*藤袴 -thoroughwort-*
☆次回イベント予定☆ ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★
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愛なんてくだらない
その感情は今も変わっていない
麻衣に向ける己の感情に反吐が出そうになった事もある
でも
手放すなんてもう出来そうに無い
顔を上げればそこに麻衣がいる
たまに口煩いときもあるけれど
麻衣が笑っているならまぁいいかと思う自分がいる
以前の僕では考えられないな
こんな僕を片割れが見たら一体何て言うだろう?
大口を開けマヌケな顔で固まるかもしれないな
それも悪くない
ふと視線を戻せば僕の脚に頭を乗せ麻衣が眠っている
もう1時か....
読んでいた本を置きそっと麻衣の髪に手を伸ばす
こんな所でなくベッドで寝れば良いものを
ピシっと軽く頬を指で弾けば薄らと瞼が上がる
僅かに開いた唇が僕の名を形どる
そんな些細な事が愛しいと思うなんて思いもしなかった
PR
天上天下 唯我独尊 我侭気侭 厚顔無恥
仕事バカ 愛想無し 自分勝手 自意識過剰のナルシスト
悪口ならいくらでも出て来るのに
なのに、なんでこう憎めないかなぁ
酷いヤツだとは思う
情けもなければ容赦もない
特に仕事中は
だけど優しい人だと知っている
ちょっとした時に見せる僅かな気遣い
ニヤリと笑う不敵な笑みも
「麻衣」と囁かれる小さな声も
そして白く冷たい手が意外に温かい事を知ってしまった
深い闇のような瞳からは
もう逃げられない
目に見え難い優しさも
他人にも自分にも厳し過ぎる性格も
全部知っているけれど
それでもアナタが好きなんです
とびきり上等なもの
ナルの腕の中 ナルの顔 ナルの瞳 ナルの....
はぁ、今ナルがイギリスに帰ってるとはいえ
ナルの事しか出て来ないなんて....
アタシって馬鹿かも
もう色々末期かもしんない
ナルなんてきっとアタシの事なんて思い出しもしないんだろうに
....ダメ
自分の思考にちょっと泣きそう
電話はしない絶対に....だって逢いたくなっちゃうもん
たまには早く帰って来ないかな?
無理だろうけどそうなったら嬉しいな
もし明日帰って来たら一番高い紅茶を淹れてあげよう
アタシの嬉しい気持ちの分だけ美味しいお茶を♪
とびきり上等なもの
麻衣の紅茶 麻衣の笑顔 麻衣の声 麻衣の....
僕はどうかしたんだろうか?
隣りに麻衣が居ないから研究も捗るはずなのに
ふと手を伸ばした先にある紅茶の香りが
本から顔を上げた時に見えない姿が
一瞬だけ僕の手を止める
煩わしい
それも紛れも無い本心なのに
....厄介な事だ
電話でもしてくれば良いのに
きっとあの莫迦は頑なに自分から僕に連絡を取ろうなんてしない
掛かってくれば面倒だとは思うけれど、ひとりで泣かれるよりは遥かにマシだ
帰ったらとりあえず紅茶を淹れさせよう
「お疲れ様です会長、それでは御自宅に向かわせて頂きます」
「ああ、頼む」
運転手付きのハイヤーに乗り込んだと同時に軽い溜め息を吐いたのは、会長と呼ばれた初老の男。
久々の長い会議は、老いた身体には少々きつかったらしい。
照りつける太陽の光も弱まり、木の葉の色が色付き出す暦になった。
この季節はかの者を思い出させ感傷的になっていけない。そんな自嘲めいた思考を振り払うように窓の外を過ぎる景色に意識を向ける。
ただ流れ行く人も街並みも何の感慨も浮かばせはしない。
しかし渋谷、道玄坂の交差点で見えた光景に知らず息を呑んだ。
「会長?どうかなさいましたか?」
運転手が心配そうにミラー越しに訊ねるも、瞳を見開いたまま動けなかった。
信号が変わり車が動き出した所でようやく息を吐き出す事ができた。
「……………直葵は、いつ戻る?」
「?……社長は、明後日の夕刻に成田着とお聞きしておりますが」
「そのままワシの元に来るよう、手配してくれ」
「畏まりました」
それだけを言うと、初老の男はシートに深く身を預け瞳を閉じた。
長年運転手を務めている男も、無駄な事は何も言わずにハイヤーを走らせた。
カランコロン
その日は、爽やかな秋の風が吹く日だった。
事務所のガラス戸の開閉音が聞こえ、事務員の安原は営業スマイルでお客様をお迎えした。
「いらっしゃいませ、ご依頼でしょうか?」
扉から顔を覗かせたのは四十歳くらいの男性。キレイに磨かれた靴、一目で高級だと判る仕立ての良いスーツはおそらくオーダーメイド。短く揃えられ黒々とした髪は、この年代の人にとっては羨ましい限りだろう。
「心霊現象の調査を行って頂けるとお聞きしたのですが、こちらで間違い無いでしょうか?」
明らかに年下な安原に向かって丁寧に言葉を掛ける姿に実に好感が持てる。
「はい。SPR、渋谷サイキックリサーチはこちらです。わたくし、調査事務員の安原と申します。直ぐに責任者を呼んで参りますので、こちらにお掛けになってお待ち下さい」
依頼人を応接ソファーに案内した安原は一礼し、所長室の扉をノックした。
「私は、白峰 直葵(しらみね なおき)と申します」
名刺を差し出しながら名乗った依頼人。肩書きは超有名大会社の代表取締役社長………。
「ねえ、何かの間違いなんじゃない?」
紅茶を運んで来た麻衣が思わず安原に耳打ちする。
確かにそう思ってしまっても仕方無いだろう。白峰といえば、日本屈指の財閥で在りとあらゆる業種に手を出し、そのほとんどを成功に収めている雲の上のさらに上の存在だ。
そんな家の、しかも最高権力者自ら依頼に来るとは安原でも驚いたのだから。
大抵そういう血統を重んじる家系は、下々の者に(自分が依頼に来たというのに)高圧的に命令し、某所長の機嫌を地底深く沈めて下さるのだが、今ソファーに座って麻衣の淹れた紅茶を飲んでいる男から、そんな空気は微塵も感じない。
「この紅茶は貴女が?」
「は、はひ?」
紅茶を一口飲んだ男は麻衣に向かって訊ねた。
突然の事に麻衣はびっくりして声が裏返ったが、男はそれを咎める事もなく逆に驚かせた事を詫びる。
「あ、申し訳ない。とても美味しかったので」
「あ、ありがとうございます」
にっこり微笑みながら告げられたストレートな褒め言葉に、麻衣は頬を赤く染める。紅茶を淹れて、どっかの誰かさんから誉められたり御礼を言われたりなんて事がまったく無いので誉められる事への耐性が無いのだ。
へらりと笑み崩れる麻衣に冷たい視線が向けられるが、幸か不幸か麻衣が気付く事は無かった。
「そろそろ依頼内容をお訊きしても?」
ナルの静かな声が響いた事で全員の視線が男に向けられた。
「失礼しました。では早速依頼の方を……A県の山奥にうちの別荘があるのですが、夏の終わりから秋の中頃に掛けて普通では考えられない事が起こるのです」
淡々と話し始めた男に違和感を感じた。なぜなら、ここに依頼に来る者は心霊現象に悩まされ精神的に参っている者が多い。
しかし彼からは一切、悩んだり困ったりしている様子は感じられない。
ハズレか……そう感じたナルは安原に視線を送る。
その視線の意味を違える事無く受け取った安原は、笑顔を浮かべ男の話しを促す。
「普通では考えられないとは具体的にお聞かせ頂けますか?」
「簡単に申し上げるなら、全てが赤く染まるのです」
「全てとは?」
「まず一番最初に庭に咲いている白い薔薇が赤くなります。他の花も順番に染まってゆきますが、毎年始まりは白い薔薇からです。そのあと庭に生える樹の葉みのが赤くなり、一気に落ちます」
「その白い薔薇はどなたの物でしょうか?」
「世話をしているのは庭師ですが、特に誰かの物だということはありません」
「失礼ですが、樹の方は紅葉と違うと言い切れるモノはございますか?」
「赤く染まる樹の大半が針葉樹です」
「一気に落ちるというのは枯れるのでしょうか?」
「いいえ。言葉通り落ちるんです。美しく咲いていた白い薔薇も青々とした葉も全てが深紅に染まった次の日の朝、一斉に枝だからバサッと落ちます。そしてその日の昼、近くの湖一面が真っ赤に染まります」
安原の質問にも男は実にスムーズに答える。
まるで予め聞かれる事が判っているかのようだ…………
安原とナル、そしてリンはやはり違和感を感じた。やはり何か普通の依頼人とは違うと。
「では、最後にひとつ。毎年、始まりはと仰いましたが、その現象はいつから起こっているのでしょうか?」
「……………夏が終わる頃に」
「あれ?まだ起きてたんだ」
誰に聞かせるでもなく零れた声は冷んやりとした廊下に落ちる。
もうすぐ明け方という時間にぽっかりと目が覚めた麻衣は、渇きを訴えた喉を満足させるため温かい寝室からキッチンへと向かった。
そして見たのは書斎から漏れる煌々とした電球の光。
昨夜、分厚い本を読んでいたナルが隣りに寝ていない事は予想通り。しかし後もう少しだったのと他に本が無かったので、夜中には書斎の簡易ベッドで寝ると思っていた。
「まったく、ちょっとは自分の身体を労ろうとは思わないのかな?」
思わないんだろうなーと内心溜め息を吐きながら、ついでにナルの分の紅茶も淹れる。
あたしも甘やかすからいけないんだとは思うけどさー倒れられるよりは良いよね。
そんな言い訳をしながら向かった書斎。トレイの上には2人分の紅茶のカップにポット、数枚のクッキー。
コンコン、と軽いノックをし書斎に滑り込んだ麻衣は、思わず笑う。
「寝るんならベッドで寝なよ」
ミニテーブルの上に持ってきたトレイを置き、簡易ベッドから毛布を持ってくる。
「相変わらずだねー」
そんな事を呟きながら淹れてきた紅茶を飲む麻衣。傍らで寝ているナルは微動だにしない。こんな機会は中々無いと思った麻衣は、ツンと白い頬を突っつく。一瞬だけ眉間に皺が寄るのを目撃し、麻衣は吹き出す。
「ねー、起きないと紅茶全部飲んじゃうよー」
笑いを堪えながら再度突っつけば、薄らと開く漆黒の瞳。が、直ぐに閉じる。
「そんな眠いんなら昨日無理せずちゃんと寝れば良いのに」
溜め息1つ。呆れと諦めとを混ぜ込んだそれはナルには届かない。肩を竦めた麻衣はそれ以上何も言わずに紅茶のカップを傾ける。
「うん、美味しい」
「……………………麻衣?」
「あ、起きた」
どうやら人の気配と紅茶の香りに意識が覚醒したらしい。麻衣に向けられた瞳が何故ここに居るのかと問うている。
「喉乾いて起きたらさ電気付いてるんだもん、まだ起きてんのかー!って紅茶持ってきたらナルが寝てたんで1人寂しくお茶会中でーす」
「……………」
「お茶飲む?」
無言でカップに目を向けたナルに、麻衣はポットから温かい紅茶を注ぐ。
「寝るんならちゃんとベッド使いなよ、身体痛くなるよ。あ、このクッキー綾子お手製で甘くないよ」
「要らない…………お茶」
「もう飲んだの!?ちゃんと水分取らないからだよ!」
文句を言いつつもナルのカップにお茶をちゃんと淹れてあげている辺り、イレギュラーズ達が見れば甘いと言う所だろう。
しかし麻衣にそんな自覚はまったくない。
再度注がれたお茶も速攻飲んでしまったナルは、カップを置き掛けられた毛布を手に取る。
「寝るんならベッド!」
麻衣はそれを阻止しようと毛布を引張りパタパタと振る事で抗議する。
「寒い」
「だからベッド行こうってば!!」
麻衣の言葉に瞳を瞬いたナル。次の瞬間ニヤリと、麻衣曰く嫌な笑みを浮かべる。
本能的に妙な雰囲気を悟った麻衣の動きがピタリと止まる。
「な、ナル?」
「そんなに僕と寝たいのか?」
「は?」
ナルの言葉が理解できず固まったままの麻衣を、ナルは抱え上げて書斎を出る。姫抱っこではなく肩に抱え上げている辺りは、やはりナルというか何というか。
「ななななな、ナル!!?」
「近所迷惑」
いや、そうじゃなくてー!と暴れる麻衣を他所に、ナルは寝室のドアを開くとベッドの上に麻衣を放り出す。
視界が回って「うおぅ!?」と驚いた声を上げる麻衣に布団を被せ、その隣りに滑り込むナル。
ようやくナルの意図を理解した麻衣は、もぞもぞと動き体勢を変えるとナルと向き合った。
「ナルの瞳ってキレイだよね。真っ黒で吸い込まれそう」
そっと顔に手を伸ばしてくる麻衣をナルは止めようとはしない。
「寝るんじゃないのか?」
呆れた様に聞いてくるナルに麻衣は「寝るよ」と笑う。
そして「おやすみ、ナル」と言いながら頬にキスを1つ。
吃驚したナルの様子に満足そうに笑うと、麻衣は目を閉じて傍らの温もりに身を寄せる。
完全に寝入る直前「………おやすみ」という声と、額に温もりを1つ感じた。
「この辺はちょっと寒いね」
「避暑地だからなぁ。お前、その恰好じゃ夜は寒いんじゃねーか?」
「だいじょーぶ。ちゃんと上着は持って来てるよ」
「なら良いけど、途中で寒くなったらおとーさんに言うんだぞー、上着くらい貸してやるから」
「はーい」
仲良し父娘(おやこ)は現在、某大会社社長の別荘の庭の中で気温を計っている所だ。
お金持ちの別荘だけあってその敷地は広い。今回の調査対象は屋敷ではなくその広い敷地の大部分を占める自然とあって、機材もいつもより多い。
もしも台風などが来てしまえば、何台かのカメラが破損する事は目に見えている訳で……。そう考えると某仕事バカ共の機嫌の降下は避けられず、戦々恐々しなければならないのだが、今回はなんと、その話を聞いた依頼人の特別出資により高感度カメラ2台を新たに導入できた。更には調査においてこちらの人為的破損以外の理由で機材が壊れた場合の保証をしてくれるとの事で、某所長様や某メカニック殿の機嫌が非常に良い。
とは言っても普段から比べればのレベルなので、いつものメンバー以外には判らない程度だが。
「こんにちは、調査は順調ですか?」
「白峰さん!こんにちは。調査は順調というか、白い薔薇が染まるのを待ってる状態です」
「お元気そうでなによりです。滝川さんもご苦労様です」
「あ、どうもこんにちは白峰さん」
突如後ろから掛けられた声に2人が振り返ると、そこには依頼人の白峰 直葵がにこやかに立っていた。
この人も不思議な人だと滝川は思う。
最初、安原から話を聞いた時には少しばかり警戒していたが調査初日の顔合わせの時に話して以来、滝川はこの人は特に問題無いと思った。何か含む部分というか隠してる事はあるのかもしれないが、今も彼が麻衣に向けている瞳は限りなく優しい。
だから悪い様にはならないだろう。ただそう思った。
「滝川さんもご一緒にいかがですか?」
「へ?」
回想に浸ってた所為でそう声を掛けられ俺はマヌケな顔と返事をしてしまった。
「谷山さんを午後のティータイムにご招待したんですが、滝川さんもいかがです?」
「ぼーさん?」と麻衣は不思議そうな顔で見上げて来るが、彼は特に怒るでもなく再度聞いてくれる。そんな二人に笑顔を返し了承の意を伝えると俺は一人計測したデータを持ってベースへ向かった。
ちなみに麻衣は白峰さんと先に彼の部屋へ行った。どうやら彼も依頼に行った日に飲んだ麻衣のお茶に惚れたらしい。
機嫌が降下するであろう某青年の顔を浮かべ、なんといい訳しようかと滝川はベースへと足を踏み入れた。
□□□□□□□□□
「でも、本当にあたしのお茶で良いんですか?」
「もちろんですよ。先日事務所にお邪魔した時に飲ませて頂いた紅茶は、私が今まで飲んだ中で一、二を争う美味しさでしたから」
「ありがとうございます。そんなにストレートに誉められる事ってないんで嬉しいです」
滝川がベースで不機嫌な某所長を向き合っている頃、白峰の部屋の中ではこんな会話が繰り広げられていた。
誉められて照れる麻衣に、始終笑顔な白峰。二人の間に漂う空気はとっても穏やかで、お菓子の用意をしているメイド達も微笑ましそうに笑っている。
そんな中、笑いを含んだ鈴やかな声が割って入った。
「自分の兄が若い女の子を口説いてるのって、直接は見たくないものね」
「…………楓」
くすくすと笑いながら部屋に入ってきたのは、一人の女性。
さらりと流れる短めの髪、黒く大きな瞳、そして穏やかな微笑みは白峰とどこか似ていた。突如現れたその女性に、麻衣は二人を見比べながら首を傾げる。
「ごめんなさい、兄が余りに楽しそうだったから」
「兄?」
「楓、誤解を招く言い方は止めてくれないか?申し訳ない谷山さん、彼女は僕の妹で」
「白峰 楓と言います。兄からとっても美味しいお茶を淹れるお嬢さんがいると聞いて、来てしまいました。私も谷山さんの紅茶を飲ませて頂けるかしら?」
「え、はい!えっと……」
「楓と名前で呼んで下さると嬉しいわ」
「楓だけズルイな、私の事も名前で呼んでくれると嬉しいな」
「じゃあ、あたしの事も麻衣って呼んで下さい、えっと……楓さん、直葵さん」
「「ありがとう、麻衣さん」」
「そんなに美形の所長さんなの?」
「顔だけは本当に良いんですよ!その分性格はアレですけど」
「でも今まで解決できなかった事例がないって事は優秀なんだろうな」
「直葵さん!それ良い様に言い過ぎです!アレは仕事バカとか仕事の鬼って言うんです!!」
「あら、じゃあお兄様と良い勝負なんじゃないかしら」
「え!?直葵さんも!?」
「私はそんなに仕事仕事と詰め込んでは居ないと思うのだけれど……」
「いいえ。根を詰めて書類を読んでいた所為で、食事を取り忘れる事なんて日常茶飯事でしょ」
「ダメですよ直葵さん!どんなにお仕事できても身体壊しちゃったら終りですよ!」
「そうよね、麻衣さん!もっと言ってやって頂戴」
「参ったな………」
丸いテーブルを囲んで和気あいあいと会話を弾ませる三人に、滝川は困っていた。先ほど別れた時よりも段違いに依頼主と娘の距離が縮まっている気がする………。
どうしようかと頬を掻いた所で、三人の内の一人が滝川の存在に気付いた。
「どなたかしら?」
「あ、ぼーさんお帰りー」
「お疲れ様です滝川さん、先に始めさせて頂いてます」
「えーっと、お邪魔しまーす」
笑顔で首を傾げる女性に、笑顔の娘。更には依頼主からも笑顔で席を勧められては、滝川に断る術はない。初対面な楓と自己紹介し合った所で、クッキーと麻衣の淹れたアイスコーヒーが置かれた。
「それで滝川さん、所長さんの方はいかがでしたか?」
「あー問題ないです。お茶ついでに白峰さんから白薔薇について、些細な事でも良いから聞いて来いとは言われましたけど」
「「「………………………」」」
滝川の言葉に、先ほどまで散々ナルについて話していた3人は噴き出して笑った。
□□□□□□□□□
「調査じゃなかったら最高の旅行だわ」
「あら?松崎さんにはどちらでも同じ事ではありません事?」
ほぅっと溜め息を吐きながら大きなベッドの上で呟く綾子に真砂子の辛辣な言葉が返る。ジロリと真砂子を睨み付けた綾子だが目の前に並べられたワインと夜食に自然、頬が緩む。
「さすが白峰のワインだわ。いい香り」
「松崎さんらしいですわ」
調査に来ても楽しむ事を忘れ無い綾子に真砂子は苦笑する。
まあ今回の調査は特に危険な事も聞かないし、始まりの白い薔薇が染まるまでは旅行気分でも問題ないだろう。
三日前に機材の設置は完了しているし真砂子と綾子は今日来たばかり。初日から来ている彼らだって定期的に気温を計る事とモニターのチェック、夜には寝ずの番が一人だけという体勢で、あとは普通の生活と変わらずに過ごしている。
唯一、安原だけは初日の挨拶に顔を出しただけで情報収集に回っているというが、調べ終わってしまえば他のメンバーと同様の過ごし方をするのだろう。
「今回の依頼人の方は随分と変わった方ですのね」
「ちょっとくらい変わってても金持ちでいい男なら良いんじゃない?」
「そんな事を言ってるんじゃありませんわ」
「判ってるわよ。まぁ、ナルを怒らせないでくれれば私たちも楽なんだから良いじゃないの」
どこまでも真面目な真砂子に今度は綾子が苦笑を浮かべ、グラスに残っていたワインを飲み干すと「おやすみ」と綾子は布団へ潜った。
「あんたも寝なさい。きっと明日はこの庭中歩き回らされて霊視させられんのよ」
「…………それはちょっと有り得そうで嫌ですわ」
そう言うと2人は声を立てて笑い合った。そして「おやすみ(なさい)」と眠りについた。
そして次の日の朝、薔薇が紅く染まった ———————————
恋したくなるお題(配布)より「玉砕覚悟の恋」
ジーン→麻衣 な感じ?
ジーン→麻衣 な感じ?
ゆらゆらと水面を漂うかの様に僕はその場に在り続ける。
あの事故から5年。
短いとは言い難い時を僕はずっと彷徨い続けている。
ごく稀(というか結構な頻度かも)に意識が浮上したと思えば調査中の彼らに出逢える。
それが良い事では無いとは判っているし、産まれた時からずっと一緒だった片割れの姿を見る度、変わる事の無い自分の存在が異質な物だと突き付けられる。
それでも、許されるのであれば傍に在りたいと思ってしまう。
あと少しが今日なのか明日なのか、はたまた数年後なのかは判らないけれど………
他人に頼る事が苦手な僕の弟の隣りに寄り添ってくれる稀有な人が現れるその日まで。
ただ傍に。
COUNT TEN.(配布)より「微エロでお題 pert.4」
苦しい。
何故だ?この胸の苦しさは一体何なんだ?
自問自答するも答えは得られない。
僕は一向に読み進むことの無い本を机に放り出すと部屋を出る。
「麻衣、お茶」
いつもの要求に「はーい」と気の抜ける様な返事をして事務所のアルバイトは給湯室へ向かう。
今日はリンは本国からの客人の案内で居らず、もう1人のアルバイトは所用で休みだ。
つまり、麻衣が給湯室に行ってしまえばオフィスにはナル1人。
騒がしいイレギュラーズも来ておらず、静かだった。
おかしい。
自分はこんな空間を望んでいたはずなのに、何故か落着かない。
どうしてだろうかと目を閉じて考えてみる。
本当ならば本を読みたい。
しかし文字が一向に頭に入らないのだから、原因を究明する意外には解決方法は無いと思い至った。
そうして考えているのだが、解決方法は判らない。
いくつか判った事はあるがリンに言うと唖然とした様な妙な顔をされた。
ひとつ、麻衣を見ると苦しい
ひとつ、麻衣が見当たらないと気になる
ひとつ、気付くと麻衣の事を考えている
もしや何か麻衣に憑いているのかと思い、リンに聞いてみたが否定された。
では一体なんだというのだろうか?
判らない。
この世に僕が判らない事があるなんて……面白い。
紅茶のカップを手に戻ってきた麻衣の姿に、絶対に解明してやると心に決めた。
<ゆめごこち>
「麻衣」
酷く穏やかな声が名前を呼ぶ。
「麻衣」
今度は先ほどよりもやや強く。
しかし温かい微睡みの中のそれは、麻衣にとっては子守唄に等しい。
そうでなくともナルの声を聞いていれば心が落着くのだから、仕方無いと頭の片隅で思う。
「麻衣、寝るなら寝室へ」
言葉と共に額を弾かれ眉間に皺が寄ったのが分かる。
それでもこの心地良い場所から動きたくはない。
頬に伝わる温もりに、パラリ……パラリ……と捲られる本の音。
そして時たま髪に触れる優しい手。
こんな素敵な空間、手放せる訳が無い。
<えいえんに、すき。>
……すき
ナルが、すき
ふわふわとした意識の中、そう言えば「知ってる」と応えが返る
温かな腕の中、こんなにしあわせで良いのかと思う
でも、この手を離すのは嫌
例えそれが、ごく近くに訪れる事だとしても
嫌だと心が叫ぶ
ナルはいずれイギリスに帰る
それは決定事項
その時、あたしはどうしよう
ナルに着いて行く?
ナルとさよならする?
現実を考えれば後者
理想は………
……すき
ナルが、すきだよ
でも子供じゃないから、すきだけじゃ一緒に居られない
あたしはどうするか、どうしたいか、ちゃんと考えるから
だからナルも考えてね
ナルはどうしたいか
あたしの出した結論とナルの結論が違ったら、その時は………
多分きっとさよならが待ってる
でもね
それでも、ナルがすき
カウンター
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