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*藤袴 -thoroughwort-*

☆次回イベント予定☆                                                ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★                  

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甘ったるい匂いにナルは顔を顰めながら起き上がった。
ようやく仕上がった論文をメールで送り、眠りに着いたのはもう朝というに相応しい時間だった。
ダブルベッドの片側で、気持ち良さそうに眠る麻衣の隣りに潜り込んだ。
そこまでは覚えている。
が、それ以降の記憶が一切ない。
そういえば、ここ3日ちゃんと寝ていなかった気がする。
麻衣にバレると煩いので、朝方ベッドには潜り込んでいたが、1時間寝ればいいところだったはずだ。
そんなことよりもと、窓の外に目をやれば、チラつくではなく、降りしきると言った方がいいくらいの雪が舞っている。
この分では東京の交通網は著しく乱れている事だろう。
つまり今も漂ってくるこの香りから逃れるには、渋滞必至でいつ来るかわからないタクシーを呼ぶか、大混雑な電車に乗るしかない。
リンに車を出させようかとも思うが、今日くらい休めと言われるだろう。
結果の分かり切っている事をするのも面倒だ。
溜息を1つ零したナルは再びベッドに沈み込む。
どうせこの匂いの元が完成したら起こされるのだからと、諦めにも似た気持ちで。



「おりゃ?珍しい本気で寝てる」
突撃じゃー!と言わんばかりに豪快に開け放った寝室の扉の前で、麻衣はしばし考えた。
手元には焼きたてのクッキーの入ったお皿。
ナル用にと卵を使わないクッキーにチャレンジしてみたのだ。
最近忙しくてちゃんと寝てない上に食事も疎かになってたから、一気にカロリーを取れるお菓子と思ったのだが……
てっきり甘い匂いに嫌そうに顔を顰めで寝室から出てくると思っていたのに、これは予想外だった。
「寝不足だったし、仕方無いか」
溜め息ひとつ。
さっきのナルと同じように零した麻衣は、クッキーをサイドテーブルに置くと、自分もベッドに潜り込んだ。
「へへへ。約得って感じかな」
目の前の動かない綺麗な顔を眺めつつ、そんな事を呟く。
やがて、2人分の寝息が重なり合うように聞こえた。

あとでお茶しようね、ナル。




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5才児の設定で付き合っていないけど甘々な雰囲気のナル麻衣
というリクがあったので書いてみました。





「なる〜?」
「なんだ」
ぴょこんと扉から顔を覗かせた麻衣は、座って本を読んでいたナルに声を掛けた。
滅多に返らない返事があったことで、にぱっっと音がするくらいの笑みが麻衣の顔に浮かぶ。
「なる、あそぼ!」
「ことわる」
素気ない答えにも麻衣はめげない。
「じゃあ、あしたぴくにっくいこう!」
「……」
なにがじゃあなんだ、という視線を向けるも麻衣には通じない。
「うんしょっと…………おにぎりでしょー、たまごやきでしょー、ういんなーにからあげ!」
いつの間にかナルと本の間……つまり、ナルの膝の上に座り込んで楽しそうにお弁当のおかずを指折り数えている。
「マイ、じゃま」
「マイはマイだよー?」
邪険に扱おうとも、通じていない。
「……どけ!」
「やっ!」
「はなせ、マイ!」
「やーだー!ナルとあそぶのー!」
膝の上から引き剥がそうと試みるも、麻衣はがっしりとナルに抱き着いて離れようとしない。
「マイ、いいかげんに……」
しろ……という言葉は続かなかった。
何故なら「おりゃー!」というかけ声と共に、麻衣がナルを押し倒したからだ。
ゴンっ
痛そうな音が床から響く。
「……っ」
ナルが思わず本を取り落としたのを見て、麻衣は叫ぶ。
「かったー!」
自分の上でニコニコ笑う麻衣に、ナルは文句をいう事さえ諦めた。


 


拍手[13回]



「告白」(ナル麻衣)


「ナルが……すき」

聞こえた言葉が意外過ぎてナルは読んでいた本から顔を上げた。

「っ……あたし、ナルが好きなの!」

聞き間違いか?
浮かんだ思考を消すように今度ははっきりと叫ぶように麻衣は言った。
ぱちり。
瞬きをしても所長室の扉の前に立つ麻衣は消えないので、幻覚ではないようだ。
どこか冷静にそう判断する己の脳。
しかしそんな事をわざわざ考えてしまう辺り、どうやら自分はかなり動揺しているのだと思う。
沈黙が部屋を支配する。

「……とりあえずお茶」
「あ。は、はい!」

事務所に来ている以上は仕事をさせよう。
現実逃避だと分かってはいるが、少し考える時間が欲しかった。
もう先ほどまで読んでいた本の内容が思いだせない。
ナルは溜め息と共に椅子に深く沈み込んだ。

「あの……なる?」

コンコンという音と共に顔を覗かせた麻衣は、椅子の背凭れに首を預けたまま動かないナルに首を傾げた。

「紅茶、冷めちゃうよ?」

すぐ近くで聞こえた声にナルはようやく顔を上げる。

「麻衣が好きなのは僕?」

ぱちり。
先ほどのナルと同じように麻衣が瞬きをする。

「そうだよ」

……ジーンじゃ、ないよ。と麻衣は静かに笑う。
その笑顔が、いつもよりも儚く見えて、思わずナルは麻衣に向って手を伸ばす。
そっと頬に触れてくる優しい手と、嘘をつかない真っ直ぐな瞳が麻衣を見つめる。
ああ。
やっぱり、あたし……ナルが好きだな。
そう再認識した麻衣は、込み上げる愛おしい気持ちのままに笑う。

「ナルが……すき」

吐息のように落とされた声に、今度はナルが微かに笑みを浮かべた。

「そうか」
「うん」

見つめ合った2人の影がゆっくりと近付く。
初めて交わした口付けに、麻衣の頬が赤く染まる。
引寄せられて抱きしめられた腕の中で、麻衣は小さく訊ねる。


「ナルは、あたしのこと好き?」



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「大切なものは?」 COUNT TEN.(配布)より「問いかけるお題」



なるべく小さく、手の平に乗せられるくらいに
そうでないと結局はすり抜けて行ってしまうから
誰も待つ人の居ない自宅へと帰る道
頬を撫でる冷たい風に逆らうように麻衣は足を進める
学校やバイト先
今まで居た場所が騒がしかった日ほど
家の静寂はヌクモリを奪いさる
タンタンタンとテンポ良く駆上がった階段の上
少し欠けた月に雲が掛かったのが見えた

「明日も良い天気だといいな」

態とらしく呟いた声は誰に聞かれることもなく消える
冷たい手すりに額を預け揺れる感情をコントロールする
ダメだよ
気を抜けば溢れそうになるココロをただゆっくりと宥める
だめだよ
これ以上は絶対に


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