*藤袴 -thoroughwort-*
☆次回イベント予定☆ ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★
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ゆるされた
許された
側で息づくことを
許された
ゆるされたのだ
この上ない幸福を
与えられた
一時はどうなるのかと、つかず離れず時には衝突し、紆余曲折しつつ結果は————大団円。
近くで傍観し、時折逃げ場になってあげていた大人組は収まるべき場所に収まったと思い
ホッと息をつく。つけるはず、だった。
ところがどっこいそうは問屋が降ろさないとばかりにまた、頭が痛くなるようなことが起き始めた。
本人達にとっては深刻ではないけれど、周りに被害が及ぶことだ。
カランコロン
「邪魔するよ〜って………誰もいないのか?」
「んな訳ないでしょ。この物騒なご時世に」
「資料室にいらはってらっしゃるんやないで……」
すか、と続けようとしたのだろうがそれは音になることはなかった。
「ちょ、ほんとに離してってば!自分で歩けるよ!」
「また転びたいのか?」
「あんなとこに物置いとくのが悪いっ」
「足元に注意すればいいような所だったろう」
「そもそもっあたしの!人権は!?」
「そんなものあるか」
「むきーっ!!」
「エエト……;」
ジョンが困るのも頷ける。
麻衣は
ナルに
姫抱きにされているのだ。
(………なんだ、これ)
会話の中から推測すると麻衣は転んだからといって別に怪我をしたわけではないようだ。が、
(………なによ、これ)
それならば何故姫抱き?!
思わずというか必然的に立ち尽くす三人にようやく麻衣が気付いた。
「あっ三人とも来てくれたの〜♪」
強引に飛び降りたせいかぐらりと体が傾いだが、ナルがさりげなく麻衣を支える。
ぽてぽてと近づこうとする麻衣にナルがすげなく言い放つ。
「麻衣、お茶」
「は〜い。あ、三人ともそんなとこで突っ立ってないで座って?飲み物はなんにする?」
「あ、おう、じゃあいつものアイスコーヒーで」
「今日はピーチのタルトを作ってきたのよ。ちょっと甘めになったからダージリンのストレートを濃いめに」
「ほなボクもそれで」
「わかった〜ちょっと待っててね」
すでにナルは一人掛けのソファに座ってどこに持っていたのか本を読んでいる。
滝川達も恐る恐るソファへと近づく。
「お久しぶりですね、お三方」
「うわっ!少年!?」
「驚かさないでよ!!」
「あ、原サンもお久しぶりデス」
「こんにちは」
背後からいきなり出てきたのは小さい買い物袋を持った安原と真砂子。
「買い出し、か?」
「それと逃亡で3:7ですかね」
「逃亡?!」
「あ、ちなみにリンさんもメンテに出した機材の回収という名目の逃亡で今日は帰ってきません」
「おいおい………;」
小声で話しているとはいえ全く聞こえないことはないはずなのだが、ナルはいたって無関心の無表情。
「あ、今更逃げようだなんて思わないで下さいね。
僕なんかここ最近ずっとこの空間にいたんですから。たかが2、3時間」
まるで獲物を捕らえた鷹。
「観念してくださいまし」
ため息をつく真砂子は早い時分からここにいたのだろうか、諦め顔。ここは腹をくくって挑むしかない。
それでもなるべく近づかないように離れて座る。
「あ、安原さんと真砂子お帰りなさ〜い。綾子がね、ケーキ持ってきてくれたんだよ。
切り分けてきたからリンさんいないけど皆で食べよう」
いつもと変わらぬ言動になんとなくホッとする。やはりあれは、そう、何かの見間違い。
けれど安原の目は
『まだまだ甘いですね』
————と。
「ほらぁナルも!休憩するのに出てきたくせに読んでたら意味ないでしょ。それに疲れた頭には糖分は必要!」
「要らない、疲れていない」
「う・そ・だ・ね!夕べからずっとパソコンに向かいっぱなしじゃん」
何故夕べからの状態を知っているのか。思わず叫びそうになる滝川を安原と綾子が咄嗟に押さえ込む。
それには全く気付かずに会話は進む。
「ナルのはちっちゃくしてあるから」
「麻衣が食べれば」
「へ〜ぇそんなこと言うの。子供みたい。我が儘」
「…………」
「…………」
「…………… 一口だけなら」
「ん、はい」
「………甘い」
「タルトだもん。甘いに決まってるでしょ」
———さて、この間に起きたこと。
一つ目、しばしの睨み合い。まぁこれはいつもの日常茶飯事。
二つ目、あぁこれは、もう気付いただろうか。
麻衣がナルに食べさせたのだった。
いわゆる、『はい、あーん♪』的なことを。
麻衣をムスメと言って憚らない滝川なんぞは口を開けて石化した上に風化している。
綾子やジョンなどは咀嚼を忘れていて。安原と真砂子はやれやれと濃いめのお茶をずずずっと啜る。
こういう展開になると踏んでいたのかタルトは完食済みだ。
「はい、もう一口」
「一口だけと言っただろう」
「だから食べられたんだったらもう一口ぐらいいけるでしょ。じゃなきゃお代わりナシね。
ほらほら早く口開けて………って、あれ。皆どしたのかな?」
「………さぁ」
三人に安原の視線が突き刺さる。
『こんな空気の中にいるんですよ』
幸せになってほしい
ただそれだけの願い
そう思っていた
ああ、今彼らは
本気で幸せを噛み締めている
end
■ 麒麟さまより (相互リンク記念/ナル麻衣)'09.5.14
<悪気はないんです ただ本気なだけ>
『四季折々の小道』様と相互リンクさせて頂きました☆その記念リクを頂戴しましたー!
きゃぁぁぁっ//// 姫抱き姫抱き秘め抱き(←違っ)転んだからって姫抱きですよー!!
いっそそのままベッ....ごほん。麒麟さま、これからも宜しくお願いします。
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「ナルぅ!ナぁぁルぅ‥。」
それは真ん丸いお月様が空でピカピカ光る夜。
オシャレな高級マンションのドアの前で名前を呼ぶと中から不機嫌な顔をした美しい青年が現れた。
「…なんだ。騒がしい。」
血の気も凍るような冷たい視線もドアの前で『へらり』と笑う少女には威力がない。
「帰ったんじゃなかったのか…。」
それはこの日の午後の事だ。
「…ナル。茄子好き?」
「茄子?…何故?」
「もらったの。近所のおばちゃんが家庭菜園で豊作だったんだって…。きゅうりとトマトとししとうもあるんだけど…。」
「……。」
袋一杯の夏野菜は朝収穫したばかりで新鮮そのもの…。
アタシ一人じゃ手に余るし、誰か事務所に来てくれたらと思うけど…。
「今日に限って誰も来ないんだもん。」
明日は事務所休みだし…せっかく新鮮なのに置いといたら傷んじゃう。
「ナル野菜食べるでしょ?もらってよ。」
「…いらない。」
「なんでー?」
「面倒だ。」
「…適当に切って炒めたり。サラダにしたり…。あんな大きな冷蔵庫があるんだからさぁ。」
引越しの手伝いに無理矢理押しかけた時なんて贅沢なんだと思ったもんだ。
「僕にソレを抱えて帰れと?」
確かに…。
一抱えもある野菜の入ったビニール袋をナルが持って歩くのは違和感があるけれど…。
さすがにアタシも渋谷の街を歩いてくるのはちょっとアレだったかも。
「…じゃあじゃあアタシが運んで行くからさぁ。ついでに料理も作って置いとくから…引き取ってっ!」
食べ物を粗末にするなんて考えられない。
「……好きにしろ。」
確かにそうは言ったのだが、それは予定がなかった時の話で、僕とリンは急に予備調査に出る事になり
帰りはそのままマンションに直帰した。
「…事務所を閉めて帰れと連絡したはずだが?」
「だって…とにかく野菜だけでも…。」
「……馬鹿じゃないのか?お前。」
「なんだよぉ馬鹿って!」
「………。」
新品ピカピカのシステムキッチンには大きな冷蔵庫があって…電磁調理機や食洗機、オーブンも着いてるけど
まるで役に立ってない。
「…もったいなーい。」
茄子にきゅうりにトマトにししとう。
無機質な台所に青い野菜の香りが広がる。
「ナルごはん食べるよね。」
野菜をオリーブオイルと塩こしょうで炒めパスタにからめる。
スープはインスタントだけどまぁ手早く作ったにしてはなかなかだ。
「リンさんももう戻るんでしょ?隣だし一緒に食べてね。」
「…麻衣?」
「アタシも帰って家の野菜食べるから。朝浅漬けにしたお漬物もいいかんじになってるはずだし。
酢漬け…ピクルスならナルも食べる?今度持ってきたげるよ。」
「…リンに送って貰え。」
「悪いよ。事務所に荷物置きにいったんでしょ?まだ早いから大丈夫。」
「しかし。」
「アタシ今日はホッカホカの白御飯で食べたいの。炊飯器無くてもお鍋でも炊けるけどさぁ…。
やっぱ日本人なら白飯ないとね。」
「……。」
「じゃあね。今度野菜カレー作ったげるね。ピクルスと合うし。バケットと食べればいいでしょ。バイバイっ!」
あわただしくドアを出て静かなマンションを走っていく様子をしばらく眺めて…。
(騒がしい奴…。)
「…ナル!?これ…。」
「リンにずいぶん煩く言われた。夜遅く一人で帰すなんて非常識だと。」
「…それはゴメン。でもそれがなんで??」
「お前が言ったんだろ。御飯がないから帰るんだと…。」
「……えっ、と。」
相変わらず使われた気配のないキッチンにこの前来た時と違うピカピカの最新式の炊飯器が置かれていた。
遠赤外線厚釜仕様。
「スゴーイ。これナルが買ってきたの?」
「……リンが。」
(まあそりゃそうでしょう。ナルが電気店で炊飯器なんて買わないか…。)
必要最低限の物しかなかった高級マンションのキッチンに…お米の炊ける匂いとスパイシーなカレーの香りが漂い…。
「うん、いいできv。」
作りつけの収納棚にはまとめて揃えたのだろう白いセットの皿やグラスが並んでいる。
お茶のカップのセットだけは綺麗な青い花柄で…まどかさんかルエラの選んだ物かもしれない。
そこに並んだ淡いピンクと水色の花模様の二客の御飯茶碗のまあるい姿が…なんだかとてもかわいらしい。
「…これってやっぱりリンさんなの?」
「いや。茶碗が欲しいと言ったらこれだと…。」
「なんでこの二客?」
(リンさんと二人だからいいんだけど…。)
「…二個セットなんじゃないのか?みんなセットで箱に入ってたぞ。」
「……。」
リンさんと事務所の帰りに買いに行ったんだ…。
二人で行って一組の『夫婦茶碗』買ったのか…。
「……。」
(うーん。まぁいいのか?それって…。)
まぁこの組み合わせならリンさんが大きいのでピンクがナルだろうけど…。
「これはお前が使え。」
「…え?アタシ?」
「こんなピンクの物リンが使うわけないだろう。お前用だ。」
(ピンクがリンさんじゃ…まぁ可愛いすぎるけど…。)
「でもリンさんのは?」
「…なんでリンの茶碗がいるんだ。」
「………。」
(エヘヘ…。)
「今度は和食作るねv。」
「…ああ。」
真っ白ほかほか炊きたてご飯に夏野菜のスパイシーカレー。
ちょっぴりすっぱいピクルスがアクセント。
二人で囲んだ食卓がなんだか少し照れ臭かった。
「…ねぇリンさんは呼ばなくていいの?」
「…いいんじゃないか?」
「……そう?」
あんまり、リクエスト「お宅訪問」じゃないような?
甘くもないし、ナル麻衣でも・・・。申し訳ない。
end
■ 美桜子さまより(悪☆オンで/ナル麻衣)'09.6.25
<一組のしあわせ>
『蒼い鳥の薔薇色人生』の美桜子さまより頂きました。
朽葉のリクエストした「麻衣がナルのお宅訪問」のお話で〜す。
通い妻♪ 通い妻♪ とウキウキしました☆
無自覚なナルの言葉に麻衣ちゃんは翻弄されつづけるんですねvv
美桜子さまこれからも宜しくお願いします。
「……!」
どさりと、コンラートの体がベッドに沈んだ。その頬に影が差す。
押し倒された恰好で、コンラートは呆然と有利の顔を見上げた。
「……ユーリ、どうかした?」
辛そうに顔を歪める有利に、コンラートが腕を伸ばした。その手が頬に触れる前に、
「触るな……!」
有利はコンラートの手を払いのけた。
「……ユーリ?」
「……んでっ」
有利の黒い瞳に、涙が溢れる。一度出た涙は、堰を切ったように流れ出した。
ぼろぼろと流れる涙が、コンラッドの頬に落ちる。
「泣かないで、ユーリ」
「泣いてねぇ!……なんで、なんで俺はあんたじゃないと駄目なんだ!……畜生!!」
乱暴にコンラートの胸元を掴んだ有利が、その胸に顔を埋める。
肩を震わせる有利の肩を、コンラートがそっと抱き寄せる。
「愛してますよ、ユーリ。あなただけを……」
「う、うるせぇ!」
ははと、微笑みを浮かべて、コンラートが有利の背中をぽんと叩いた。
そして、落ち着くまで背中を優しくさすっていた。
頬に落ちた、有利の涙。
そして、胸には、決して揺らぐ事のない有利への愛。
■ イボコ様より (チャットで/コンユ)'09.6.29
<落ちてきたもの> お題配布【VOID 様】http://theme.milt.nobody.jp/index.html
『キマグレダーリン』のイボコ様より奪っ.....じゃなくて、頂きましたー♪
まるマ貰うの初めてです! ありがとうございます!!
ヘタレなはずのコンが格好良くって超悶えます><ノ☆
《ナルーねぇナルってば》
《……………》
《ナルーねーねーねー》
《…………五月蠅い》
《今どこ?》
ナルの冷めた言いぐさを全く気にもしないで自分の言いたいことを言えるのはジーンと、
数ヶ月前に家族となったルエラとマーティンだけ。彼の能力を受け止めているのも彼らだけとも言える。
これは彼ら双子が実験道具(モルモット)にされる前の話。
《………図書館》
《じゃあ出てきてよ。良いこと思いついたんだ!》
《僕を巻き込むな》
《いいからいいから!どうせ今読んでる本、あんまり面白くなかったんでしょ?ちょうどいいじゃないか》
《他にも読む物はある》
《もう!ルエラとマーティンに関することなんだから!後5分ぐらいで着くからね、出てきてよ!!
じゃないと引きずってでも引っ張り出すからね!!》
プツリと回線が切れる。ナルは深いため息をついてイスから立ち上がった。
****************************************
「で?」
二人は草木が沢山生い茂る公園のベンチに並んで座っている。
その光景はまるで一枚の美しい絵画のようで、どんな昔の高名な画家でも書き表せないような、そんなものだ。
「うん、ほら僕たちここにきてからなんかあっという間だったね」
アメリカにいた頃は一日一日がとても長かった。虐げられ、蔑まされ、身を寄せ合って。
今はそんなことはなく、養父母はとても優しく暖かく、思い返せば一日の体感時間が短く感じられる。
それはとてもとてもありがたく、嬉しくてうれしくて………幸せなこと。
「あのね、すこしでもそんな気持ちを伝えたくてね、なにか贈り物をしようかなって」
「ふぅん」
「でね、何にしようかな?」
「なんでも、喜びそうだけど」
「ナルも、考えるの!!」
プレゼント内容を丸投げにしそうな雰囲気を感じ、先に制する。とは言ったもののジーンも何も考えつかない。
むしろ養父母にはそんなことを考えなくても良いのに、と言われそうだ。
悶々と熟考し始めた二人の前を、一人の男性が通っていった。手に持っているのを見て、二人は顔を見合わせた。
テレパスをしなくても相手が何を思いついたのか分かるのはやはり双子ならでは。
数分後、また違う男性が通りかかる頃にはもう双子の姿はなかった
****************************************
「ルエラ!マーティン!」
てこてこと、一人はこれでもかというくらいにこやかな笑顔で、もう一人は無表情ながらもどこか頬を緩めて、
やって来た。ナルの方は後ろに手を回して。
「おやツインズ、どうしたんだい?」
「うん、あのね、僕たち、ここに来てからとっても毎日が楽しくてね、全部二人のおかげなんだ。
それで『ありがとう』と『これからもよろしく』ってことでプレゼントを考えたんだ!貰ってくれる?」
スッとナルが掲げたのは綺麗に放送された箱のようなもの。
「あら、あら、そんなたいしたことじゃないのに………私たちも毎日がとても楽しいのよ。
ありがとう、私たちの所へ来てくれて」
ルエラはうっすらと目に涙をたたえて受け取った。丁寧に、丁寧に包装紙を剥がしていく。
マ-ティンもルエラの横に立ってそれを見守る。
出てきたのは………
「これは――――アルバム?」
スタンド型で、捲れば次々と写真が見られるようになっている。
一ページに二枚はいるようになっていて、三十枚が入れられる。
「公園でカメラを持っている人がいてね、思い出はやっぱり消えていくものもあるから、
だったら忘れないようなきっかけがあればいいと思ったんだ」
ここでの記憶は消えないで欲しいものばかり。
たとえもし、辛いことがあっても優しい家族と切り取られた優しい時間があれば、耐えられるはず。
「そうね、沢山撮りましょう。きっと、あっという間に埋まってしまうわね」
「だったらまた、新しいのを買えばいいさ。今度はみんなで買いに行こう」
ジーンが、照れくさそうに笑った。
だから辛くても、自分たちの進むべき道を見いだせた
辛くなかったことはない。苦しくなかったこともない
だからこそ、今でもずっと、感謝し続けている
それは、本当は言い現せられないほどの――――気持ちである
End
■ 麒麟さまより (キリ番ゲット♪/ナル麻衣)'09.7.2
<絆>
『四季折々の小道』さま宅で555のキリ番を踏んだのでリクエストさせて頂きました♪
初めてだという双子話をお願いしてみたのです。
カワイイーーー、ツインズ Love !!
麒麟さまありがとうございましたーーー(ぺこり)
期待なんて、絶対にしない。
「麻衣、来週の金曜誕生日だろ?おとーさんが盛大に祝ってやるからなー」
愛娘の淹れてくれたアイスコーヒーを堪能しながら、滝川は思い出したように麻衣に向き直った。
「滝川さんってば太っ腹ですね。ご馳走様です」
「コラコラ、誰がお前の分まで払うと言った。奢りは麻衣と真砂子だけだ」
「あら、私もですの?ありがとうございます」
「え〜、ノリオのいけずぅ〜」
「気色悪いシナを作るな!!」
「うわぁい、ありがとう!!ぼーさん大好き!!」
「よしよし、可愛いヤツめ!!」
デレッと相好を崩し、抱きついてきた麻衣の頭を撫でる滝川に綾子は大袈裟に溜息をついた。
「アンタね、誕生日当日は無理に決まってるでしょ?」
「何でだよ」
「馬鹿ね、気を遣いなさい。デートに決まってるじゃない」
「デートォ!?」
「いくらナルでも恋人の誕生日を忘れるなんてないんじゃありません?」
「きっとホテルとディナー予約してるわよ」
「そしてプレゼントは歳の数の薔薇の花束ですね」
「え〜、ナルがぁ〜?」
胡乱気に唸り、麻衣は想像してみた。
豪華なディナーを前に優雅に微笑むナル。
食事の後は夜景の綺麗なスィートルームへ。
そして、彼はそっと真紅の薔薇の花束を差し出す。
「麻衣、誕生日おめでとう」
穏やかに微笑み、そっと口付けを・・・・。
「怖っ!!」
ざっと血の気が下がり、粟立った腕をさする。
「あんたね、仮にも恋人に対してその反応は何よ?」
「だって、相手ナルだし。ありえないよ、私ここでバイト始めてから一度もナルから誕生日の話された事ない」
いつもイレギュラーズに無理矢理引っ張られて参加していた誕生パーティ。
気付けばいつの間にか彼はいなくなっていた。
祝いの言葉なんて一度たりとも貰った事はない。
「それが恋人になったからって急に態度変わると思えない。多分、私の誕生日だって覚えてないはず。私も教えてないし」
「・・・まあ、ナルですしね」
「仕方ない、綾子様が特製ケーキ作ってあげましょ!!」
「綾子スキーーー!!」
「ちょっと、危ないわよ!!」
「麻衣ってば単純なんですから」
「なにおぅ!!」
「うるさい」
ほのぼのとした雰囲気を一瞬にして霧散させたのは、天岩戸と化している所長室から姿を現したナル。
「よー、お邪魔してるぜ?」
「・・・全く。ここは喫茶店ではないと何度言えばわかるんですか?」
「いいじゃねーか。可愛い娘の顔を見に来たって」
「限度があると思うのですが?麻衣、お茶」
「はいはい」
「それと来週の金曜空けとけ」
「はいは・・・うぇぇ?」
麻衣を含む全員がナルに驚愕の眼差しを向けるも、本人は気にする事無く所長室へと姿を消した。
「良かったじゃありませんの、麻衣」
「今年の誕生日は忘れられない日になるんじゃないの?」
意味ありげな笑みを浮かべる綾子に麻衣は頬を紅潮させる。
「認めん、俺は認めんぞ・・・」
「あー、はいはい。うっとおしい」
「ノリオ、そんなに寂しいんだったら僕が慰めてあげますって」
「いらんわ!!」
周囲の喧騒も耳に入らず、麻衣は呆然と所長室の扉を見つめた。
ナルに指定された時間は昼前。
綾子に選んでもらった新しいワンピースに袖を通し、うっすらとメイクも施した。
指定時間二十分前、麻衣は逸る鼓動を静めながらインターフォンを押した。
「早かったな」
ドアを開けたナルは、常と違う出で立ちの麻衣に軽く眉を顰めた。
体を僅かにずらし、麻衣を招き入れる。
「どうしたんだ、その格好は?」
「どうしたって・・・・」
リビングへ通じるドアを開けると、床一面に散乱した書類が目に入った。
嫌な予感。
「ナル、今日って・・・」
「ああ、急遽本部から仕事が入って。資料の分類に時間をとってる暇がないから、頼もうと思ってな。時間外手当を出してやる」
「そ・・・うなんだ・・・」
足元が崩れるとは、こういう感じなんだろうか。
浮かれていた自分が惨めだった。
わかっていたはずだ、彼が自分に対してさほど興味を持っていない事に。
期待などしてはいけなかったのだ。
そうすれば、傷つく事はないから。
「じゃ、始めようかな。リストは?」
「ここに」
「わかった」
なるべく顔を見られないよう、俯いたままメモを受け取る。
「ま・・・」
「じゃあ、手当てのために頑張ります、所長!!」
努めて明るい声を出し、避けるかのようにナルから距離を取った。
仕事に集中すれば、余計な事を考えずに済む。
泣きたくはなかった。
彼に非はないのだから。
ただ自分が空回っただけ。
もう、慣れた。
手近にある書類を取ろうと伸ばした手は目的の物に届く前に、横から伸びてきた別の手に掴まれた。
「なにがあった?」
「どうして?」
「なぜ僕の顔を見ない」
「なんでもないって」
掘り返さないで。
刺激しないで。
この荒れ狂う醜い感情に気付かないで。
「麻衣」
強めの口調での呼びかけ。
顎を持ち上げられ、無理矢理視線を合わせられる。
じわりと視界が滲んだ。
「なぜ泣く?」
「ナルには関係ない」
「言え」
「断る」
「言え」
「いだだだだだっ!!」
頬を強く挟まれて悲鳴を上げる。
何が悲しくて、誕生日に恋人からこんな仕打ちを受けねばならないのだ。
「麻衣」
「もう、今日は何の日!!」
「は?」
「わかんないなら、この話はこれでおしまい!!離して!!」
腕を振りほどこうとするが男の力には敵わず。
それ所かますます力を込められ、麻衣は痛みに顔を顰めた。
「ナル!!」
「気に入らない」
「はあ?」
「その顔、気に入らない」
「すみませんね!!産まれてずっとこの顔ですよーだ!!」
悪態をつき、いっそ脛を蹴ってやろうかと右足を上げた瞬間、見越したかのように腕を引かれ、麻衣はバランスを崩した。
辿り着いた先はナルの腕の中で、逃げないよう腰に腕を回され麻衣は歯噛みする。
「忘れていたから怒っているのか?」
耳元で囁かれた言葉に、麻衣は呆然とナルを見上げた。
「え・・・?」
「誕生日、忘れていたから怒ってるんだろう?」
「知って・・・たの?誕生日・・・」
「毎年派手にぼーさん達が祝っていたからな。今、思い出した」
「別に怒ってないよ。自分自身に嫌気が差しただけ。ナルは悪くない」
「けれど、こっちでは恋人の誕生日は派手に祝ってやらなければいけないのだろう?それが彼氏としての使命だと聞いたぞ」
「誰に!?」
「安原さん」
何て事を。
全くのでたらめを信じきっているではないか。
「悪い、何の用意もしていない」
「別にいいよ。思い出してくれただけで十分」
心からの笑顔を向けてやる。
その言葉に嘘はなかった。
思い出されないまま、時が過ぎていくと思っていたのだから。
しかしナルは微妙な表情で思案し始めた。
「ナ、ナル?」
至近距離でのその表情は殺人的な破壊力を持つ。
離される事のない腕に戸惑い、麻衣はナルを見上げた。
「何の用意もしていない。けど、これだけはやれる」
「な・・・」
距離を一気に縮めて、ナルの唇が触れた。
柔らかく温かい感触に麻衣は目を見開く。
「お前を想う気持ち。僕の全て、お前にやろう」
「・・・・返せって言っても返さないよ?」
「もちろん」
「絶対返さないんだからね?」
「ああ」
「・・・・・・・ありがとう。最高のプレゼントだ」
ナルの胸に顔を埋め、涙声で麻衣がポツリと呟く。
髪を優しく撫でるナルの表情はどこか安堵しているかのようだった。
end
■ 水杏りん様より(フリー強奪/ナル麻衣)'09.7.2
<愛する記念日>
『夢幻の檻』の水杏りん様よりフリーを強奪しちゃいましたー♪
ぬふふふ。甘いよ〜vv 誕生日忘れててもナルってだけで甘いよ〜(笑)
安原さんグッジョブ!!!水杏りん様、ありがとうございましたー☆
さっきまで快晴だった空が、怪しく曇り出していた。
夕立でも来るのだろうか。
「ナル、どこへ行くんですか?」
「外のカメラを回収してくる」
今置いてるのは防水ではなかったはずだ。
いつもなら麻衣辺りに頼むのだが、現在彼女は滝川と共に室内の温度測定に行っている。
機材調整中のリンに頼むわけにもいかず。
仕方なしに自分で動く事にした。
「ほんなら僕も一緒しますよって。何があるかわかりまへんから」
「必要な・・・」
「お願いします、ブラウンさん」
言いかけた言葉を遮り、きっぱりと断言され、ナルは嘆息した。
「たでーまー」
「あれー?ナルとジョンはー?」
数分後、計測器片手に戻った麻衣と滝川が姿の見えない二人に首を傾げた。
「ああ、外のカメラを回収しに行きました。雨が降りそうだからって」
「え、大丈夫なのかな?」
「さっき振り出したぞ、結構強めのヤツ」
「私、傘持って迎えに行ったほうがいいかな?」
「必要ない」
「ナル!!」
間近に聞こえた声に飛び上がり、麻衣は慌てて振り返り、息を呑んだ。
雨に濡れて肌に張り付いたシャツ、華奢なナルの体のラインがくっきりと浮かび上がる。
髪から滴り落ちる雫に、煩わしげに髪をかき上げる姿のなんと色っぽい事か。
「ぼーさん、私、鼻血出そう・・・」
「根性で我慢しろ、花の女子高生」
「ほんま、急に振り出したどすなー」
ナルの後ろからひょっこりと覗く金髪。
走ってきたのか上気した頬に、肌に張り付いたTシャツ。
浮き上がった体のラインは意外にもがっちりと逞しく、
幼い顔立ちとのギャップに眩暈がする。
こちらも滴る雫が煩わしいのか、頭をプルプル降る様が子犬のようで可愛らしい。
何という破壊力。
「ぼーさん、こういうのを萌えって言うのかな?」
「頼むから俺に聞くな」
後日、その事を聞いた安原がその場にいなかった事をひどく後悔したそうな・・・・・。
■ 水杏りん様より(チャットで/ナル麻衣)'09.7.5
<ある調査のヒトコマ>
某所でお世話になってる『夢幻の檻』の水杏りん様より頂きました♪
水も滴るナルとジョン!!!!!!
大興奮して「下さい!!」と叫んだら下さいました(嬉)
今なら家中走り回って踊れそうです(笑)
水杏りん様ありがとうございました☆
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