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*藤袴 -thoroughwort-*

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「暇だねー」
「そうですねー。今日は滝川さんたちもいらっしゃいませんしね。あ、そこ間違ってますよー」
「ええ!? うわぁ凡ミスだぁ」

むー、と唸りながら計算をやり直す谷山さんはとても微笑ましい。

「よし、出来たー!!どうでしょう、先生?」
「はい、正解です。お疲れ様でした」
「ありがとうございましたー」

彼女はペコリと頭を下げ、テキパキとテキストを片付ける。
じゃぁ、私お茶を入れて、と言いかけたところで勢い良く開かずの扉もとい所長室の扉が開く。

「麻衣、お茶」

と、いつもの如く一言だけ発し所長はソファーに座る。

「はーい。安原さんは何にします?」

“お任せします。” と返せば、“了解しましたー。” と谷山さんは給湯室へ消えて行った。

「おはようございます所長」
「...おはようございます」

挨拶すると僅かに本から顔を上げ挨拶を返す所長。目線は既に本へと戻っている。
今まで使っていた机の上を片付けてしまえば、あとは
ペラリ.....ペラリ.......
と、所長がページをめくる音だけが静かに響いていた。
“お待たせー” と紅茶を持って谷山さんが戻ってくると所長は珍しく本を閉じカップを受け取った。
今日はリンさんが出掛けて居ないので3人だけの静かな休憩だ。

「珍しいね、ナルが本持ってないの」

谷山さんはそう言うと所長に近付き顔を覗き込む。
そして自然に、ごく自然に所長に手を伸ばし髪を梳く。
えー、谷山さん?

「ちゃんと寝てないんでしょう。」と、手は目元を撫で頬へと滑る。 

.........僕の存在忘れてますね?

「ほら、あんまり顔色も良くない。仮眠でも良いからちょっと寝てきたら?」
「生憎、枕が変わると寝れないので。」
「だったら今すぐ帰って寝なさい!」
「まだ仕事中ですが?」
「そーゆー事はちゃんと睡眠を取ってから言ーなさい!」

ゴンッ!!
谷山さんは所長に頭突きをくらわせた後、先ほど所長が手放した本を“しばらく没収”と抱きしめた。

「麻衣、痛い。返せ」
「嫌ー」
「返せ」
「いーやーだー」
「返せ」
「ちゃんと睡眠、取ったらねー」

谷山さんが絶対に譲らない事が判ったのだろう。所長は憮然とした顔で睨み返している。
しばらく続いた膠着状態は、大きな溜め息で終了した。

「判った。仮眠を取れば返すな?」

その問いに頷く谷山さん。
所長は紅茶を飲み干すと、谷山さんを抱え立ち上がった。

「うわぁぁっ!!?な、ナル!?」

突然の事に狼狽する谷山さんに構わずスタスタと足を進め、二人は所長室へと消えて行った。
.....さしずめ、抱き枕って事でしょうか?
しかし所長。やっぱりお疲れなんですね。

そういった越後屋の手にはデジカメが有ったとか無かったとか...


end  



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<滝川と綾子の場合>

「まーいー♡ プリン買ってきたぞー♪ 食べるかー?」
「たべるー!! ぼーさん、だいすき♡」
「よーし、よし。麻衣は可愛いなぁー」

きゃー♪ と喜ぶのは、なぜか突然 5歳に戻ってしまった麻衣だ。
そんな麻衣を頬擦りしそうな勢いで抱き上げ、くるくると回っているのは自称、父親。
猫っ可愛がりとは正に、これだろう。
先ほど、パパと呼ばせようと奮闘し、結局 “ぼーさん” と呼ばれ撃沈していた男とは思えない。
今後の事はさて置き、とりあえず夕食を終えたあと、爆弾は投下された。

「麻衣ー、パパと一緒にお風呂は入ろうか?」
「「「「....................」」」」

大問題発言である。
現に滝川の周囲は、極地的吹雪に襲われている。
「ごぉぉぉぉぉぉぉぉっ」 と言う音さえ聞こえてきそうだ。
「あんた、麻衣の実年齢判った上で言ってんの? なら変態よ」と綾子から辛辣な言葉を頂戴する。
その前の吹雪に固まった滝川に聞こえているかは怪しいが...

「馬鹿な坊主は放っておいてママと入りましょ♪」

何だかんだ言って構いたい綾子に麻衣は連れて行かれた。
今回の調査先の旅館は小さいながら温泉が湧いていた。
麻衣の身体を洗い終わった綾子はご機嫌な様子で洗顔を泡立てている。
顔を洗い終わると、隣で遊んでいたはずの麻衣が慌てて風呂を出て行く。

「ぼーさん!!」
「おー、もう上がったの.....ま、まいぃぃ!?」

濡れたまま、バスタオルを巻いただけの姿でベースに駆け込む麻衣(5歳児)。
娘の呼ばれた父は笑顔で出迎えたが、娘の格好に目を剥き固まる。
他の者も固まっているし、某所長殿も瞳を瞬いている。しかし麻衣は気にせずさらに言う。

「ぼーさん、たいへん!!」
「ど、どうした?」
「あのね、アヤコのカオが、なくなっちゃった!」
「は?」

全員の頭に浮かんだのはその単語のみだった。

「だから、カオあらったらアヤコのカオがとれたのっ!!」

再び言われた言葉を理解した途端、滝川は耐えきれず爆笑してしまった。

「あ、洗ったら....くっ、あはははははははは!! ま、まい。だ、大丈夫だ」

あー腹痛てぇ...と笑う背後に迫るは......
滝川の運命や如何に!?





<リンの場合>

「麻衣ー、パパと一緒にお風呂は入ろうか?」
「いやー。まい、リンさんとはいるー♪」

!!!!?!
滝川の問題発言よりも、麻衣に断られた事よりも、何より麻衣の発言に全員の思考が固まった。

「ま、麻衣や?」
「なぁに? ぼーさん?」
「それ誰だか判ってるのか?」

リンさんでしょ? と小首を傾げる麻衣。その格好だけならば果てしなく可愛い......

「まい、リンさんとおフロはいってみたい♪ ダメ?」

だめ押しとばかりに訊ねられた滝川は、逃げる事にしたようだ。
曰く、「リンが良いって言ったらな」と.....

「リンさん、ダメ?」
「........................................」

林 興徐、人生最大の危機到来!?





<ナルの場合>

「麻衣ー、パパと一緒にお風呂は入ろうか?」
「いやー。まい、ナルとがいい♪」

そう言うと、麻衣はナルの膝によじ登る。少しバランスを崩すが、ちゃんとナルが支える。
!!!!?!
皆が呆然と固まっている中、麻衣は一人ご機嫌だ。
小さな手でナルの服(胸元)を、きゅっと攫み視線を合わせて問う。

「ナルー! いっしょにおフロはいろ♪」
「........................................」

にぱっ っと音がしそうな位の満面の笑み。
あのナルが、咄嗟に反応出来ないでいるらしく、呆然と固まっている。

「.........僕は忙しい」
「じゃぁ、おわるのまってる」
「.....................」

必死に絞り出した返事も、麻衣に掛かればあっさりと返される。
長い。麻衣以外にとっては非常に長い時間が経った頃。
ナルは今まで逸らさなかった視線を麻衣から外した。
小さく溜め息を吐き、膝の上にちょこんと鎮座する麻衣を抱き上げる。
どうやら諦めたらしい。
「ナルとおフロー♪」と、ただ一人、ナルの腕の中で麻衣がはご満悦だったとか.....
ちなみに、途中で止めようとした滝川は、越後屋によって阻止された。



<おまけ>

You get a mail 〜♪

「あら? こんな時間にメールだわ? 何々、present condition report 近況報告書?
 安原君から珍しい画像付きね。ふむふむ、ここをクリックするのね。
 ....................まーっ!!!!」

日本から遠く離れたイギリスで朝から奇声を発する女性が一人。
送られてきた画像の内容は.....?

「大変!!! 報告に行かなくっちゃー!!! 待ってて、ルエラーっ!」



end  




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今日も、今日とて俺は愛する娘(自称)に逢うため渋谷に足を運んだ。

そして今、俺は自分の判断に激しく後悔している。
SPRの事務所の扉の前、ふと今日は少年が休みだった事を思い出した俺。
つい出来心で、普段のアイツらがどんな風に過ごしているのか見てみたいなぁ。
なーんて考えてしまった。
俺としてはだ、いつもと何も変わらない状況が繰り広げられていると思ったんだ!
それなのに、それなのに!!
アレを見た時の俺の気持ちがお前らに判るかっ!?
可愛い可愛い可愛いうちの娘がぁぁっ!!!

コホン。
ともかくだ、俺は普段のナルと麻衣を見る為、そぉーっと扉を開けたんだ。


「ナルー、お茶飲む?」

所長室の扉をノックし顔を覗かせた麻衣はパソコンと睨めっこなナルに声を掛ける。
返らないかと思っていた返事は以外にも直ぐ聞こえた。

「ダージリン」
「はぁい。こっちで飲むでしょ?」

と言えば、カタンと立ち上がる音が聞こえた。その事に自然、笑みが浮かぶ。
鼻歌混じりに紅茶を淹れ蒸らしている間に冷蔵庫から小さな箱を取り出す。
今人気な野菜と果物だけを使った甘くないゼリー。
講義が終わった後2時間も並んでようやく手に入れた代物だ。

「お待たせー♪」

ゼリーと紅茶を持ってナルの隣に座れば、早速紅茶へと伸ばされる手。
一口飲んだのを確認しゼリーをナルの前に置く。

「...これは?」
「ゼリー」
「僕はいい」
「今日のお昼、何食べた?」

いつもの様に要らないと言うナルに、麻衣はニコニコて笑みを絶やさずたずねる。

「......」
「ちゃんと食べるってゆったよね? 何食べた?」

ニコニコニコニコニコ
麻衣の絶やされる事のない微笑みに、うっと詰まったナルは観念し正直に一言呟いた。

「忘れてた」

予想通りのその言葉に麻衣は大きな溜め息を付く。

「はぁ、なーんで忘れるかなぁ.....
 これね、今人気の野菜と果物のゼリーなの。これ位なら食べれるでしょ?」

“はい” とスプーンを渡せば渋々ながら受け取るナル。
ゆっくりと口にゼリーを運ぶナルに満足し、麻衣もゼリーに手を伸ばす。

「んー美味しぃ♪ 並んだ甲斐有ったなぁ」
「...少し遅れたのはその所為か?」
「うっ...だ、だってあんな並んでと思わなかったんだもん」
「買わないと言う選択肢は無いのか?」
「うん、無いね。どっかの誰かさんがちゃんとご飯忘れず食べてくれるなら有りかもしんないけど」

呆れた表情のナルに麻衣は胸を張って返す。

「.....善処する」

そう言って再びゼリーを口に運ぶナルに麻衣は満足げに微笑む

「ふふ。美味しい?」
「マズくは無い。」
「こっちも食べてみる? はい」

そう言って差し出されたのはスプーンに乗った麻衣のゼリー。

「...こっちも食べたいなら素直にそう言えば良いだろう」

ナルはそう言うと差し出されたゼリーを口に含んだ。

「そんなんじゃないやい!」
「じゃぁ要らないのか?」

むぅーっと拗ねる麻衣に薄く笑いながら自分のゼリーを掬い差し出す。
その珍しい笑みに麻衣も満面の笑みを返し口を開ける。

「うん。こっちも美味しい♪」


そんな一部始終を見てしまい石の様に固まった自称、父親が一人。


end  




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チュンチュンチュチュ
小鳥のさえずる音の響く爽やかな朝。
都内の某高級マンションの一室ではそんな爽やかさとは一切関係のないやりがとりされていた。

「いい加減にしないか」
「や!」
「 “や” じゃないだろう」
「いーや!」
「麻衣」
「やなの!!」

はぁぁ。と呆れたように溜め息を吐くのはその身に黒をまとった青年。
片やその青年にしがみ付いたままイヤイヤを繰り返す少女。
そんな2人が居るのは青年の寝室のベッドの上。
少女が実年齢だった場合、色々な所から苦言や奇声もとい規制が入るかもしれないが
今の彼女は5歳。そーゆー朝じゃない事は確かだ。
自分にしがみ付いたまま頑なに “いや” を繰り返す麻衣にナルは内心
どうすれば良いのか悩んでいた。
取りあえず何がいやなのか聞き出して説得し納得させない限りこのままだろう事は判る。
麻衣は小さくなっても麻衣のままらしい。

「麻衣」

そう呼び掛けながら朝の光の中、明るさを増した髪を撫で麻衣が落着くのを待つ。

「麻衣?」

しがみ付く力が弱まったのを見計らって背中を撫で再び呼べば、ようやく “いや” 以外の言葉が出て来た。

「あのね、きょうね、ナルおウチでちゃだめなの」
「....なぜ?」
「ぜーったい、だしちゃダメだからね! っていわれたの」
「誰に?」
「....だれだろう?」
「.....いつ逢った?」
「ねてるとき」
「......幼児化しても能力は残ったままなのか? それとも唯の夢なのか?」

実に興味深げな色を瞳に浮かべたナルは本格的に聞き取る気になったらしい。
しかしその前に麻衣に食事をさせなければと思い至った。
そうしないと自称保護者たちが煩いのだ。麻衣を抱き上げリビングへ連れて行く。
シリアルと紅茶を麻衣と自分の前に置き、簡単な食事を取った。
麻衣がまだ食べているのを確認し立ち上がると心配そうに自分を見つめる瞳が有った。

「どこいくの?」
「リンに今日は休むと連絡してくる」

そう言えば麻衣の瞳が驚いたように瞬きを繰り返す。自分でもどうかと思うが仕方が無い。

「食べ終わったらさっきの続き、話してもらおうか」
「つづき?」
「夢の人」
「うん! わかった♪」


一方、その日の事務所では...

「まーいー、お父さんだぞーぉ、お?」

いつもの如く扉を開けた滝川は可愛い愛娘の笑顔が無かった事に首を傾ける。

「リーン? 麻衣は所長室か?」

居場所を把握しているだろう年長者に訊ねれば何とも言えない表情が返ってきた。
代わりに実に楽しそうに答えを返してくれたのは少年だ。

「今日はお休みされるそうですよ♪」
「へー.....って一人で置いてきたのか!?」
「否、所長もお休みです」
「...は?」
「今朝、休むと電話が有ったんです」
「ま、麻衣が風邪ひいたとか?」
「2人共至って健康らしいです」
「じゃぁ何故?」

困ったように言い淀むリンに、笑いを浮かべる少年....

「谷山さんが抱き着いて放してくれないらしいですよ♪」
「な!!?」


end  





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カランコロン
店の扉を開けば年代もののベルの音が鳴り響く。
リリーの紅茶専門店。
貴族は疎か王室からも買い付けに来ると囁かれる、知る人ぞ知る、紅茶の名店である。

「いらっしゃいませ」

優しい声で出迎えてくれたのは初老の男の人。
鼻の下にはフサフサとした白い髭を蓄え、英国紳士としてはやや小柄な体格だが、ステッキと帽子が良く似合いそうだ。
店のカウンターに鎮座し微笑む様は “おじいちゃん” を思わせ癒し効果絶大だ。

「こんにちわ♪」

そう挨拶すれば、“はい、こんにちわ” と笑い返してくれた。

「初めましてですね、レディ? わたしはこの店のオーナーのウェスターです。どうぞよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします、ウェスターさん。私はマイです」

で、こっちがと隣りで黙ったままのナルを促せば小さく黙礼し名乗った。

「オリヴァー・ディビスです」
「それだけー?」
「それ以外に何を言えと?」

そんなナルとマイのやり取りを見てウェスターは笑みを深めた。

「さて、本日は如何致しましょう?」
「茶葉を。取りあえず一通り見せてもらっても良いですか?」
「もちろんです、どうぞごゆっくり。ご質問が有ればお呼び下さい」
「はぁい♪」

ざっと店内に目をやれば並べられる紅茶の種類の多い事。
ダージリン、アールグレイ、アッサムなどはもちろん、フレバード系も結構ある。

「どれにしようかな〜...ナルはどれが良い?」
「何でも」
「気に入った香りとか無い? あ、これどう?」

そう言って渡したのはオレンジの香りのする紅茶だ。

「別に普通で良い」

.....張り合いの無いナルは放っておいて
自分用に桃の葉入りの紅茶とマリーゴールドの花弁の入ったものをナル用に、ダージリンのファーストフラッシュとサクランボの実が入ったものを選んだ。


「お気に召したものは有りましたかな? こちら新作なんですが、お味見いかがです?」
「わっ♪ 良い香り」
「少しだけバニラが入っておりますので甘い香りがします。こちらはダージリンの茶葉を練り込んだクッキーです。お茶請けにどうぞ」
「ありがとうございます」

一口含めば、ほのかにバニラの風味がして良い感じだ。もっと濃く淹れてミルクティーにしても美味しいかもしれない。
クッキーにも手を伸ばせば、やはりこちらも非常に美味しい。

「んー♪ 美味しい、幸せ♪」
「それはありがとうございます」
「このクッキーも売ってるんですか?」
「いいえ、これは私の妻が趣味で作っているのです。レシピ、お渡ししましょうか?」
「え! 良いんですか!?」

わーい! と喜ぶ麻衣の隣りではナルが静かに紅茶を飲んでいた。

「あれ? ナル、その紅茶気に入った? 良し、それも買って帰ろう♪」



end  





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「麻衣......ですわよね?」

渋谷SPRの事務所の扉を開けた状態で呆然と固まっているのは真砂子。

「いらっしゃいませー。ごいらいですか?」

と首を傾けるのは麻衣。
但し、推定5歳.....
な、何なんですの! この可愛い物体わっ!!!
真砂子は産まれて初めてと言う位、素晴らしく動揺した。
そんな彼女に話し掛けたのは実に楽しそうな笑みを浮かべた安原。
真砂子が事務所を訪れた瞬間から見ていたにも関わらず、放置していた性格の持ち主である。

「おや? 原さんお久し振りです。お元気ですか?」
「や...安原さん! なんですのコレは!?」

のほほんとした安原の言葉に思わず叫ぶ真砂子。

「何って、谷山さんじゃないですか?」

何でも無いことの様に返された言葉に真砂子は全身から力が抜けた。


「一体、何が有ったんですの?」

安原が淹れてくれた緑茶を飲み一息付いた所で、真砂子はソファーに座ってアイスを食べている麻衣に視線をやりながら訊ねる。

「僕も何がどうなって谷山さんがこの姿になったのか全く判らないのですが、前の調査が終わった後で突然....」
「それからずっと?」
「はい」
「...ナルは麻衣のこの状態に対して何か言ってまして?」
「色々調べてはいらっしゃるのですが....」
「判らないんですのね」

真砂子は小さく息を吐き、再び麻衣に瞳を向けた。

「麻衣の記憶はあるのですか?」
「5歳までの記憶しかありません......何か視えますか?」
「いいえ......麻衣の体調などに変化は?」
「僕は何とも無いように見えますが、どうなんですか所長?」

安原の言葉に振り返れば、所長室の扉の前にナルが立っていた。
それに気付いた麻衣は、ピョンっとソファーを飛び降り、パタパタと駆けてゆく。

「ナル、だっこ♪」

そう言って手を伸ばした麻衣を抱き上げ、ナルも真砂子たちの居るソファーへ向かう。

「僕にも特に変化は無い様に見えます」

先ほどの抱き上げ方や、今も麻衣を膝に乗せたままのナルに、真砂子は頭の中がぶっ飛びそうになった。
な、な、ナルが子供をあやして.....い、否、麻衣ですけれど、でも......
そんな真砂子の心情が手に取る様に判るのか、安原はとても楽しそうだ。
ナルの膝の上で麻衣は “うんしょっ” と言いながら身体の向きを変える。
小さな手で “きゅっ” と抱き着き頭をナルの胸に預ける。

「麻衣、眠いのか?」

そう訊ねるナルに、更に強く頬を擦り寄せる麻衣。
本格的にお寝むの様だ。
ナルはそんな麻衣の背中を片手でポンポンと叩きながら、傍らの本を引寄せる。

「所長、お茶淹れましょうか?」
「お願いします」

全く動揺する事なく会話をする2人に真砂子は、コレが日常である事に思い至った。

「......あ、あたくし。今日は、し、失礼致しますわ」

呆然としつつも、ちゃんと挨拶して帰る辺りはさすが真砂子。
あー、これはかなりのダメージな様ですねぇ....
そんな事を考えながら、給湯室に向かう安原。


ソファーにはスヤスヤと寝息を立てる麻衣と本を読みふける青年。
これが新たなSPRの日常となりつつ有った。



end  




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ここは渋谷、道玄坂にあるSPRの事務所。
いつもの様に足を踏み入れた綾子と滝川は目の前の光景に固まった。
応接ソファーの座るは事務所に咲く一輪の花、谷山 麻衣。
その向かいにリンが座っている事に何ら問題ない。
しかし、麻衣の隣りに、ちょこんと存在する姿がいつもの光景とかけ離れていた。


「ち...ちっこい、ナルが居る」

うわ言の様に呟いたのは滝川。
有り得ないだろうけど、有り得そうな事に思い至り訊ねてしまったのは綾子。

「麻衣.....あんた、いつ産んだの?」
「う、産んでないっ!!!」
「お、お前!! な、何て事言うんだ!!」

真っ赤な顔で否定するのは麻衣。自称パパもその発言に憤慨する。

「マイ、うるさい」
「な、何で私だけ...」

子供特有の高めの声だが、漆黒の髪と瞳、そしてその容姿は紛れも無くオリヴァー・ディビスその人である。
但し、どっからどう見ても5歳児な事を除いては.....

「マイ、そのマヌケそうなのは、知りあいか?」
「「......」」

可愛い声の癖に言葉の内容は辛辣だ。綾子と滝川の頬も引き攣っている。

「ぼーさんと綾子だよ、昨日言ったでしょ」
「.....プリーストとシャーマンには見えないな。マイ、おちゃ、おかわり」
「はいはい。ぼーさんはアイスコーヒーで良いよね? 綾子は?」
「こ、紅茶で良いわ...」
「リンさんはお代わりどうですか?」
「頂きます」





「しかし、何でまたこんな事に?」
「それがねぇ、判んないんだー」
「判んないって、あんたね...」
「谷山さんが発見した時には既にこの姿だったそうで、本人も5歳までの記憶しか無いらしく何がどうなったのか調べようがなくて....とりあえず様子を見るしか無いかと」
「5歳までの記憶が無いって事は、俺たちはもちろん麻衣やリンの事も...」
「えぇ、今のナルにとっては知らない人ですね」
「昨日一通りは説明したんだけどね」
「ナルちゃんは、それを信じるのか?」
「ボクはゲンジツを見きわめることくらいできる。アタマのできがチガウからな...それに、マイはウソをつくニンゲンには見えないからな」

何事もない様に言われたその言葉は、実にナルらしい。
しかし普段なら麻衣がカチーンときて喰って掛かるところだが、今日は静かだ。
気になって麻衣を見ると、何やら口元に手を置き肩が震えている。
い、怒りで震える程ムカついたのか!?
滝川がそんな見当外れの予想を立てていた時、麻衣が動いた。

「ぃやー、もう!! なんっつーぅ可愛さ!!! 普段なら子憎たらしいだけなのに、ちっちゃいだけでこんなに可愛くなるとは!!」
「ま、マイ、放せ!!」
「やーだ♪」

バタバタと暴れるナルを、ぎゅーっと抱き締めたまま “可愛い” を連発する麻衣。
ナルも必死に抵抗しているが悲しいかな今は5歳児、麻衣の腕を振りほどく事はできない。

「ちっこいナル......意外に可愛いわね」

そう呟いた綾子は麻衣の側に移動する。

「ねぇ、麻衣。私にも抱っこさせてよ」
「ズルいぞ綾子! 麻衣、俺にも......」

滝川の声が不自然に途切れた。


「ボクにさわるな」


ピッキーンと凍った空気。
小さくなっても鋭い瞳とブリザードは変わらない。



end 




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「そう言えば所長、森さんから小包が届いてましたよ?」

帰り際、そう言って安原さんから渡されたのは段ボール箱。
僕宛にはなっているが備考欄にあるのは

<マイちゃんへ♡> の文字。

何だか嫌な予感がする。
僕は決してセンシティヴではない。
ないが、今までの経験上そう考えてしまうのは仕方の無い事だろう。
とりあえず持ち帰り、リビングで箱と睨み合い早5分。

「ナルー、それなぁに?」

手を洗いに行っていた麻衣が戻って来て僕の背中に抱き着きながら訊ねる。

「.....」

危ないモノでは無いだろうが、麻衣に開けさせて良いものだろうか...?
微妙だ。

「はぁ」

仕方無い、僕が開けるか....
ベリっとテープを剥がし中を見れば、どうやら麻衣の服のようだ。
珍しい。まどかにしては、ごく普通だ。

「ネコー!」

そう叫んだ麻衣は段ボールの中を覗き込む。
中に入っていた猫の絵柄がプリントされたシャツが気に入ったらしい。

「気に入ったのか?」
「カワイイの〜♪」
「これ全部、麻衣にくれるそうだ。好きなのを着れば良い」
「わーい。ありがとう、ナル♡」

箱を覗き込んで物色しだした麻衣を残し僕は書斎に向かった。




「ナ〜ル♪ 見てみてー」

突然ガチャリと開いたドア、パタパタと駆けて来る麻衣の足音。
僕の脚にしがみつき “見てー” と言うその姿に僕は固まった。


......何だこれは?


柔らかい髪の上にあるのは紛れも無く猫の耳。
短めのスカートの裾から揺れるは長いシッポ。
おまけに、足には猫の足の形をしたスリッパ。手にも同じ物がはめられている。

「にゃぁ〜?」

小首を傾げ、招き猫のポーズで猫の鳴きまねをする麻衣。
まどか......一体何を考えているんだ。

「.........それは、何だ」
「うにゃ? ネコさんなの〜 ナル? .....あ、そーか。えーっと」

僕がイギリスの上司に対し呆れていると、何やら麻衣は思い至ったらしい。


「おかえりなさいませ、ごしゅじんさまー♪」


ピシィッッ
................一体何を吹き込んだんだ!!

僕がイギリスに抗議の電話をした事は言うまでもない。
しかし次の日の朝、再び麻衣の姿に僕は固まる事になる。


「こんどは、ウサギさんなのー♪」

真っ白なワンピーズタイプの服には、ふんわり丸いシッポ。
スカートの裾や袖口にはフワフワのファー。
おなじくファーの付いたフード.........但し、長いウサギの耳付き。



end  




拍手[4回]




どうしてボクはここにいるんだろう?
あたたかいベッド
キレイにそうじされセイリされたへや
ボクを “ナル” とよんで、はなしかけ、わらうヒトたち
そしてためらいもなく、ボクにふれるヒト
どれもボクのキオクにはない
ジーン
なんかい呼びかけてもヘンジはなかった
まえに、いちどだけジーンのことをきいてみたことがある
そうしたらマイが泣きそうなカオをするから、それいじょうきけなかった
タブンそういうことなんだとボクはリカイした




「ナル?」

月明かりだけが照らす薄暗い闇の中、ベッドに腰掛け窓の外を眺める子供が居た。
突然5歳まで小さくなってしまったナル。
その横顔がとても5歳には見えなくて、急に襲われた不安に何も考えず名前を呼んだ。

「マイ?」

瞬きをして振り返ったナルは、麻衣を見て首を傾げた。
背後から漏れる人工の明かりが麻衣の表情を隠してはいるが、笑ってはいない。

「どうかしたのか?」
「なんでもないよ。紅茶淹れたんだけど飲む?」

ナルの言葉に、ようやく麻衣は反応し首を横に振った。
ベッドサイドのテーブルにトレイを置き、床に座り込む麻衣。
その表情にいつもの笑顔は無い。
カップを受取りながらナルはそんな麻衣を観察していた。

「....月を、見てたの?」
「べつに」
「そう」

ぽつり小さく零された麻衣の疑問。
返った答えに短く頷き、今度は麻衣が窓の外に浮かぶ月を見る。

「...........帰りたい?」

麻衣は “どこに” とは言わなかったしナルも訊かなかった。
ただその顔に浮かぶのは悲しみ....否、寂しさだろうか?


「ボクはここにいる」


ナルの言葉に麻衣が “はっ” とした様に振り返る。
かち合ったのは強い瞳。

「ボクはここにいる」

今度は、しっかりと麻衣と視線を合わせて言い切るナル。
麻衣の視界が一気に白くぼやける。

「うぅ...っ」

慌てて拭うが一度溢れそうになった涙は急には治まってはくれない。
カップを置きベッドから立ち上がったナルは、床に座り込む麻衣をその小さな胸に抱き締める。

「ぼくはだいじょうぶだ。泣くな、マイ」

ポンポンと宥めるように叩かれる頭。

「...っ、ご、め...ん」
「ボクは、たぶん知ってる.......なんで、いないのか」

静かに紡がれたナルの言葉に麻衣の身体が強張る。
それは、紛れもない肯定の証。


「....な....る」

呆然と顔を上げる麻衣にさらにナルは言葉を重ねる。

「サミシイのか? ときかれてもワカラナイとしか言えない。いつもトナリにいることがアタリマエだったから...」
「な..んで、判っ....たの?」
「なんど呼びかけてもヘンジがない」

その言葉に、果てしない後悔が麻衣の胸に渦巻く。
言えなくて...言えなくて...どうしても言えなくて、誤摩化した。
それはエゴだ。ナルが悲しむなんて理由は麻衣が勝手に作り上げたエゴだ。
周りに訊けなかったナルは自ら確かめてしまった。
否、確かめさせてしまった。

ゴメンナサイ

新たな涙が麻衣の瞳から流れ出す。
ゴメンナサイ
ゴメンナサイ
ゴメンナサイ
もうその言葉しか麻衣の頭には浮かんで来ない。
そんな麻衣から身体を離したナルは、そっと肩に手を置く。

「マイ」

ナルが呼びかけると僅かに麻衣の顔が上向く。

「マイがそばにいてくれるんだろう?」

そう言ったナルは麻衣のオデコに “ちゅ” っと軽いキスを贈る。

「泣くな、マイ。ボクはここにいる」



end  





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あっめあめ ふれふっれ かっあさんがー じゃのめで おっむかい うれっしいなー
ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ らんっらんっらん


能天気な歌がどこからともなく聞こえる......
煩い。
“はぁぁ” 僕は大きく息を吐いて書斎から出る。
当たりを付けたリビングに人影は無い。
.....どこだ?
首を傾げた所で、再び歌が聞こえてきた。
バルコニーか?
何が楽しいのか、麻衣はバルコニーに椅子を持ち込み、その上でご機嫌に歌を歌っている。


あっらあら あのこは ずっぶぬれだー やっなぎの ねかたで ないているー


「煩い」
「あ、ナル! おシゴト、おわった?」

ひと言声を掛ければピタリと歌は止み、満面の笑顔の麻衣が振り返った。

「何をしている?」
「あめのオトきいてたのー」
「......楽しいのか?」
「うん♪」

...........僕には理解不能だ。


「紅茶、飲むか?」
「のむー!」

ピョンっと椅子から飛び降りた麻衣は僕の手を引きキッチンへと向かう。
その間もさっきの歌を口ずさみながら...


かっあさん ぼくのを かっしましょかー きみきっみ このかさ さっしたまえー
ぴっちぴっち ちゃっぷちゃっぷ らんっらんっらん


「麻衣」
「なぁーに?」
「その歌」
「うた?」
「歌」
「あめふりだってー。ぼーさんがおしえてくれたのー。マイもカサもっておむかえしたーい」
「.....誰を?」
「ナルっ♪」
「......その為には僕が一人で出かける必要があるな?」
「むぅー、それはイヤー」

椅子を引張り出し背凭れに顎を乗せ、まだ麻衣は唸っている。

「ひとりはイヤー、でもおむかえはしたーい」

ケトルを火に掛け、茶葉を用意したところで、ルエラから小包みが来ていたのを思い出した。

「麻衣」
「んにゃ?」

僕の呼び掛けに振り返った麻衣の口にクッキーを放り込む。
むぐむぐ、と何とも言い難い声を発しながら食べる麻衣。
全てを飲み込んだ所で、満面の笑みが浮かぶ。

「おいし〜♪」
「ルエラからだ」
「ルエラすきーvV」

そう言うと、ニコニコ顔で僕の腰に巻き付く。

「こら、危ないだろう」
「はーい。ルエラのおむかえでもイイな♪」
「は?」

何をまた突然言い出すのかと、僕は呆れる。

「ルエラがニホンにきたとき、あめだったらおむかえ行ってもイイ?」
「......覚えておこう」




end  






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「ナルー、なんかおハナシしてー」

麻衣のそんな言葉からこれは始まった。

「麻衣、もう寝る時間だぞ」
「ぅーん、もうちょっとー」
「ダメだ」
「ナルもいっしょ〜?」
「...僕はまだ仕事がある」
「.......」

無言の圧力というのは厄介だ。何だったか、ニホンのコトワザってやつにこんな言い回しがあったな。
目は口ほどにモノを言う.................はぁ。

「寝るまでだ」
「わーいv」

ようやく寝室に向かった麻衣はベッドに寝転んだ。
シーツを掛けてやり、僕も隣りに寝転ぶ。それで麻衣は安心するらしい。

「あしたは、ハレるかなぁ?」
「さぁ?」
「ぼーさんたち、くる?」
「さぁ?」
「リンさんのレイメンたべたいなー♪」
「それはリンに言え」
「で、アヤコのゼリーたべるの」
「あぁ」
「ナルのコウチャものみたい」
「気が向いたらな」
「ジョンに、だっこしてもらってー、しゅうくんと、ぼーさんのヒメゴトをアバくかいをひらいてー、マサコのひざにのるの〜」
「.............」

麻衣に対し適当に相づちを打っていたナルだが、聞き慣れない単語に脳が拒絶を起こした。

「.....しゅ、う?」
「しゅうクンだよー。メガネでニコニコなのー」
「..........もしかして、安原さんの事か?」

麻衣、僕はたっぷり10秒は脳が停止した気がするぞ。

「あのねー、ホントはオシャムくんなんだけど、よびにくいって言ったら、じゃぁ “しゅう” でどうです? って」

ニコニコニコニコ

「.............」

まぁ、本人が良いと言ってのなだから、僕は聞かなかった事にしよう。

「そうか」
「うん。でもねー、マイはマサコのおひざより、ご本よんでるナルのおひざのほうがスキなのー」
「僕は忙しい」
「しってるー。だからマサコのおひざにのるのー」
「.......」

これは賢明な判断だと誉めるべきなんだろうか?

「かわりに、コウチャのんでるナルに、だっこしてもらうのー」

にぱっ
何がそんなに楽しいんだ? そう思いたくなるくらいの笑みを僕に向ける麻衣。

「それは、喜ぶ事か?」
「うん。だってナルはマイがだきついても、おこんないもん」
「.......?」
「だってナル、さわられるのキライでしょ?」

何て事ないように言われた言葉に僕は驚いた。

<子供....特に女の子って結構敏感なのよ>

以前、言われた言葉が頭に響く。

「松崎さんの言葉が証明されたな」

溜め息と共に視線を戻せば、麻衣は目を擦っている。
ポンポンと背中を叩いてやれば、やがて小さな寝息が聞こえた。


end




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