*藤袴 -thoroughwort-*
☆次回イベント予定☆ ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★
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期待なんて、絶対にしない。
「麻衣、来週の金曜誕生日だろ?おとーさんが盛大に祝ってやるからなー」
愛娘の淹れてくれたアイスコーヒーを堪能しながら、滝川は思い出したように麻衣に向き直った。
「滝川さんってば太っ腹ですね。ご馳走様です」
「コラコラ、誰がお前の分まで払うと言った。奢りは麻衣と真砂子だけだ」
「あら、私もですの?ありがとうございます」
「え〜、ノリオのいけずぅ〜」
「気色悪いシナを作るな!!」
「うわぁい、ありがとう!!ぼーさん大好き!!」
「よしよし、可愛いヤツめ!!」
デレッと相好を崩し、抱きついてきた麻衣の頭を撫でる滝川に綾子は大袈裟に溜息をついた。
「アンタね、誕生日当日は無理に決まってるでしょ?」
「何でだよ」
「馬鹿ね、気を遣いなさい。デートに決まってるじゃない」
「デートォ!?」
「いくらナルでも恋人の誕生日を忘れるなんてないんじゃありません?」
「きっとホテルとディナー予約してるわよ」
「そしてプレゼントは歳の数の薔薇の花束ですね」
「え〜、ナルがぁ〜?」
胡乱気に唸り、麻衣は想像してみた。
豪華なディナーを前に優雅に微笑むナル。
食事の後は夜景の綺麗なスィートルームへ。
そして、彼はそっと真紅の薔薇の花束を差し出す。
「麻衣、誕生日おめでとう」
穏やかに微笑み、そっと口付けを・・・・。
「怖っ!!」
ざっと血の気が下がり、粟立った腕をさする。
「あんたね、仮にも恋人に対してその反応は何よ?」
「だって、相手ナルだし。ありえないよ、私ここでバイト始めてから一度もナルから誕生日の話された事ない」
いつもイレギュラーズに無理矢理引っ張られて参加していた誕生パーティ。
気付けばいつの間にか彼はいなくなっていた。
祝いの言葉なんて一度たりとも貰った事はない。
「それが恋人になったからって急に態度変わると思えない。多分、私の誕生日だって覚えてないはず。私も教えてないし」
「・・・まあ、ナルですしね」
「仕方ない、綾子様が特製ケーキ作ってあげましょ!!」
「綾子スキーーー!!」
「ちょっと、危ないわよ!!」
「麻衣ってば単純なんですから」
「なにおぅ!!」
「うるさい」
ほのぼのとした雰囲気を一瞬にして霧散させたのは、天岩戸と化している所長室から姿を現したナル。
「よー、お邪魔してるぜ?」
「・・・全く。ここは喫茶店ではないと何度言えばわかるんですか?」
「いいじゃねーか。可愛い娘の顔を見に来たって」
「限度があると思うのですが?麻衣、お茶」
「はいはい」
「それと来週の金曜空けとけ」
「はいは・・・うぇぇ?」
麻衣を含む全員がナルに驚愕の眼差しを向けるも、本人は気にする事無く所長室へと姿を消した。
「良かったじゃありませんの、麻衣」
「今年の誕生日は忘れられない日になるんじゃないの?」
意味ありげな笑みを浮かべる綾子に麻衣は頬を紅潮させる。
「認めん、俺は認めんぞ・・・」
「あー、はいはい。うっとおしい」
「ノリオ、そんなに寂しいんだったら僕が慰めてあげますって」
「いらんわ!!」
周囲の喧騒も耳に入らず、麻衣は呆然と所長室の扉を見つめた。
ナルに指定された時間は昼前。
綾子に選んでもらった新しいワンピースに袖を通し、うっすらとメイクも施した。
指定時間二十分前、麻衣は逸る鼓動を静めながらインターフォンを押した。
「早かったな」
ドアを開けたナルは、常と違う出で立ちの麻衣に軽く眉を顰めた。
体を僅かにずらし、麻衣を招き入れる。
「どうしたんだ、その格好は?」
「どうしたって・・・・」
リビングへ通じるドアを開けると、床一面に散乱した書類が目に入った。
嫌な予感。
「ナル、今日って・・・」
「ああ、急遽本部から仕事が入って。資料の分類に時間をとってる暇がないから、頼もうと思ってな。時間外手当を出してやる」
「そ・・・うなんだ・・・」
足元が崩れるとは、こういう感じなんだろうか。
浮かれていた自分が惨めだった。
わかっていたはずだ、彼が自分に対してさほど興味を持っていない事に。
期待などしてはいけなかったのだ。
そうすれば、傷つく事はないから。
「じゃ、始めようかな。リストは?」
「ここに」
「わかった」
なるべく顔を見られないよう、俯いたままメモを受け取る。
「ま・・・」
「じゃあ、手当てのために頑張ります、所長!!」
努めて明るい声を出し、避けるかのようにナルから距離を取った。
仕事に集中すれば、余計な事を考えずに済む。
泣きたくはなかった。
彼に非はないのだから。
ただ自分が空回っただけ。
もう、慣れた。
手近にある書類を取ろうと伸ばした手は目的の物に届く前に、横から伸びてきた別の手に掴まれた。
「なにがあった?」
「どうして?」
「なぜ僕の顔を見ない」
「なんでもないって」
掘り返さないで。
刺激しないで。
この荒れ狂う醜い感情に気付かないで。
「麻衣」
強めの口調での呼びかけ。
顎を持ち上げられ、無理矢理視線を合わせられる。
じわりと視界が滲んだ。
「なぜ泣く?」
「ナルには関係ない」
「言え」
「断る」
「言え」
「いだだだだだっ!!」
頬を強く挟まれて悲鳴を上げる。
何が悲しくて、誕生日に恋人からこんな仕打ちを受けねばならないのだ。
「麻衣」
「もう、今日は何の日!!」
「は?」
「わかんないなら、この話はこれでおしまい!!離して!!」
腕を振りほどこうとするが男の力には敵わず。
それ所かますます力を込められ、麻衣は痛みに顔を顰めた。
「ナル!!」
「気に入らない」
「はあ?」
「その顔、気に入らない」
「すみませんね!!産まれてずっとこの顔ですよーだ!!」
悪態をつき、いっそ脛を蹴ってやろうかと右足を上げた瞬間、見越したかのように腕を引かれ、麻衣はバランスを崩した。
辿り着いた先はナルの腕の中で、逃げないよう腰に腕を回され麻衣は歯噛みする。
「忘れていたから怒っているのか?」
耳元で囁かれた言葉に、麻衣は呆然とナルを見上げた。
「え・・・?」
「誕生日、忘れていたから怒ってるんだろう?」
「知って・・・たの?誕生日・・・」
「毎年派手にぼーさん達が祝っていたからな。今、思い出した」
「別に怒ってないよ。自分自身に嫌気が差しただけ。ナルは悪くない」
「けれど、こっちでは恋人の誕生日は派手に祝ってやらなければいけないのだろう?それが彼氏としての使命だと聞いたぞ」
「誰に!?」
「安原さん」
何て事を。
全くのでたらめを信じきっているではないか。
「悪い、何の用意もしていない」
「別にいいよ。思い出してくれただけで十分」
心からの笑顔を向けてやる。
その言葉に嘘はなかった。
思い出されないまま、時が過ぎていくと思っていたのだから。
しかしナルは微妙な表情で思案し始めた。
「ナ、ナル?」
至近距離でのその表情は殺人的な破壊力を持つ。
離される事のない腕に戸惑い、麻衣はナルを見上げた。
「何の用意もしていない。けど、これだけはやれる」
「な・・・」
距離を一気に縮めて、ナルの唇が触れた。
柔らかく温かい感触に麻衣は目を見開く。
「お前を想う気持ち。僕の全て、お前にやろう」
「・・・・返せって言っても返さないよ?」
「もちろん」
「絶対返さないんだからね?」
「ああ」
「・・・・・・・ありがとう。最高のプレゼントだ」
ナルの胸に顔を埋め、涙声で麻衣がポツリと呟く。
髪を優しく撫でるナルの表情はどこか安堵しているかのようだった。
end
■ 水杏りん様より(フリー強奪/ナル麻衣)'09.7.2
<愛する記念日>
『夢幻の檻』の水杏りん様よりフリーを強奪しちゃいましたー♪
ぬふふふ。甘いよ〜vv 誕生日忘れててもナルってだけで甘いよ〜(笑)
安原さんグッジョブ!!!水杏りん様、ありがとうございましたー☆
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さっきまで快晴だった空が、怪しく曇り出していた。
夕立でも来るのだろうか。
「ナル、どこへ行くんですか?」
「外のカメラを回収してくる」
今置いてるのは防水ではなかったはずだ。
いつもなら麻衣辺りに頼むのだが、現在彼女は滝川と共に室内の温度測定に行っている。
機材調整中のリンに頼むわけにもいかず。
仕方なしに自分で動く事にした。
「ほんなら僕も一緒しますよって。何があるかわかりまへんから」
「必要な・・・」
「お願いします、ブラウンさん」
言いかけた言葉を遮り、きっぱりと断言され、ナルは嘆息した。
「たでーまー」
「あれー?ナルとジョンはー?」
数分後、計測器片手に戻った麻衣と滝川が姿の見えない二人に首を傾げた。
「ああ、外のカメラを回収しに行きました。雨が降りそうだからって」
「え、大丈夫なのかな?」
「さっき振り出したぞ、結構強めのヤツ」
「私、傘持って迎えに行ったほうがいいかな?」
「必要ない」
「ナル!!」
間近に聞こえた声に飛び上がり、麻衣は慌てて振り返り、息を呑んだ。
雨に濡れて肌に張り付いたシャツ、華奢なナルの体のラインがくっきりと浮かび上がる。
髪から滴り落ちる雫に、煩わしげに髪をかき上げる姿のなんと色っぽい事か。
「ぼーさん、私、鼻血出そう・・・」
「根性で我慢しろ、花の女子高生」
「ほんま、急に振り出したどすなー」
ナルの後ろからひょっこりと覗く金髪。
走ってきたのか上気した頬に、肌に張り付いたTシャツ。
浮き上がった体のラインは意外にもがっちりと逞しく、
幼い顔立ちとのギャップに眩暈がする。
こちらも滴る雫が煩わしいのか、頭をプルプル降る様が子犬のようで可愛らしい。
何という破壊力。
「ぼーさん、こういうのを萌えって言うのかな?」
「頼むから俺に聞くな」
後日、その事を聞いた安原がその場にいなかった事をひどく後悔したそうな・・・・・。
■ 水杏りん様より(チャットで/ナル麻衣)'09.7.5
<ある調査のヒトコマ>
某所でお世話になってる『夢幻の檻』の水杏りん様より頂きました♪
水も滴るナルとジョン!!!!!!
大興奮して「下さい!!」と叫んだら下さいました(嬉)
今なら家中走り回って踊れそうです(笑)
水杏りん様ありがとうございました☆
※無断転写は絶対にお辞め下さい!
■ 素敵絵師様より(絵茶ログ強奪/GH)'09.8.26
<素敵絵茶ログ☆>
素敵絵師様6人による絵茶を覗かせて頂きました♪
LS様/ハイゴ様/はる様/若宮様/美桜子様/アリズミ様
素晴らしい萌えの数々を本当にありがとうございます!!!
そしてサイトへの掲載許可まで頂き只管に感謝感謝感謝です!!!!
皆様にもこの幸せな萌えをvvv
あと僭越ながらSSSを書かせて頂きましたのでこちらからどうぞ♪
豪華絵茶を覗かせて頂き至福の時を過ごせました♪
ありがとうございます!!素敵絵師さま方に捧げますのでお納め下さいませ(ぺこ)
●LS様へ
「見て見てーーーーー!!!」
どたどたと足音を響かせて走って来たかと思えば勢い良く僕の部屋のドアを開けるジーン。
まったくもって騒がしい兄だ。
今度は一体何だ? そう思って開いたドアを見やれば、腰に手を当て胸を張っている。
........?相変わらず意味不明な事をする。無駄な事は止め、僕は読んでいた本に視線を戻す。
「ナ〜ル〜ぅ、もう! 見てってばー」
「はぁ....今見ただろう。それ以上僕にどうしろと言うんだお前は」
「見て判んない!? 今、大人気なんだよ!!」
「.......判れば訊き返さない」
「ナルって自分が興味無いことにはまったくの無知だよね」
「必要を感じない」
「はぁ....見た事ない? このピンクのベスト」
「.........?」
「春日です!!(えっへんvv)」
「.....馬鹿だとは思っていたが、そこまでとは」
「そんな憐れむような目で僕を見ないでよ!!」
キャンキャンキャンと喚くジーンを他所に、今度こそ僕は本へと意識を集中した。
あ、そう言えばジーンの頭にウサギの耳があったような気がする......
まぁ気にする事でもないか。
●ハイゴ様へ
「ふぅ...今日も暑い日でおした....」
僕は今、某イベントの着ぐるみの中の人を演じるアルバイトをさせてもろーてます
教会の方はボランティアの方々が手伝どーてくれてはりますんで大丈夫なんどす
僕が演技するやなんて無理や思っとったんですが、回りの皆さんに助けてもろーて何とか頑張っとります
「ブ、ブラウンさん....」
「はい? あ、今日もお疲れさんどした」
背後から声を掛けられ振り返ったらイベントでお世話になっとります方が居はりました
「オツカレサマデシタ!!あ、あの!こ、こここ、このあと!お、時間っ」
「何やお顔赤いきーしますが?」
イベント中はきっちりと演技されとる方なんどすが、普段は何やら片言っぽいんどす
僕が言うのもおかしー話でおますが...それに顔がえろう赤こうなって、もしや熱中症ちゅうヤツでっしゃろか?
今日は早う帰って休んだ方がええにゃないでしょか?
そーゆうたら、何や肩を落として頷かれはったんですが、体調が更に悪ぅなってしもたとか?
うーん、やっぱり心配どすなぁ
●はる様へ
「「「あっ!」」」
ばしゃぁっ!! 視界にそれを捕えた全員が短い叫び声を上げた次の瞬間、水音が響いた。
ポタポタと滴り落ちるのは紅茶。淹れたての熱湯ではなかったのは幸いであろう。
「ごごごご、ゴメン....ナ、ナル、大丈夫?」
恐る恐る顔を上げた麻衣。その先にあった惨状に内心 “ひぃぃぃぃ” と悲鳴を上げそうになった。
咄嗟に本だけは安全圏へと移動させている辺りはさすがと言えようが、身体は見事に濡れ鼠。
今も沈黙したままのナルがひじょーに怖い.....
ガタっ
「!!!! 」
いきなり立ち上がったナルに背筋が凍る麻衣。
が、ナルはそのまま麻衣の横を素通りするとリンに声を掛ける。
「何か着るものを」
「......探してきます」
リンの言葉に頷くと、ナルは所長室へと戻った。
振り返る事無くパタンと閉じられた扉に麻衣はオロオロと視線を彷徨わせる。
「谷山さん、大丈夫ですから」
非常に珍しいリンの縁起の良い笑顔を向けられ、麻衣の心も幾ばくか軽くなる。
「任せて下さい」と言ったリンは何やら服を持って所長室へと向かう。
「リン.....」
「どうかされました?」
非常に低い声でリンの名前を呼ぶナルに対し、リンはしれっとした顔で聞き返す。
「何だ....これは?」
「Tシャツです。今それしかありません」
「................覚えていろ」
●若宮様へ
「わんvv (なるvv)」
餌入れを持って立つナルの前、きらきらと瞳を瞬かせた犬が一匹。
お座りの恰好で待っているもののパタパタと忙しなく尻尾が揺れている。
「ジーン、お座り.......良し。では、待て.......」
餌入れと新しい水をジーンの目の前に置き、手の平を向けながら「待て」と告げるナル。
しかし元々落ち着きの無かったジーンは餌に目を向け一層ウズウズとしている。
「わわぅわぅ?(食べて良い?)」
こてんっと小首を傾げるように下からナルを見つめるジーン。
しかしナルにそんな技が通用する訳がない。
再び「待て」と繰り返すナルに、ジーンはムクれる。
「わぉーんっ!(ふーんっだ!)」
「あ、こら!! 待てと言ってるだろう!」
怒るナルに構わず、ジーンは勢い良く餌を食べ始めた。
一心不乱に餌をパクつく姿は可愛いらしい.....ナルがそう思ってるかは別として。
「........この馬鹿犬め」
ちっ、と舌打ちしつつも、食べてしまったモノは仕方無いと諦めるナル。
馬鹿犬なんか放っておいてささっと昨日の論文を読んでしまおうと書斎へと向かう。
否、向かおうとした。ナルが動く気配を捕えたジーンは、とっても嬉しそうに飛び付く。
......ナルが散歩に連れて行ってくれるとでも思ったのでしょうか?
それではナルの馬鹿犬発言は否定できませんよ?
「重い。離れろ」
「わふわふvv (遊んでvv)」
「やめろ、ジーン!!離れろと言ってるだろう!!」
「わぅわぅ♪(やーん♪)」
●美桜子様へ
「麻〜衣vv 元気かーーー!?」
カランコロン とバイト先のドアを開けた瞬間聞こえたのは、ぼーさんの声。
確か先日、沖縄に行って来ると旅立って行ったはず....
カレンダーに目をやれば、そう言えば昨日が帰って来ると言っていた日だった。
「ぼーさん、お帰りーv 今、アイスコーヒー淹れるね」
「おぅ!」
仲良し父娘(おやこ)のやり取りに、珍しくその場に居たリンが苦笑し、ナルは一切無視である。
「で、今日はどうしたの?」
「よくぞ聞いてくれました!!! 麻衣にお土産買ってきたんだ〜〃〃」
いそいそと横に置いていた袋をあさり出した滝川を何と無しに見やった麻衣。
ふと、その服に目が行った。
「.......えーっと、アレだよね...ぼーさんって、たまに...斬新な服着てるよね」
「んー? そーかー? あぁ!心配するな! コレは麻衣にも買ってきたぞー♪」
「え”? ..........」
「ほぉ〜れ♪」
ギョッとして固まる麻衣の目の前に差し出されたのは、今ぼーさんが着ているTシャツの色違い。
...........麻衣は自分の頬が引き攣るのが判った。
チラリとリンに助けを求めてみれば、ゆっくりと視線を逸らされた。
「ぼーさん.....」
「どうしたー、麻衣?」
「ゴメン.....あたし、それ着こなす自信ないからいいや」
なるべく言葉を選んで告げた麻衣だったが滝川は衝撃を受けたように固まった。
その背中には哀愁さえ漂って.......
しかし迂闊なフォローをしてそのTシャツを着るハメにだけはなりたく無い麻衣。
心を鬼にして沈黙を貫いた。
●アリズミ様へ
いつものように俺はふらりと其処に立ち寄った。
俺は放浪猫ってやつだ。自由気侭に自分がその時に行きたいと思った場所へ行くんだ。
野良? 違うぞ! そんなのよりもっと高尚に呼んでくれ!!
俺はどこへ行っても歓迎されるんだぞ!!
うちに住んでも良いって人間だって沢山居たんだからな!!!
まったく、判ってないなぁ〜。定住の地を捨ててさすらうのが格好良いんじゃないか!
「にゃぁ! ににゃ〜ん!(よぅ! 邪魔すんぜ〜!)」
「おや? 久し振りですね、ほーしょう」
「うにゃ、うにゃにゃん?(おぅ、元気か?)」
「相変わらずですねアナタは。あ、お腹空いてませんか?」
「うみゃっ!!(食うっ!!)」
こいつは林 興徐。
滅多に見れないらしい縁起の良い笑顔ってヤツを浮かべ俺の飯を用意しに行った。
俺の事を「ほうしょう」って呼ぶんだ。みーんな俺の呼び方が違うんだけど、この名前結構気に入ってるんだぜ。
あとこいつの傍で寝るのも落着いて、何ていうかしっくり来るんだよなぁ〜。
ま、俺はこの放浪生活を辞める気はないがな。
美人だけど気の強いねーちゃんとか、眼鏡の怪しい少年とか、着物の似合う可愛い子とか、ほんわり笑顔の神父も居たな。
あと、可愛いじょしこーせーとか、もれなく付いて来る真っ黒いヤツとか一人に絞るなんてもったいねー。
俺は旅人。
でもたまには相手してやるからよぅ。
俺の事、忘れんじゃねーぞ! リン。
仕事が終わり、久しぶりに愛娘の顔を見ようとオフィスに行ってみた。
それが、いけなかった。
なんてタイミングが悪いんだろう、と今更ながらに思う。
まあ、結局どうせまた行くのだけど。
事は、ちょうどお茶の時間に起こった。
「麻衣、お茶」
例の如く、所長室から出てくるなりお約束の台詞を発したナル。
いつものことなので、麻衣は給湯室に行きお茶を淹れてきた。
相変わらずの手際の良さだ。
ちゃっかり一緒に、先程綾子が持ってきたゼリーの姿もあるけれど。
「はい、どうぞ」
紅茶とゼリーをナルの前に置けば、彼はやはりカップを手にとる。
視線は片手の本に固定され、ゼリーは綺麗に無視されていた。
もしかしたらすでに存在を忘れているのかもしれない。
「ナル、ゼリーは食べないの?」
「いらない」
「えー。美味しいのに」
唇を尖らせてゼリーを頬張る麻衣を、ナルは一瞥するだけ。
予想通りの反応に肩を竦めながら、麻衣はオレンジ色をしたゼリーを口に運んだ。
有名店だけあって美味なゼリーに表情を緩めた麻衣に、周囲もナルの態度など頭の隅に追いやった。
無愛想な仏頂面より、幸せそうに笑う(たとえそれがお土産のゼリーだとしても)方が、見ていて微笑ましい。
現に滝川もつられて相好を崩している。
彼は単なる親ばかなだけだが。
一人黙々と読書をしていたナルは、パタリと本を閉じた。
カップの中の残り少ない紅茶を飲み干し、軽く音を立てて置いた。
静かに立ち上がり、麻衣を見下ろす。
「所長室にお茶を」
「はーい」
「それから」
言葉を途切れさせ、スプーンに乗った最後の一口を口内に運んだ麻衣の後ろに回り込む。
反射的に見上げた麻衣の唇に、己のそれを重ねて。
ゆっくりと目を見開いた部下から離れると、ナルは唇で薄く笑みを作った。
「甘いな」
その時の麻衣や滝川の表情は見物だったと、後日、通称越後屋は笑顔で語った。
硬直した麻衣と滝川、笑顔の安原に呆れた表情の綾子。
三者三様の反応を見やると、ナルは何も無かったかのように所長室に戻っていく。
そして静かに閉められた扉の音に麻衣と滝川が叫び出すまで、あと三秒。
end
■ 月羽さまより (悪☆オンで/ナル麻衣)'09.9.9
<博士の突発的行動>
某所で大変お世話になってる『狂桜月夜』の月羽 湊渡さまより頂きましたー☆
この後の所長室が一体どうなったのか非常に気になります(笑)
月羽さま、ありがとうございました。
厳しい暑さも過ぎ去り、季節は秋へと差しかかろうとしていた。
夏の間ガンガンと酷使されていたエアコンも漸く休暇を言い渡され、沈黙している。
窓から流れてくる風は僅かな冷たさを含み、心地良い。
資料室から姿を現したリンは、風を感じ目を細めた。
喉が渇いたのでお茶を頼もうとしたのだが、麻衣の姿が見えない。
安原がまだ出勤していないため、声を掛けずに出かけたとは考えられなかった。
「谷山さん?」
視線を巡らせると、応接室のソファからはみ出した足が見えた。
覗き込めば、くぅくぅと気持ち良さ気な寝息を立てて眠る麻衣の姿にリンは苦笑する。
試験続きで寝不足だといっていた事を不意に思い出す。
一体いつから寝ていたのだろう。
しかもこんな薄着で、何も羽織らず。
このままでは風邪を引くし、何よりナルの拳骨が落ちるに違いない。
見て見ぬ振りをするのは憚られ、リンは麻衣を起こそうと細い肩を揺さぶった。
「谷山さん、起きて下さい」
「う・・・んぅ・・・」
軽く身じろぎ、麻衣は狭いソファで器用に寝返る。
その際、ただでさえ短いスカートが捲れてしまい、白くスラリとした太腿がむき出しになった。
思わず硬直してしまい、リンは眩しい脚線美を凝視してしまう。
はっと我に返り、とりあえずスカートを元に戻そうと手を伸ばした。
まさにその瞬間。
「何をしている?」
ぞくりとするほどの低音ボイスが背後から掛けられる。
その声に驚き、リンは動きを止めた。
そして冷静に自分のおかれている状況を分析し、一気に青ざめる。
どう見ても眠っている麻衣に邪な悪戯をしようとしているように見える、自分の体制。
リン本人にその気は全くないとしても、他者からはそう見えてしまうという悲しき現実。
そして背後に立つのは絶対零度のブリザードを吹き散らしたナル。
彼の放つ禍々しいオーラに、どんな悪霊相手でも立ち向かって行く式達が恐れをなして我先に逃げようとしている。
主の権限を持って、それだけは阻止しているが一体何時まで持つことやら。
「言い訳があるなら聞くが?」
それは言葉通り、ただ聞くだけ。
決して彼に対する処遇が軽くなるわけではない。
「ナル、誤解です」
無駄とは思いつつも自己弁護をしてみる。
「ほぅ?」
徐々に下がりつつある室温に背筋を冷やしながらも、リンはこの展開をどうやって打破しようかと思い悩んだ。
「な・・・る?」
ナルの声が聞こえたためか、漸く覚醒したらしい舌足らずな麻衣の声にリンは安堵する。
だが、しかし。
「なる~、だ~いすき」
極上に甘い声を出しつつ、麻衣はリンの手を引き己の胸に抱きこんだ。
思いっきり寝惚けている。
そして、一気に下がってしまった室温。
これはもしや氷点下にまでなってるのではなかろうか。
麻衣に抱きこまれたまま呆然としているリンには、柔らかな胸の感触を楽しむ余裕などない。
ビシバシと突き刺さってくる殺気が痛い。
不可抗力だと叫んだ所で、聞き入れてもらえるとは露ほどにも思えなかった。
「・・・麻衣、起きろ」
「いったぁぁぁぁ!!」
脳天に懇親の力を込めた拳骨を落とされ、さすがの麻衣も飛び起きる。
その際、抱き込まれたままのリンの首が嫌な音を立てたが、誰もその事には気付かない。
「あ・・・あれ?寝ちゃってた?うっわぁ!!リンさん!?」
驚き、麻衣は思わずリンを突き飛ばした。
フリーズしていたリンはなす術もなく体制を崩し、背後に鎮座していたテーブルに後頭部を打ちつける。
しかも角で。
ガツンと嫌な音が響いた。
しかし、狼狽している麻衣は気付かない。
「転寝をするほど暇なら仕事をくれてやろう」
うっそうと微笑むナルに麻衣は一気に血の気が引いた。
かなりの破壊力を持った笑みを間近で見てしまい、硬直した体は動かない。
ナルお墨付きの第六感はけたたましく危険警報を響かせる。
石像のように固まっている麻衣の身体を抱き上げ、向かうのは鉄壁の防音を誇る所長室。
「ご、ごめんなさーい!!許してーーーー!!助けてーーー!!」
助けを求める声は誰にも届かず。
無情にも所長室の扉は閉まった。
丁寧にも鍵まで掛けられて。
数分後、出勤してきた安原によって行き倒れているリンが発見された。
机に後頭部を預け、ぐったりしているリンの姿にさすがの安原も度肝を抜かれたという・・・・・・・・・。
end
■ 水杏りん様より(ナル麻衣+不憫リン)'09.9.11
<それはある意味、お約束>
『夢幻の檻』の水杏りん様より頂きました♪ さすがは不憫マイスター様vvvvv
リンさんの背中に漂う哀愁が堪りません(笑)素敵な不憫をありがとうございました。
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