許して差し上げてはどうです? 庶民の教育などたかが知れてるではありませんか」
「そうだったな、これは庶民であったな。おい、そこの者」
「は、はいっ!」
「ワシは心の広い上流貴族だからな。今日は勘弁してやろう。但し、次は無いぞ?」
「はい! ありがとうございます! 申し訳ありませんでした!!」
「帰るぞ!」
「「はっ!!」」



「何、アレ?」
思わず半目で訊ねてしまったのは仕方ない事だろう。
「よう、クルー。久々だな、何にする?」
「うん、久し振りオークさん。取りあえずリンゴジュース。マルクスさんも久し振りー♪ 元気?」
「おぅ、嬢ちゃん久々だね〜。俺は元気元気」
「そいつぁ体力だけが取り柄だからなぁ。はい、お待ち」
「るせぇー、オーク」
「ふふ、ありがとう。で、あれ何?」
「あれ?」
「そう、アレ」
「うーん。何っーか、お気楽貴族様って奴が気に入らない庶民を身分を盾に脅して喚き散らして帰ってったとこ。かな?」
「...へぇー。じゃぁ、あの土下座して謝ってた人は何かした訳じゃないんだよね?」
「名前をな、言い間違えたんだ」
「それだけ?」
「俺たちにとっちゃな。でもお貴族様には大問題だったみたいだぜ」
「何て名前か聞いた?」
「えーっと、フォルツなんとか卿...何だっけ、マルクス?」
「あの喚いてたのが、フォルトレーヌ卿 ヒリテル。その場を鎮めるふりして一緒に嘲笑ってたのが息子の、フォルトレーヌ卿 ハインツ。で、金魚のフンみたいにくっ付いてたのがお付きの家臣ってやつだね」
「ふーん。フォルトレーヌ卿ねぇ...親がバカだと子供もバカに育つのね」
「...はははっ! 違いねぇ!! 」
「嬢ちゃんも言うねぇ〜」
「ところでオークさん、今日のお勧め何?」
「今日は魚だね。良いの入ったぜ!」
「じゃぁそれ頂戴」
「俺は肉な〜」
「はいよ〜」

店主が厨房へ消えたのを確認するとマルクスの雰囲気が変わった。

「で、どうなさいます?」
「マルクスさん、敬語はダメだよ」
「そうは言われましてもねぇ。誰も居ない時は勘弁して下さい」
「まぁ、仕方無いか。で、宿は特定できる?」
「はい。カーターに後を付けさせました」
「では明日の予定を調べて」
「拝命致しました」





「いらっしゃい! うちの野菜買ってかない?」
「奥さん! 今日は良いヒツジが入ったよー」
そんな声の飛び交う活気ある市に一人の女性がやって来た。
「おじさーん、そのお肉くださいな♪」
「お? テティス、随分でっかくなったなぁ」
「あらまぁ、本当!! そろそろかい?」
「ええ、今月産まれる予定なの」
「それは、めでたい! 頑張って元気な子産んでおくれよ」
「ユーリ陛下の御代に産まれるんだ。幸せにならんといかんぞ」
「もちろんよ」
肉屋の夫婦に満面の笑みで返すのは、フェデリコ・テティス。
王都南側の住宅街に、小さな家を持つ普通の市民である。
家族は、街の宿で懸命に働く夫のみ。今月にはもう一人増える予定だが。
しかしそんな幸せいっぱいの彼女の人生にありえない転機が訪れようとしていた。


「テティス、やっぱり誰かに運んでもらいなよ」
そう心配そうに訊ねるのは果物屋の女主人、ルーシー。彼女の目の前には身重な女性。
既に両手に荷物を持っているのに、さらに今、オレンジを買ったのだ。
「大丈夫よ! これくらい」
「でもねぇ...」
どうした物か? と悩んでいたルーシーに一人の少女が声を掛けた。
「どうしたの? ルーシーさん」
「クルー! 久し振りだねー元気かい?」
「うん。ルーシーさんも元気そうだね。で、どうしたの?」
「実はね、この娘(こ)テティスっていうんだけど見ての通り妊婦だってのにこの荷物一人で運ぼうとするんだよ。わたしが運んでやれれば良いんだけど、店空ける訳にはいかないし。うちの旦那もさっき配達に行っちまってねぇ...」
「だから大丈夫...」
「「ダメだよ!」」
綺麗にハモったルーシーとクルーの声にテティスは押し黙る。
「うん。じゃぁ、私が手伝うよ♪」
「本当かい、クルー? 助かるよー」
「任して!! お姉さんのお家はどこですかー?」
勝手に話を進める2人にパチリと瞬きをしたテティスは苦笑した。
「じゃぁお願いします。えーっと?」
「フェイレン・クルーソーです。見ての通り王立軍に所属してます。皆、クルーと呼ぶのでテティスさんもそう呼んで下さい」
ピシっっと敬礼してみせるクルーにテティスの楽しそうな笑い声が重なった。




 

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「お? クルーじゃねーか、今日は美人のお供かい?」
「クルー、今度はうちにも寄っとくれよー!」
「クルーっ!! 今度 “やきゅう” やろねー、僕たち大分練習したんだー!!」
5分ほど歩いただけなのに周囲の店から掛けられる声の多さにテティスは驚いた。
「凄いのね、クルーって」
子供たちに笑顔で手を振っていたクルーは、呟かれた声に振り返った。
「何が?」
「だって街の人、皆クルーに笑顔で話し掛けるのよ。私びっくりしたわ」
「そうかなー?」
「そうよ。さっき子供たちが言ってた “やきゅう” ってユーリ陛下がご推奨されている “すぽーつ” ってやつよね? クルーもできるの?」
「もちろん!!」
「じゃぁ、この子が大きくなったらクルーが教えてくれる?」
「喜んで♪」




「ほら! とっとと道を空けないか!!!」
思わず眉を顰める喚き声とガターンという大きな音と “キャー” や “うわぁー” という悲鳴が上がったのは商店街も終わりに差し掛かった所だ。

「お嬢さん」

小さく呼ばれた声に振り返れば、マルクスとカーターが居た。
彼らは騒ぎに気を取られている周囲に気付かれないようそっとクルーの側に来る。
「遅くなり申し訳ありません」
「今日の行動は全てカーターが記録を取っております」
「地位剥奪を視野に入れて問題ないかと思います」
「うん、判った。小隊をこちらに回しておいて」
「はっ!」
クルーの言葉に物陰から鳩を飛ばすのだろう、カーターが踵を返す。

「きゃぁぁっ!」

思いの外、近くで上がった悲鳴とドサッという音に振り返ればテティスが倒れていた。
「テティスさん!!」
慌ててクルーが駆け寄るがテティスはお腹を押さえて蹲ったままだ。
「大丈夫ですかっ!?」
「い、痛っ...」
上げられた顔は苦痛に歪み、顔色も良く無い。
「っ、ギーゼラをここへ!!」
素早く周囲目線を走らせたクルーは王都警備隊に命令を出す。
「は、はっ!!」
クルーの姿に気付いた兵は慌てて敬礼し駆け出す。
「テティスさん、家はここから近い?」
「ぅぅ.....ニつ、向こうの...道」
「失礼致します! 王都警備隊の者です。担架をご用意しました!!」
「では彼女を家に運んで! 医療班が到着したら案内を!!」
「「「はっ!!」」」
実にキビキビとした動作でテティスを担架に乗せる警備兵の後ろから煩わしい声が聞こえた。

「何だ騒がしい」
「そこ! 何をしている? 旦那様がお通りになるのだ道を空けたまえ!!」
「否、しかし。急病人の女性が...」
「お前、ここにいらっしゃる方を誰だと思っているのだ!!フォルトレーヌ卿 ヒリテル様と御子息、ハインツ様にあられるぞ!!」
兵の説明にお付きの男が憤慨した様に喚く。
その勢いに圧されかけた兵の耳に冷静な声が聞こえた。

「そんなバカ、放っておきなさい。今はその人を運ぶ方が先でしょう!」
「「「はっ!」」」

無駄の無い動きでテティスを運んでゆく警備兵を見送ったところで問題の愚か者は我に返ったようだ。

「貴様!! 私が誰だか判っているのか!!!!」

どっかで聞いたセリフを叫びながら、がしっとクルーの肩を掴み振り返らせる。
が、クルーは煩わしそうにその手を払い、躊躇わず断言した。


「フォルトレーヌ卿。眞魔国の一国民でしょう?」




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その仕草、言い様に事の成り行きを見守っていた周辺住民が固まった。
うわぁぁ...その言い方は拙いですよー、お嬢さーん。
口をあんぐり空けたまま呆然とするフォルトレーヌ親子。そんなアホ面...否々、失礼。
「...なぁ、結構やばいんじゃね?」
なんて言葉が囁かれる中、その意味をやっと理解したらしい親子が真っ赤になって激昂した。
「な、な、何たる侮辱!! たかが一兵ごときが! おい、そこの兵! こいつを捕えろ!!!」
近くに居た王都警備隊の兵に命令するフォルトレーヌ卿(父親)。
聞くわけねーだろ、たかが地方のバカな道楽貴族の命令なんぞ。警備隊隊長を誰だと思ってやがる。
クルーも冷たい瞳で対している。
「侮辱? ...ではあなたは眞魔国の国民では無い、と?あぁ、そうですね。先程からの言葉や行動を鑑みるに、眞魔国の国民としてまったくもって相応しく無い!! ご自身でも自覚されておいでなのですね」
“さすがです!” と拍手まで付けて揶揄る。 .....どっかの赤い悪魔に毒されやしませんかー?
「言わせておけば、この小娘!!! 兵は何をしている!! もういい! ワシ直々に捌いてやる!!!!」
フォルトレーヌ卿は腰の剣を抜きクルーへと向ける。
周囲の兵が一気に殺気立った。
もちろん俺も。いつでもお嬢さんを庇い反撃できる体勢だ。
「クルーとか言ったな小娘。近衛か! 王都警備隊か!どこの部隊だ、所属と名を名乗れ!! 処分してくれるっ!!!!」
チャキと握り直した剣を突き付けるフォルトレーヌ卿。
“キャーっ” と街の娘や元娘だった方々は一斉に悲鳴を上げた。
しかし当の剣を突き付けられているクルーの様子はまったく変わらない。
「思い通りにならなければ、地位を誇示して武力行使。権力を持たせてはいけない典型的なバカね」
否、ますます晒しだす空気が冷たい上、言う事も辛辣だ。
まるでどこぞの大賢者殿のよう.... あんなのに似なくても...
思わず遠い目をしてしまったのは仕方の無い事だろう。
「所属は近衛でも王都警備隊でもありません」
“まったく” と溜め息を付きクルーが懐から何かを取り出した。それを見た瞬間、フォルトレーヌ親子が驚愕の表情で固まった。
そりゃー固まるわなぁ...ま、自業自得だな。ご愁傷さん。
「何、あれ?」
「さぁ? でもあの貴族固まってんぞ?」
ざわざわと周囲が騒がしい中、冷たい瞳に毅然とした微笑みを乗せたクルーは優雅に一礼し名乗った。


「魔王陛下直属、特別御庭部隊所属。フェイレン・クルーソーと申します」


「どうぞお見知り置きを」と言うクルーの手には水色の下地に単一の黒竜を象った徽章。それは第27代魔王ユーリ陛下の御心を託された者のみが手にする事を許された証だ。

「ま..まおう、へいか...直属?」
「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっっっ!!!!」」」」」
静まり返った中に呆然とした声は良く通った。
その声の意味を理解した瞬間、一斉に悲鳴に似た声が上がった。
そりゃー驚くわな。
全員アゴが落ちそうな位の大口を開けて固まっている。

「さて、フォルトレーヌ卿 リヒテル及び フォルトレーヌ卿 ハインツ。権力を振りかざし、多くの市民に嫌な思いをさせ、すっごい迷惑を掛けた上、未来を担うお子さんを宿された女性に対し、貴族としても、一人の魔族としても有るまじき行為! きっちり報告させて頂きますからね!」
さっきまで、あれほど威勢の良かったのが嘘のように、ぐったりとこの世の終わりの様な顔で放心している親子に高々と宣言するクルー。
何だか親子が憐れに見えて来た。
「然るべき処置がなされるでしょう。王都警備隊の人、この親子を連行して下さい」
「「「はっ!」」」
“ほら、立て!” と促される親子にクルーが近付き何か囁いた。何を言ったのかは聞き取れなかったが、フォルトレーヌ親子が怪訝な顔をしたのは見えた。
気の所為だと思いたいが、クルーの背後に暗雲が見えたような.....
そんな俺の思考を他所に街の女の子がクルーに飛びついた。
「クルー!! カッコいい♪」
「そう? どうもありがとう」
そう言って女の子の頭を撫でるクルーはいつもと何も変わらない。
そんなクルーの様子に落ち着きを取り戻して来た大人たちもクルーに話し掛ける。
「私らの為に怒ってくれてありがとねクルー」
「素敵だったわー♪」
「私、あの貴族のおっさんの手を払い除けた瞬間のクルーに惚れそうだったわ♡」
「私も!!」
「...しかしクルーが魔王陛下直属とは、たまげたなぁ」
「まったくだ」
「陛下は御側に置く人をちゃんと選んでおられるんだな」
「あぁ、陛下は我々をしっかりと気に掛けて下さっている。嬉しい事だねぇ」
「本当に...」





 

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「皆ベタ誉めですね」
「...まぁ、そんな事は置いといて」
お嬢さんにだけ聞こえる声で囁いたが、お嬢さんは “そんな事より” なんて言っている。
「えーっと、ちょっと良い?」
「何だい、クルー?」
「今回のフォルトレーヌ親子の被害について皆の話しを王都警備隊に話して欲しいんだけど」
「あぁ、そりゃもちろん協力するさ」
「じゃぁお願いねー、私テティスさんの様子見てくる!」
「クルー、家の場所は判るか? 俺で良かったら案内するけど?」
「本当!? ありがと、マルクスさん。ダカスコス! あとよろしく〜♪」
「はっ! 拝命致します」
ダカスコスと呼ばれた軍人以下、ピシっと敬礼した全警備隊員に見送られながら、ヒラヒラと手を振り笑顔で去って行くクルー。
その様子を見送っていた街の人、数人が首を傾けた。
「ねぇ、軍人さん。全員がクルーに敬礼するって事は、あんたよりクルーの方が偉いのかい?」
「へっ!?」
聞かれた軍人=ダカスコスはマヌケな声を出す。
一方、他の街の人もそう言えば...と、その問いの答を待っている。
「で、どうなんだい?」
「いや〜その....何と言いますか、御庭部隊の方ですし.......一応」
「上級士官様だったり?」
「い、否、仕官職では無い気が...」
「何だい? はっきりしないねー」
しどろもどろに答えるダカスコスに街の人たちも焦れてきたようだ。
「えーっとですね、御庭部隊に関しましては我々も良く知らないのです」
「そうなの? つまんなーい」
「じゃぁ、誰が所属されているのかしら?」
「それもですねぇ、部隊とは言われましても個人行動が原則なのでどなたがとは...特別御庭部隊、通称=お庭番は極秘部隊で、隊員どうしでも誰がいるのか判らなくて、すべての隊員の顔と名前をご存知なのは魔王陛下、唯お一人だと」
「噂とかはないの?」
「一説には、ウェラー卿やフォンヴォルテール卿はお持ちではないか? と言われてますが真意はいかがなモノかと...」
「あら? フォンビーレフェルト卿のお名前は?」
「残念ながら挙がっておりません」
「何か理由があるの?」
「恐らく、どなたに御与えになるのか? と聞いたある貴族への陛下のお言葉が原因かと....」
「ユーリ陛下の? ........何と仰ったの?」
興味津々な街の人の視線を一身に浴びながらダタスコスは答える。
「陛下がその貴族に言われたのは...」


<眞魔国の “すべての国民” の事を思いやれる者に>


「その者にだけ、陛下の御心をお預けになると...“十貴族だから” そんな理由で徽章は渡さない。とハッキリ断言なさいました」
「でも、フォンビーレフェルト卿は陛下の為に...」
「もちろん閣下は、“陛下の為ならば” と忠誠をお誓いですし、陛下からの御信頼も高いです。しかし閣下に徽章が下賜されたとの噂は在りません。実は私も気になって高貴な方々にお尋ねしてみたのですが、“忠誠心” と陛下の言われる “民を思いやれる心” とは、まったく違うのだと言われました」
ダカスコスの説明に “へぇーーーー” っと一同の口から声が漏れる。 
「お庭番って地位は高いの?」
「いいえ。御庭部隊に所属しているからといって与えられる地位はありません。しかし先程のように貴族であろうと拘束し罪を問う権限はお持ちですので実質、眞魔国の監査官と言った所でしょうか?それに陛下御自身がお選びになった方した所属できませんので、全兵士の憧れでしょう」
「陛下は十貴族だからと言って渡さないとは仰ったとは言え、 周りにいらっしゃるのは結局、高貴な方々じゃないか? 平民からなんてのは無いだろう?」
「いいえ、一般兵でお名前が挙がった人もいらっしゃいますよ。確か、グリエ殿とソルサー殿は持っているのでは!? と噂がありますし...」
「そうなのかい!?」
そいつは驚いたねぇ。と目を丸くしたのは八百屋の女将。周囲にもざわめきが広がっている。
「あれ? でもそれじゃぁクルーは....」
ふと思い浮かんだ疑問に一斉にダカスコスを見る。
「えぇっと、クルーソー殿は正式にはフェイレン卿とお呼びするべきでして...」
ダカスコスの言葉に一瞬、全員が固まり一斉に悲鳴が上がった。

「「「「「どぉえぇぇぇぇー!!!!?」」」」」

「ク、クルーって...貴族、なの?」
「あれ? ご存知ありませんでした?」
ぶんぶんと揃って顔を横に振る街の人たち。
「はぁぁー。貴族なんて、どーしょうもない奴ばっかりだと思ってたけど」
「そうじゃ無いのも居るんだねぇ....」




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「軍曹殿、クルーソー殿をお連れ致しました」
商店街をあとにしたお嬢さんは、まず王都警備隊の詰め所に寄り、カーターの報告書(=フォルトレーヌ卿の本日の行動記録)をお読みになられ、フォルトレーヌ卿の一時的な処遇を警備分隊長と話し合い、街の警備の強化、特に貴族の市民に対する言動への取り締まりの強化のご指示をなさった。
なので結局、フェデリコ・テティスの家へ俺たちが向かえたのは、彼女が運ばれてから2時間ほど経過してからだった。
「お疲れ様です」
「ギー....えー、フォンクライスト卿?」
「はい、へ....コホン。何でしょう、クルーソー殿」
慣れない呼び方に、少しぎこちない会話。お2人共...まぁ、誰も聞いてないから問題無いでしょうが。
「テティスさんは大丈夫?」
「先程、無事お子さんをお産みになられました」
「産まれたの!!?」
「はい。警備隊がこちらに運んで来る途中で破水したようです。初めてのお子さんにしては稀に見る安産でして、母子共に健康状態に何も問題ありません」
「それは良かった!」


「あっ!!あなたですね! 先程うちの妻がお世話になったと言うのは!?何と御礼を申し上げれば良いのか!!本当にありがとうございます!!!」
話し声を聞き付けたのか、奥の部屋から勢い良く飛び出して来た男の人はそれはもう捲し立てる様にクルーに御礼を言い頭を下げる。
「えぇっと...」
その勢いに圧されたお嬢さんを見かねた軍曹殿が補足する。
「クルーソー殿、こちらテティスさんの旦那さんで、フェデリコ・ルチオさんと仰います」
「初めましてルチオさん。クルーと言います。お子さんの誕生おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます!!」
「テティスさんとお子さんに逢っても良いですか?」
「もちろんです! どうぞ奥に」
さぁ!と俺たちまで連れて行かれた奥の部屋。
ベッドで寝ていた奥さんことテティスさんはお嬢さんに気付くと、ゆっくり起き上がった。
「クルー、さっきはありがとう」
「起きて大丈夫?私は何もしてないよ、警備兵さんが運んでくれたんだもん」
「その手配をしてくれたのはクルーでしょう? ありがとう」
テティスさんはそう言ってふわりと微笑んだ。
その笑顔と御礼に “えへへ” と照れてるお嬢さんは.....否、言うまい。
俺はまだ命が惜しい。
「無事に産まれて良かった。赤ちゃんの顔見たいなぁ? ダメ?」
「まさか!? ぜひ抱っこしてあげて」
お嬢さんの可愛らしいお願いに笑顔で頷くテティスさん。
そんな2人にやりとりに首を捻ったのは旦那さんのルチオさんだ。
「テティス、この人と知り合いなのか?」
「あら、あなた。えぇ、さっき商店街から一緒に荷物を運んでくれたの。知らない? 街じゃぁ結構有名なのよクルーって。ね?」
「そーなの?」
テティスさんから渡された赤ちゃんを怖々と抱きながら小首を傾けるお嬢さん。
否だから犯罪ですって、それ。

「うわぁぁ。ちっちゃーい! 可愛いー♪ 男の子かなぁー? 名前は決めてるの?」
「いいえ、まだなの。でも候補が2つ有って....そうだわ!!クルーに選んでもらおうかしら? どう?」
「ほぇっ!!??」
名案、とばかりにニコニコ顔のテティスさんに対しびっくりして固まったお嬢さん。
「む、無理無理無理無理無理無理無理ー!! ちゃんと2人で決めなきゃ!だって、一番最初にもらう大事な物なんだから!! ね?」
「そう? うーん、そうね。そうするわ」
「うん。そうしてあげて」
必死に無理だと断るお嬢さんに、テティスさんは残念そうだが納得したようだ。
すると今まで黙って旦那さん...えーっとルチオさんがいきなり叫んだ。

「決めた!!」
「「「!?」」」
「何を決めたの?」
突然の大声に驚いたのは俺たちだけのようで、テティスさんは慣れているのか、おっとりした口調で訊ねる。この人結構大物かもしれない...
「 “クォール” この子の名前はクォールだ」
「 “クォール” ...うん。良い名前ね。候補には無かったけど、もしかしてクルーからもらったのかしら?」
「そうなんだ。今日たまたま知り合っただけの君に、こんなに親身になってくれて、この子もそんな風に、優しくて素敵な子に育ってくれたら良いなぁ...と思ったんだ」
名前を呟き、ふわりと笑ったテティスさんと、頬を赤く染め少し照れながらも、やはり幸せそうに笑いながら説明するルチオさんに対し、そうだろう、そうだろう。お嬢さんの気立ての良さには誰も及ばないだろう。うん、うん。と心の中で思わず頷いてしまった。





 

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「名前きまって良かったね。良い子に育ってね。間違えてもフォルトレーヌ卿みたいな捻くれオヤジになっちゃダメだよ」
そう笑いながら忠告した上でお嬢さんは、そぉっと赤ちゃん...クォールの髪を撫で、通常は祭司の行う常套句を小さな声で囁いた。

「誰かを癒せる優しい子に....誰かを愛せる心美しい子に....そして、自分で道を切り開ける強い子になりますように....眞王陛下の名の元に新たな命へ祝福を」

そこまで言った時、寝ていたクォールの瞳がぱっちりと開いた。
これには俺たちも、お嬢さんも驚いた。
じっとお嬢さんを見つめたあと嬉しそうに手を伸ばし笑っているクォール。それを見たお嬢さんは柔らかな笑みをさらに深めると、懐から先程とは異なるこの世にただ一つしかない、青地に白い花と双黒竜が印された徽章を取り出した。
そして、徐(おもむろ)にクォールの頭上に手を翳し言葉を送る。

否、贈られた。


「新たな命に贈る

 わたくし、渋谷有利の名において

 “フェデリコ・クォール”

 あなたのこの世に “生” を受けた事に限りない喜びと祝福を

 あなたの未来に光があふれますように」


そして頬に祝福のキスを贈り、テティスさんへと手渡した。
見開かれた瞳には驚きと喜びと涙が溜まっている。
そんな2人に苦笑しながら陛下は、“騙したみたいでゴメンね?” なんて言いながら、さらに言葉を続けられる。


「ルチオさん、テティスさん。その子にちゃんと教えてあげてね?一番大切なモノが何なのか。何が正しくて、何がいけない事なのか。そして何より、沢山の愛情を注いであげて。お願いね?」
「「は、はいっ!」」
「あ、ああ...ありがとう、ございます!!」
2人がやっとの思いで言葉を返した時、凛とした軍曹殿の声が響いた。
「陛下、馬の御用意ができましたので、今日は城へお戻り下さい」
「ありがと、ギーゼラ。じゃぁ、またね? あ、そうそう。私の事は街の人たちには内緒でよろしくー♪」
にこやかに手を振りお嬢さんは部屋を後にした。




end  





<おまけ>

血盟城へ帰る道の途中、馬を並んで走らせている時、周囲に人が居ない事を確認し気になっていた事を訊ねてみた。
「ところで陛下、あの親子が連行される時なんて仰ったんです?」
「あぁ、あれね。んー、あんまり反省してないみたいだったからね。ちょっとお仕置きを♪」


「王都警備隊の人、この親子を連行して下さい」
「「「はっ!」」」
「ほら、立て!」
「ふん! 丁重に扱わんか、近衛風情が...」
....まだそんな事言う訳ねこのオヤジは。
「フォルトレーヌ卿。私の顔、覚えておいてくださいね?あと、“わたし” は、あなた方の行いに非常に怒りを覚えている事を伝えておきましょう。いいですね?」
「...一体、何を?」
「いずれ判る時が来ますよ。いずれね......ふふふ」


..........可哀そーに、あのオヤジ。
しっかし、にっこり微笑みながらやる辺り、ますます隊長に似て来ましたねぇ。陛下。





    

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「こんにちわ♪ これは何してるの?」


突如響いた少女の声に私たちは驚いた。この町で私たちにこんな風に声を掛けるものなど皆無だったから。
ニコニコと私たちの返事を待っているのは、60〜80歳くらいの少女。ぱっちりとした大きなブラウンの瞳に癖の無い瞳よりやや赤っぽい艶やかな髪。クマ耳帽子を被って小首を傾げる様はクマハチのようで抱き締めたい程に愛らしい。
着ている服や雰囲気そして容姿から見るに、かなり良いことのお嬢さん=(イコール)上流貴族といわれる家柄だろう事は判った。しかし、この少女は我々に話し掛けても平気なのだろうか?
仲間たちも同じ疑問を抱いたのだろう、少女の問いに答えるべきなのか困惑気味に顔を見合わせている。

「? えーっと....」

何も答えない我々に今度は少女が困ったように瞬いている。最初に声を掛けられた時にも思ったが、この可愛らしい少女からは上流、中流関係なく貴族特有の我々を見下すような視線をまったく感じない。
.....女は度胸よね!?
怒られたら怒られた時、目の前のこの少女が困っているより良いわ!!

「こ、これは山から採ってきた...採って参りました薬草を種類ごとに煎じ乾燥させている所でございます」

それでも声が震えるのは愛嬌だ。

「薬草...って事はコレ薬になるの?」
「は、はい。粉状の物をお医者様が調合されるとそうなります」

“ふぉえー” と声を上げマジマジと私の手元を見つめる少女。

「あ、あの!!」

勢い良く訊ねてしまった私に少女はキョトンとし、“何?” と首を傾けた。
その邪気の無い仕草に後押しされる様に私は口を開いた。

「こ、このような事をお訊ねするのは、ふ、不敬かと存知上げますが、あなたは何故、わたくし共に普通に話し掛けられるのでしょうか?あと、わたくし共に話し掛けて、お叱りを受けたりはされないのでしょうか?」

一気に言い切った私の言葉を聞き、少女は思案するよう人差し指を口元に当てる。
そして私と、周囲の仲間を見渡してから口を開いた。

「良く判らないんだけど、まず1つ目。私は別に不敬な事はされてないと思う。どっちかと言うと仕事の邪魔したのは私だし。2つ目はなんで私に敬語使ってるの? 皆さん私より年上でしょ? あと普通じゃ無い話し掛け方ってどんなの? 3つ目、これが一番聞きたい事なんだけど、皆さんに話し掛けると “誰に” 叱られるの?」

ニコニコと最初と変わらぬ笑顔の少女。
なのに言い様の無いプレシャーを感じるのは何故かしら...?
我々が答え倦ねていると少女は “にっこり” と笑い矢継ぎ早に質問を重ねた。
それはもう、我々が疑問に浮かべる間もなく次々と...

「答えにくい? じゃーねー、そこのお姉さん!!」
「は、はい!」
「私お仕事の邪魔してました?」
「い、いいえ!」
「次のお兄さーん。何で敬語?」
「え? あー、その我々は平民でして...」
「うん。それ却下。お兄ーさんたちは平民じゃなくて眞魔国民です。次はそこのお姉さん!お姉さんと私どっちが年上?」
「わ、わたしですが...」
「だよね? じゃぁ別に敬語はいりませーん。そっちのお姉さん、話し掛けると何で叱られるの?」
「わ、わたし達は、平民でして地位もお金もありませんし」
「し?」
「その...出生の不確かな者も多く、混血だったり...」

私がそこまで言うと、少女は最初とはまったく別人のように訊ねた。

「で、誰が、誰の命令で叱るの?」
「...そ、その...ヒッツベツガー卿が、ご領主、フォンシュピッツヴェーグ卿の御達しだと....」
「へぇぇぇぇぇぇ。それは大層な御達しで... グリエちゃん何か聴いてる?」

少女が低い声でそう言うと、今まで誰も居ないと思っていた少女の後ろの柱の影から男が現れた。
綺麗なオレンジ色の髪に水色の瞳。何より凄いのはその筋肉だろう。
いきなり現れた男は私たちに一瞥を与えたあと、少女に話し掛ける。

「あらーん? お気づきでした〜? もう、気付いてるならそう仰って下さればアタシもこっそりじゃなく堂々と御傍におりましたのに〜ぃ。お嬢さんの、イ・ケ・ズ♪」

その姿から想像できない話し方に私たちは全員固まった。

「....グリエちゃん?」

ニコニコと満面の笑みを向ける少女。な、なんか黒い。

「.......お嬢さん、どっかの獅子に似てきましたね。はいはい、他にですよね?この辺りはフォンシュピッツヴェーグ卿のお膝元ですからね。そりゃぁもう、何から何までありますよ。どれをお聞きになりたいです?」

男の言葉にしばし考えるように顎に手をやった少女は何やら意味深に訊ね返す。

「......私は、どう見える?」
「 “どう” とは?」
「 “わ・た・し” は使える?」

少女のその問いかけに、男はニヤリと笑ったあと、徐に片膝を付き臣下の礼を取った。


「御心のままに」





 

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