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*藤袴 -thoroughwort-*

☆次回イベント予定☆                                                ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★                  

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■ ハイゴ様より (軍服/リン/絵)'10.2.24
ハイゴ様から軍服宅配便が参りました(嬉v)
このイラストがメールで届けられた瞬間私は昇天しましたとも(真顔)
不憫しか書いてない私が頂いて良いのか?とは思いましたが
手放したくはないので遠慮なく頂戴しました(笑)
ハイゴ様ありがとうございました!!
 
 

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バタァーーン!!


「—————。」

「…ナルのばぁーかーっ!あんぽんたん!」



「ま、麻衣!?」


怒鳴りながら所長室から飛び出してきたた少女は怒りのせいか真っ赤な顔をして、驚いて固まっている俺達に
目もくれず自分のデスクで荷物をまとめると怖い顔のまま退社の挨拶をして事務所を出て行った。
もちろん、正規の退社時間だし、退社の挨拶のために所長に行っていたのだが…。

「…まぁーた喧嘩かぁ…。」
「追い掛けなくて大丈夫でしょうか?」
「うーん。」
「所長も相変わらずですねー。」




たくさんの人で賑わう街中でふと、目についた姿。

「…麻衣?」

流行りの店のきらびやかなショーウインドーを眺める横顔。

と、二人組の学生らしき男たちが何やら話ながら彼女に近付いて行く。
麻衣も手を振り返しているとこを見ると知り合いだろう。

(…待ち合わせ?)

楽しそうに笑っている麻衣は事務所で見せる姿と違いどこか別人みたいだ。

何とはなしにその姿を見ていた俺は麻衣が彼らに手を振って歩き出したのに気付いて思わず声をかけた。

「おーい!麻衣ーっ!」

思いの外大きな声に驚いたように振り向いた麻衣は直ぐに笑って近付いてきた。

「ぼーさん!びっくりしたよー。どしたの?」
「いや、ちょっと野暮用があってさ…麻衣こそ何してんだぁ?」
「ん?買い物…友達の誕生日プレゼント…。」
「ふうん。一人か?時間あんなら付き合わないか?ちーっと時間開いたんだ。おごってやっからさ?」
「わぁーいいの?」
「おう。」



時間的に食事のがいいだろうと入った洋食屋でハンバーグドリアをハフハフ言いながら食べている麻衣は
いつも通りで、事務所でのナルとのやり合いもたわいないいつものつっつき合いだったのだろう。

それよりも…。

「麻衣さっき一緒にいたの友達か?」

食後のデザートのシャーベットを食べていた麻衣になんとはなしに聞いてみた。

「ん?さっき?」
「ほら、俺が声かけるまえ、麻衣と仲良く話てたろ?」
「ああ、見てたの?うんクラスの子だよ。映画見てたんだって…カラオケ行くからって誘ってくれたの。」
「…へ、へー。行かなかったんだ…。」
「うん。今日ナルとバトったからさぁパーッと歌うのもよかったんだけどさぁ…。さすがに女子アタシ一人じゃねー。」
「そりゃそーだ。うんうん!」

(奴らはしごく残念そうだったがなぁ…。)

「…前に綾子にスッゴク怒られたんだぁ…心配しすぎだよねぇ。クラスメートなんだしさぁ…。」
「麻衣…男なんて油断ならんぞ!いかんいかん!」
「……でもさぁ…さっきのぼーさんのだって普通にナンパみたいだったじゃん。」
「………ま、まぁそういわれればそうだけどさぁ…。」
「いたいけな女子高生をナンパするいけないお・じ・さ・んだよー」
「おじさんはひどいぞ!せめてお兄さんで…。」
「だってぇ、パパぁ…。」
「……パパってよけい怪しいだろ!」
「はははは…。」


色恋沙汰の絡まないこの少女とのこんな会話はとても楽しい。
まぁ娘と言うより妹って感じか…。


「麻衣も普通にあんな顔してんだな…。」
「何が?」
「女子高生。」
「…当たり前じゃん。アタシはピチピチの女子高生なんだよぉ!」
「ははは、ごもっともでございます。」



事務所にいる麻衣しか知らないから…彼女が普通の高校生だということをつい忘れてしまう。

高校生の頃なんて煩い親や教師の目を盗んで、ただただ毎日面白いこと、楽しいことばっかりおっかけてたよなぁ…。



「パァパ?」

「……麻衣。人前でパパはやめて…意味が代わっちゃうから…。」
「アハハ…ごめーん。」



事務所にいる麻衣…。

確かにまだ学生アルバイトではあるけれど、働いて生計をたてていて…。

友達といる麻衣は学生時代を楽しんでいる普通の十代の子供らしくて…。




「やっぱり俺みたく年上と一緒にいる時とは違うよなぁ…。」
「ん?何?」
「麻衣は可愛いなぁ…。」
「なに言ってんのー?さっきお酒飲んだっけ!?」
「これからまだ仕事あんのよ。おじさんは。」
「頑張ってーっ!パパv」



友達といる時は友達との…。


事務所にいる時には事務所での…。



「…娘に美味いもんくわしちゃるためにパパは頑張ってお仕事しょっかねー!」


いつものようにがしっと首を抱えて頭をグシグシとかきまぜてやる。

「ヤメテヨー!!もう!髪がぐちゃぐちゃになっちゃうじゃんかぁ!」

真っ赤になって頬を膨らませて睨む姿もかわいくて、ついついまたやっちまうんだなぁ。


「麻衣帰るだろ?駅まで送るな。」
「ありがとう。今日はごちそうさまでした!」
「おう!」
「元気もりもり明日も所長に負けないようガンバロー!」
「ハハハ…。頑張れ。」





「おやすみなさーい!バイバーイ!」

ぶんぶん手を振って駅の中に消えていく姿。



(ははは、それ残されたほうが照れ臭いんだけどなぁ…。)





「さてパパは、ベース弾きのお仕事行きますか…。」


俺には俺の麻衣との付き合い方がある…。

スキンシップもそのひとつ。


(麻衣のクラスメートの男子にはちっと真似できないだろー?へへへ。)









「…そういやアレもあいつらなりの付き合い方なのかねー。」

今日の事務所でのナルと麻衣とのやり合いもなかなかに年相応で…彼らなりのコミュニケーションなんだろうな。



「…仲がいいんだか悪いんだか……今んとこ姉弟喧嘩みたいだけどな……。」




(美味いもんでパワーアップしたことだし、明日のバトルは激しそうだなぁvvv。)




end  




■ 美桜子さまより(誕プレ/ほのぼの父娘デート)'10.3.7
<マイガール>
えへへv 美桜子さんから誕生日プレゼント貰っちゃいました♪
「ほのぼの父娘デート」ってリクさせて頂いたらこんな可愛いお話が!!
美桜子さんありがとうございましたー☆


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みゃう、と幼児特有の高く甘い声が鳴く。
鳴き声に反応しない飼い主に再度鳴いてみるも、やはり何も返ってこない。
構って欲しい遊び盛りの五歳児は痺れを切らして、ついには飼い主の膝によじ登った。
ぺちぺちと小さな掌で頬を叩いて、大きな飴色の目で見上げてくる。
取り寄せたばかりの本を堪能していたナルは眉を寄せつつ、ぱたりと閉じた。
テーブルの上に本を置き、子猫を見やる。

「何だ」

子猫が何をしたいのか分かっているくせに、あえて問う。
子猫、麻衣はにこにこと笑顔のまま、口を開く。

「あ、そぼ!」

辿々しいながらも、言葉を発した麻衣の頭を撫でてやる。
喋ることに不慣れだったため、まだきちんと喋れないが、当初より随分とましになった。
拾ってきたリンの元から強制的に連れ帰り、言葉を教え始めると子供ゆえかどんどん吸収していった。
一緒にいた麻衣の兄である法生(十歳)は普通に話せたので、以前は麻衣の分も法生が話していたのだろう。
兄の過保護は、兄妹の境遇を考えると当然のものだった。

「本を読み終わるまで待て」
「やっ」
「遊びたいなら、隣に行けば良いだろう」

ナルとリンは同じ階の隣同士に住んでいる。
リンの部屋には法生もいるし、退屈はしない。
しかし麻衣はぶんぶんと首を横に振って拒否した。

「なる、が、いい!」
「僕と遊んで楽しいとは思えないが」
「たのし、もん!」
「そうか」

言葉だけで頷いてナルは麻衣を膝から下ろして立ち上がった。
テレビの横にある棚に置いてある、遊び道具を手にする。
細いプラスチックの棒に結んだゴムに付いた、ふさふさの毛玉。
いわゆる猫じゃらしだ。
猫じゃらしを麻衣の前に垂らし、両横へ動かす。
麻衣は目で追い、何往復かすると毛玉に手を伸ばした。
だが掴む前に毛玉は上へ避け、また掴もうとすれば今度は横に逃げる。
本能で毛玉を追いかけ始めた麻衣に対し、ナルはソファーに座り、片手で猫じゃらしを操作しながら
もう片方で本を開いた。
文字を追いながら、毛玉を捕まえられる前に避けてしまう。
どちらにも意識を向けていないと到底出来ないことだが、ナルは簡単そうにやってしまっている。
これがリンなら自分のことはさっさと切り上げて、法生の気がすむまで遊ぶだろう。
ああ見えて、リンは法生に物凄く甘い。
ぺらりとページをめくり、見慣れた横文字を頭の中に詰め込んでいく。
傍では毛玉を捕まえようと麻衣がぴょこぴょこ跳ねていて、必死で手を伸ばすも毛玉は麻衣の小さな
手をすり抜けていくばかり。
なかなか捕まえられないのと、読書をしているナルに気付き、麻衣は頬を膨らませた。
ナルはというと本に思考を落としていたため、そんな麻衣には気付かない。
猫じゃらしを持つ手が動いていたのは無意識と反射的らしい。
だからナルは、気付くのが遅れた。
このままでは毛玉も捕まえられない、ナルは本を読んでいてちゃんと遊んでくれない、と思った麻衣が
強行手段に出たのに。

「みゃあっ!」

床を蹴って勢いよくナルの膝にダイブした。
ナルは、突然のことに思わず固まった。
その隙に手の動きが止まってゴムの先で揺れている毛玉を掴み、ナルの本は閉じてソファーに落とした。
床やテーブルではなく、ソファーというところが麻衣なりの気遣いだ。
柔らかいソファーなら本を傷付ける心配はない。

「つかま、た!」

捕まえた、と輝かんばかりの表情で、握った毛玉をナルの目の前に持ってくる。
ナルはようやく硬直が解け、危ないだろうと叱ろうとして、やめた。
恐らく片手間に遊んでいた自分が悪いのだ。
それに本に集中して少し麻衣を焦らし過ぎた。
始めからちゃんと遊びに集中していれば良かっただけの話だ。
よくやったな、と麻衣の柔らかな髪を撫でると、ぴくぴくと同色の耳が動く。
嬉しげに無邪気な笑顔を浮かべる麻衣に、絶対に手放すなど出来ないなと改めて思った。



end  




■ 月羽さまより (誕プレ/ナル麻衣にゃんこ話)'10.3.11
<こねこの生活>
月羽さんから誕生日プレゼントを貰っちゃいましたー☆
リクありますか?と聞いて下さったので、猫の日に書かれてた超可愛い子猫の
お話の続編をお願いしてみたら、快く書いて下さいましたvvv
月羽さんありがとうございましたーー
※林さんが滝ネコ(兄)と麻衣ネコ(妹)を拾うお話は月羽さんのお宅に^^〃
 メインは林滝のBLサイトさん(一部ナル麻衣)です。ご理解の上ご訪問下さいね。


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10 11 end おまけ
 
 
■ ハイゴ様より (絵茶/ナル麻衣漫画)'10.3.27
<たまにはこんな日も...>
ハイゴ様の素敵漫画はご堪能頂けましたでしょうか?
何とですね、朽葉が書いた小話を元に、ハイゴさんが漫画を描いて下さいました!!
この漫画の元となりました朽葉の駄文はこちら
最後になりましたが、素敵漫画をお描き下さいましたハイゴ様
どうもありがとうございました!!
 
 

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早朝の電車は不快指数100%を越えている。
すし詰め状態の車内でリンは小さく嘆息した。
出社しようと駐車場へ行けば、愛車が影も形も残さず消えていて。
盗難かと慌てたが、柱に貼り付けられた「借りるぞ」という簡単な書き置きはナルの字だった。
それは彼が夜中か早朝かに勝手に乗って出かけた事を意味している。
仕方なく電車を選んだわけだが、こんなに混むとは予想もしていなかった。
目の前では茶というより金に近い髪の女子高生が友人と楽しげに話している。
まだ少女だと言うのに、その化粧の濃さは一体。
色んな意味で溜息を落とせば、急にその少女が振り返った。
目を吊り上げてこちらを睨んでくる相貌に、リンは嫌な予感がした。
そしてそれは、的中する。
「ナニすんのよ、この痴漢!!」
少女の甲高い声が車内に木霊する。
ざっと冷たい視線が注がれ、リンは弁解する暇もなく少女と共に着いたばかりの駅に無理矢理降ろされた。
「違います!!私は無実です!!」
哀れな男の叫びがホームに木霊する。


こうして、彼の受難の日々が始まった。






今日も今日とて、不憫な一日。



「あっはっはっはっは。そりゃ、災難だったなー」
応接室のソファから転がり落ちる勢いで笑われ、リンは憮然と淹れ立ての紅茶を啜った。
駅長室で弁解を続ける事三時間、漸く解放されたリンを待っていたのは遅刻による減給と倍に増えた仕事量だった。
理不尽だと言いたい。
全てはナルが愛車を乗って行った所為だと言うのに。
「リンさん、大丈夫ですか?おかわり要ります?」
「すみません。では、お願い・・・・・・」
しますと言いかけ、顔を上げたリンは近くに麻衣の姿がない事に内心で首を傾げた。
ふと辺りを見回すと、二メートルほど離れた場所に立つ麻衣の姿。
「た、谷山さん?」
「すみません、リンさん。半径二メートル以内に近付くなってナルが・・・。所長命令だから、逆らえなくって・・・・・」
「ナル・・・・」
彼は自分の部下の事を全く信用していないらしい。
「おはようございます。何か所長からリンさんの半径一メートル以内に入るなと言われたんですが、何かしたんですか?」
不思議そうに首を傾げて所長室から出てきた安原に、リンは頭を抱えたくなった。
麻衣よりも距離が一メートル短い事を喜ぶべきか、痴漢疑惑が晴れていない事を嘆くべきか、更には男である安原にまで注意喚起する所を落ち込むべきか。
どういう反応をすべきか迷う所だ。
「いや、それがさあ・・・・・・」
笑いすぎて滲んだ涙を拭いつつ、滝川が安原に事情を説明する。
それを聞いた瞬間、安原もぶはっと盛大に吹き出した。
「さ・・・・・災難でしたね。それにしてもリンさんに痴漢疑惑なんて、失礼な話ですよね?そんな事できるわけがないのに」
「そうだよな~」
「安原さん、滝川さん・・・・・・・」
付き合いの長い上司ですら全く信用してくれなかったと言うのに、微塵も自分を疑っていない二人にリンは感動した。
思わず涙が出そうになる。
しかし、その感動は長くは続かなかった。
「リンさんみたいなへタレが痴漢なんて出来るわけないじゃないですか~」
「そうだよな~。夜の店に入るだけでも躊躇して店の前をウロウロとしてるヤツなんだからさ」
「それで通報されたんでしたっけ?」
「あの時も必死こいて弁解してたな~。たまたま俺が通りがかったから良かった物の、下手すりゃ不審者扱いで刑務所行きだぜ」
本当に涙が出そうになった、さっきとは別の意味で。
ある意味これは信頼されているのだろう。
自分にとっては不名誉な意味で。
今度こそ本気でリンは泣きたくなった。


時計の針は正午を指している。
そろそろ昼食にしようかとデータを保存したところで、タイミングよくドアがノックされた。
「リンさん、そろそろ昼食にしませんか?谷山さんがお茶を淹れてくれてるんですが、どちらで食べられます?」
「では、応接室に出てきます」
「わかりました」
鞄の中から弁当箱を出し、部屋を出る。
そこにはすでに安原とナルがソファに座っていた。
「珍しいですね、ナルがこちらにいるなんて」
「何か食べないと麻衣が煩いからな」
煩わしそうに溜息を吐くが、それが本心からでない事は一目瞭然だった。
本当に嫌なら、彼は誰の指図も受けない。
それがこうしてこの場にいるという事は、彼が麻衣に対して相当心を許している証拠だ。
微笑ましい。
「・・・・・・・リン、お前はそっちに座れ」
顎で指された場所は、他のソファよりも幾分か距離をとられた場所。
思わず口の端が引き攣った。
彼はまだ痴漢疑惑を解消していないらしい。
「もう、ナル!!何でそんな意地悪するの?リンさん、可哀想でしょ!!」
頬を膨らませ、トレイに人数分の紅茶を載せた麻衣が給湯室より姿を現す。
彼女がリンの弁護に入ったのが気に食わないのか、ナルの眉間に皺が寄った。
「お前がそう言うから僕だって譲歩してやっただろう?」
「譲歩ってねぇ・・・・最初はリンさんのソファ、応接室の入り口まで離してたでしょ!!あれじゃあ、依頼の人が来たとき邪魔で入れないんだから、当たり前!!」

そうか、最初はオフィスの隅っこに指定されてたのか。

悲しくなって、リンは少し涙目になった。
しかも、フォローしてくれるはずの麻衣の突っ込みもズレている。
自分が可哀想ではなく、依頼人の邪魔になると言う理由でソファの位置は直されたのか。
距離が縮まった事に喜ぶべきか、苛めのような状況に泣くべきなのか。
反応に悩む所だが、それよりも今は食事を優先しよう。
経済状況が赤字のため、毎日朝食は抜いているのだ。
空腹で仕方がない。
「リンさん、お弁当なんですね」
「ええ。外食する余裕はないので」
「リンさん、料理上手そうですよね。何が入ってるんだろう?」
期待の眼差しで麻衣と安原がリンの弁当を凝視する。
あわよくばおかずの交換をしてもらおうとさえ企んでいた。
しかし、二段重ねの弁当箱を開けると、そこには大量に敷き詰められた茹でたもやし。
一段目から現れたのも、やはり茹でもやし。
「・・・・・・・・・・・もやし?」
「はい。コレが一番安いんです」
嬉しそうに頷き、もしゃもしゃともやしを頬張る姿は涙を誘う。
「・・・・・・・・リ、リンさん。良かったらコレ、食べます?」
あまりの哀れさに恐る恐る麻衣が差し出したのは、野菜サンド。
同じ物がナルの前にも置かれている所を見ると、今日の彼の昼食は麻衣が作ったらしい。
「い、いいんですか!?」
「は、はい!!」
急にテンションの上がったリンに怯えつつ、麻衣は野菜サンドを差し出す。

ああ、もやし以外の食料なんてどれぐらい振りだろう。

感極まってリンの瞳に涙が浮かぶ。
サンドイッチにもう少しで指先が届く瞬間、横から伸びた手が麻衣の手首を掴み、そのまま自分の元へと引き寄せた。
リンの物になるはずだった野菜サンドは、あっさりとナルの口の中へと消える。
あまりの衝撃に悲鳴すら出なかった。
呆然とリンは消えた野菜サンドの行方を見つめる。
ふっとナルの口元が皮肉げに笑った。

わざとだ、絶対。

麻衣の手作りの物が他の者に食べられるのが我慢ならなかったらしい。

なんて独占欲、なんて狭量。

「もう、ナル!!いきなり何するの!!あれ、リンさんのだったんだよ?」
「もう一つ」
「ナル、聞いて・・・・・」
「うわー。所長の『あ~ん』を見れるなんて・・・・・カメラ用意しとけば良かった。安原、一生の不覚です」
「え?」
「え・・・って、さっきのですよ。谷山さん、気付かなかったんですか?」
安原のしたり顔に、麻衣の頬は一気に紅潮した。
普段が恋人同士のやり取りなんかとは対極に位置しているナルだ。
何も言わないけれど、麻衣にだって恋人同士でのやり取りに憧れくらいは持っている。
不意打ちとはいえ、結構嬉しかった。
「麻衣、もう一つ」
無表情のままだが、ナルは麻衣へと顔を向け、口を開ける。
「う・・・うん」
真っ赤になりながら、麻衣はおずおずとサンドイッチをナルの口元へと運ぶ。
「お前も食べろ」
そう言ってナルは自分の分のサンドイッチを麻衣へと差し出す。
しばらく差し出されたサンドイッチとナルを見比べていた麻衣だが、覚悟を決めたようにサンドイッチを頬張った。
「いやぁ、初々しいですね。此処に滝川さんがいなくて良かった。いたら絶対に煩いですからね」
「そうですね・・・・・・」
一つ、また一つと少なくなっていくサンドイッチを名残惜しげに見つめながらリンは頷いた。

ああ、私の分のサンドイッチはどうなったんでしょう?

結局、リンの昼食はもやしオンリーだった。


夕刻。
本日の仕事を根性で終わらせたリンは、スーパーのタイムサービスに乗り込もうと意気込んでいた。
自分の長身はこの時のためにあるんだと、彼は本気で考えている。
身支度を整え、あとは戦場(スーパー)へ向かうだけとなった時、ドアがノックされた。
非常に嫌な予感がする。
「リン、ちょっといいか?」
聞こえてきたナルの声にリンは卒倒しそうになった。

残業か、残業なのか?

今日を逃すと食料を安く手に入れるのは難しいというのに。
青冷めつつ、リンはドアを開けた。
しかし予想に反して、ナルは書類を持っていない。
「どうかしましたか、ナル?」
「悪いが麻衣をマンションまで送ってくれないか?僕はまだ仕事が終わりそうもない」
「もう、私なら大丈夫だって。一人で帰れるよ。リンさんだって忙しいだろうし・・・・」
「いえ、大丈夫です。送りますよ、谷山さん」
気付けば口が滑っていた。
今はまだ日が出ていて明るいが、すぐに暗くなるだろう。
そんな中、麻衣を一人で帰すとなっては後でナルに何をされるか。
考えるだけで、恐ろしい。
「決まりだ。じゃあ、麻衣。コレを必ず持って行け」
そう言ってナルが差し出したのは、催涙スプレーとスタンガン、手錠が二組、更にはスパナまで。
「手錠は右手はハンドルに、左手はギアに繋いでおけ。そうすれば襲ってこないだろう」
ナルの非常な一言にリンは目を剥いた。

人を一体何だと思っているのだ!?

「わかった。それでもダメな時はスタンガンだね」
さらりと恐ろしい事をのたまう麻衣にリンは固まる。
「車内でスプレーは自爆になるから、なるべく使うな」
「だとすると、スパナかぁ・・・・・。狭い車内で振り回せるかなぁ?」
「脳天に叩き込めれば一発だ。ちゃんと手加減しろよ、死なない程度に」
恋人同士の危険な会話を聞きながら、リンは意識を飛ばしかけた。
そして、深く深く思った。

そんなに信用がないなら、最初から頼まなければいいのに、と。





■ 水杏りん様より(誕プレ/ナル麻衣+不憫)'10.7.10
<今日も今日とて、不憫な一日。>
不憫マイスターの称号を分け合う水杏りん様よりプレゼントを貰っちゃいました!
もうタイトル見た瞬間噴き出しました(笑)
痴漢に間違えられただけでも不憫なのに、その後のみんなの対応がまたw
水杏りんさん、ありがとうございました☆


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