忍者ブログ

*藤袴 -thoroughwort-*

☆次回イベント予定☆                                                ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★                  

2024/05    04« 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30  31  »06
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。




聞き間違いであって欲しいと訴える滝川に、にっこり微笑んで安原はもう一度告げる。
「ジェイク・ロドニー、呪術師。つまり、人を呪う事がお仕事みたいですよ。ちなみに明後日の夜なら会って下さるとの事でしたのでアポ取っておきました。で、ロドニーさんからの条件として東洋の術式について語り合える人を一緒に...との事なので、明後日どなたか同行お願いしますね?」
まるで明日の天気を告げるが如く何でも無い事のように言われた内容に全員の動きが止まった。
「わ、わ、わたしは無理だわ。精霊と話せるだけだもの! 術の深い知識なんて...」
「お、お前こんな時だけ! 俺も無理だ! 元、修行僧なだけだから...」
綾子、滝川の順に無理だと首を横に振り、リンへ視線を向けるが、彼も目線を合わせようとしない。
この長い沈黙を終わらせたのは、ナルの無慈悲な声だった。
「ぼーさん、同行を」
「どぇぇぇぇぇぇーっ!? お...お、れ?」
滝川の悲壮な声にも一切表情を動かさずナルは続ける。
「相手は、“語り合える相手” と指定している。松崎さんやリンでは無理だ」
「ゔぅぅぅー」

結局、 “ぼーさん、頑張って♪” と言う麻衣の一言で、同行者は滝川に決定した。
報告が終わった時、ソファーの端にはガックリ肩を落としたタキガワが、そして部屋の片隅には湿っぽいクラウスが蹲っていた。
マルクがそんな、出来れば忘れたい気がする情景を思い出している内に車は伯爵邸へと到着した。





「ようこそお越し下さいました、ディビス博士」
そう、にこやかに迎えてくれたのはレイド伯爵本人だった。
案内された部屋(応接室だろうか?)には穏やかそうなご婦人と壮年の男性が一人。
「ディーベン、皆さんに飲み物を」
「はい。旦那様」
男性の方(おそらく執事だろう)にそう命じると伯爵はご婦人を紹介してくれた。
「妻のマリージュです」
「この度は我が家の調査にお越し頂きありがとうございます」
この偉そうな伯爵の妻とは思えない程の丁寧な物腰で会釈してくれた夫人にナルは小さく黙礼し、他の者も慌てて会釈を返した。
「伯爵、お願いしていた物はご用意頂けましたか?」
「ベースと呼ばれるメインの部屋とお泊まりになる部屋、それと電源の確保でしたかな? 全て用意させましたよ。」
「見取り図はありましたか?」
「あぁ、ディーベン?」
「はい。ベースにと御用意させて頂きましたお部屋の方へ揃えております」
伯爵の声に迷いなく返事を返したあと、一礼しディーベンさんは全員に紅茶を配った。
「調査に関してですが、特に現象の多く現れる部屋へのカメラやマイクの設置、個人使用中の部屋も含め全室の入室は許可頂けますか?」
「ええ。使用人には協力するよう言い付けました。迎賓棟は誰もいませんし娘や息子も既に家を出ているので問題は無いでしょう。一つだけ条件を付けるなら普段わたしと妻が使っている部屋が3部屋ありましてな、そこへ入室する時だけはディーベンを伴う事をお願いしたい」
「判りました。あとで、その部屋の場所を教えて下さい」
「ところで博士、今回お連れの方々はご紹介頂けないのですかな?」
含みを持たせたような伯爵の言葉に俺たちの背筋には悪寒が走った。
否、だってほらナルの纏う空気が...
「失礼しました。伯爵から見て右側より、メカニック担当のルイス、同じくマルク、研究員のセシア、以上がSPRの職員。Ms.マツザキ は巫女...ジャパニーズシャーマン、Ms.ハラ はミューディアム、Mr.タキガワはプリスト(=僧侶)、Mr.ブラウンはエクソシスト、協力者です。あとはうちの調査員のリンとタニヤマです。別にヤスハラと言う調査員が後ほど来る予定です」
とりあえずとナルが紹介したのは名前と役割をひっじょーぅに簡潔的に、だった。
俺たちは呼ばれる名前に合わせて会釈するくらいしか出来なかった。





 

拍手[9回]

PR



ナルの非常に素っ気ない紹介に思わず頬を引き攣らせた麻衣。(本気でこの人嫌いなんだなぁ、ナル...)
今も伯爵と言葉を交わしているナルを見ながらそんな事を思っていた時ふと気になって視線を窓に向けると、窓の外から女の子が覗いていた。年の頃は7歳くらいだろうか? ふわりとした長い金の髪をツインテールに結び淡いグリーンのワンピースを着ている。(うわぁぁ。可っ愛いー子♪)
心の中でそう思った瞬間その子と目が合った。ニコっと笑いかけてみれば、その子も笑い返してくれた。
しばらくニコニコ微笑み合っていたが、何かに気付いた女の子はバイバイと言う様に手を振ると、居なくなった。(誰かに呼ばれたのかな? 伯爵の子供はもう成人してるから、使用人の子供かな?可愛いかったなぁ。後でまた会えたらお話してみよう♪)
麻衣が意識を別の所へ飛ばしている内に、伯爵と伯爵夫人への調査依頼後に起こった現象の確認が終わり、残すは使用人たちへの聞き込みや邸の確認だけとなった。
「では、そろそろ調査に...」
「ええ、よろしくお願いします。実は博士、我々は今から邸を放れねばならんのです。出席しなければならない会合がロンドンで急に開かれることになりまして...明後日の朝には戻る予定なのですが...いや、申し訳ない。皆様のお世話はこのディーベンに申し付けておきますので何がご用が有ればこの者に仰って下さい。」
そう言うと伯爵は夫人を伴い邸を後にした。
正直、ナルの機嫌が悪くなる前に出て行ってくれて良かったと一同が胸を撫で下ろした。


「で、何からやるよ?」
場所をベースに移し早速ナルの指示を仰ぐ。
ベースのモニターの前を陣取ったナルは邸の見取り図を見ながら答える。
「まず、最近現象が起こったホールと玄関にカメラの設置を、ルイスとジョン」
「了解」
「はいデス」
「リンはベースの設置、セシアと松崎さんは使用人への聞き込みを、残りは手分けして邸内の部屋を確認し見取り図にどんな部屋かを記入。原さんは気になった所の霊視を」
「「「了解」」」
「判りましたわ」
「全員インカムを装着の上、2人以上での行動を、特に麻衣。迷子にならない様に」
「なるかい!!」
「そうであって欲しいですね、谷山さん」
「大丈夫ですわナル。あたくしと滝川さんが見張っておきますわ」
「真砂子ぉ〜」
ナルの言葉に憤慨する麻衣だが前科があるだけに誰も麻衣の味方にはならない。
「ほれ、行くぞ」
「ゔぅぅー...はぁい」
笑いながら促してやれば麻衣は渋々ながら頷いた。



「迎賓棟は特に何も無いんだよね?」
「今の所はな」
「単に誰も見た方がいらっしゃらないだけかもしれませんわ」
「真砂子は何か感じた?」
「この家を大きな力が包んでいて良く見えませんの。でもかなりの数の気配は感じますわ。中でもやはり使用人棟に多く集まっている気がします」
そんな話をしていると、迎賓棟ラストの部屋を調べてたマルクが出て来た。
「Mr.タキガワ、こちらの部屋は空室のようです」
「どれどれ? ホントに何にもねーな。えー空室、使用形跡なし、と」
マルクの言葉に、手元の図面に詳細を記入する。
「次は使用人棟だよね?」
「そうだな、早く終わらしてベースに戻らんとナルの機嫌が降下するぞー」
「うっ......行こっか」
「ですわね」





 

拍手[11回]




「うわぁぁ」
「...凄い数ですわね」
「どうした?嬢ちゃんたち?」
使用人棟の扉を開けた途端、放心した様な麻衣と真砂子。滝川の声も届いていないようだ。
「何か有ったのか、ぼーさん?」
どうすべきか悩んでいた滝川にタイミング良くインカムからナルの声が聞こえた。
恐らくテストも兼ねてこちらの声を拾っていたのだろう。
「よく判らんのだが、使用人棟に入った瞬間2人して呆気に取られた様な顔でキョロキョロしてるんだ」
「憑依されたとかでは?」
「違うな。そういう雰囲気じゃない。」
「ではもう一度だけ声を掛けて気付かなければ強制的にベースへ」
「了解」



「真砂子!! 麻衣!!」
さっきより強めに呼んでみればようやく2人共振り返った。
「何? ぼーさん」
「なに? じゃねー。2人して放心してりゃ心配するだろうが。で、どうしたんだ? 何か居るのか?」
「「.....」」
“どうかしたの?” なんて聞き返して来る娘に、やや脱力しつつも訊ねれば黙ったまま顔を見合わせる2人。
「えーっと、何て言うか...スゴい」
「凄い数の霊がいますの」
「........ちなみにどれ位?」
「ナルが嬉々としてカメラ設置しそうな位?」
「今視えるだけで 10人くらいですわ。人以外も含めましたら...」
「否々、いい。うん、十分判った。どうするよ、ナル?」
今の話も聞いていただろうナルに訊ねる。
「...原さんと麻衣は視えた霊の外見をメモしておくように。あと、マルクはその場所へ設置するカメラを取りにベースへ」
「了解。直ぐ戻ります」
「原さん、他に気になった事は?」
ナルの言葉にしばし思案する真砂子。
「....使用人棟の裏は何かありましたかしら?」
「森が続いていますが」
「そちら側が気になりますの。少し見て来ても?」
「...部屋の確認が終わった後、3人でなら構いません」




「だぁ〜!! 疲っかれたー!!」
「広すぎだよー、この家〜」
ベースに入った瞬間ソファーに突っ伏した似た者父娘(おやこ)。ナルの冷たい視線もなんのその、しばらく動きそうに無い。そんな2人を咎めるでもなく、一つ溜め息を吐いただけでモニターに視線を戻したナル。
それを見た麻衣はジョンに訪ねる。
「ねぇジョン。何か有った?」
「何かって何でっしゃろか?」
「ここに霊が出たとか、カメラ設置した瞬間に何か写ったとか?」
いきなりそんな事を言い出した麻衣に皆、首を傾げる。
「どうしてそう思うんですの?」
「だって機嫌良いし」
「....どなたが?」
「ナル」

「「「「「「「.............」」」」」」」

事もなげに告げられた言葉にナルと麻衣を交互に見り、全員が絶句した。
「麻衣、アレのどの辺りに機嫌の良さを感じるのよ?」
「見れば判るじゃん?」
「判んないから聞ーいてんでしょうが!!」
「えーっと、雰囲気?」




 

拍手[11回]




麻衣の言葉に再び一斉にナルを見、ヒソヒソと会話を交わす。
「取りあえずブリザードはまとって無いわね」
「ビリピリとした威圧も無いわ」
「身の毛もよだつ黒いオーラも出ていませんわ」
「うーん、でも機嫌の良い要素は見当たらないなぁ」
「いつもと何も変わらん気がするのは俺だけか?」
「僕も特に違うところは見受けられないなぁ」
「そうどすなぁ」
全員か、首を捻る。
「麻衣さんにだけ見えるもんでもあるんでっしゃろか?」
ポツリと呟かれたジョンの言葉に今度は麻衣に視線が集まる。
「麻衣、アレがどういう風に見えるのか説明しなさい」
「えっ!?」
綾子の言葉を合図に全員に囲まれた麻衣。やや困惑した様子だが口を開いた。
「何て言うか、こう嬉しい感じのオーラがキラキラーっと.....うーん....あっ、クリスマスにプレゼントもらった子供が “サンタさんからだー” って瞳キラキラさせてワクワクしてる感じ?」

「「「「「「「..................」」」」」」」

ぶっっ
「ナ、ナルとサンタ...」
想像したらしい。
全員が肩を震わせ笑いを堪えている。
ルイスは壁に凭れ掛かって沸き上がる衝動をやり過ごしているし、滝川は無意味に咳ばらいしている。
「ま、麻衣。わ、笑わせな、いで、下さいま、せ」
真砂子も苦しそうに抗議する。
何とか全員が笑いから開放された時、麻衣をの姿がそこには無かった。
「あら?麻衣は?」
「え?」
「あ、あそこ、窓のとこだわ!」
セシアの言葉に全員が視線を動かせば、確かにそこに麻衣は居た。
「何してるのかなあ?」
「窓の外に誰かいるのかしら?」
「俺には見えないけど?」
イギリス組が首を傾ける中、滝川たちには一気に緊張が走った。
「ナル!!!」
「どうした、ぼーさ...」
!!?!
滝川の焦った声に顔を上げたナルの瞳に写ったのは誰も居ない窓の外に笑顔を振り撒く麻衣だった。
「リン、カメラを! 原さん?」
「子供ですわ。女の子。長い金髪を2つに結んで淡い緑のワンピースを着ています」
瞳を細め視た内容を告げた真砂子の言葉にナルは眉をしかめた。
「またアイツは...リン?」
「はい。谷山さんの前方で5℃位温度が下がっています」
「麻衣!!」
「んー? なーに?」
ノーテンキな麻衣の返事にナルの中で何かがキレたらしい。
「一体誰と話しているのか僕に教えて頂けますか、谷山さん?」
ビシッッと周囲の人間が思わず固まる程の笑みを浮かべたナルは、言葉だけは丁重に訪ねた。
その笑みを見てようやく事態を悟ったのかチラリと女の子に視線を送ったあと呟いた。
「えーっと、もしかして...?」
その問い掛けにナルとリン以外が深く頷いた。




 

拍手[13回]




「...どうしようか?」
「話は普通にできるのか?」
「うん」
麻衣の返答にどうしたものかと思案するナルに真砂子が声を掛ける。
「こちらへ呼び入れてはいかがです?」
「原さんから見て問題は?」
「ありませんわ」
「では麻衣。なぜここに居るのか、他に誰が居るかを聞き出せるか?」
「やってみる」



「お姉ちゃん?」
しばらく放っておかれ、首を傾ける女の子に麻衣は優しく笑いかける。
「あ、ゴメンね。えーっと、私はマイっていうの。マイ・タニヤマ」
「マイ...お姉ちゃん?」
「そ。お姉ちゃんにもあなたのお名前、教えてくれる?」
「.....ベティー。ベティー・イスタージ」
「ベティー。可愛い名前だね」
「あのね、ママが付けてくれたの♪」
誉められた事が嬉しいのか、にっこりと笑いながらベティーは答える。
「あのね、あっちに居るのお姉ちゃんの友達なんだけど皆で一緒にお話しない?」
「うん、良いよ」
「じゃあ、この部屋に.......近くにドア無いよね? 良し、ちょっと行儀悪いけどおいで」
そう言うと麻衣は、事も在ろうに女の子を抱き上げて部屋に入れたのだ。
しかも麻衣がその子を抱き上げた一瞬、全員の目にその光景がはっきりと見えた。

「「「「「「「なっ!!!!!」」」」」」」

これに仰天したのは黙って見守っていた周囲だ。
一瞬とはいえ、霊が見えた事にもだが、それよりも何よりも、まさか素手で霊に触る人間が居るなんて...
あのリンでさえ瞳を見開いている。
「こっちのソファーに座ってねー」と女の子を案内して来た麻衣にナルのとてつもない呆れと怒りの視線が向けられる。
「麻衣、お茶」
「はぁい。ベティーはジュースが良いかな?」
「うん」
“じゃあ入れてくるね〜” とベースと続きの隣部屋に向かう麻衣を静かにナルが追い掛ける。
それを見送った一同は大きな溜め息を吐いた。
「....麻衣って時々、否、かなりの確率でとんでもない事、仕出かすよな」
「まったくですわ」
「ナルも大変よねぇ....」
しみじみと呟く彼等の視線の先からは麻衣を叱る声が響いていた。






それに気付いたのは偶然だった。
大方、話しを聞き終えた頃、ふとベティーの足下に視線を落とせば1本の紐が見えたのだ。
....あんな紐、さっきまで有ったっけ?
「ねぇ、真砂子」
「どうかなさいました?」
「あの紐、視える?」
「紐....?」
「さっきまで在った?」
「...いいえ、気付きませんでしたわ」
「あの子のかな?」
「おそらく....そう言えば何だか変な臭いしませんこと?」
眉をひそめながら言われた真砂子の言葉に、意識して匂ってみると確かに臭う。
「ホントだ。何の臭いだろう...? ん、さっきより濃くなった?」
「...まさか、血臭?」
「え? でもそんな臭いのしそうなモノなんて...」
そう言いながらその紐の先へと視線を移す。

「「....っ!!!!!?」」





 

拍手[11回]




※少しグロテスクな表現が入りますので苦手な方はご注意下さい※



“ゾクリ” と全身に走った悪寒に真砂子も麻衣も思わず息を呑む。
そして次の瞬間、紐の向かう先にある窓の外に浮かんだモノに激しい震えが襲った。
あれは犬だろうか?
右側の耳から首にかけて何かに押し潰されたように窪んでいる。
眼球はつぶれ、異様な向きに歪んだ顎からは舌が覗く。
体は元の毛の色さえ判らぬほど赤く染まり、腹からは千切れた内臓がはみ出し、そこから未だにポタポタと血が流れ出ている。
「..........ひっ....」
麻衣が思わず漏らした声にナルが気付いた。
「麻衣!? 原さん!!?」
珍しいナルの強い声に全員が視線を向けた。
するとそこにあったのは、顔面蒼白で今にも崩れ落ちそうな麻衣と真砂子の姿だった。
ナルが麻衣に、綾子が真砂子に駆け寄りその身体を支える。
「何があった!?」
ナルが麻衣の肩に手を置き訊ねるが麻衣は口元に手を当てたまま浅い呼吸を繰り返す。
その身体も強張り震えたままである。
「真砂子!!」
綾子の声に振り返れば真砂子が床に崩れ落ち、肩で呼吸をしていた。
麻衣と同じように口元に手を当て瞳を閉じ襲って来る震えに堪えているようだ。
「....っ...ど...」
「麻衣?」
ナルの胸に半ば凭れかかり青いままの顔で麻衣が告げる。
「...ま.....まど」
「窓?」
「ナル! 窓の外の気温が一気に0℃まで下がっています!!」
リンが叫び、周囲も慌てる中、麻衣と真砂子は次に視た光景が信じられなかった。
「トビー!!」
そう呼んだベティーは血まみれの犬に走り寄り抱き着いたのだ。
犬は歪んだ口から舌を出しベティーの頬を舐める。そして嬉しそうに尻尾を振る度に大量の血が溢れるのだ。
その異様な図に耐え切れず思わず瞳を逸らした2人にベティーが声を掛けた。
「お姉ちゃんたちどうかしたの?」
「......ご、ゴメンな、さいね。あ、あたくし、も...麻衣も....い...犬がダメ、なんですの...」
「そうなの? 可愛いのに」
「そ...そ、うなんだ。ご、ごめ、んねぇ...」
頬を引き攣らせたまま何とか応えを返した真砂子と麻衣。
「じゃぁ、トビーが迎えに来てくれたからベティー帰るね」
「き、気をつけて、ね。お話、してくれて、ありがとう」
「またね、お姉ちゃん」
そう言うとベティーと犬は消えた。
衝撃的なビジョンが視えなくなり麻衣と真砂子はようやく緊張を解き辛うじて立って居た麻衣も崩れ落ちた。
「....気温が戻りました」
リンの冷静な声が全員を現実へと引き戻した。
「マイとマサコは大丈夫なの?」
心配そうに訪ねるのはセシア。
「2人に一体何が?」
「僕には何が何だか...」
首を傾けつつルイスとマルクも心配そうに見守っている。

「ぼーさん、毛布か何かもらって来てくれ。リン、原さんに上着を」
「判った」
「僕もお手伝いします」




 

拍手[12回]




※少しグロテスクな表現が入りますので苦手な方はご注意下さい※



滝川とマルクが部屋を出たのを確認したナル。
両腕で身体を抱き締め青白い顔をしている麻衣に、ナルは上着を脱ぎ包み込む。
リンも直ぐに真砂子を支えている綾子に自分の上着を渡した。
そして “何か温かい飲み物を入れて来ましょう” と隣の続き部屋に向かった。


「大丈夫か?」
「...うん」
「原さんは?」
「だ、大丈夫てすわ」
まだ顔色ば青いものの毛布に包まり、リンの入れてくれた花茶を飲み2人はようやく落ち着いた。
「よく花茶なんて有ったわね?」
感心した風な綾子にリンは苦笑を返す。
「いつの間にか、まどかが機材の間に紛れ混ませた様で...」
「今回ばかりは役立ったな」
そんないつもの軽口に麻衣と真砂子の顔にも薄く笑みが浮かぶ。
ちなみに今の位置関係を整理しておくならば大きく長いテーブルに沿う様、コの字型に置かれたソファーセット。
扉側のソファーにジョン、マルク、リンが腰掛け、その向かいにはセシア、綾子、真砂子の女性陣。
滝川とルイスは別に一人掛けの椅子を調達してきて適当な場所に座っている。
そして奥のソファーにはナルが座り、その隣ではなく何故か足元に麻衣が座り込んでいた。
床に毛布を敷きクッション重ね、さらに毛布に包まったまま頭をソファーに預けている。
麻衣いわく、“この体勢が一番落ち着く” らしく溜め息一つで了承された。

「さて、そろそろ話を訊いても?」

そのナルの一言に全員が姿勢を正す。
「紐がありました」
「紐?」
「はい。麻衣が見つけましたの」
「ベティーから話を聞き終わった頃、さっきまで何も無かったハズの床に落ちてて、見落としてたのかと思って真砂子に訊いたんだけど...」
「あたくしも気付きませんでした。見落としてたのか途中からなのか判りません。ただ、妙な臭いがして参りましたので」
「臭い?」
「恐らく血の臭いかと。どんどん濃くなる臭いに誘われる様、窓の向こうに犬が一匹」
「事故か何かに巻き込まれたんだと思う。血塗れだったし」
「犬の種類や怪我の状態は?」
「聞いて気持ちの良いものではありませんが宜しいですか?」
「結構です」
「種類はコリーの様でしたが、子犬なのか少し小さい気がしました。顔の半分は圧し潰されており顎も歪んで口が開いたままで、身体に至っては、元の毛の色が判らないほど真っ赤に染まって...その、内蔵が色々と...」
想像したのか皆、眉間に皺が寄っている。
「怖かったんじゃなくてね、何て言うんだろう色々衝撃的過ぎて...ね?」
「えぇ、悪霊などではありませんでしたが、生理的にどうしても...」


「先程の少女の霊の言葉を信じるなら、数多くの霊がここには居る。今の所は無害な霊だけしか顕われていないが悪霊も居ないとは限らない。ぼーさん、ジョン。全員に護符とロザリオを、あとベースと各自の部屋の結界の強化を。それから麻衣には2つずつ持たせておいてくれ」」
「了解」
「はいデス」
「リン」
「そうですね、谷山さんには私の式も一体付けておきましょう」
「な、なんで私だけ....」
「諦めなさい、前科モノ」
「うぅぅ...」
容赦ない綾子の言葉に麻衣は項垂れた。





 

拍手[14回]




全員に護符とロザリオが行き渡った所(もちろん麻衣は2つ)で執事のディーベンが顔を出した。
「失礼致します。皆様の食事の御用意ができましたがいかが致しましょう?」
「食事...」
「構わない。ベースには僕が残る」
「あたくしは、結構です。出来れば部屋で休ませて頂きたいでのですが?」
「一人でか?」
さっきまで非常に顔色の悪かった真砂子を一人で休ませる事に難色を示したのは滝川。
“私が一緒に居るわ” という綾子の言葉に “護符を手放さない事” と “何かあったら呼ぶ事” という約束を取り付けようやく納得したようだ。そしてソファーに顔を預けたまま動かない娘にも声を掛ける。
「麻衣はどうする?」
「んー...ゴメン、無理」
「だろうな、リン」
ナルは麻衣のその答えを予想していた様だ。
「あとでナルの食事と一緒に原さんと谷山さん用に何か軽いものを手配しますので食べれるようなら食べて下さい。ディーベンさん、取りあえず松崎さんの食事を部屋へ」
「軽食を3人分と、夜食を2人分の手配もお願いします」
リンの注文に “夜食でございますか?” と首を傾けるはディーベン。
「深夜に掛けて外出する者がおりますので持ち運びの出来る物をお願いします。あと軽食は私が運びますので食後に手配頂ければ結構です」
「判りました。ご用意させます」
「僕からも一つ、軽食に肉類は入れないで下さい」
「ディビス様のもの以外もと言う事でしょうか?」
「そうです。赤いモノも極力控えて下さい」
「畏まりました。ではマツザキ様の分は後ほどお部屋にお届けにあがります」
「えぇ、お願いします。真砂子、部屋に行くわよ」
「はい」
「ではナル、お願いします」
「あぁ」
パタンと閉まった扉。
皆が出て行き、ベースにはナルと麻衣の2人だけが残った。
部屋には沈黙が降り、ナルが機材を操作する音だけがしている。
「麻衣」
「なに?」
「気分は?」
「ん、さっきよりマシ....ね? ナルも...ナルもサイコメトリしたあと食べられない事とか有る?」
「...僕は元々肉類を口にしないし、僕が視る “死” のイメージは緑だからそうでも無い。浅ましい人間の感情を突き付けられるから、人に嫌悪を感じる方が多い」
「.....人に触りたく無いって思う?」
「できる事なら」

「私にも....?」

いつになく沈んだ声に、ナルはモニターに向けていた視線を麻衣へと移す。
「麻衣?」
「あのね。さっきあの子、ベティーがね、血塗れの犬に何の躊躇いも無く抱き着いたの。ベティーには怪我なんかしてない可愛い犬に見えてて、躊躇う必要なんて無いんだろうけど、間違い無くベティーもトビーも “死んでるんだ” って事を突き付けられた感じがして。私の目に写るのは、霊なのかなぁ人なのかなぁとか逆に私が居ると思ってるこの場所も実は造り出されたモノだったりして.....なんてね」
「つまり今、麻衣が見てる人やモノ、自分自身が本当に存在するのか判らなくなったと?」





 

拍手[13回]




「あー! もう何か頭ん中ごちゃごちゃしてる!!」
「大丈夫だ。普段からそんな感じだ」
「なにぉう!!」
ナルは “失礼な!” と叫ぶ麻衣をソファーに引上げ、隣りに座らせる。
「のわぁっ!? な、ナル?」
驚いた声を上げる麻衣に構わず、その頬に手を伸ばす。
「少なくとも僕は、霊に触れる事は出来ない」
「う、うん」
「今、僕は麻衣に触れられる」
静かに紡がれる言葉がゆっくりと麻衣の心に沁み降りて来る。

「....うん」

頬に置かれたままのナルの手に限りない安堵を与えられた麻衣は静かに瞳を閉じ息を吐いた。
そしてゆっくりと瞳を開けば目の前に迫る闇色の瞳。
反射的に顔を引くよりも先に掠め取られた唇。
本気でびっくりしている麻衣に満足した様に薄く笑い再び唇を重ねる。
今度は深く、深く....
はぁ...っと息を吐く麻衣に、ナルは何かを含んだ視線を向け口唇を上げる。
「ちなみに僕はゴーストに手を出す趣味は無い」
「..........!!」
最初ぽかんとしていた麻衣だか、ナルの言った言葉を理解した途端耳まで真っ赤に染まった。
「..っな...」
口をパクパクさせたまま声の出ない麻衣を後目に、ナルは再びモニターに視線を戻す。
そんなナルの様子に文句を言う事は諦めたのか、麻衣はソファーの背に顔を埋めた。
拗ねた子供のような態度を取る麻衣の後頭部をポンと叩けば、ゆっくりと顔を上げた。
「何だよぅ...」
「もう寝ろ」
恨みがましい瞳を向ける麻衣に一切構わず実に簡潔な言葉で睡眠を促す。
「...まだ、7時前なんだけど」
「今日はもういい。その分、明日働いてもらう」
「はぁ〜い.......ねぁ、ナル...手貸して」
「断る」
「ケチ! 良いじゃん減るもんじゃ無し」
「僕は仕事しに来ているのですが、谷山さんはこちらに何しに来られたんです?」
「むーぅ......じゃぁ上着で我慢する」
何が “じゃぁ” なんだ?
と思いつつ、それで静かになるのならと再び上着を脱ぎ バサッと麻衣の頭の上に放り投げる。
「とっとと寝ろ」
「はーい♪ ありがと、ナル ........おやすみ」
「........おやすみ」







「あー、食べ過ぎた....」
「馬鹿ね、それで動けないなんて言ったら博士に睨まれるわよ」
「はは...確かに」
背後でそんな会話を交わすルイスとセシア。
この2人も仲が良いなぁ〜、なんてオヤジ臭い事を考えながら滝川を含む6名は夕食を終えベースに戻ってきた。
コンコンとノックし返事を待たず扉を開く。
「たっだいま〜! ナル坊変わりは?」
「煩い」
やっほー♪ なんてノリでベースに踏み込んだ滝川は細められた冷ややかな視線に固まった。
一瞬にして静かになった事でナルは視線をモニターに戻す。
「わ、わりぃ...」
さっきまでが嘘の様に静かに部屋に入るとナルの座るソファーの横、食事に行く前と変わらぬ位置で寝息を立てる娘が居た。




 

拍手[15回]




「あれ? 麻衣はもう寝たのか?」
「あぁ。少し引き摺られてたから寝かせた」
!!!!!
ナルの言葉に滝川、リン、ジョンの顔つきが変わる。
心配そうに麻衣の顔を覗き込みながらナルに確認を取る滝川。
「何とも無いのか?」
「一晩寝れば問題ないだろう」
「そうか」
“ほっ” と安堵の息を吐いた滝川とは別に、2人の会話を理解出来なかったのはセシアたちイギリス組だ。

「あの、博士? 引き摺られるとは一体...?」

セシアの問いに一瞬、嫌そうに眉を顰めたナルだが、ルイスやマルクも同様の視線を送ってくるので、“仕方が無い” と呟いた。
「子供と動物だった事が一番の原因だろう。先程の光景がかなり衝撃的だったらしい」
「あぁ、血塗れの犬なんて見たら確かに衝撃だな」
うんうんと頷くルイスにナルは “そこじゃ無い” と訂正する。
「血塗れの犬に子供が抱き着いた事で “生” と “死” の違いを突き付けられた、と言っていた」
かなり簡潔的なナルの言い様に、? マークが飛び交う。
「視える者、特に麻衣のように意識せず霊の視える者には “生” と “死” の線引きが非常に曖昧なんだ」
「「 “生” と “死” の線引きですか(どずか)....」」
「なるほど、さっきの霊を抱き上げるなんてのは典型的だな」
ナルの言葉に納得したように頷いたのは3人。未だ理解出来て居ない3人に滝川が言う。
「麻衣にとっては “人間” も “霊” も区別なく視える。だから幼い子供なんかには特に感情移入し易い。しかし相手はゴーストだ、“人” である麻衣が “死者” に心を傾ければ引き摺られる」
「「「はぁ〜、なるほど...」」」
セシア、ルイス、マルクの3人は同時に声を上げ大きく頷く。
「納得したなら仕事に戻って頂いても宜しいですか? ルイスとマルクはテープの交換に、セシアとジョンは松崎さんと原さんの様子を確認。リンはデータの解析を」
「「「は、はい!」」」
「松崎さんと原さんのお部屋に、僕が入らせてもらうんは....」
ナルの指示に慌てて返事をしたのはルイス達。
女性の、しかも真砂子は寝ているでろう部屋に入る事を躊躇うのはジョン。
心配する気持ちからとはいえ、先ほど眠っている麻衣の顔を覗き込んだ滝川との違いはココだろう。
「もちろん松崎さんたちの許可を取ってからで良い。部屋を聖水で清めておいて欲しい」
「そうゆう事やったらやらしてもらいます」
「ナル、データとは? 何か撮れたんですか?」
「麻衣も偶には役に立つらしい。さっき子供を抱き上げた瞬間が実にクリアに映っていた」
ナルの言葉にリンの瞳が細められた。どうやらかなり興味を惹かれたらしい。
「ナル坊〜、俺は?」
「仮眠を」
「は?」
「安原さんとの待合せは真夜中だろう?」
「あ.......................寝てくる」
どうやら忘れていたらしい。
肩を落としてベースを去る滝川に声を掛ける者は居なかった。
「えぇっと...僕たちは仕事しようか?」
「だな」


誰も居なくなった所でリンがナルに向き直った。
「ナル、今日はあなたも早目に休んで下さい」
「なぜ?」
「谷山さんをこのまま放置するつもりですか?」
「松崎さんに」
「原さんと2人の彼女に任せるのですか? セシアはただの研究員ですから却下です。それに今晩は滝川さんが抜けるんですよ?」
つまり、もし何か有った場合、リンかジョンが駆けつけるまで綾子1人で何とかするしか無いのだ。
「.......12時」
「ダメです。谷山さんに風邪を引かせる気ですか? 解析は私とマルクでやっておきます」
仕事が...と言うであろうナルの逃げ道を完璧に塞ぐリン。
今回、一切譲るつもりは無いらしい。まるで2人の母親のようだ(笑)

「....ルイスとマルクが戻って、明日の打合せが終わったら」




 

拍手[12回]




真実は闇の中!?



「原さんはお顔の色もだいぶ良ーなっとりましたんで大丈夫や思います」
「今夜のベース担当はリンとマルク。他は休んでくれて構わない。明日の朝7時には全員一旦ベースへ」
戻って来たジョンの言葉に頷いたナルは、“では” とこの後の予定を告げる。
全員が頷いた事を確認するとリンが立ち上がった。
「セシア、これを原さんに持って行って下さい」
そう言って渡したのは野菜がたっぷり入ったスープとパン。
夕食後に部屋に持って行った時、真砂子も麻衣同様眠っていたので渡せなかったのだ。
「判りました」
「ナル、あなたと谷山さんの分は既に運んであります。絶対に食べて下さい、良いですね?」
「.....判った」
念押しするリンに、憮然としながらも頷いたナルは眠っている麻衣に一応声を掛けた。
「麻衣、運ぶぞ」
そう一言だけ告げると毛布ごと抱き上げる。体勢が変わった事で一瞬、瞳を開いた麻衣。
「んー? .......な、る?」
「寝てろ」
「......うん」
短い会話で安心したのかナルの肩に頬を預け、麻衣は再び瞳を閉じる。
そのまま扉に向かうナルの為にリンが扉を開き一緒に出て行った。


閉じられた扉を呆然と見つめているのはセシア、ルイス、マルクの3人。
ジョンは見慣れているので特に驚きもせず誰もしていないモニターのチェックをしている。
....真面目だ
“博士って意外に筋力あるんですねー?” とか
“もしかして普段からマイと一緒に寝てるんですかー!!!!?” とか
色々訊きたい事は有るが、賢明にも誰も声を上げる事は無かった。




拍手[14回]

カウンター

 
nextキリ番 300000 

☆リンク☆

*オフ用(ふじおりさくら)
ふじおりさくら

悪魔ナルアンソロジー
悪魔ナルアンソロジー

着衣エロアンソロジー
着衣エロアンソロジー

GH&悪霊サーチ
GH&悪霊サーチ

悪霊世界征服
悪霊世界征服

GH-OFFNAVI
GH-OFFNAVI

ロイエドサーチ
ロイエドサーチ

鋼お題&素材 鋼アイコン

+魔王シンドローム+
+魔王シンドローム+

まるマアイコン

堕天使襲来

Egg*Station Egg*Station

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

最新コメント

[08/02 桜花]
[03/29 K]
[03/23 水瀬]
[03/05 水瀬]

バーコード

ブログ内検索

忍者アナライズ

<< Back  | HOME Next >>
Copyright ©  -- *藤袴 -thoroughwort-* --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Material by もずねこ / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]