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*藤袴 -thoroughwort-*

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「ブロッシュ軍曹、戻らなくて良いのか?」

そう訊ねたのはセントラルの西部へ向かう車の中。
なぜか運転席に座る某軍曹が居る所為だ。

「少将からのご命令は、怪我人の保護と運搬だからね。それに今僕がお送りしているのは、少佐相当官の国家錬金術師殿です。なので職務的に何ら問題は発生しませーん」
「良いのかよ、それで...」

あっけらかんと言ってのけるブロッシュにエドワードは呆れてしまった。

「状況は聞いてる?」
「僕は下っ端だから。ただ、上層部からの命令は反乱者を排除せよと...」
「名前は正式に挙がってる?」
「...中心はマスタング大佐とその側近と言われているけど、僕が知っているだっけでもかなりの数の軍人が反旗を翻している。今、軍に残っている者の中でもマスタング大佐へ攻撃する事を躊躇う下士官は多いはずだよ」
「下には受けが良いからな大佐は...」

窓の外を見つめながらエドは小さく呟いた。
その横顔をバックミラー越しに見ていたブロッシュは意を決っしたように声を掛けた。

「マスタング大佐は、どう言う人なんだろう?」
「.........」

思いがけない問いに、エドは瞳を瞬いた。

「どう? ってのは、どう言う意味で?」
「う〜ん...何て言えば良いのか俺も良く判らないんだけど、エド君から見たマスタング大佐はどう言う人なのか、教えて欲しいなと思ったんだ」
「俺から見た大佐....笑顔が胡散臭い、嫌味な野郎、ムカつく、童顔、女ったらし、雨の日無能」

少し悩んだ後、スラスラと悪口を並べ立てるエドにブロッシュの頬はやや引き攣っている。

「えーっと、そう言うんじゃなくて......そうだなぁー、例えばテロリストが人質と取っていた。テロリストは人質に拳銃を突き付け軍に仲間の解放と金を要求してきた。しかし軍はこれに応じず、強行突破で人質救出の作戦を決行した。だが、人質の元へ潜り込む予定の軍人が運悪くテロリストたちに見付かった。激昂したテロリストは人質と軍人、両方に銃を向ける。この場合、マスタング大佐はどうする?」
「どちらも助ける。片方を見捨てるような選択肢は無い」
「でも、どうしてもって時があるだろう?」
「だからまず、そんな状況にならない様、ありとあらゆる可能性を踏まえて作戦を立てる。部下の技量を見据えた上で、必ず成功すると確信できる最前の策を選ぶ。無謀に見える作戦も緻密に計算された上で提示される。曰く “君たちなら出来るだろう?” と。そんな全幅の信頼に中尉達は完璧に答える。失敗する事はまず無い」

そこで一旦言葉を切り、ブロッシュから視線を外したエド。
しばし瞑目したのち、静かに続けた。

「もし、大佐の作戦が冷酷だと感じる事が有ったなら、それ以外、方法が無かったからだろう」
「では.......ロス少尉もそれ以外方法は無かったんでしょうか?」

静かに訊ねられた言葉にエドはブロッシュを見た。


「俺は、中佐...ヒューズ准将を殺した犯人を知っている」

厳かに告げられた言葉にブロッシュが息を飲む。

「あの時、大佐はロス少尉と話しがしたかった。でも上層部は有無を言わせずロス少尉を犯人に仕立て上げるつもりだったから、刑務所での面会は許可されなかった。だから、ちょっとしたツテでロス少尉を脱走させて死んでも仕方無い状況下にした」
「で、ではマスタング大佐は!!」
「大佐はロス少尉の言葉を信じた。俺が言えるのはここまでだな」

これ以上の質問は受け付けないとばかりに、エドは視線をまどの外に戻した。

「....最後に、一つだけ。マスタング大佐も、ヒューズ准将殺害の真犯人をご存知なんですね?」
「あぁ。俺が伝えた。ブロッシュ軍曹、ここで良い。停めてくれ」
「エド君、どこに行くんだい?」

そう訊いたブロッシュにエドはニヤリと人の悪い笑みを浮かべこう言った。

「高いとこ♪」



「エ、エドく〜ん! ま、待ってよ〜!」
「根性ねーな、怖いんなら下で待ってりゃ良いだろう?」
「そ、そういう訳には行きませーん!」

ここはセントラルで二番目に高い時計塔の階段。
途中で足が竦んでいるブロッシュと軽快に上を目指すエド。
最上段にある鍵の掛かった扉を錬金術で開けると目の前にはセントラルの街が広がっていた。

「やっぱ、こっからだと良く見えるな。少し圧されてる? この人数差ならこんなもんか? 否、西は囮か?」
「な、何でそんな事が判るかな〜?」

呟くと戦況を把握する為、鋭い視線で周囲を見渡す。
やっと追いついたブロッシュが首を捻る。

「んー? だたのカン。うん。南側だ、きっと」

そう言って身を翻す。

「も、もう降りるの〜?」

やっと上ったのに....と肩を落とすブロッシュに苦笑する。

「疲れてるとこ悪いけど、行って欲しいとこがあるんだ」





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「おはようございます、マスタング中将」
「おはよう」

ピンと背筋を伸ばし、最敬礼で迎えるは大総統府の門番。
まさか自分がここに門番に顔を覚えられるほど通う事になるとは思いもしなかった。
否、ほぼ泊まり込んでいると言っていい。

ここには私が唯一愛した者が眠っている。
そう文字通り眠っているのだ。半年前、あの戦いからずっと....


目的の部屋を目指しながら長い廊下を歩く。
コツコツという自分の足音だけが響いている。
ふと窓に目をやれば赤く染まった葉が舞い落ちている。

「半年か」

それが長いのか短いのか自分には判断が付かない。
1年以内と愛する者の父親は言っていた。
目覚めると言うのならば私は待とう、いつまでも。
君が目の前に居るというのに何も出来ない事がこんなにも歯痒いとは思わなかったよ...

早く戻って来たまえ


.........エドワード








「誰だ!!」
「ひぃぃぃぃ! う、撃たないで下さい!!」

ジャキッと銃を向けたブレタが聞いたのは何とも情けない声。
どうしたものかと上官へ視線を向ければ、彼女は少し驚いているようだった。

「あなたは確か、アームストロング少佐の....」
「はい! 少佐の部下でブロッシュと申します。マ、マスタング大佐に伝言をお預かりして来ました」
「誰からのだ?」
「わ、渡せば判るらしいのですが。えーっと、ホークアイ中尉ですよね?あなたでも良いらしいのですが....」

そう言って差し出されたのは白い封筒。ホークアイは内心首を傾けつつ受取った。
クルリと裏返せば見慣れた刻印。思わず頬が緩んでしまう。

「あら?」
「中尉?」

訝しげにブレタが訊ねるが、それに答えること無くご機嫌な様子で奥へと促した。



「大佐、失礼致します」
「中尉か? どうした?」
「今し方、ブロッシュ軍曹が来られました」
「ブロッシュ...?」
「アームストロング少佐の部下の男性です」
「あぁ、で理由は?」
「はい。マスタング大佐へラブレターのお届けだそうです」
「.......中尉」
「冗談です。でも、とっても可愛らしい封筒ですよ?」

珍しい。くすくすと中尉が笑っている。
差し出された封筒に目をやれば、確かに微笑ましい。

「おや? モテる男は辛いもんだ」

軽口を叩きながら中の手紙に目を通す。我ながら現金なものだ。
手紙一つでこうも気分が浮上するとは...
顔を上げれば主立った部下が揃っていた。ブレタが焦れたように問いかける。

「で、大佐。それ誰からなんです?」
「ん? 金の子猫...かな?」
「子猫....エドですか?」
「で、エドワード君は何と?」

ホークアイが訊ねれば、ロイは流れるようにこう読み上げた。


「朝日は山に埋もれ、星は海に沈み、太陽は雲に覆われ、吹雪は収まらず、内に残るは強さなり」


「暗号ですか?」
「これは中々に頼もしいね」
「どういう意味です?」

判らないと顔を見合わせる部下にロイは笑いながら告げる。

「東はグラマン、西はトーンスタイン、南はリカール、北はネルソン、中央にアームストロング」
「地方の指令官ですね?」
「彼らが動き出したらしい」
「他には?」
「あとは私への激励かな?」
「へー、エドの奴も大佐に激励なんて書くんですねー」

意外だと言うブレタに笑みを返しながら “読むかね?” と手紙を渡してやった。





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++++++++++++++++++++++++++++++++++++

よう! 大佐、聞いたぜ? 軍に喧嘩売ったんだって?
あんたのお高いプライドもざまねーな。
まぁ、上からの妬みも無くなって丁度いいんじゃねーか。
そう言えば、ウエストが緩くなって街のお姉さま方に時間掛けて積み上げたイメージが壊れたって聞いたぜ。
誰も言わないなら今から俺が言ってやる。
あんた肝心なとこでミスして足下から崩れ落ちるタイプだろう。
格好悪ぃーの!! 精々、家から逃げられないようにしとけよ。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++



「「「「.......」」」」
「これ、激励ですか?」

他に言葉が出ないらしい。呆然とブレタが問うてくる。

「所々、不自然だろう?」
「....文脈が繋がっていない気はしますが」

それが? とブロッシュも一緒になって首を傾けている。

「ちゃんと読み取りたまえ。そんなんじゃモテないぞ? まずはここ、“上からの妬みも” とあるが、上はもちろん軍上層部。妬みもの “も” は何に掛かるのか? それは前の文章の “高いプライド” だ。確かホムンクルスの中に嫉妬とプライドの名を持つ者が居たはずだ」
「エンヴィーとプライドですね? “無くなって” と言う事は奴らは滅んだと?」

ホークアイの質問にロイは鷹揚に頷く。

「恐らく」
「次は “ウエストが緩く” ....大佐、太ったんですか?」
「ブレタ、なぜそうなる! これは音で拾うんだ。ウエスト、つまり “西” だ。しかし次の “時間を掛けて積み上げる” というのは....」
「あ!」

思わず声を上げたブロッシュに全員の視線が刺さる。

「え? あ、すみません。えーっと、それ西の時計塔ではないでしょうか?さっきまで僕、否、自分はエド君とそこに居たんです」
「ふむ。塔は壊れていたかね?」
「いいえ」
「ではこれから壊すのか? “今から俺が” は自分が行ってくるという意味だろう」
「 “肝心なトコ” は重要な部分として、“足元” は...何でしょう? ...道とか?」

判らんと呟くブレタ。ロイも首を捻るが突如思い至った。
!!!!!

「まさか、地下の錬成陣を一人で壊しに行く気か!!?」
「では、最後の “家から逃げられないように” とは何でしょう?」

今にも飛び出して行きそうなロイを押し留めたのは、ホークアイの冷静な声だった。
はっとした様にホークアイを見たあと、ロイは大きく息を吐き椅子に深く腰掛けた。

「すまん」
「大丈夫ですか、大佐?」
「あぁ、問題無い。家、うち、ホーム.....駅か? ブロッシュ軍曹、他に鋼のは何か言ってなかったか?」
「え!? えーっと......特には。す、すみません」

突然話しを向けられ慌てるが、ブロッシュは “覚えていません” と素直に告げる。


「ん?」
「どうかしましたか?」

ホークアイが訊ねるも聞こえないらしく、ロイはエドからの手紙を調べているようだ。
封筒の内側に僅かな凹み?
まさか...
慎重に封筒を開けば指先に微かに感じる線。この形は、錬成陣か...?
円の縁をなぞったあと、両手で触れてみれば突如起こる青白い錬成光。

「「大佐!!?」」

ブレタとホークアイが焦った声を上げる。
光が収まった後に残ったのは1枚の大きな紙と数枚のメモだった。

「大佐、これは?」
「判らん。が、この模様....どこかで....」

大きな紙に描かれていたのは、かなり複雑な錬成陣。
太陽と月、男と女...
人体錬成か?

否、違うな.....
私が構築式を解析しようと脳をフル回転させ始めた時メモの方を見ていたブレタが慌てた声を上げた。

「!!大佐、これを!!!!」





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ブロッシュ軍曹と別れたあと、俺は時計塔に密かに刻まれていた錬成陣を壊した。
そして軍の目を掻い潜り、第五研究所跡から再び奴らのアジトへ忍び込んだ。
その先に居たのは、親父と大総統.....



「そうだったよな? おっさん」
「気付いていたか。カンは鈍っていない様だね? 鋼の錬金術師君」

扉の向こう側に在った気配に声を掛ければ、“はっはっは!” と笑いながら
大総統キング・ブラッドレイが現れた。

「あんたがその地位に座ったままって事は、成功したんだな?」

睨みつけながら訊ねるが瞳に笑いを浮かべただけで答えは返ってこない。

「君の瞳で確かめると良い」

そう言って渡されたのは、細い銀製の腕輪。

「何だよ、コレ?」
「大総統紋が入っているだろう? 私の客人の証だ。提示すればどんな場所でも自由に出入り出来る。今の君には必要だろう」
「へー...... そういや、ここどこ?」
「ここは大総統府内の特別病棟の特別室だよ。3ヶ月ほど前まで君の弟も居たんだが、肉屋の女主人の元に修行に行ったよ」

大総統の言葉に思わず動きが止まってしまった俺。

「.......アル、病み上がりでなんて無謀な」
「実に君の弟らしいじゃないか。はっはっは。この建物内なら自由に動いて構わんぞ」

それだけ言うと、この国で一番偉いはずのおっさんは消えた。
一体なにしに来たんだ....
まぁここで悩んでても仕方ない。調べてみるか?

「よっ、と」

ベッドから降りると足下にネコの耳まで付いた温かそうなスリッパが置いてあった。
......アルの趣味だな、これは。
それ以外に履くものが見当たらなかったにで取り合えずそのスリッパを履き部屋を見渡せば、ソファーの上に無造作に置かれたノートが視界に入った。
何故かそのノートが無性に気になり、手に取る。
普通のノート、だよな?
パラパラと開いてみると、そこには見知った人達の文字が並んでいた。





++++++++++++++++++++++++++++++++++++

エドあんたいつまで寝てる気? いいかげん起きなさいよ!
このウィンリーちゃんがどれだけ立派になったか語ってやるんだから!

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この馬鹿弟子!!
起きたら顔見せに来なさい! いいね!?

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エドワード君、今度うちに来てエリシアと遊んであげてくれる?
特製のアップルパイ焼いて待ってるわ。

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エド、ずーっと寝っぱなしで腹減らないか?
起きたら俺が美味いもん食いに連れてってやるからな!

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大将、気ーつけろよ。ブレタの飯に付き合ったら太るぜ?
まぁそん時は俺が遊びに連れてってやるからな! 楽しみにしてろよ?

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エド君、ハヤテ号がね軍用犬に正式登録されたんだ。
首輪のとこにカッコイイ紋章が入ったから見てあげて!

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図書館に新しい錬金術の本が入ったそうですよ。
世界の鉱物百科なんてのも有りました。

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エドワード君、お帰りなさい。
その言葉をまだ、あなたに言ってないの。
今度一緒に買い物に行かない? ぜひ全身コーディネートさせて欲しいわ。

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姉さん、僕は戻って来たよ。
言いたい事はたくさん有るけど、姉さんが起きてから直接言うね。
あの戦いで僕は何も出来なかった。情けないよね。
今からちょっと師匠に鍛えてもらってくるよ。

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実に彼ららしい言葉が多く並んでいた。





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君が眠ってから早い物でもう1ヶ月経ったよ。
街もようやく落着いてきた。

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先日、マルコーがハボックの足を治してくれたんだ。
まだリハビリ中だがアイツの事だ直ぐ戻ってくるだろう。
この先も長いからね、ハボックにもマルコーにも、もちろん私も背負う事にしたよ。

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今日はアルフォンスが目覚めたよ。
3ヶ月も眠っていたと伝えたら本当に驚いていた。

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ハボックが軍に復帰したよ。
今日は宴会らしい。明日からの業務に差し支えなければ良いんだが。

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明日アルフォンスがダブリスの師匠の元に行くそうだ。
君が目覚めるのを待たないのか? と聞いたら
暇なのは性に合わないなんて君みたいな事を言っていた。

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誕生日おめでとう。
君の未来が幸せである事を願おう。

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君は、いまどこに居るんだろうね?
直ぐ目の前に居るのに何も出来ない私はどうすればいいのだろうか?
そんな取り留めもない事を自問してしまうよ。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++

近頃かなり温かくなってね?
執務室の窓から差し込む光についウトウトしてしまった。
目覚めは撃鉄を起こす音だったよ。

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エドワード。
早く帰っておいで。


++++++++++++++++++++++++++++++++++++



最後の言葉に涙が出そうになった。
逢いに行かなければ。
そんな思いが心の底から沸き上がり俺はノートをソファーへ戻し部屋を出た。


「ここ本当に大総統府の中なのか?」

部屋を出て10分ほど経った所で思わず呟いてしまったのは廊下の窓から見える景色の所為だ。
窓の外に見えるは、中庭だろうか?
木々には葉が茂り整えられた道には花まで咲いている。
セントラルシティの、しかも軍の中心部にも関わらず、街の喧噪は疎か訓練する軍人の声なども一切無く、小鳥のさえずりが聞こえるのだから。

「...にしても、体力落ちたなぁ」

ふぅぅ。と大きな溜め息を吐き、丁度見つけた窓際の待ち合いソファーに座り込む。
まさか階段を駆上がれないとは思わなかった。

「俺も、師匠のとこで修行し直さないと....」

この体力で師匠の前に?
む、無理だ! 猫やウサギがライオンや熊に戦いを挑むようなもんだ。
果てしなく恐ろしい。
........せめて受け身を取れるようになってからにしよう。
うん。
一瞬寒くなった背筋を誤摩化すよう、俺はしばらくボーッと中庭の陽だまりを見つめていた。






「鋼の?」

突如、鼓膜を震わせた声に俺は呼吸が止まりそうになった。
“はがねの” 俺をそう呼ぶ “ひと” は、ただ一人。
ゆっくりと振り返れば、珍しく呆然とした表情で固まった男が居た。


「“たいさ”」

自分でも聞こえるかどうかの小さな声が出た。
しかしその声にはっとした男は一気に間合いを詰め、その腕の中にエドワードを引き込んだ。






 

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その姿が見えた瞬間、ついに幻覚が見え出したのかと思った。
窓から射し込む春の光に照らされた君は太陽から抜出した女神のようだった。


“はがねの”


無意識に出てしまった声に自分でも驚いた。
ゆっくりと振り向いた君は、私を見て瞬きを繰り返した。
小さな声で “たいさ” と呼ばれた瞬間、全身に走ったのは歓喜だろうか?
堪らず君を抱き締めた。
腕の中に確かに感じる君の温もりが、これが幻想でない事を告げている。

どれだけそうして居ただろう?
君の温もりが消えない事でようやく安心できた。

「えーっと........大佐?」

私が大きく息を吐いた所で、躊躇いがちな声が聞こえた。
未だ私の腕の中に収まったままの君は、困ったような顔で私を見上げて来る。
鋼の、その顔はマズイぞ...

「は、放してくんない?」
「なぜ?」
「な、なぜって...あー...うー.......」

この状態に慣れないのか、そんな事を言う君。
だがね、半年だぞ?
半年も目覚めない君の傍で私がどんな気持ちだったと思うんだ。
しばらく我慢したまえ。

「だ、だから、誰か来たらどーすんだよ.....」

何て事言うんだ君は。
視線を周囲に配りながら言われた言葉に私は衝動を抑えきれなかった。
“うわっ!” と驚く君を引きずり近くの部屋に入る。
そして鍵を閉めたと同時にその唇を奪う。
薄く瞳を開けば驚いた顔の君。
その表情に嫌悪が浮かんでいない事に後押しされ、後頭部に手を回しさらに深く口付ける。


「んっ」

上手く呼吸が出来ず苦しそうな声を上げた君を一瞬だけ解放し抗議の声が上がる前に再び塞ぐ。
力が入らないのか次第に扉に沿って崩れ落ちる君。
しかし離れる事を許さず自分も座り込み角度を変えながら追いかける。
君の全身から力が抜け、これでもかと言う程味わった後、ようやく唇を解放した。

「....っはぁ...はぁ」

荒い呼吸を繰り返す濡れそぼった唇を親指で拭い、逆の手で腰を引寄せ抱き上げる。
まったくもって余裕の無い自分に苦笑が零れる。
たまたま入った部屋は実に私に都合良く、将官用の仮眠室。


「な、な、何なんだ! あんた!?」

喚く君に構わずそっとベッドに降ろす。

「何って、ロイ・マスタングだが? 酷いな、君は私の名前さえ忘れてしまったのかね?」

そう言ってニヤリと笑ってやれば、一瞬絶句したあと君は叫んだ。

「....そ、そういう意味じゃねー!!」
「じゃぁ何だい?」
「だ、だから...い、今、俺に何しやがった!!?」
「何ってキスだが?」

ダメだ久々の会話に頬が緩んでしまう。

「な、な、な.....」

顔を真っ赤にして言葉が出ないらしい君が可愛くって仕方が無い。

「ところで鋼の?」
「何だよ!!」
「もう質問が無いようなら続きに移りたいんだが?」
「は?」

ポカンと口を開けたまま固まっている君を押し倒し覆い被さる。
ようやく私の言葉の意味を理解したらしい君が慌てて身を捩るがそんな事を許す私では無い。

「ち、ちょっと待っ....」
「待たない....もう待てないよ、エドワード」

瞳を逸らさず告げた言葉に君は動きを止めた。
そんな君の頬を撫で、襟元を緩め、髪を掬いながら言葉を続ける。

「あの戦いが終わって君が目覚めるまで半年だ。直ぐ傍に君が居るのに話し掛けても触れても何も反応は無い。君がどこに居るのか正直、判らなかった。だが、今ここに君は居る。半年分の私の想い、受け取ってくれたまえ」

そう言い、緩めた首筋を辿り鎖骨に口付ける。
君は小さく息を呑んだが抵抗はしなかった。




*次は裏です(パスワード請求制)


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ぱちりと、いつに無くはっきりとした意識で目覚めたのはベッドの上。
窓から見える太陽の位置が朝ではない事を告げている。
今、何時なんだろう。
時計を探すべく起き上がろうと身体に力を入れた途端、あらぬ所に痛みが走った。

「っぅ...」

その痛みのお陰で自分が今ひっじょーにいたたまれない状態である事を理解した。
しかもその原因を作った輩は隣で静かな寝息を立てていたりする。
...ゃろう、何かムカつく。
起きたら一発殴ってやる。俺はそう心に決め、初めて見る大佐の寝顔をしばらく観察する事にした。
窓から吹き込む穏やかな風が僅かに湿った黒い髪を揺らす。
帰ってきたんだ....俺。
そう思った瞬間、目頭が熱くなった。
顔の上半分を両手で覆い心を落ち着ける為、深く呼吸する。
何度目かの深呼吸のあと聞こえたのはどこか憮然とした響きの声。

「君はこんなに近くに居ても私を頼ってはくれないのだね」

ゆっくりと両手を放せば少し拗ねたような男の顔。

「大佐...」

呟いた俺に軽く溜め息を吐いた大佐は少し濡れた目尻に口付けた。

「おはよう、エドワード」
「.....ぉ、おはよう」

目線を外してしまったのは決してワザとじゃ無い。
今度は違う意味で両手に顔を埋める。

「ところで、お腹空いてないかエドワード?」
「あー.....空いた、かも」
「食堂で何か見繕ってこよう、何が良いかね? 君の好きなシチューも有るぞ?
 病み上がりだから、もっとあっさりしたスープとかの方が良いかい?」
「....シチュー」
「了承した」


今の短い会話の間に身支度を整えたらしい大佐は、俺の頬に軽くキスをし微笑む。
そしてワンピースを渡すと部屋から出て行った。





第一章「目覚めのとき」 
end  




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──── さぁ、どう出る? 焔の錬金術師 ────






それはいつも通りの何てこと無い日だった。

出勤し、気心の知れた側近たちに「おはよう」と挨拶し「おはようございます」と返される。
司令室の自分の席に着いた所で、副官のホークアイ中尉が決済書類を持ってくる。
ここまでは本当にいつも通りだ。しかし今日は、真っ先に封書を手渡しながら爆弾発言をかました。

「大佐、南方司令部のファイスト・リカール大将より、東方司令部へ視察に赴きたいとの旨の打診が来ておりますが、いかがいたしましょう?」
「は?」

思わずマヌケな声を出してしまった。
仕方無いじゃないか。
まったくもって面識の無いお偉いさんから “会いたい” と突然言われたのだから。

「理由は何と?」

リカール大将には年頃の娘は居ないはずだから、見合いという訳では無いだろう。
訝しげな顔で訪ねる。

「将軍曰く、同じ場所で同じ人間に囲まれていると要らん固定観念が生まれる。何か新しい刺激を脳に与えてやらんと、と定期的に思いついた者を呼び出したりしてるんだが、丁度マスタング大佐の噂を聞いてな、そう言えば会った事は無かったと思い至ったんだ。しかし東方の要であるマスタング大佐を呼び出す訳にいかないだろう?だから私が出向こうと思ったまでだ。まぁ、よろしく頼むよ。との事だそうです」

内容を聞いている内に自然と視線が鋭くなる。顎の前で手を組み瞳を閉じ思案する。

「一体、私のどの “うわさ” に興味を持たれたんだか...」

どの? とは、自慢する訳では無いが、ロイ・マスタングと言う名には様々な...ある事、無い事含め “うわさ” が付いて回っているのだ。
有名な所で「イシュバールの英雄」「焔の錬金術師」不本意ながら「雨の日無能」「女たらし」「青二才」など、軍部上層部ならばもっと陰険な噂の方が多い。

「尤もらしい理由を挙げられてはいるが、何か裏があると見るべきだろうな」
「でしょうね。で、そうするんです?」

私の呟きに頷き、ハボック少尉が指示を仰いでくる。
しかし、中尉が「少しよろしいでしょうか?」と口を挟んできた。

「その、リカール大将は軍部の所謂、上層部とは一線を科しておられるらしく祖父曰く、英瞬豪傑で公平無私と言う言葉がぴったりで、陰質なやり取りが大嫌い。その様な話を持ち掛けた者は上官でも部下でも徹底的に排除したそうです」
「グラマン中将と面識が?」

意外だ。軍上層部と言えば自己の益しか考えない有象無象の集まりかと思っていたんだが...
目線で続きを促すと中尉はやや躊躇った。珍しい。彼女が言い淀むなんて。

「その、中将がおっしゃるには、今回の突然の視察はおそらく、鋼の錬金術師に関する事で大佐を見極めようとされているのではないか? との事です」

頭に浮かんだのは金色の残像。
しかし見極めるとは? 疑問が顔に出ていたのだろう。中尉が溜め息を零しながら呟いた。

「ですから、“たらし” と言われるマスタング大佐が、年端もいかぬ少年の後見人となった。まさかとは思うが、その子を手篭めになぞしていないだろうか? と、エドワード君を心配なさったのではないか? との事です」


.....司令部内に何とも言えない沈黙が降りた。部下からの憐れむ様な視線が痛い。

頭痛が起きそうだ。

「何つーか、大佐。御愁傷様です」

軽口を叩いた咥え煙草の部下を睨みつける.......はぁぁ、と大きな溜め息が零れる。
なぜ私がそんな疑いを掛けられねばならぬのか。
しかしこのまま何もしない訳にはいなかい。気を取り直し、中尉に尋ねる。

「で、グラマン中将は何と?」
「リカール大将が来られる時に合わせて呼び寄せては? との事でした」
「鋼のを?」
「はい」



.......どうなる事やら。







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「一体なんの用なんだよ?」

あん?とチンピラの如き様子で訪ねてくるのは、自分が後見を務めるはずの鋼の錬金術師。

「君は、上官に対する態度がなっていない様だね」
「それは、どーもすみませんねー」

まったくもって悪い何て思ってないだろう、君。

「...まぁ良い。本題に入ろう。この資料を見たまえ」

そう言って渡したのは20枚程度の報告書の束だ。
南方と東方との境に近い場所で違法な賭け事が行われ軍高官や貴族が多く参加している事、そして人身売買が行われている事などが挙がっている。
そう、これが今回 鋼のを呼び寄せた表向きの理由だ。
裏は先日の視察騒ぎ... いかん、今は考えないでおこう。気分が沈んでくる。

「これって南方の管轄じゃないのか?」
「否、これがギリギリ東方の管轄なのだよ」

読み終わったのだろう。書類こちらに投げて返す。

「で、俺に何をさせたいんだ?」
「話が早くて助かるね。今回の任務は南方にほど近いこの洋館で行われるパーティーへの潜入だ」
「それで?」
「私のパートナーとして一緒に潜入し、人身売買の確固たる証拠を」
「ちょっと待て!」

私の言わんとしている事に気付いたのだろう。話を遮るように声を発した彼に余裕の笑みで返す。

「何だね?」
「...あんたまさか、俺に女装しろ何て言わないよな?」
「私のパートナーが男な訳ないだろう? それに、人身売買されているのは十代の “少女”。幾ら中尉でも少女には変装できないからな。君なら問題なかろう?」
「大有りだ!!!」

やはり憤慨する彼。
そりゃぁ彼くらいの年になって女装しろと言われたら皆同じ反応を示すだろう。
しかしこれは任務。どれ程嫌がろうとも彼に拒否権は無い。

「何が問題なんだ? まさか一般のお嬢さんを連れて行く訳にいかないだろう?」
「う、そりゃぁ、まぁ...」

私の正論に一応は納得した様だ。良し、あともう一押しで何とかなりそうだな。

「それに君にもメリットが無い訳じゃぁない」

何だそれは? と、先を促しつつも疑いの眼差しを向けてくる。

「その洋館の持ち主は、グレイザー伯爵だ」
「!? グレイザーってあの?」
「悪名高いがコレクションしている錬金術の本は凄まじい数だ。勿論、今回必ず捕まえる。そうなれば伯爵のコレクションは軍で押収する事になる。膨大な数だからな、一冊や二冊減っても判らんだろう」

そう言ってニヤリと笑ってやれば、彼もやる気になった様だ。
同じく不適に笑って返してきた。

「その言葉、忘れんじゃねーぞ」
「二言はないとも。で? 」
「やってやろーじゃねーか、女装でも何でも」
「では、パーティーは二日後だ。中尉」
「はい」
「鋼のを徹底的に飾り立ててくれたまえ」
「畏まりました」
「は?」
「じゃぁ、行きましょうか? エドワード君」

これから何をされるのか判ってないのだろう。
「へ?」と言いながら、中尉に引き摺られて行った。
可哀想だがこればかりは仕方ない。諦めて中尉の犠牲になってくれたまえ。



どんな姿で現れてくれるのか、今から非常に楽しみだ。





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