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*藤袴 -thoroughwort-*

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東方司令部、司令室。
それは、珍しく鋼の錬金術師ことエドワード・エルリックとその弟、アルフォンス・エルリックを交え各々飲み物を片手に談笑している時に突然起こった。
その一部始終を目撃していた尉官J・H氏に尋ねた所、その時の事を思い出したのかガタガタと震え青褪めつつこう洩らした。

「あれは否ホントマジで恐ろしかった」

尉官という地位に有る彼さえ恐ろしいと言うモノ....
それは一体...?




「でさー、そこの軍人ムカツイタからボコッといたー♪」
「もーホント、兄さんってば荒っぽいんだから」
「何だよ、お前だってけっこーキレてたじゃんかー」

なんてギャーギャー言いながら今回の旅の最中の出来事を語るエルリック兄弟。
そんな2人を微笑ましげに眺める司令部の軍人たちはそれぞれ飲み物を片手に自主休憩中であった。
いつもはこんな事をしていると銃弾が掠めるのだが、かの兄弟に甘い麗しの副官殿は全員の飲み物を入れ、休憩を促してくれたのたっだ。

「...君ね。事後処理をするのは私なんだ、その軍人はどーでもいいが、建物は壊すな!面倒だ」
「大佐、そこなんですか? 注意するのは...」

ホークアイからの呆れた様な冷静なつっこみに、どっと笑いが起きる。
そんな普段の軍部には無い穏やかな時間を過ごしていた。

「?」

エドワードはふと違和感を感じた。周りに目線を走らせるが他の者は特に何も感じなかったようだ。
否、流石にその若さで大佐という地位に就くロイ・マスタングは何か感じた様だ。
エドワードと視線が合うと扉の方へ視線を走らせた。エドワードもつられ扉に目を向ける。
聡い弟がそんな兄の様子に気付いた。

「どうしたの兄さん?」

そのセリフに周りの軍人の目線が集まる。

「...否、何かこう...妙な感じが」
「妙って何がだ?エド...?」

ハボックが尋ねたがエドワードは扉を気にして答えない。
もう一度尋ねようとした時後ろから声が聞こえた。

「伝令にしてはややおかしい気もするが、そう切羽つまっている感じではないな。困惑と言った所か?」
「否、それおかしいじゃん。ここ一応、司令部の一番偉いとこだろ?」
「一応って君ねぇ...」

そんな事を言っていると一人の軍人の靴音が聞こえ司令室の扉がノックされやや緊張気味の声が聞こえた。

「失礼致します。受付のハディス・エリントン軍曹であります。」
「入りたまえ」

ロイが落ち着いた声音で命じると、失礼します、と扉が開く。

「で、何が有った?」

ロイが尋ねるとエリントン軍曹はやや困った様子で言葉を紡ぐ。

「その、実は受付に鋼の錬金術師殿に会わせろと言う方がいらっしゃっておりまして」
「え、俺?」
「はい。お知合いだとおっしゃるのですがいかがしたものかと...」

困惑する軍曹に同じく困惑したエドワード。ロイが、ふむ、と言いつつ聞く。

「合いたいでは無く、合わせろと?どんな者だね?」
「は、その、ご夫婦の様で2人でお越しです。1人は黒いドレットヘアー、黒い瞳でとても美しくスタイルの良いご婦人で」
「ほぅ。鋼のも隅に置けないな」
「胸の上に刺青をされておりまして、そのご主人らしき方が、アーム・ストロング少佐の如き巨漢の男性の方で.....あ、あの鋼の錬金術師殿?」

軍曹が思わず、と言った風に尋ねるので司令室の軍人たちがエドワードを振り返る。
そこには見事に固まったエルリック兄弟の姿が有った。
否、固まっているが、よく見るとエドワードのカップを持つ手が震えている。
何事か!?と皆思った。
あの、向う所敵なし!!テロリストでさえ裸足で逃出しかねないと言われるエルリック兄弟が、二人して青褪め(否、アルフォンスの方は判らないが)ガタガタと震えているのだ。

「は、鋼の...?」

ロイが躊躇いがちに声を掛ける。

「にににににに、にいさん!」

 ガクガクガクガクガクガクガクガク

「なななななな、なんだ弟よ!!」

 ガクガクガクガクガクガクガクガク


おかしい。
完全におかしい。二人ともどもり過ぎである。

「こ」

「「「「「「「こ??」」」」」」」

「「殺される」」

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ




 

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青褪め、ガタガタと震えていたエドワードだったが、ふと動きを止め窓の外を見る。
そうして遠くを見つめる様にした後、大きく息を吐きアルフォンスを見、力無く呟く。

「アル、俺たち短い人生だったな」
「そうだね、兄さん。色々有ったけど楽しかったね」

はは、ははははは。
一頻り笑いあって2人して遠くを見つめる。

「僕、せめて彼女欲しかったな」
「リィ辺りに頼んで見ろ」
「.....僕、彼女作るのにも命かけないとダメなんだ」
「間違っても、“もうちょっとしたら殺されちゃうんで、せめて最後に彼女になって下さい” 何て言わなきゃ大丈夫だよ」
「じゃぁ、何て言えば良いのさ」
「それは、お前が考えるんだろ?他の奴が考えた言葉なんかでお前の心が通じるか」
「う゛ー.....だってさー....」

ぶつぶつと何事かを呟いているアルフォンスを今までに見た事も無い暖かい眼で見て微笑むエドワードはまるで聖母の様で美しかった。
少年に対し聖母は可笑しいだろうと思うが、司令部の人間は全員否定出来ずそんなエドワードに見蕩れていた。女ったらしの異名を持つロイ・マスタング大佐も例外では無く普段のポーカーフェイスは全く保っておらず、驚愕の表情を浮かべ見つめていた。
全員の視線を感じ居心地が悪くなったのかエドワードはガシガシと頭と掻きつつロイに尋ねた。

「ふぅ...  あー 大佐。そのー、受付に受付に居る人、ここに通しても?」
「私は構わんが、否、その、大丈夫なのか?」

あれだけ動揺していたにも関わらず、その人物に会う気なのか?と思わず訊いてしまった。
エドワードは一瞬驚いた様で言葉に詰まったが、視線をどこか遠くへ向け呟いた。

「..........まぁ、なる様になるさ。いい加減案内するか俺たちが出て行かないと、ここ壊されそうだし」
「こ、壊すって、君ね一体」

どんな人物なんだね?と続く言葉はエドワードの声に遮られた。

「大佐の許可下りたから、案内よろしく。無駄口叩くと危ないから注意してなー」

ひらひらと手をふって軍曹に頼むエドワードに、軍曹は敬礼し去って行った。



「で、鋼の」
「何?」
「知合いの様だが一体誰が来てるんだね?」
「..............世界最強の主婦。んでもって、俺たちの錬金術の師匠」

主婦!?って事は女性の方に怯えていたのか。

「どんな女性(ひと)なんだね?」

この2人がこんなに怯える様な師匠(女性)...
実に興味が湧いて思わず訊いてしまった事を非常に後悔した。

「最強って言葉はあの人の為にある言葉なんだ、絶対」
「あの修行の日々を思い出すだけで記憶が飛びそうだもんね」
「普通8歳と9歳の子供にさー、“錬金術は一切使わずここで1ヶ月生抜いてみろ”って、サバイバルナイフ1本だけ渡して無人島に放置してかないよなー」
「しかも、きっちり課題だけは出して、“《全は一、一は全》1月経ったら迎えに来る。それまでにこの意味が理解できたら弟子にしてやる”ってねー」
「“猛獣なんか居ないし、まぁ頑張れ”とか言ってたのに、その夜いきなり変な奴襲ってくるし」
「あ、その人師匠んとこの従業員だったんですけど、その時はそんな事判らないし強いし、折角捕った獲物(食料)、掻っ攫って行くし」
「1週間後くらいにはさ、もう」
「「死ぬかと思った(いました)」」

「「「「「「.....」」」」」」

司令部の面々は思わず顔を見合わせる。エルリック兄弟の強さの秘密を垣間見た気がする。





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「でも、まぁ。そのお陰で今の俺たちがある」

そう言うエドワードの顔は穏やかだったが、何かを耐える様な複雑な顔をしていた。

「厳しい人だったけど優しい人でもありました」
「否、でも厳しい方が勝ってるぞ」
「それは否定できないけどさー」
「恐ろしいも勝ってる」
「うん。強くて、カッコイイけど、怖くて、厳しくて...でも、優しい」

そう言って俯くアルフォンス。

「大切な事、ちゃんと教えてくれてたのにな」

エドワードはそう言ってアルフォンスの頭を優しくなでる。

「うん」

その2人の雰囲気が余りにも優しく、悲しくて、誰も口を挟めなかった。






「あー、あれだなー。そうやってると、大将も珍しく兄貴に見えるな」
「だーれーが、普段はちっちゃくって兄には見えないって!!」
「兄さんそこまで言ってないよ」

「まったく」と怒るエドワードに続けて、悪りぃと言いながらハボックが訊く。

「で、師匠って人はどん位強いんだ?」
「もしかして、大佐より強かったりして?」

とはブレタ。そんなー。と笑うフュリー。

「大佐と.....」

呟き、ロイの顔を見、黙り込むエドワード。
じーっと見つめ続けるエドワードに耐え切れなくなったのかロイが訊く。

「な、何だね」
「....無理だね、うん」

考えた末にボソッっと呟く。

「ほう。私が負けると?」

ちょっとムッとしたらしく目を細め聴き返すロイ。

「否、だってさ...うちの師匠って、こう、中尉ー(ひく)拳銃×(かける)錬金術って人だし」

ホークアイには聞こえない様小さく呟かれた言葉を理解した男性陣は一斉に青褪めた。

「「「「....そりゃ、強いな(ですね)。うん」」」」

頷くマスタング組の面々。ロイも敢えて否定はしない。心なしか顔色が悪い。

「だろ。でさ、弟子になってもアルと2人掛りで攻撃してんのに掠りもしねーの」
「挙句、師匠は錬金術の事を説きつつ文庫本読んで僕たちの攻撃片手でいなしてたもんねー」
「あれはもう、人間じゃ」

どぉがんっっっ!!!!!
と蹴破られた扉の向こう側には黒雲を背負った女性(ひと)が立っていました。


「「せ、せせせせせせせ、師匠!!」」


完全に真っ青(アルフォンスは雰囲気だが)になり、呂律が廻っていない2人。

「否、あの、その、これは」

つかつかつかと一直線に執務室に入ってきたかと思えば
ぐわぁしっっ!!!
と言う音が聞こえてきそうな勢いでエドワードの胸倉を掴みそのまま壁へと投飛ばす。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

がらっがしゃんっっ!!! 
壁に叩き付けられたエドワードはピクリとも動かない。

「弱いっ!!!!!!」

と吐き捨てた後グルッっと振返った。
こ、怖い。目が捕食用の獲物を狙う目である。

「ひぃぃぃぃぃぃっ」

と言うアルフォンスの悲鳴が聞こえる中、悠然と歩みを進め笑いながら言う。

「ん?アルフォンスか、久し振りだね」
「おおおおおおおお、お久し振り...」

です。と言う言葉を待たず、がしっっっと鎧の右手を掴み投飛ばす。
がんっっっっ!!!!
と言う音と共にアルフォンスも動かなくなる。

「鍛え方が足りん!!!」

パンパンと両手を掃いながら、息巻く女性。
ああ、確かに世界最強と言うに相応しい。そう誰もが思った。




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「突然、失礼致しました」
「い、いえ...」
「私は、イズミ・カーティス。こっちは旦那の」
「シグ・カーティスです」

エルリック兄弟をいとも簡単に沈めた後、かの女性とその夫はそう名乗った。

「うちの不肖の弟子がお世話になっているようで...」

そう向けられた視線は実に恐ろしい色を宿しているように見えるのは気の所為だろうか?

「私が鋼の錬金術師、エドワード・エルリックの後見をしている」
「ロイ・マスタング、地位は大佐、そして...焔の錬金術師、だろう」

ロイが名乗り出ようとすれば、イズミは腕を組み悠然と言葉を奪い取った。

「私は、軍人が嫌いでねぇ...」

告げられた言葉は実に言われ慣れたもの。
しかし、彼らに近しい人からの言葉だからだろうか、心に重くのしかかる。
部下たちにも心なしか瞳の奥に影が浮かんだ気がする。

「ところで、エド、アル。お前達いつまで寝てる気だ?」

その言葉に、今までピクリとも動かなかったエルリック兄弟が起き上がった。
あっさりと身を起こした事から意識を失った訳ではなく動かなかっただけのようだ。

「久しぶりに会った師匠に挨拶のひとつも出来ないのか、お前達は」

あなたが挨拶の前に投げ飛ばしたんじゃ、と思うがエルリック兄弟は苦笑しただけだった。
二人そろってその場で正座するとと頭を下げた。

「「ご無沙汰してます、師匠」」
「あぁ、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「「はい。シグさんもお久し振りです」」
「二人とも大っきくなったなぁ。うん」

...さきまでとは一転して穏やかな空気が流れた。

「ところでエドワード君、アルフォンス君」
「中尉?」
「はい、何でしょう?」
「悪いのだけれど、あれ直してくれないかしら? さすがにあのままじゃ...」

そうホークアイが指し示したのは、壊れた壁と棚に凹んだ床だった。

「.......す、すみません」

そう言うとアルフォンスは自分が壊した床を錬金術でさっと直した。

「中々、精確になったじゃないか」
「え、そうですか?」

イズミに褒められたアルフォンスは嬉しそうに振り返る。

「俺はこっちか」

と今度はエドワードが壁と棚を錬成する。
“パン!!” と手を合わせ、これもまた見事に錬成された。

!!!!!

その錬成を見た瞬間。イズミは凍り付いた。

「おし、完成!」
「ご苦労様、エドワード君」

ホークアイの言葉に笑顔で答えるエドワード。微笑ましい光景だ。

「エド」

イズミは静かにエドワードを呼んだ。


「お前、アレを見たね?」





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「お前、アレを見たね?」
「な、なにを...」
「エド、見たんだろう?」
「..............はい」
「兄さん?」

確信を持って訊ねられたそれに、エドは頭を下げ肯定した。
しかし周りの者は一体何のことだか判らない。
アルフォンスも不思議そうにエドとイズミを見比べている。

「その年齢で “真理” に辿り着いたか... アル、その鎧の中...空っぽだね」

!!!!!!

「エドも腕と片足、機械鎧だろう」
「ど、どうして...」
「どうして? 私が気付かないとでも思ったか?さっきお前たちを投げ飛ばした時、エドは両足の着地音が違っていた。それにアルの身体から響いた音はただの金属音だった」
「「師匠....」」
「バカ者。あれほど人体錬成はやるなと教えたのに...」

顰められたイズミの顔と苦しそうに吐き出された言葉に皆、言葉をなくす。

「しかし、あれを見て生きて帰ってきたか.... まったく天才と言うやつは」
「俺は、天才なんかじゃ...」
「あぁ、当然だ! この大馬鹿者!!」
「す、すみません」
「馬鹿弟子」
「はい」
「愚か者」
「おっしゃるとおりデス」
「マヌケ」
「か、返す言葉もございません」

延々続くかと思われた師匠と弟子のやりとり。
それに終止符を打ったのはイズミの溜め息だった。

「私の教えは判っているな?」
「はい」
「私は錬金術をそんな使い方する事を教えてはいない」
「はい」
「.....お前達を破門する」

!!!!!!!!

「師匠!!」

その場に居た全員が息を呑に、アルフォンスも思わず叫んだ。

「それは、あんまりじゃ...」

思わず呟いたハボックをイズミは一瞥するが瞳に揺らぎは無い。
その瞳を真っ直ぐエドに向ける。

「エド、異論はあるか?」
「いえ、ありがとうございました」

その瞳を受け止めたエドワードは、そう言って深く頭を下げた。





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「私は、まだ彼らに話がある」

そう言って司令室からエルリック兄弟を出て行かせたイズミ。

「俺、見て来ましょうか?」

心配そうに腰を浮かせたのはハボック。しかしシグがそれを止めた。

「俺が行く。イズミ?」
「任せた。しばらく時間がかかるだろう」




「さて、彼らを追い出してまでのお話とは何でしょう?」

イズミの向かいに座り腕を組んだロイは率直に訊ねた。
今までの彼らとのやりとりを見る限り、下手な小細工は命取りだと判断したからだ。

「追い出してとは人聞きの悪い」
「事実でしょう?」
「まぁ良い。私も回りくどい事は嫌いだから単刀直入に訊こう。ロイ・マスタング、あんたは何をどこまで知って理解している?」
「それはどういう意味でしょう?」
「あの子たちは人体錬成をした。これは勿論知っているね?」
「えぇ、リゼンブールの彼らの家で血まみれの錬成陣を見ましたから」
「それによって錬成されたモノは?」
「否、私が訪れた時は既にロックベル夫人の手によって埋葬されたと」
「アルのあの状態は?」
「鋼のが片腕を対価に、魂の錬成を行い取り返したと...」
「魂の錬成か... 理論上は可能だが、火事場の馬鹿力って奴かね。腕一本、魂の対価としては軽いな...」

口元に手をやり小さく呟くイズミに口を挟んだのは、ロイではなくハボックだった。

「あの〜、お話中申し訳ないんスけど、腕一本は対価として軽いもんなんでしょうか?」
「魂はその人を形成する上で無くてはならない物だ。例えば、エドの身体にアルの魂が入っていたら、それは誰だと思う?」
「身体はエドで中身はアル........」

ハボックはそう呟いたあと言葉が続かない。ホークアイたちも難しい顔で考えている。

「難しいだろう? 外見を見るならエドワード、しかし記憶や心はアルフォンス。一概にどちらだとは言えない。つまり、魂は人として代える事ができない物のひとつだ。それを腕一本で取り返えせたなら、軽い対価だと言えるだろう」

難しい顔ながら一同はイズミの説明に納得したようだ。
しかし、ロイは違う事を思った。

「“どちらも” ではないでしょうか?」
「どういう意味だい?」
「身体は鋼ので中身はアルフォンス。ならどちらでもあるという事ではないかと」
「.....その考え方は、エドに似ているな。なるほど。だから “コレ” なのか.........」

悩みながらもロイが捻り出した答えにイズミは苦笑し、“ふぅ” と溜め息を吐き瞳を閉じた。


「...イズミさん?」
「なぜ、エドに国家錬金術師になる事を進めた?」
「私が鋼の見つけた時、まるで死人のような瞳をしていました」
「だろうな。アレを見て生きて戻った。それだけでも軌跡に近い」
「“何を作った” と訊いた私に、“ごめんなさい” その言葉だけを繰り返していました。誰に対して何を謝っているのかさえ判って居ないように感じました。在るのか無いのか判らない道でも、出来れば立ち上がれのではないかと....」
「そうか....」

静かに呟いたイズミは、“私の質問は終わりだ” とソファーに身を沈めた。

「では私からも質問を良いでしょうか?」
「判る事なら答えよう」
「先ほどから言われている “あれ” とは一体、何なのでしょう?鋼のは知っているがアルフォンスは判らない様でしたが?」
「この世の真理さ」
「真理...?」
「全は一、一は全、全は世界、一は自分、世界は宇宙、宇宙は神、神は真理」
「イズミさん、もしや貴女も...」
「あぁ、内(なか)をね色々と持って行かれたよ。まったく、師弟そろって情けない」

苦々しげに顔を顰めたあと、ひたりとロイに視線を合わせたイズミ。

「ロイ・マスタング。背負わなくていいもまで背負ってたら、いつか身動き出来なくなるよ?」

ぱちくりと瞬きをしたあと、ロイは唇に笑みを浮かべた。

「背負ってなんかいませんよ。現に彼らは自由に飛び立ってます。それに私は、彼らを“軍人” にするつもりはありません」
「まったく、バカな上に甘い男だ。だが嫌いじゃない」

穏やかに笑ったイズミは立ち上がり、深く頭を下げた。

 


「うちの子を救い上げてくれてありがとう」


end 





 

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ふわりと浮かんだ意識

目映い光の渦に、誰かが自分を呼ぶ声だけが聴こえた気がした





それは唐突だった

今までいた空間は、地に足が付いている事は判るものの何も無い空間だった

どちらが前でどちらが後ろなのか検討も付かない

随分長い時間ここに居た気もするし、ほんの数分の様な気もする

明るいのか暗いのか、目を開けているのかいないのか

全てを知っているのに、何も知らない





そんな相反する世界に居た自分にただ「声」だけが届いていた







「エドワード」







呼ばれた

そう認識した瞬間

世界は再び、俺の前に訪れた












────アメストリス────



つい半年程前
軍内部、特に上層部に入り込んでいたホムンクルスの暗躍によりアメストリス国民全員が、賢者の石の材料として殺されようとしていた。
しかしそれに気付いた一部の軍人と数名の国家錬金術師の活躍でそれは未然に防がれた。
今、国民は何事も無かったかの様に穏やかに生活を送っていた。


一部の例外を除いては...




セントラルシティ、中央司令部の司令官室。
そこに彼は居た。

ロイ・マスタング中将

30歳という若さで中央司令部、司令官。
はっきり言って普通では有り得ない地位である。
しかし、国民も他の軍人もこれを認めない訳にはいかなかった。
なぜなら、半年前。
ホムンクルスの陰謀にいち早く気付き、反逆者の疑いを掛けられようとも、国の為、国民の為に、ホムンクルスを倒し、軍部内の暗躍者を一掃し見事勝利を挙げたのだ。
その素晴らしい功績により異例の三階級の特進を果たした。彼の手足となり働いた直属の部下もそれぞれ二階級の特進を果たしている。
彼に賛同し協力したアームストロング少将は大将となり北方司令部の司令官に任命された。もしろんブリックスも彼女の管轄だ。弟のアームストロング少佐は大佐になり東方司令部の司令官へ、グラマン中将は大将となり副総統の地位に抜擢されている。
軍高官という地位と権力。
そして国家錬金術師としての頭脳。
しかも全て実力で手に入れた上、端正な顔立ち、オニキスの様な瞳と同色の髪。
彼さえ望めばどんな地位の女性でも手に入るだろう。
他人から見れば、羨ましい限りだ。
しかし、彼の心は決して満たされてはいなかった。

「中将」
「ホークアイ少佐か。何だ」
「07:58、セントラル銀行への強盗の件は片付きました。これから調書を取ります。現場に出でいた者が仮眠を取らせてからの検証となりますので中将にして頂く仕事はありません。少しお休み下さい」
「...了解した」
「本日、夕方まで来て頂かなくて結構です」
「君ね」
「結構です」

にっこりと女神の微笑みで言われてしまえば逆らえる訳がない。
ロイの方が上官なのだが、と言う現実はここでは意味は無い。

「了承した。 ...何か有れば連絡を」

そう言って立ち上がり、司令室を出る。
向かうはいつもの場所だ。
少佐も判っているから何も言わない。





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ふわりと浮上した意識の先には、まばゆい光が射し込んでいた。
まず見えたのは白い天井。
何度か瞬きをした後そこから視野を広げていけば、見えるのは風に揺れるレースのカーテン。
ゆっくりと起き上がると左腕に点滴の針が刺さっている事に気が付く。
ここは病院、だろうか?
いまいち核心が持てないのは、この部屋には病院特有の消毒液の香りがしない上
ソファーやテーブル、流し台なども完備されてるからだ。
えぇと。
何がどうなって今、自分がここに居るのか?
そして、ここがどこなのかをまず把握しよう。うん。


そうだ、自分はホムンクルスと戦って居たはずだ。
飛び飛びの記憶だが大切な事にかは覚えている。
奴らがお父様と呼ぶ親父そっくりな人の、仲間になれという要請を跳ね退けてエンヴィーと戦って居た。
血を流し過ぎたんだろう、身体は重く言う事を聞かなくなり意識が朦朧としていた。
殺されると思った時、プライドが現れて自分の目の前にアルフォンスを叩き付けた。
ボロボロなアルを見た瞬間ダメだと思った。
頭の中を駆け巡った構築式に考えるより先に両手を打ち鳴らそうとした。
しかし、それより早く後ろから強烈な錬成光が襲ってきた。
後ろにも敵が居たのか!? と思ったが、来るはずの痛みは感じない。

一体何が?

激しい光にが収まり、閉じていた瞳を開くとエンヴィーとプライドの姿は無かった。
代わりに居たのは、アルフォンス。
鎧ではなく、持って行かれた生身の身体でそこに居た。
自分は白昼夢でも見ているのだろうか?
それとも先ほどのこうげきで実はもう死んでいるのだろうか?
動く事もできず、呆然とアルフォンスを見つめていた。



「エドワード」

それが自分の名前だと認識するのに少し時間が掛かった。
声のした方を振り向けば、親父がこちらに歩んでくる所だった。

「無事か、エドワード?」

そう言って頭に触れられた瞬間、背筋に走った悪寒。
俺は本能が告げるままに両手を打ち鳴らしていた。
崩れ落ちる足場を難なく避け、舞い上がる砂埃の向こうで奴は笑っていた。

「さすがはホーエンハイムの子供。私に気付いたか」
「てめぇ一体どういうつもりだ?」

おもいっきり睨み付けるも、奴は涼しい顔をしたままだ。

「どう、とは何かね?」
「エンヴィーたちはどうした!」
「君は既に答えを知っているだろう?」

にやりと笑う奴に虫酸が走る。

「悪趣味な...」
「ホムンクルスは、また作れば良い。だが、君たちはそうはいかない。アルフォンスは既に身体から魂が離れかけていた。にも関わらず、プライドが無理をさせるから、もう限界だった。それは君も判っただろう?」
「くっ!」

その言い様にぎりっと歯を噛み締める。確かにあの時、アルを錬成しなければダメだっただろう。
無理やり留めた魂を再び定着させられる確率は限りなく低い。

「君は、自分を材料に弟を錬成しようとしていた。私はそれを許す訳にはいかない。ならば他の材料を使えば良い。それだけの話だ。」
「それだけ、だと?」
「大事な人柱が失われる事を思えば些細なことだ」

てめぇ!と殴り掛かろうとした瞬間、俺と奴の間に新たな亀裂が走る。
慌てて後ろへ飛び間合いを取る。

「相変わらず破状した精神だな」
「ホーエンハイムっ!!」
「お、やじ?」

今までの怒りも忘れて暫し、呆然と瞬きを繰り返してしまった。なんっーか、シュールな光景だな。親父と親父そっくりな男が向かい合ってるのは...

「エドワード。アルフォンスを連れて離れていろ」
「へっ?」

違うところに思考を飛ばしていた所為で間抜けな返しをしてしまった。

「できれば医者に診せるんだ。長い間、魂の離れていたアルフォンスの身体が今、どういう状態か私にも判らない。早く行くんだ!」
「わ、判った!」

親父の言葉にやっと脳が回ってきた。

「待てっ!!」
「お前の相手は私だ」
「大事な人柱を逃がす訳にはいかん。どけ! ホーエンハイム!!」
「断る!」

親父たちの言い争う声が響く中、俺はアルフォンスの元へ走る。

「アル...」

意識は無いが “生きている” その事に震えそうになる。顔色もそう悪くなさそうだ....
こんな形で取り戻す事になるとは予想もしなかった。
とにかくアルを運ばなくては。丁度良い板を見つけたので台車を錬成しアルを乗せる。
“医者” と言われて思い至るのはノックス先生。
だが......
迷っている時間は無い。俺はアルを連れその場を離れた。






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「確かこっちに在ったハズなんだけどな...」

ノックス先生の隠れ家のような病院を探す途中に見たのは壊れた街の建物。
これもホムンクルスたちとの戦いの余波だろう。
でも錬成陣の要の建物はホムンクルスたちに護られ残っている。
あれを壊さないと、錬成陣は効力を失わない。それに地下の道も断たなくては。
急ごう。
崩れた壁の向こう側で話し声がする......軍人だ。全員、銃を手に周囲を警戒している。
大佐は大丈夫だろうか? 瞳を閉じると浮かぶは漆黒の輝き。
ブリックスに行く前、ただ一度だけ見た激情を押さえ込んだ深い瞳。

「たいさ........」

はっ!? ち、違うぞ! 考えてない、考えてないっ!!
逢いたいなんて思ったりしてない!!
そんな事考えてる場合じゃないだろう俺!!! と自分に突っ込みを入れつつ、深呼吸する。
だ、大丈夫だ。落着いてきた。

「何を一人で百面相しとるんだ、お前は?」
「ぎゃぁっ!!」

誰も居ないと思っていた所へ掛けられた声に飛び上がってしまった。
恐る恐る振り返れば、忘れたくとも忘れられない女性が仁王立ちされていた。

「ア、アームストロング少将! お、お久し振りデス...」
「ふん、相変わらずみみっちい奴め」
「み、みみっちい...」
「何だ? なんか文句でも?」
「イイエ、メッソウモアリマセン」

ん? と鋭い瞳で訊ねられれば返す言葉なんて決まっている。
片言になるのも致し方無い。人間誰しも命は惜しいものだ。
しかし、一人でこんな所に居るなんてこの人は何をしてるのだろうか?

「まぁ、良い。で、それは何だ?」

アルフォンスの事を訊かれ何と答えたものか悩むが、この人には正直に言うしか無いだろう。

「...アルフォンスです」
「............そうか」

何とも言えない沈黙が降りた時、幾人かの慌ただしい足音が割り込んできた。

「こちらにいらっしゃいましたか、少将! 指揮を!」
「暫し待て! 逃げ遅れ、怪我をした子供が居る。誰か...おい、そこの役立たず!」
「は、はいっ!!」
「車で病院へ。ここに居られては邪魔だ!」
「はっ!」
「他の者はボサッとするな、行くぞ!」
「「はっ!」」

一方的に告げると、少将は去って行った。ただ一人の軍人を残して...

「.......久しぶり。ブロッシュ軍曹」





「衰弱はしているが命に別状は無い。まぁ、数ヶ月の療養生活は強いられるだろうがな」
「そっか、良かった」

ブロッシュに連れてこられたのはノックスの診療所だった。
アルの身体も特別な問題が無いようで、ほっとした。

「それより次はお前だ! とっとと脱げ! ブロッシュ、お前はドアの前で見張りしてろ! 誰も近付けんじゃねーぞ」
「は、はいっ!」

否、俺は別に... と言うセリフは
ノックスの言葉と慌てて出て行くブロッシュの足音、そして扉の閉まる音にかき消された。

「ほら、脱げ。ここには俺しか居ない」

そう言うノックスの瞳には呆れと優しさが浮かんでいた。
エドワードは諦めて、溜め息と共に服を脱いだ。

「.....動き易くしといてくれよな」

腕から肩にかけての怪我に包帯を巻いていたノックスはエドの言葉に眉を顰めた。

「この怪我で戻る気か?」
「........まだ、終わってない」

エドの簡潔な答えと瞳にノックスは息を呑んだ。

「お前は......お前たちは似ているな」
「?」

何が言いたいのか? と見上げたノックスの顔は実に複雑そうだった。
煙草に火を付け溜め息混じりに続ける。

「我侭で、頑固で、融通が利かなくて、馬鹿で.....誰よりも自分に厳しい。心の揺らぎを一瞬で薙ぎ払い、強い瞳で未来(まえ)を見据える。そんな大馬鹿者にそっくりだ」

そう言って笑ったノックスは空いている手でエドの頭を優しく撫でた。

「俺は、そんな強くない」

ノックスの言う大馬鹿者が誰かなんて訊かなくても判る。
自らの信念を貫き、揺るぎ無い瞳で未来(まえ)見据える人。

「強さなんて自分では判らんもんだ。ちっこい身体であんま無理すんじゃねーぞ」
「ちっこい、ゆーなジジィ!」

服を着込めば準備は完了だ。俺は行かなければ。

「アル、しばらく預かってくれ。身元不明で構わない」
「あぁ。気ーつけろや。アイツはセントラルの西側に居るぞ」
「...判った。サンキュ」

そう言い残し、エドは去った。戦いの場に戻る為に。

たった今、金の子供が出て行った扉に向かい紫煙を吐き出す。
ガキだと思ってたが、あんな顔させるとは男冥利に尽きるねぇー、アイツも。
しかし、厄介なのに捕まったもんだ、あの豆っ子........

死ぬんじゃねーぞ




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「ブロッシュ軍曹、戻らなくて良いのか?」

そう訊ねたのはセントラルの西部へ向かう車の中。
なぜか運転席に座る某軍曹が居る所為だ。

「少将からのご命令は、怪我人の保護と運搬だからね。それに今僕がお送りしているのは、少佐相当官の国家錬金術師殿です。なので職務的に何ら問題は発生しませーん」
「良いのかよ、それで...」

あっけらかんと言ってのけるブロッシュにエドワードは呆れてしまった。

「状況は聞いてる?」
「僕は下っ端だから。ただ、上層部からの命令は反乱者を排除せよと...」
「名前は正式に挙がってる?」
「...中心はマスタング大佐とその側近と言われているけど、僕が知っているだっけでもかなりの数の軍人が反旗を翻している。今、軍に残っている者の中でもマスタング大佐へ攻撃する事を躊躇う下士官は多いはずだよ」
「下には受けが良いからな大佐は...」

窓の外を見つめながらエドは小さく呟いた。
その横顔をバックミラー越しに見ていたブロッシュは意を決っしたように声を掛けた。

「マスタング大佐は、どう言う人なんだろう?」
「.........」

思いがけない問いに、エドは瞳を瞬いた。

「どう? ってのは、どう言う意味で?」
「う〜ん...何て言えば良いのか俺も良く判らないんだけど、エド君から見たマスタング大佐はどう言う人なのか、教えて欲しいなと思ったんだ」
「俺から見た大佐....笑顔が胡散臭い、嫌味な野郎、ムカつく、童顔、女ったらし、雨の日無能」

少し悩んだ後、スラスラと悪口を並べ立てるエドにブロッシュの頬はやや引き攣っている。

「えーっと、そう言うんじゃなくて......そうだなぁー、例えばテロリストが人質と取っていた。テロリストは人質に拳銃を突き付け軍に仲間の解放と金を要求してきた。しかし軍はこれに応じず、強行突破で人質救出の作戦を決行した。だが、人質の元へ潜り込む予定の軍人が運悪くテロリストたちに見付かった。激昂したテロリストは人質と軍人、両方に銃を向ける。この場合、マスタング大佐はどうする?」
「どちらも助ける。片方を見捨てるような選択肢は無い」
「でも、どうしてもって時があるだろう?」
「だからまず、そんな状況にならない様、ありとあらゆる可能性を踏まえて作戦を立てる。部下の技量を見据えた上で、必ず成功すると確信できる最前の策を選ぶ。無謀に見える作戦も緻密に計算された上で提示される。曰く “君たちなら出来るだろう?” と。そんな全幅の信頼に中尉達は完璧に答える。失敗する事はまず無い」

そこで一旦言葉を切り、ブロッシュから視線を外したエド。
しばし瞑目したのち、静かに続けた。

「もし、大佐の作戦が冷酷だと感じる事が有ったなら、それ以外、方法が無かったからだろう」
「では.......ロス少尉もそれ以外方法は無かったんでしょうか?」

静かに訊ねられた言葉にエドはブロッシュを見た。


「俺は、中佐...ヒューズ准将を殺した犯人を知っている」

厳かに告げられた言葉にブロッシュが息を飲む。

「あの時、大佐はロス少尉と話しがしたかった。でも上層部は有無を言わせずロス少尉を犯人に仕立て上げるつもりだったから、刑務所での面会は許可されなかった。だから、ちょっとしたツテでロス少尉を脱走させて死んでも仕方無い状況下にした」
「で、ではマスタング大佐は!!」
「大佐はロス少尉の言葉を信じた。俺が言えるのはここまでだな」

これ以上の質問は受け付けないとばかりに、エドは視線をまどの外に戻した。

「....最後に、一つだけ。マスタング大佐も、ヒューズ准将殺害の真犯人をご存知なんですね?」
「あぁ。俺が伝えた。ブロッシュ軍曹、ここで良い。停めてくれ」
「エド君、どこに行くんだい?」

そう訊いたブロッシュにエドはニヤリと人の悪い笑みを浮かべこう言った。

「高いとこ♪」



「エ、エドく〜ん! ま、待ってよ〜!」
「根性ねーな、怖いんなら下で待ってりゃ良いだろう?」
「そ、そういう訳には行きませーん!」

ここはセントラルで二番目に高い時計塔の階段。
途中で足が竦んでいるブロッシュと軽快に上を目指すエド。
最上段にある鍵の掛かった扉を錬金術で開けると目の前にはセントラルの街が広がっていた。

「やっぱ、こっからだと良く見えるな。少し圧されてる? この人数差ならこんなもんか? 否、西は囮か?」
「な、何でそんな事が判るかな〜?」

呟くと戦況を把握する為、鋭い視線で周囲を見渡す。
やっと追いついたブロッシュが首を捻る。

「んー? だたのカン。うん。南側だ、きっと」

そう言って身を翻す。

「も、もう降りるの〜?」

やっと上ったのに....と肩を落とすブロッシュに苦笑する。

「疲れてるとこ悪いけど、行って欲しいとこがあるんだ」





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「おはようございます、マスタング中将」
「おはよう」

ピンと背筋を伸ばし、最敬礼で迎えるは大総統府の門番。
まさか自分がここに門番に顔を覚えられるほど通う事になるとは思いもしなかった。
否、ほぼ泊まり込んでいると言っていい。

ここには私が唯一愛した者が眠っている。
そう文字通り眠っているのだ。半年前、あの戦いからずっと....


目的の部屋を目指しながら長い廊下を歩く。
コツコツという自分の足音だけが響いている。
ふと窓に目をやれば赤く染まった葉が舞い落ちている。

「半年か」

それが長いのか短いのか自分には判断が付かない。
1年以内と愛する者の父親は言っていた。
目覚めると言うのならば私は待とう、いつまでも。
君が目の前に居るというのに何も出来ない事がこんなにも歯痒いとは思わなかったよ...

早く戻って来たまえ


.........エドワード








「誰だ!!」
「ひぃぃぃぃ! う、撃たないで下さい!!」

ジャキッと銃を向けたブレタが聞いたのは何とも情けない声。
どうしたものかと上官へ視線を向ければ、彼女は少し驚いているようだった。

「あなたは確か、アームストロング少佐の....」
「はい! 少佐の部下でブロッシュと申します。マ、マスタング大佐に伝言をお預かりして来ました」
「誰からのだ?」
「わ、渡せば判るらしいのですが。えーっと、ホークアイ中尉ですよね?あなたでも良いらしいのですが....」

そう言って差し出されたのは白い封筒。ホークアイは内心首を傾けつつ受取った。
クルリと裏返せば見慣れた刻印。思わず頬が緩んでしまう。

「あら?」
「中尉?」

訝しげにブレタが訊ねるが、それに答えること無くご機嫌な様子で奥へと促した。



「大佐、失礼致します」
「中尉か? どうした?」
「今し方、ブロッシュ軍曹が来られました」
「ブロッシュ...?」
「アームストロング少佐の部下の男性です」
「あぁ、で理由は?」
「はい。マスタング大佐へラブレターのお届けだそうです」
「.......中尉」
「冗談です。でも、とっても可愛らしい封筒ですよ?」

珍しい。くすくすと中尉が笑っている。
差し出された封筒に目をやれば、確かに微笑ましい。

「おや? モテる男は辛いもんだ」

軽口を叩きながら中の手紙に目を通す。我ながら現金なものだ。
手紙一つでこうも気分が浮上するとは...
顔を上げれば主立った部下が揃っていた。ブレタが焦れたように問いかける。

「で、大佐。それ誰からなんです?」
「ん? 金の子猫...かな?」
「子猫....エドですか?」
「で、エドワード君は何と?」

ホークアイが訊ねれば、ロイは流れるようにこう読み上げた。


「朝日は山に埋もれ、星は海に沈み、太陽は雲に覆われ、吹雪は収まらず、内に残るは強さなり」


「暗号ですか?」
「これは中々に頼もしいね」
「どういう意味です?」

判らないと顔を見合わせる部下にロイは笑いながら告げる。

「東はグラマン、西はトーンスタイン、南はリカール、北はネルソン、中央にアームストロング」
「地方の指令官ですね?」
「彼らが動き出したらしい」
「他には?」
「あとは私への激励かな?」
「へー、エドの奴も大佐に激励なんて書くんですねー」

意外だと言うブレタに笑みを返しながら “読むかね?” と手紙を渡してやった。





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