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*藤袴 -thoroughwort-*

☆次回イベント予定☆                                                ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★                  

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早朝の電車は不快指数100%を越えている。
すし詰め状態の車内でリンは小さく嘆息した。
出社しようと駐車場へ行けば、愛車が影も形も残さず消えていて。
盗難かと慌てたが、柱に貼り付けられた「借りるぞ」という簡単な書き置きはナルの字だった。
それは彼が夜中か早朝かに勝手に乗って出かけた事を意味している。
仕方なく電車を選んだわけだが、こんなに混むとは予想もしていなかった。
目の前では茶というより金に近い髪の女子高生が友人と楽しげに話している。
まだ少女だと言うのに、その化粧の濃さは一体。
色んな意味で溜息を落とせば、急にその少女が振り返った。
目を吊り上げてこちらを睨んでくる相貌に、リンは嫌な予感がした。
そしてそれは、的中する。
「ナニすんのよ、この痴漢!!」
少女の甲高い声が車内に木霊する。
ざっと冷たい視線が注がれ、リンは弁解する暇もなく少女と共に着いたばかりの駅に無理矢理降ろされた。
「違います!!私は無実です!!」
哀れな男の叫びがホームに木霊する。


こうして、彼の受難の日々が始まった。






今日も今日とて、不憫な一日。



「あっはっはっはっは。そりゃ、災難だったなー」
応接室のソファから転がり落ちる勢いで笑われ、リンは憮然と淹れ立ての紅茶を啜った。
駅長室で弁解を続ける事三時間、漸く解放されたリンを待っていたのは遅刻による減給と倍に増えた仕事量だった。
理不尽だと言いたい。
全てはナルが愛車を乗って行った所為だと言うのに。
「リンさん、大丈夫ですか?おかわり要ります?」
「すみません。では、お願い・・・・・・」
しますと言いかけ、顔を上げたリンは近くに麻衣の姿がない事に内心で首を傾げた。
ふと辺りを見回すと、二メートルほど離れた場所に立つ麻衣の姿。
「た、谷山さん?」
「すみません、リンさん。半径二メートル以内に近付くなってナルが・・・。所長命令だから、逆らえなくって・・・・・」
「ナル・・・・」
彼は自分の部下の事を全く信用していないらしい。
「おはようございます。何か所長からリンさんの半径一メートル以内に入るなと言われたんですが、何かしたんですか?」
不思議そうに首を傾げて所長室から出てきた安原に、リンは頭を抱えたくなった。
麻衣よりも距離が一メートル短い事を喜ぶべきか、痴漢疑惑が晴れていない事を嘆くべきか、更には男である安原にまで注意喚起する所を落ち込むべきか。
どういう反応をすべきか迷う所だ。
「いや、それがさあ・・・・・・」
笑いすぎて滲んだ涙を拭いつつ、滝川が安原に事情を説明する。
それを聞いた瞬間、安原もぶはっと盛大に吹き出した。
「さ・・・・・災難でしたね。それにしてもリンさんに痴漢疑惑なんて、失礼な話ですよね?そんな事できるわけがないのに」
「そうだよな~」
「安原さん、滝川さん・・・・・・・」
付き合いの長い上司ですら全く信用してくれなかったと言うのに、微塵も自分を疑っていない二人にリンは感動した。
思わず涙が出そうになる。
しかし、その感動は長くは続かなかった。
「リンさんみたいなへタレが痴漢なんて出来るわけないじゃないですか~」
「そうだよな~。夜の店に入るだけでも躊躇して店の前をウロウロとしてるヤツなんだからさ」
「それで通報されたんでしたっけ?」
「あの時も必死こいて弁解してたな~。たまたま俺が通りがかったから良かった物の、下手すりゃ不審者扱いで刑務所行きだぜ」
本当に涙が出そうになった、さっきとは別の意味で。
ある意味これは信頼されているのだろう。
自分にとっては不名誉な意味で。
今度こそ本気でリンは泣きたくなった。


時計の針は正午を指している。
そろそろ昼食にしようかとデータを保存したところで、タイミングよくドアがノックされた。
「リンさん、そろそろ昼食にしませんか?谷山さんがお茶を淹れてくれてるんですが、どちらで食べられます?」
「では、応接室に出てきます」
「わかりました」
鞄の中から弁当箱を出し、部屋を出る。
そこにはすでに安原とナルがソファに座っていた。
「珍しいですね、ナルがこちらにいるなんて」
「何か食べないと麻衣が煩いからな」
煩わしそうに溜息を吐くが、それが本心からでない事は一目瞭然だった。
本当に嫌なら、彼は誰の指図も受けない。
それがこうしてこの場にいるという事は、彼が麻衣に対して相当心を許している証拠だ。
微笑ましい。
「・・・・・・・リン、お前はそっちに座れ」
顎で指された場所は、他のソファよりも幾分か距離をとられた場所。
思わず口の端が引き攣った。
彼はまだ痴漢疑惑を解消していないらしい。
「もう、ナル!!何でそんな意地悪するの?リンさん、可哀想でしょ!!」
頬を膨らませ、トレイに人数分の紅茶を載せた麻衣が給湯室より姿を現す。
彼女がリンの弁護に入ったのが気に食わないのか、ナルの眉間に皺が寄った。
「お前がそう言うから僕だって譲歩してやっただろう?」
「譲歩ってねぇ・・・・最初はリンさんのソファ、応接室の入り口まで離してたでしょ!!あれじゃあ、依頼の人が来たとき邪魔で入れないんだから、当たり前!!」

そうか、最初はオフィスの隅っこに指定されてたのか。

悲しくなって、リンは少し涙目になった。
しかも、フォローしてくれるはずの麻衣の突っ込みもズレている。
自分が可哀想ではなく、依頼人の邪魔になると言う理由でソファの位置は直されたのか。
距離が縮まった事に喜ぶべきか、苛めのような状況に泣くべきなのか。
反応に悩む所だが、それよりも今は食事を優先しよう。
経済状況が赤字のため、毎日朝食は抜いているのだ。
空腹で仕方がない。
「リンさん、お弁当なんですね」
「ええ。外食する余裕はないので」
「リンさん、料理上手そうですよね。何が入ってるんだろう?」
期待の眼差しで麻衣と安原がリンの弁当を凝視する。
あわよくばおかずの交換をしてもらおうとさえ企んでいた。
しかし、二段重ねの弁当箱を開けると、そこには大量に敷き詰められた茹でたもやし。
一段目から現れたのも、やはり茹でもやし。
「・・・・・・・・・・・もやし?」
「はい。コレが一番安いんです」
嬉しそうに頷き、もしゃもしゃともやしを頬張る姿は涙を誘う。
「・・・・・・・・リ、リンさん。良かったらコレ、食べます?」
あまりの哀れさに恐る恐る麻衣が差し出したのは、野菜サンド。
同じ物がナルの前にも置かれている所を見ると、今日の彼の昼食は麻衣が作ったらしい。
「い、いいんですか!?」
「は、はい!!」
急にテンションの上がったリンに怯えつつ、麻衣は野菜サンドを差し出す。

ああ、もやし以外の食料なんてどれぐらい振りだろう。

感極まってリンの瞳に涙が浮かぶ。
サンドイッチにもう少しで指先が届く瞬間、横から伸びた手が麻衣の手首を掴み、そのまま自分の元へと引き寄せた。
リンの物になるはずだった野菜サンドは、あっさりとナルの口の中へと消える。
あまりの衝撃に悲鳴すら出なかった。
呆然とリンは消えた野菜サンドの行方を見つめる。
ふっとナルの口元が皮肉げに笑った。

わざとだ、絶対。

麻衣の手作りの物が他の者に食べられるのが我慢ならなかったらしい。

なんて独占欲、なんて狭量。

「もう、ナル!!いきなり何するの!!あれ、リンさんのだったんだよ?」
「もう一つ」
「ナル、聞いて・・・・・」
「うわー。所長の『あ~ん』を見れるなんて・・・・・カメラ用意しとけば良かった。安原、一生の不覚です」
「え?」
「え・・・って、さっきのですよ。谷山さん、気付かなかったんですか?」
安原のしたり顔に、麻衣の頬は一気に紅潮した。
普段が恋人同士のやり取りなんかとは対極に位置しているナルだ。
何も言わないけれど、麻衣にだって恋人同士でのやり取りに憧れくらいは持っている。
不意打ちとはいえ、結構嬉しかった。
「麻衣、もう一つ」
無表情のままだが、ナルは麻衣へと顔を向け、口を開ける。
「う・・・うん」
真っ赤になりながら、麻衣はおずおずとサンドイッチをナルの口元へと運ぶ。
「お前も食べろ」
そう言ってナルは自分の分のサンドイッチを麻衣へと差し出す。
しばらく差し出されたサンドイッチとナルを見比べていた麻衣だが、覚悟を決めたようにサンドイッチを頬張った。
「いやぁ、初々しいですね。此処に滝川さんがいなくて良かった。いたら絶対に煩いですからね」
「そうですね・・・・・・」
一つ、また一つと少なくなっていくサンドイッチを名残惜しげに見つめながらリンは頷いた。

ああ、私の分のサンドイッチはどうなったんでしょう?

結局、リンの昼食はもやしオンリーだった。


夕刻。
本日の仕事を根性で終わらせたリンは、スーパーのタイムサービスに乗り込もうと意気込んでいた。
自分の長身はこの時のためにあるんだと、彼は本気で考えている。
身支度を整え、あとは戦場(スーパー)へ向かうだけとなった時、ドアがノックされた。
非常に嫌な予感がする。
「リン、ちょっといいか?」
聞こえてきたナルの声にリンは卒倒しそうになった。

残業か、残業なのか?

今日を逃すと食料を安く手に入れるのは難しいというのに。
青冷めつつ、リンはドアを開けた。
しかし予想に反して、ナルは書類を持っていない。
「どうかしましたか、ナル?」
「悪いが麻衣をマンションまで送ってくれないか?僕はまだ仕事が終わりそうもない」
「もう、私なら大丈夫だって。一人で帰れるよ。リンさんだって忙しいだろうし・・・・」
「いえ、大丈夫です。送りますよ、谷山さん」
気付けば口が滑っていた。
今はまだ日が出ていて明るいが、すぐに暗くなるだろう。
そんな中、麻衣を一人で帰すとなっては後でナルに何をされるか。
考えるだけで、恐ろしい。
「決まりだ。じゃあ、麻衣。コレを必ず持って行け」
そう言ってナルが差し出したのは、催涙スプレーとスタンガン、手錠が二組、更にはスパナまで。
「手錠は右手はハンドルに、左手はギアに繋いでおけ。そうすれば襲ってこないだろう」
ナルの非常な一言にリンは目を剥いた。

人を一体何だと思っているのだ!?

「わかった。それでもダメな時はスタンガンだね」
さらりと恐ろしい事をのたまう麻衣にリンは固まる。
「車内でスプレーは自爆になるから、なるべく使うな」
「だとすると、スパナかぁ・・・・・。狭い車内で振り回せるかなぁ?」
「脳天に叩き込めれば一発だ。ちゃんと手加減しろよ、死なない程度に」
恋人同士の危険な会話を聞きながら、リンは意識を飛ばしかけた。
そして、深く深く思った。

そんなに信用がないなら、最初から頼まなければいいのに、と。





■ 水杏りん様より(誕プレ/ナル麻衣+不憫)'10.7.10
<今日も今日とて、不憫な一日。>
不憫マイスターの称号を分け合う水杏りん様よりプレゼントを貰っちゃいました!
もうタイトル見た瞬間噴き出しました(笑)
痴漢に間違えられただけでも不憫なのに、その後のみんなの対応がまたw
水杏りんさん、ありがとうございました☆


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