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*藤袴 -thoroughwort-*

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安原修の華麗なる所業



ここは東京。渋谷のとある心霊研究所の日本支部。
若いカリスマの所長殿は母国イギリスへ帰国中。メカニック担当の助手も同じく。
そして何故か、純日本人の調査員の少女も共に、遠い国へと旅立っていた。
つまり何が言いたいかと言うと、現在この事務所には某越後屋こと事務員の青年だけが出勤していた。
名を、安原 修。霊媒体質でも、サイ能力者でも無い彼。
しかし、かの能力者の解剖にしか興味を示さない天才博士に、解剖してみたいと思わせる程の脳力者だったりする。
そんな彼も、事務所にただ一人と言うのは暇な様で、所長がイギリスに行ってからもう四日ですねー。僕も行きたかったなー。 なんて呟いていたりする。
笑顔の素敵な某少女が居ないので、彼女のお茶目当てに来るイレギュラーズも訪ねては来ない。
暢気に見えつつも所長から渡された一週間分の仕事は、ほとんど終わってしまっている。今日の業務は何をしようかと考えていた時、突如電話のコール音が鳴り響いた。


「はい、こちら渋谷サイキックリサーチです」
「・・・・」
「おや? どうなさいましたか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「はい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「判りました」
「・・・・・・」
「そうですね...明日。 二十四時間以内に一度ご連絡差し上げます」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それは流石にこちらでは」
「・・・・・・・」
「へ? えぇ、有りますが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「理由をお聞きしても?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「面倒なので徹底的に。と言う事でしょうか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「判りました。お任せ下さい。この安原、必ずやご期待に添いましょう!」




 

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イギリス、プラット研究所内にある応接室にニ人の男の姿がある。
徐に一人の男が口を開いた。
「─── と言う訳で、ひと月前から我が家は妙な現象が起こっている。博士には是非これを解決して頂きたい。私もSPRに出資している身、調査の仕方とやらを見学させて頂きたくてね。そうだ、博士がご執心の協力者とやらも呼び寄せられてはいかがです? 必要経費は私が用立てましょう。博士お墨付きの能力者と本国の能力者どちらが優秀か見極める良い機会でしょう? 」



─── 日本時間 3月8日 AM10:00 ───

突如携帯の着信音が鳴り響いた。
ディスプレイを見れば、よく喫茶店代わり顔を出している某心霊研究事務所のアルバイト安原 修こと通称、少年の名前が浮かび上がっていた。
珍しいことも有るもんだと思ったが、確か所長サマもその保護者も、愛娘と愛して止まない少女も居ない事を思い出し、暇なんだろうという結論に達した。
「はいよ。どうした? 珍しい。誰も居なくて..」
寂しいのか? と続くはずの言葉を遮り滅多に聞けない少年の慌てた声が響いた。
「滝川さん! 安原です。唐突で申し訳ないのですが、今晩の飛行機で一緒にイギリスに行って頂けませんか!?」
「何か有ったのか!!?」
突拍子も無い頼みに驚いたが、イギリスと聞き彼等に何か有ったのではないかと不安になる。
越後屋と言われる程に多少の事には動じない少年が、何の説明もせずに焦って用件のみを伝えてくる事に事態の深刻さが伺える。
俺の言葉に少し落着いたのか、少年は言葉を選ぶように告げる。
「すみません、少し落着きました。僕も詳しい事は聞けていないのですが、先ほど所長から電話が有りました。緊急の調査が入ったそうで、あちらの研究所の調査員と所長、リンさん、そして谷山さんも同行し現場に赴いたらしいんです。ところが建物に入った瞬間 ──────谷山さんが倒れたと」
「た、倒れた?」
「はい。しかし、現場に居合わせたあちらの能力者は “何も感じなかった” と言うらしいのですが、現に谷山さんは倒れている。所長としてはより信頼性のある滝川さん達をイギリスに呼ぶ事を決定されたそうです。で、滝川さんお時間取れませんか?」
「無くても作るさ。娘が危ない時にのんびりしてられるか」
「さすが父親の鏡ですね」
「で、少年。あと誰を呼ぶんだ?」
「全員と言われてます」
「残りは俺から連絡しよう。お前は別の事をナル坊から言われてるんだろう?」
そう確認を持って訪ねると苦笑が返ってきた。
「はい。すみません、滝川さん。では残り全員への連絡をお願いします。僕は情報収集に掛かります。チケットは森さんが手配してくださるそうで空港で受け取る手筈にになってます。今夜22時、空港のロビーで」
「了解した」
少年との電話を終え、震えそうになる手を叱咤し仲間に電話を掛けた。
憑依されているならば、とまずはジョンに連絡し次いで真砂子、綾子の順に。
全員からの回答は何としても都合を付けるこの事だった。
うちの娘はよっぽど愛されてるらしい。



約束の時間より少し早めに来た空港のロビーには既に少年が居た。
スーツケースの上にはファイリングされた分厚い紙の束。
さらにパソコン二台を使いこなしている様はエリート商社マンのようだ。
「あれ? 皆さんもうお越しですか? 予定より早いですね」
そう言うと少年はパソコンを片付け “行きましょうか” と立ち上がった。
「少年? 出国ロビーは方向が違うんじゃない?」
「さすが松崎さん、手慣れてますね。でも、今日はこっちで良いんです。今回の僕たちの旅費依頼をした伯爵持ちなんだそうで、僕が集めた資料を機内で整理出来るようにファーストクラスのチケットを押さえて下さいました。半分以上は伯爵への当て付けだと森さんが言われてましたが...」
「つまり奴の機嫌は悪いんだな」
「そうですね。僕が受けた電話でも伯爵への激しい怒りが垣間見えましたし...」
「ちなみにどんな?」
「今回の依頼主、SPRのパトロンをされている様で、無謀にも所長を調査の責任者に指名したらしいんです。事前情報も不確かだった上...」
「トドメは麻衣か?」
「はい」
「着いた途端、奴のブリザードに晒される訳だ。俺たちは...」
「仕方有りませんわ。ナルですもの」
「...それで納得させてしまうナルもどうかと思うわ私」
「渋谷さんはそれだけ麻衣さんの事が心配やよって仕方の無い事や思います」
「ジョン...」
ナルの機嫌の悪さに戦々恐々していた俺はジョンの邪気の無い笑顔の前に崩れ落ちた。
それからエコノミーとは比べ物にならない豪華なシートと接客で(殆ど寝ていたとは言え)約15時間もの長い旅を終えやっとイギリスに着いた。
忙しく誰も迎えに来れないので空港からタクシーに乗れと、ちなみにこの料金も伯爵持ちだそうだ。
さらに数時間掛けやっと辿り着いたのは、SPR研究所の本部だった。



 

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「Excuse me?」
   (すみません)
「May I help you?」
   (何かご用でしょうか?)
「I want to go to the laboratory of the Dr. Olliver Davis.」
   (オリヴァー・ディビス博士の研究室に行きたいのですが)
「Dr. Davis?」
   (ディビス博士の)
「Yes.」
   (えぇ)
「What will the business be? 」
   (どの様なご用件でしょうか?)
「I forgot to say it. I am Osamu Yasuhara. I am an office worker of SPR Japan branch office. This time it was said to come for Dr. D screw here. 」
   (申し遅れました。私、安原修と申します。日本のSPR支部で事務員をしております。この度はディビス博士にこちらに来るよう言われました)
「...I guide you.」
   ( ...ご案内致します)


少年がいつもの笑顔を浮かべ受付のお姉さんを誑しこ...
えー、親切にも受付けのお姉さんが案内してくれた先には見慣れた黒い青年(いつもの如く機嫌が悪そう)が居た。
受付のお姉さんに “もうここで結構ですよ” と少年が告げている。
正直、俺も見なかった事にして帰りたい。
そんなおれの心境を嘲笑うかのように、少年がにこやかにナルに英語で話し掛けた。
勇者だ。
「おはようございます、所長。ご機嫌いかがですか?」
ナルが書類から顔を上げ、珍しい事に驚いていりようだ。
「安原さん?」
「ご依頼の品、お届けに参りました。間に合いましたでしょうか?」
そう訪ねると少年は不敵に笑った。
そして次の瞬間、俺たちも含め研究室内に居る全ての人間が固まった。
あのナルが、天上天下、唯我独尊、ワーカーホリックで俺様主義で愛想という物に無縁なナルが少年の科白に口唇を持ち上げて魔王の如く不敵に笑い返したのだ。
「十分です。24時間以内に報告を、と聞いていましたが、まさか直接だとは思いませんでした」
「否ね、所長から頂いた仕事が底を突いていて暇で、“僕もイギリスに行きたいなぁ” と思っていた所に丁度お電話頂いたんで、頑張ってみました♪」
.....二人のやり取りを呆然と聞いていた俺。
だが、ふと訊きたくはないが確認しなければならない事に気付いた。
「少年」
「はい。滝川さん?」
俺が何を訊きたいか判っているのだろう。
喰えない越後屋の微笑みを浮かべて “何でしょう?” と先を促す少年にちょっとばかし殺意が芽生えそうだ。
「お前、昨日の電話で麻衣が憑依されて緊急事態だとか言わなかったか?」
「緊急事態だなんて言ってませんよ、緊急の調査とな言いましたけど。所長が皆さんを呼ばれている事にちょーっとばかし脚色しただけですよー」
「おーまーえーはー!」
「所長がどんな手を使っても全員連れて来いっておっしゃったんです。それに普通にお誘いしたら時間掛かるじゃないですか。この僕が、所長の期待に応えず誰が応えるんです?」
悪びれもせず、にこやかに告げられた言葉に絶句してしまった。
振り返ると他の奴らもぐったりしている。
「皆さんお疲れ様です」
リンが苦笑しながら声を掛けて来た。控えめな気遣いに心が洗われる。
「リン(さん)おはよう(ございます)」
「お呼び立てしてすみません」
「呼ばれるのは構わんが普通に呼んで欲しいねナル坊」
「本当ですわ、ナル。あたくし心配致しましたのよ」
「またあの子が巻き込まれたのかと思ったわ」
「麻衣さんがご無事なようでよろしゅうおした」
安心した所為だろう、全員が一気に話し掛ける。
「ちょっと、何とか言ったらどうなのナル!」
「僕は連れて来て下さいと言ったまでです。手段は選ばないとは言いましたが」
しれっと言われると、もう本気で脱力するしかなさそうだ。





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自分が落着いてしまうと周りの様子が良く見えるようになった。
俺たちを周囲の研究員だろう白衣を着ているし、が呆然と見やっていた。
「おいリン、俺たちすっげぇ見られてる気がするんだが?」
「数日前の谷山さんもそうでしたが、ナルと普通に会話してるだけでそんな感じですよ。ここは」
「ナル坊、会話放棄が多いもんな。俺たち自己紹介はせんでも良いのか?」
「したければどうぞ」
そう言ってナルは立ち上がった。
「所長、報告はどうしましょう?」
「二度手間になるので麻衣が来てからで結構です。昼には来る予定です」
ナルはそれだけ告げると書類を持って奥の部屋へ入って行った。
「...相変わらずですわね」
「まったくね。リン、私たちはどうすれば良いの?」
「取りあえず荷物はこちらの部屋にどうぞ。その後、彼等に紹介します」


まずは、とリンが紹介してくれたのは、ルイスという好感の持てる青年だった。
ナルの七歳年上でメカニック担当らしい。あと、ジェイシーというキャリアウーマン風な映像解析者(まどか嬢と同じ年くらいの美人)に、ロゼリアという若い女性研究員、マルクという穏やかそうな青年ラウスという気弱そう研究者、セシアは可愛い女の子な感じだ。
ルイス、マルク、セシアの三人は明後日からの調査に同行するらしい。
俺たちも一通り自己紹介した所で、リンが “仕事が有りますので” と、どっかに行ってしまった。
すると、少し躊躇いながらルイスが話し掛けてきた。
「えー、Mr. タキガワ? いくつか質問しても?」
「おう。俺が答えられる事なら良いぜ!」
そう言って笑ってやると安心したようだ。
もしかして日本人は皆、ナルみたいに無愛想だと思われてるんだろうか?
「皆さんはオリヴァー....えー、博士と、どのようにお知り合いになられたんでしょうか?」
そう質問して来たのはルイスだ。が、室内の全員が興味津々に聞き耳を立てている。
「もっと気楽にしゃべってくれて良いぞー。まず俺と綾子、ジョンに真砂子ちゃんがナルと逢ったのはとある高校の心霊現象の調査の時だな。第一印象は、綺麗な顔して傲顔不遜の若造だったなぁ」
「確かに。刺々しい物言いだったわ。役立たずだの何だの」
「あら? 事実じゃありませんの」
「煩い!」
口元を隠して笑っている真砂子。言い返してる綾子も楽しそうだ。
「マジで人使いは荒いし、言葉は毒と棘だらけだったが仕事は確かだと思った」
「子憎たらしいけど何か憎めない奴なのよね〜」
「まぁ、結局その調査は地盤沈下って事で終わったけどな。その後、な〜んか知らんが調査の時たまに呼ばれるようになったんだ」
「事務所を喫茶店代わりに入り浸って居た滝川さんが余りに暇そうだったからじゃありません?」
「真砂子ちゃん酷ーい」
「あら、失礼」
「で、この少年は元依頼主だ。少年の高校で心霊現象が起こっていると校長が最初に依頼に来たんだがナルが追い返したんだ。すると翌日、この生徒会長だった少年が全校生徒の署名と校内で起こっている現象をまとめた資料を持って再度依頼に訪れた。依頼を受ける気のなかったナルを言葉巧みに丸め込んで結局動かしたんだから大したもんだよな。」
「いやー、そんな褒められたら僕照れちゃいますよー」
「そん時の情報収集能力を見込まれて雇われたんだよな」
「えー、つまり。博士の方が皆さんをお呼びになるんですね?」
「そうそう。不遜な態度にムカついて、次は頼まれても絶対行くもんか! って思ってるのに “出来ないなら結構です” って言われるとつい... あぁ、俺ってイイヒト」
「そうですわ。ナルは不遜なままでいらっしゃれば良いのに偶に、本当にごく稀にですけど謝ったり、優しかったり。ズルいんですわ!! これじゃぁ憎めませんもの」
「確かに普段が普段だものね」
「渋谷さんは元々お優しい方やと僕は思いますよって」
「結局、皆さん所長の事が好きなんですよねー」
少年の言葉を否定できずに苦笑してしまった俺たちはやっぱり博士様が好きなんだろう。
周囲の研究員(全員)は驚愕の表情を浮かべ固まっているが...
おーい。大丈夫かぁ? 顎が外れそうだぞー。
ヒラヒラと顔の前で手を振ってやると、ルイスが半ば呆然としながら言葉を紡いだ。
「や、やさ...し..い...オリヴァー? ....すみません。ちなみにどの辺りが?」
本気で訪ねるルイスに同意するように視線を向けてくる研究員たちに俺たちは笑いが込み上げて来た。
でも同時にナルが彼らには根本的な部分で理解されていない事にも思い至った。
ちょっと見方を変えさせてやろう。まったく俺もお節介になったもんだ。
「そ、そーだよな!あはは、普段のあいつには無いよな。気遣いとか無縁だと思ってるだろう? 確かに言葉はキツイし態度もデカイ。でもな、あんたらちゃんと見てるか?アイツは正真正銘、天才鬼才のディビス博士だ。でもな、奴が<オリヴァー・ディビス>という一人の人間だということをあんたらは理解していないし見落としているんだ」
真剣な想いを瞳に載せ、彼らが少しでも理解してくれるよう希望も込めて事実を諭した。
「そうですよー。ちゃんと見てれば所長、結構判りやすい性格してますよ」
少年よ、にこやかにトドメを刺したな...
他の奴らも否定しない。
ナル坊もきっちり愛されてるらしい。



 

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愚か者の愚かなる所業



イギリス、SPR研究所内の応接室に三人の男の姿が有る。
一人はいかにも英国紳士な格好をした老人。
名を、サー・ドリー。職は辞したとはいえ、SPRの重鎮の一人に数えられる。
その隣にまだ若い青年。
名をオリヴァー・ディビス。最年少で博士号を取得した天才である。
イギリスでは珍しい漆黒の髪と瞳を持つ事も然ることながら、その魔的なまでに美しい容姿は一度見たら忘れる事はできないだろう。
しかしその秀麗な顔は素晴らしい不機嫌さに彩られていた。
その原因は、彼らの向かいに座って持論を展開している男の所為である。
年は50代後半だろうか? 格好は老紳士とさして変わらないが、伯爵という地位に相応しくカフスやネクタイなどの細かい部分にも凝った意匠が刻まれている。
相手が自分の話を否定しない事が当然だと思って愚かな伯爵は青年の不機嫌さとドス黒いオーラに気付くこと無く尚も言葉を重ねる。
「ディビス博士、そろそろこちらに帰って来られないのですか?貴方ほどの方がわざわざ東方の小さな島国になど行かれなくても良いでしょう?能力者だって我が国に優秀な者が沢山おります。低級な者とあまり関わられますと貴方の品性も疑われますぞ?」
伯爵の最後の科白に部屋の温度が5℃ほど下がった。
「お気遣い感謝致します」
そう返したオリヴァーは凄まじく不穏なオーラを背負っている。
少なくともサー・ドリーはそう感じた。
さすがにこれ以上はマズイと判断し、お帰り頂こうと口を開く。
「伯爵、そろそろ言われていたお時間では?」
「おぉ、これは失礼。遅れると妻の機嫌が悪くなってしまうので、これにて。ドリー卿、ディビス博士またお逢いしましょう」
そう言うと、卑しい笑みを浮かべて伯爵は帰って行った。



「オリヴァー、顔が怖いぞ」
「ドリー卿。頭の悪い下等生物と話すこと程の時間の無駄は無いと、僕は改めて確信しました。伯爵とは今後、一切お逢いするつもりはありません。僕への援助も打切って頂いて結構です」
“寧ろそうして下さい” と言うと、青年は静かに辞去した。
青年の深い怒りを目の当たりにした老人は、ただ面白そうに笑った。
「...珍しい。オリヴァーが他人のことで腹を立てるとは。是非とも逢ってみたいな、オリヴァーを変えた日本の友人たちと.....」



「しかしオリヴァー。依頼を受けたからには逢わない訳にはいかんぞ?」




 

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「ところで皆さん、そろそろ仕事した方が良いんじゃないですか? かれこれ、30分ほど手が止まってますよー。博士にバレたら大変ですよー」
越後屋の微笑みをまともに受けた憐れな研究員たち。その言葉の意味を理解した途端、一斉に青褪め業務を開始した。
「...あんた、やっぱ越後屋だわ」
溜め息と共に綾子が呟き、真砂子が瞳で同意している。ジョンの笑顔も少し引き攣っている気がする。
そんな中、“あのー” と声を掛けてきた勇者その2が居た。セシアだ。
おとなしそうに見えたが結構肝が据わっているようだ。 “何ですかー?” と笑顔で対応する少年もアレだが...
「タキガワさんとアヤコさん、真砂子さんはいつから博士の事を、その、愛称で呼んでらっしゃるんでしょうか?我々の認識では、博士を愛称で呼べるのは森チーフ、リンさん、それと双子の兄であるジーン意外は無理でした。昔、チャレンジャーな方がいらっしゃいましたが激しい眼光とブリザードに晒されて以降そんな無謀な人は居ません」
「あー、あれね。あれも慣れれば何てこと無い無い。俺たちがナルを “ナル” と呼んでるのは最初からだ。麻衣が既に “ナル” と呼んでいてな俺たちは麻衣から紹介されたんだ。曰く、“ナルシストのナルちゃん” とな」
「ナルシスト....」
想像したらしい。セシアは勿論、ジェイシーたちの肩も震えている。
ルイスが笑いながら訊いてくる。
「そ、それを、は、博士は、黙認したんですか?」
「さぁ? だた、ナルの目の前で麻衣は言ったがお咎めは無かったなー」
“では、麻衣はいつからなのかしら?” と、訊いてきたセシアに “麻衣に直接訊いてみたらどうだ?” と言ってやると困ったように言われた。
「残念ながら麻衣とはあまり話せていないの」
「そうそう」
「話し掛けようにも博士が独占してるんだ」
「あれはズルイよ!」
口々にセシアに同意する研究員たち。ナル、お前って奴は...
「...そう言えば、所長は谷山さんを何と紹介したんです?」
「私もそれは気になるわ。あの朴念仁が麻衣をどう認識してるのか。で、何て?」
安原の問いに綾子が興味津々に重ねて問う。
しかし問われたセシアは何とも言えない顔をしている。ルイスたちも同じだ。
「紹介、されてないんです」
「「「「「は?」」」」」
全員の声が揃ったのは責められまい。

「麻衣には三日前に初めて逢いました。森チーフがお連れになったのですが、リンさんの腕に抱えられて来た瞬間、研究室内が唖然としました」
そう説明するのはセシア。その瞬間を想い起こしてるのか少々遠い目をしている。
「何でまた...?」
「それが、チーフが急遽出かけなければいけなくなって、博士に麻衣を預けに来たようです。早目に仕事を切り上げるようチーフに言われたので博士は難色を示していましたが博士の抵抗虚しく麻衣の勝利となりました。お陰で私たちは三時のお茶と定時帰宅のお零れに預かりました。その時、日本支部で働いている事と、麻衣と呼んで良い事は話せましたが、以降ずっと博士の部屋に居るか、出て来ても博士が一緒ですので私たちは話すことが出来ないでいます。まぁ、明後日からの調査で少しは仲良くなれると思っていますが...」
そんな話をしているとナルが研究室から出て来た。すかさず越後屋が捕まえる。
「あ、所長。お茶飲みますか?」
「.....お願いします。」
「皆さんもお代わりどうですか?」
「よろしくー、少年」
「頂きます」
「あ、私入れます」
「否々、皆さん休憩中でしょう。僕がやりますよ」
そう言うと少年は全員のカップを持って去って行った。
入れ替わりにソファーに腰掛けたナルに俺は話し掛ける。
「時にナルちゃんよ、今日は麻衣なんで昼からなんだ?」
「.....寝てたから置いて来た。マーティンが午後から大学に行くついでに送ると言っていた」
「麻衣は今一人か?」
「否、ルエラが一緒に料理をするとか何とか言っていた」
「...そーか」
息子が連れて来た娘と一緒に料理.....それって花嫁修業じゃ?と思うのは俺だけか!? 俺だけなのか!?
しかも親父さんが態々送ってくれる。そりゃー麻衣が気に入られない訳は無いだろうけど、それでも複雑だ!!
何て俺が心の中で葛藤している内に、“お待たせしましたー” と少年が戻ってきた。
全員に飲み物が行き渡った所で綾子が言う。
「昼には来るんだったら、お昼一緒に行けるんじゃない?」
「おー、そりゃぁ良い。おい、ナル坊この辺りで美味いランチ食えるのはどこだ?」
「僕が知っているとでも?」
「「「「「........」」」」」
その返答に誰もが納得してしまった。




 

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「それに、麻衣が何か作ってくるらしい」
麻衣が作って.....?愛妻弁当か!? と思ったが怖くて聞けない。
しかし勇者が、否、越後屋が居た。
「所長、それって愛妻弁当ですかー?」
ごぼっ!!!!
思わず咽せ返ってしまったじゃないか、少年め。
運悪く聞いてしまった研究員数名も後ろの方で咽せてる。ナルはそんな俺たちに呆れたように呟いた。
「...ぼーさんたちの分も作ると言っていた」
そうか。と頷きかけてふと考える。ナルは今日、俺たちが来ることは知らなかった。
なら、なぜ麻衣が俺たちの分の弁当を作れるのか? 誰かが連絡しない限り無理だ。では、誰が?
俺たちには無理だ。ならばリンか? 否、今日麻衣に逢っていないリンが昼を作ってくる予想は立て難いだろう。
...では、ナルが? まさか...
「い、いつ連絡したんだ?」
「さっき」
「あら、気が利くじゃない。ナルにしては」
そう言う綾子に一瞥を与え、ナルは呟いた。
「...食べ物の恨みは怖いらしい」
「は?」
この答えには全員が疑問符を浮かべるが、ナルは答える気は無いらしい。
カップに残っていた紅茶を飲み干すと、自室に戻って行った。
「さっきのはどう言う意味でっしゃろか?」
「さぁ? 麻衣が来たら訊いてみれば判るかもしれませんわ」
そうだな。と納得したところで、またもや少年が意味ありげに呟いた。
「それにしても所長、否定しませんでしたね」
は? こいつはまた何を言い出すんだ? と、全員の視線が少年に向いた。
「あれ? 皆さん気付きませんでした?」
だから何がだ!?
「僕は訪ねたんです。“それって愛妻弁当ですか?” って。否定、しませんでしたよね?」







「クラウス大丈夫?」
「そう落ち込むなよ」
「そうよ。彼が特別なのよ」
「おーい...」
「ダメだ。またく反応が無い」
「仕方無いわよ。あんなの見せ付けられちゃ」
はー、と息を吐いた四人の視線の先には暗雲を背負い、Bar の隅っこの席で沈んでる青年が一人。
事前調査委や情報収集を担当している、クラウス・ミーネだ。
珍しく早く帰宅出来る事となり仲間たちと食事へ来たというのにウザイ事この上ない。
なぜ彼がこんな鬱陶しい状態になったのかと言うと......


昼食を外で済まし研究所へ戻ってくると、珍しく博士が研究所内のソファーに居た。
その周囲には博士が日本から呼び寄せた人たちも座っている。
彼らは、マイが作ってきたランチをここで食べてたはずだ。
(博士がその席に同席していた事は信じ難いが...)
私たちが戻ってきた事に気付いた、タキガワさんとブラウンさんが笑顔で迎えてくれた。
この研究所でこのようなモノ(笑顔)が見える日が来ようとは思わなかった。
「ただいま戻りました。皆さんは集まって何をされてるんですか?」
そう訊いたのは、全員の手元に数枚の紙の束が有ったからだ。
博士が一言 “安原さん” と声を掛けると、眼鏡をかけた青年(博士の言うヤスハラさん)が私たちにも同じ紙の束を手渡し、座るよう促した。
デスクから持ってきた椅子に座った所で、マイとアヤコが人数分の紅茶を持って給湯室から出てきた。
私たちの分もある。
全員に紅茶が行き渡ると、何の説明も無しに明後日からの調査のミーティングが開始された。

「昨日、所長よりレイド伯爵に関することを調べるよう言われましたので、その一時報告を始めます。まずは手元の資料、一枚目を見て下さい。ヴァンス・レイド。イギリス、レスターの産まれ。現在57歳。家族構成は、妻 マリージュ・レイド 51歳。子供は二人、既に結婚し家を出ています。長男の ハインツ・レイド 28歳、長女 キャシー・R・サイモン 25歳。200年ほど前に伯爵の地位を得てからずっと、レスター東部に邸を構え代々長男が家督を継いでいます。長男の ハインツ・レイド が家を出ているのは人脈と見聞を広げる為で家は彼が継ぐようです。今回の調査の対象の邸に関して、二枚目の資料をご覧下さい。こちらは、1863年、今から140年ほど前に建てられ、以降定期的に改装は行っているようですが壁紙や家具を変える位で骨組みなどには手を加えていません。最後に改装されたのは30年ほど前。丁度、伯爵がご結婚された頃です。ポルターガイストが起こりだしたのは、約1ヶ月前との事でしたので改装などが切っ掛けでは無いようです。庭も有りますが最近どこかに手を加えた情報はありませんでした。これは、直接ご確認される事をお勧めします。あと、人から恨まれてないか? という件に関しては、色々あり過ぎて絞り込めません。取りあえず、ここ10年の交友関係、仕事や会社関係の資料は手配して頂きました。必要になれば取りかかりますが?」




 

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「それで結構です。邸の間取りと邸周辺の様子はどうなってますか?」
「えー、三枚目〜五枚目にかけて外観写真と庭の写真があります。図面は見付からなかったので正式な間取りは判りませんが二階建てで邸の中心に吹抜けの大きなホールがあります。他の部屋というか、角方角ごとに一つの棟になっているのですが、それぞれ、そのホールを囲むように配置されてます。ホール前面が玄関ホールと繋がっていましてパーティーなんかの時、玄関から直接ホールへ招待出来るよう配置されてるようです。恐らく同じ理由で賓客用の客室、娯楽ルームなどの部屋は玄関に入って右側、迎賓棟に続いてます。玄関から左側の棟は伯爵方が住居としてお使いのようです。最後はホールの奥、そちらが調理場など使用人の部屋などを集めた使用人棟となります」
流れるように説明をするヤスハラさん。
たった一日で家族構成以外にここまで調べられるなんて、スゴイわ。
...でも図面が無かったと言うのに、どうやって使用人棟があるなんて判るのかしら?
そんな事に思考を飛ばしてた私を、楽しそうな声が引戻した。
「そう言えば、面白い情報を見つけたんですが...」
にっこりと笑いながら、ヤスハラさんが思い出したように言った。
「以前こちらの邸に務めていた方のお孫さんにあたる方が聞いたお話なんだそうですが或る決まった周期で使用人棟に幽霊が出るんだそうです」
だからそんな情報どうやって.....?
依頼主の伯爵でさえそんなこと言っていなかったのに。思わず遠い目をしてしまったのは私たちだけのようだ。
マイたちは平然と資料に目を走らせているし、博士に至ってはかなり興味を惹かれた様子でヤスハラさんに質問している。
「周期とは?」
「条件は、新月の夜。それだけで、現れる幽霊も決まっていないんだそうです」
「決まっていない?」
博士が眉を顰め呟くように訊ねる。
「ある人は子供だと言い、またある人は老人だと言う。性別も男だったり女だったり。一人だったり三人だったり、一貫した情報はまったく無いんです」
「それは、同じ日に何人もの幽霊が現れるのか? それとも見た日や時期が違うのか?」
そう質問したのはタキガワさんだ。ヤスハラさんは申し訳なさそうに答える。
「すみません、その辺りは不明です」
「それは今の使用人に尋ねればある程度判るでしょう」
「そうですね。とりあえず、僕の報告は以上です。あとは、土地の伝承と、伯爵家が建てた別邸や別荘なんかの情報と同じ建築家によって設計され建てられた家が無いかを調べたいと思うのですが?」
“それでお願いします。” という博士の声で報告は終了のようだ。
今の報告に博士は満足したらしい。
「すげぇ〜。俺、事前調査員がオリバーに “役立たず” って言われなかったの初めて見た」
「ヤスハラさんの資料も説明も素晴らしかったもの当然よ」
「確かにそうだけど、それより博士が挟まれた質問に的確に答えられる事に私、感動したわ」
「そんなに褒められると僕、照れちゃいますー。それに、まだ一時報告ですから」
一時報告? と首を傾ける私たちを尻目にヤスハラさんは博士に向き直る。
「ところで所長。僕が入れる国立図書館とか無いですか?」
「......ケンブリッジ大学内の図書館と資料館なら僕の署名で入れます。研究所内にも資料室があるので好きに見て頂いて結構です」
少し思案した博士はそう答え、ルイスに “大学と研究室の見取り図を” と言う。
えーどこだっけ? と言いながら雪崩れの起きそうなデスクを捜索するルイス...
私のを探した方が早そうだ。と思い私もデスクに向かう。
「一般の図書館は、SPR発行の身分証明が出来てからの方が良いでしょう。明後日の朝には、まどかが用意出来ると言っていたので」
「了解しました。では、今日は大学の方へお邪魔してみます」
「あ、有りました。博士、地図です」
そう言って私は、見つけた地図を博士に手渡す。
「どうも」
「ナル坊、俺たちはー?」
今度はタキガワさんだ。否、アヤコやマサコたちも博士の指示を待っている。
「松崎さん、こちらの木は?」
「海外でも会話出来る木を見つけた事はあるけど、使えるかは正直判らないわ」
眉を顰め答えるアヤコに博士は頷き、地図を広げ、いくつか丸い印をつけていく。
“会話のできる木” とか “使える木” って何かしら?
「では確認してきて下さい。ここと、ここ。あと中央。樹齢の長い木が有ります」
「判ったわ」
「あと原さんも」
「あたくしも?」
「北校舎の廊下、中庭、時計塔の霊視を」
「判りましたわ」
「じゃぁ、俺は護衛かなー?」
「あと記録係」
「は?」
「ハンディで良い」
「..............了解」




 

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ここは少ーし15禁っぽい文章が書かれています
対象年齢に達してますね? ナルと麻衣がそう言う関係なのに嫌悪を覚えませんね?
以上をご理解の上、後悔しないと言い切れる方のみ下へお進み下さい





抗い難い所業



「どーしたの?」
「何が?」
「なーんか機嫌悪くない?」
「別に」
「んにゃ、昨日から悪い」
お風呂上がり、紅茶を持ってナルの部屋を訪れてみれば、ワーカーホリックな博士様はいつも通りソファーに座り本を手にしていた。
「ルエラたちも居るんだからリビングで読んでも良いんじゃない? 久しぶりでしょう、逢うの?」
そう言いつつナルの隣に腰掛け、紅茶を差出す。どうやら喉は渇いていたらしい、素直に受け取りカップを傾けるナル。
その横顔を眺めていると、少し疲れているらしい事が見て取れた。
“疲れてるの?” と聴けば、“少し” と素直に答えが返ってきた。闇色の髪に手を伸ばし、そっと梳いてみれば肩に寄り掛かってくる。
随分精神的に参っているらしい。
瞳を閉じて、じっとしていると精巧なビスクドールのようだ。
「ナル?」
眠ったのかと思い囁くように呼べば闇よりも深い瞳が瞬いた。
「何だ?」
「ゴメン。寝たのかと思って。疲れてるんでしょう、今日はもう寝たら?」
「時間が勿体ない」
「疲れが取れないと仕事も捗らないよ?」
“ね?” と促せば、珍しく本はパタンと閉じられた。
そのまま瞳を閉じようとするナルをちゃんとベッドで寝るよう促す。
いくら春先とは言えまだ寒いのだから。
電気を消して振り返れば、ナルはベッドの縁に腰掛けただけでちゃんと寝ていない。
“ほら、ちゃんとベッド使って!” と言えば、ただ一言 “麻衣” と呼ばれる。
「な、何?」
愛してると言われた(ナルが言うとこの世の終わりかもしれない)訳でも無いのに鼓動が早くなる。
精一杯の虚勢を張って答えたのに再び呼ばれてしまえば取り繕えない。
「麻衣」
ズルイ。
ただ名前を呼ばれただけ。
でも、その声で呼ばれてしまえば逆らえない。
腕を引かれ抱きしめられる。座っているナルの頭が丁度私の肩に置かれているので頬に柔らかい髪が触れる。
“ナル” と呼べば、さらに引寄せられ口付けられる。
深く吐息を奪われ、何も考えられない。
全身から力が抜けナルの膝の上に崩れ落ちる。
それでも唇は解放されない。ようやく解放された時には、呼吸もまま為らなかった。
荒い呼吸で見上げれば、月灯かりに浮び上がる黒い瞳に吸い込まれる。
痺れる身体をそっと横たえられ、再び深く口付けられても、もう何も考えられなかった。







つづき読みたい人って居るんでしょうか?
えーっと、“後朝の別れ” って言葉が頭に浮かんで、つづきから後朝の様子が脳内を駆け巡りました。
読みたいって方は「続きを読む」からどうぞ。



 

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タキガワさんたちが、“じゃぁ行ってくる” と出て行こうとした時今まで一言も発していなかったクラウスが叫んだ。
「僕も連れて行って頂けませんか!?」
「...えーっと?」
困惑気味なタキガワさんが何かを言う前に、クラウスはヤスハラさんへ詰め寄る。
「クラウスと言います。Mr.ヤスハラ! 僕を助手としてお連れ下さい!! 道案内でも、荷物持ちでも結構なんでお願いします!!!」
クラウスの勢いに目を見張っていたヤスハラさんだったが、不意に “にっこり” と微笑んだ。
何だろう、背筋がゾクゾクする...
「クラウスさん、ですね? ではスミマセンが、まず大学まで案内をお願いします」
笑顔なのに身の危険を感じるのはナゼかしら?
クラウスは興奮して気付いていないようだけど...
私にはセンシティブの脳力は無いが、この嫌な予感は勘違いでは無かった。
夕方帰ってきたクラウスは今の抜け殻状態だったのだ。
“一体何が!!?”
とは思うのだが、ヤスハラさんに訊ねる勇気のある者は誰も居なかった。
まぁ、断片的にブツブツ呟いてるクラウスの言葉を聞く限り、ヤスハラさんの情報収集能力と自分の仕事っぷりの差にズドーンと落ち込んでしまった。と、いう所だろう。
「あれ、どうすんだよ?」
「しばらくすれば戻るんじゃない?」
「あなた達は明後日から調査だから良いけど、私たちはアレと数日過ごさなきゃいけないのよ」
「えー、嫌だな。僕まで気分が沈んでしまいそうだよ」


一方、彼らの居るカウンターから少し放れたテーブル席に陣取って研究員たちの会話を聞いていた綾子は、思わず目の前の少年に訊ねた。
「....ねぇ、あんた一体なにやったの?」
「心外だなぁー。僕は何もしてませんよ。普通に調べ物してただけですから♪」

「「「「..........」」」」








────── レスター東部 ──────



「でけぇー家」
ポカンと大口を開けて窓の外を見ているのは滝川。
SPR所有の大型バン2台に分かれて伯爵邸へ向かう途中、見えた邸の姿に思わず言ってしまったようだ。
運転手はルイス、助手席にマルクが座り2列目に真砂子と滝川、3列目にナルと麻衣が座っている。
滝川と同じように邸を見ていた麻衣がふと訊ねた。
「....ねぇ。この邸も全部、測量するの?」
「.......」
その実に現実的な問いに滝川は、ギギギギっと音がしそうな程ゆっくりとナルを見る。
「安原さんに感謝するんだな。見取り図がある」
手元の資料から顔を上げる事なく告げられた言葉に麻衣と滝川は安堵の声を上げる。
「よ、良かった」
「感謝しますとも! 安原さま! 修サマ! 越後屋様ーっ! 」
「でも、Mr.ヤスハラはどうやってこんな情報を集めてくるんだろうね?伯爵家の邸の見取り図なんて普通、門外不出なんじゃないかな?」
心底不思議そうに訊ねるのはマルク。
どこか遠い目をした滝川は、マルクの肩をポンと叩き呟く。
「世の中には知らない方が良い事も沢山あるんだ....」
妙に実感の篭った声色に、マルクは一昨日のクラウスの姿と安原の二次報告の内容を思い出した。





 

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一昨日の夕方。
「ただ今戻りましたー」
と、にこやかに研究室の扉を開いたのは安原。
一緒に大学に行った滝川たちとは早々に別れ、クラウスを連れ図書館へ向かったのだ。一足先に戻っていた滝川たちも “お疲れー” などと迎えている。
安原がソファーに座り全員が揃った所で “では、報告を” と言う博士の声が聞こえた。
「まず、地方伝承を調べてみたのですが特にコレといった物は無いようでした。今の所は無視して問題ないと思います。次に、レイド家所有の別荘ですがマンチェスターとグラスゴーにお持ちの様です。別荘の間取りは共に一般的な造りで1階が玄関ホールと食堂、2階に各自の部屋、あとは別荘なので庭にプールが有ったりします。ただ普段の使用は無く、霊現象は起こった事は無いとの事でした。続いて建築家ですが、特別有名な人物ではなく、スカルラ・ラドンの設計です。ラドンに関しては面白い表記を発見しました」
「面白い?」
「はい。ラドン設計の建物は僕が確認できた物が9件あります。その位置関係が気になりまして。この丸の付いている所なんですが...」
そう言って提示されたのは一枚の地図。
「一つの家を中心に均等に散らばってますね?」
「この形に何か意味があるんですか?」
セシアとルイスが地図を見ながら訊ねるが安原はそれには答えず意味深な質問を投げかける。
「リンさんはどう思われます?」
「....方角はどうなっていますか?」
「この家が北です」
「これは...主要な方角に礎のように家が置かれていますね」
「主要な方角?」
リンの言葉にイギリス組と麻衣が首を傾ける。
「東洋の占術なんかで方位を動物の名前で表す事は知ってるか?」
「十二支だよね?」
「確か、12方向、30° ごとに異なる動物が当てられてる奴ですよね?」
“そうだ” と、麻衣とマルクの言葉に頷く滝川。
「子、丑、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥」
十二支を順に上げながら地図に相当する方角を書き込んでいく。
「主要方位ってのは東西南北を示す、子、卯、午、酉だな。」
「では伯爵の邸は該当してないようだし、問題ないんじゃ?」
最もなルイスの言葉に滝川は首を横に振り説明を続ける。
「ところがだ、主要方位とは別に無視出来ない方角が存在する。一般的に鬼門と裏鬼門と呼ばれている、艮(うしとら)と 坤(ひつじさる)の方角だ」
「うしとら?」
「ひつじ...?」
「“うしとら” と “ひつじさる” だ。方位で言うなら北東と南西だな。特に鬼門は冥界に通ずる道や門、扉などが在ると言われる方角の事で霊的に不の要素が重なり易い場所と言っても良い。伯爵家はこの艮(うしとら)の方角にぴったり当てはまる」
「では、今回の原因は...」
「要因としては関わっている可能性は高い。だが...」
ちらりと滝川が安原を見ると彼は頷き、後の言葉を引き継いだ。
「伯爵邸でポルターガイストとみられる現象が起こったのはひと月前。邸が建てられた時期とは、まったく一致しません。別の要となる不可抗力が在ったと見るべきかと思います」
そこで言葉を切りナルを見る安原。視線の合ったナルが頷くのを確認すると表情を一変させ実に楽しそうに、こう続けた。
「実はこの9件の家を指して “完璧に配され構築された素晴らしき設計” と絶賛する方が一人いらっしゃるんです」
「“完璧に配された”?」
安原の言葉にナルが反応する。
「はい。ご自身のHPで素晴らしい建築家だと誉めておられました。お名前を、ジェイク・ロドニー氏と言われまして、ご職業は呪術師だそうです」
「「「「「「..........」」」」」」
「少年、すまんがもう一度言ってくれるか? 年の所為か最近耳が遠くなったようだ....あははは」





 

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