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*藤袴 -thoroughwort-*

☆次回イベント予定☆                                                ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★                  

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「私のことなんて何とも思っていらっしゃらないのに、優しくなんてしないで下さいっ!!!」


激しく振り払われた手、ぽろりと零れ落ちた透明な雫。
弧を描いて揺れる黒い髪と離れてゆく小さな背中を、俺は追いかける訳にはいかなかった。
生涯ただひとり惚れに惚れた女を泣かせることしかできないとは......
情けない。
強い拒絶の言葉と共に振り払われた己の手と、小さくなっていく千鶴の背中を見比べながら、俺はただ唇を噛み締めた。

「............左之」
「新八か」
「良いのか?」
「あぁ........もう決めたことだ」

わざと茂みを揺らしガサガサと音を立てて現れた新八は、俺の顔を見てただ一言だけ訊ねた。
主語も何もあったもんじゃないが、俺たちにはその一言で十分だった。
俺の答えなんてとっくの昔に判りきっているだろうに、それでも聞くのはコイツなりの優しさなんだと思う。
やがて見えなくなった小さな背中に瞑目し、小さく息を吐いた俺は、千鶴とは別の道へ向かうため踵を返した。
俺たちの戦は、まだ終わっちゃいない。

「いくぞ新八」
「おぅ」

千鶴、すまねぇな。
俺はまだ、この羽織を脱ぐつもりはねぇんだ。
きっと一人で泣いているだろうお前を追いかけることもしなかった俺を、お前は責めるだろうか?








「滅べ新選組っ!!!」

俺たちが向かった先には薩摩の浪士たちが待ち構えていた。
振り上げられた刀と向けられる敵意に、心の弱い奴ならば震え上がってしまうだろう。

「俺たちに刀を向けて生きて帰れると思うなよ?」
「黙れ!!」
「弱い奴ほどよく吠えるってかー?」
「新八、そう真実をハッキリと言ってやるな。可哀想じゃねーか」
「そうかー? ま、俺たち2人に刀を向けたんだ。それ相応の覚悟はしてんだろう?」
「このっ!!幕府の犬が我等を愚弄するとは!!!!」
「許せんっ!!殺してしまえっ!!!!」

ニヤニヤと笑いながら交わされる原田と永倉の軽い口調に、馬鹿にされたと憤慨した浪士たちは、怒りに顔を染め一斉に切り掛かってくる。
しかし冷静さを欠いた彼らの攻撃など、原田と永倉の敵ではない。
刀を2度合わせられたなら誉められた方で、ほとんどが1度も合せる事なく地面に静められる。

「おいおい、薩摩の浪士ってーのはこんなに弱いのか?」

余裕の笑みを浮かべながら挑発する永倉の言葉に、薩摩の浪士は言葉を返せなかった。
何故なら次々と、しかも簡単に倒されてゆく仲間の姿が、浪士たちの心に恐怖を芽生えさせたのだ。

「つ、強い....」
「こ、こんなに強いなんて聞いてないぞ!?」
「なんだ? あんなに粋がってた癖にもう終わりか?」

さぁ、どうする?と原田が槍を構え直し、その隣りに刀を構え直した永倉も並ぶ。
2人共余裕の表情で、大人数を相手に戦っているというのに汗さえかいていない。
残っている浪士たちの刀を構える腕に、震えや躊躇いが生じる。
誰も原田と永倉に向かってゆくものは居ない。
浪士全員が「この2人には叶わない」と認識したのだろう。
そうなってしまえばもう、刀を振るう事などできるはずもない。

「し、仕方がない、ここは退却だ!!お、覚えてやがれっ!!!」

そう言い捨てると、浪士たちは一斉に退いたのであった。


「っあ、こらっ!!逃げんならコイツら連れて帰ってやれよ!!!」
「無駄だ新八。しかし、なんの捻りも芸も無い言葉で言い逃げされても覚えてられっかよ」
「だな。おい、怪我人は出てないな?」
「はい。二番隊、十番隊共に誰も怪我をした者はおりません!!」
「うし、じゃぁ次に行くぜ!!」
「「「はいっ!!」」」


大きく溜め息を吐いた2人は、他の隊士と共に次の戦いへと足を向けるのであった。
その道中、ふと足を止めた原田は、風にはためく誠の旗とその先にある空を見上げ、想う。
惚れた女ひとり幸せにできねぇ俺だけど、いつかお前と2人で生きてゆきたい。
そう思う時だってあるんだぜ。
だから、もうちょっと待っててくれや。
悪ぃな千鶴。







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ligament@ほのぼの




「へっくしっ!!」

盛大なくしゃみ、ズルズルと音を立てる鼻。
こりゃぁ風邪ひいたかなぁ、と思いながら京の町の巡察を終えた俺。
今日は温かいもんが食いたいなぁ、千鶴に頼んだら作ってくれるかな?
思いっ立ったら即行動な俺は、早速千鶴の部屋に向かった。

「千鶴、居るかー?」
「あ、平助君お帰りなさい」
「た、ただいま////」
「お外寒かったんじゃありませんか?今、温かいお茶淹れますから、こたつに入ってて下さいね」
「おう、悪ぃーな」
「いえ。私にはこれくらいしかできませんから」

にっこり笑ってお茶を用意してくれている千鶴を横目に見ながら、俺はこたつに足を突っ込む。
あー、温ったけー。

「あ、そうだ平助君、お蜜柑食べます?」
「蜜柑?」
「はい。先ほど近藤さんから頂いたんです。風邪の予防に良いんだと、沢山買い込んだそうで」
「へー」

お茶と蜜柑が乗せられた盆に俺は目をやった。
蜜柑を買い込んだらしい近藤さん.........俺たちにくれた事、一回もないのに...........。
ちょっと視線が険しくなる事は否めない。

「お嫌いでした、蜜柑?」
「いや、食う食う!!蜜柑なんて久々だと思って!!」
「そうでしたか。沢山ありますから好きなだけ食べて下さいね」




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ligament@ほのぼの




「一さん、ぎゅーってしてください」

特に何を話す訳でもないが、千鶴と2人で過ごす寝る前の、僅かだが幸せを感じる刻(とき)。
今や妻となった彼女の言葉に俺は反応できなかった。

「一さん、ぎゅーってしてください」

何も反応を示さない俺に、聞こえなかったと判断したらしい千鶴は、再度同じ言葉を唇に乗せた。

「駄目.....ですか?」
「いいや」

不安げに瞳を潤ませた千鶴に、俺は慌てて返事を返す。
途端に浮かぶ満面の笑み。
何年経っても、何度見てもその鮮やかさは俺の目には眩しい。
手を広げて呼べば、彼女は嬉しそうに俺の膝の上に昇って来る。
向かい合って抱き締めれば、俺の胸に頬を寄せ自らの腕を俺の背中へと回す。
華奢で白い腕が俺の心までも包み込む。

「どうかしたのか?」
「いいえ、何もありません。何もないんですけど」
「けど?」
「一さんに甘えてみようかと思ったんです////」
「///////」

えへっと頬を染めて笑う千鶴は、最強だ。
俺の目元も負けず劣らず、赤く染まっていることだろう。
だが、腕の中に感じる温かな体温が、愛おしくて堪らない。




 

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恋したくなるお題(配布)より「もうすぐ別れを告げる恋」




ごめんね千鶴
きっと僕は君をひとりぼっちにしてしまう
それはそう遠くない未来に訪れる
他に誰も居ないこの土地でただひとり残されてしまう君を思えば悲しくなる
でも君を手放す事なんて考えられないんだ
僕の我侭で縛り付けてしまう事をどうか許して欲しい
こんな事を言えばきっと君は怒るのだろう
誰にも強制なんてされていないと
真っ直ぐで透明なその瞳を僕に向けて自分が傍に居たいと思ったからここに居ると
そして僕は「ありがとう」と抱き締める
僕の隣りに君が居て
君の傍には僕が居て
それがこんなにも幸せだなんて思いもしなかった
死にたくない
死にたくない
死にたくない
君の隣りにずっと...ずっと寄り添っていたい
この先の未来ずっと共に
でも無理な事を僕は悲しいくらいに理解しているから
どうか泣かないで
僕は君の笑顔が好きだから
この先の未来でも君が笑っていられるように
僕も最期の瞬間まで君を見て笑っているからね
愛してるよ
いつか生まれ変わった時はもっと長く君の隣りにいたいな





 

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恋したくなるお題(配布)より「玉砕覚悟の恋」




「沖田さん、お加減いかがですか?」
「うん、今日は大分良いよ」

にっこり微笑んで言えば、とっても嬉しそうに笑う君が居る。
僕の事なんて放っておけば良いのに。
でも君が僕の事を気に掛けてくれている事を心のどこかで嬉しいと思う自分が居る。
他の隊士たちの事なんか構わず僕の傍にずっと居れば良いのに。
いつから.....いつからこんなに君の事が気になって仕方無かったのか、もう思い出せない。
最初は確かにヘラヘラ笑って馬鹿な娘だと思って居た筈なのに。
本当にいつの間にか君は僕の心の中に居座ってしまった。
君が笑えば僕も嬉しいし、君が泣くのなら涙が止まるまで抱き締めていたい。
彼女が人だろうが鬼だろうが関係ない。
ただ僕が好きだから護る。
それだけだ。
例えそれが修羅の道になろうとも隣りに君が居るだけで僕は強くなれる。
だから君は笑ってくれれば良い。
それだけで僕は戦える。
だってこれは、沖田 総司の一生に一度だけの恋だから。





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ligament@ダーク




ねぇ、知ってる?
僕は今まで賭けに負けた事、一度もないんだ。
どんな時も、どんな事も、僕は僕の想い描いた通りに生きてきた。
ふふ。もちろん、負けそうになった事はあるよ。
でも僕は勝つと言ったら勝つ。
たとえどんな手段を使ってもね。
そんな僕が.......僕としたことが、君なんかに囚われるなんて。
あぁ、まったく、なぜさっさと斬っておかなかったんだろう?
沖田 総司、一生の不覚だ。




 

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恋したくなるお題(配布)より「玉砕覚悟の恋」




新選組一番隊隊長、沖田 総司といえば京で知らぬ者は居ない。
半端な浪士では、その名を聞いただけで逃げ出すというのに、目の前の少女は今も沖田を睨み付けている。
彼女は労咳を患った僕に休めと言ってくる。
近藤さんの役に立ちたくて手にした刀。
やっとこれからあの人に恩を返せるというのに、君は刀を置けと言う。
刀の持てない僕に、一体なんの価値があるというのだろう。
それは僕に死ねと言っているに等しい事を君は判っているのかい?
心配?
ねぇ、君。僕を一体誰だと思ってるんだい?
労咳なんて簡単に治らない事なんて子供でも知ってるんだよ。
休んだところで治療らしい治療もできないのなら僕は戦う事を選ぶ。
せめて死ぬまであの人の為に生きられる道を。




 

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「千鶴、誤解だっ!!!」
「もういい!!平助君なんて大っ嫌い!!!」

突き出した右手は空を切り、幼なじみの背中はみるみる内に小さくなった。
先ほどまで慌てていた平助は「大嫌い」という言葉のショックに千鶴を追い掛けるという事さえ思い付かず、立ちすくんでしまったのだった。


「なぁんかウザくない?」
「総司、聞こえたらどうするんだ」

薄桜学園の剣道部と言えば全国でもトップクラスの実力を誇る。
中でも沖田総司と斎藤一の名前は知らぬ者など居ない程に知れ渡っていた。
その2人が視線を向けるのは後輩の藤堂平助。
技術的には2人には劣るものの、次期薄桜学園剣道部を背負ってゆくのは平助だと思われている。

「だってさー、一君もそう思わない?あれ、いい加減鬱陶しいと」
「............平助は真面目に悩んでいる」

沖田の言葉に一瞬言葉を詰まらせたものの、後輩思いな斎藤は平助を擁護する言葉を繋ぐ。
朝練の真最中だというのに平助は剣道場の隅っこで壁に向かってぶつぶつと呟き続けているのだ。
こうなったのは十中八九、幼なじみの千鶴と喧嘩でもしたのだろうと2人は思っている。
というか、それ以外に平助があそこまで落ち込む事なんて想像出来ないだけだが。

「まぁ、僕としては平助と千鶴ちゃんが別れてくれれば万々歳な訳だけど」
「総司」
「...........冗談だよ。平助はともかく千鶴ちゃんが泣いちゃうのは可哀想だもんね」

沖田にとって大事なのが千鶴だけだと判る言葉に、斎藤は溜め息を吐いた。
しかし平助も一応は気に入られてるのだろう。
でなければ沖田が千鶴に対して本気で行動を起こしている筈だから。

「平助も雪村も可哀想に」
「一君?」

小さく呟いた声は沖田には聞こえなかったらしい。
首を傾けた沖田に何でもないと返し斎藤は、平助をどうすべきか考えた。


「平助」
「........一君?」
「何があったかは知らないが今は部活中だ」

暗に練習をしないのなら出てゆけと言われた平助は、ハッとしたように周囲を見渡してから竹刀を持った。

「ごめん、一君」
「気にするな.......平助。話しをするのなら早い方がいいと思うぞ」
「..................ありがとう一君」


 


 

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Discolo(配布)より「叶わない愛10題」

薫→千鶴(not CP)



嫌いだよ、お前なんか。
そう告げた時の酷く傷付いた瞳が頭から離れない。
何故だ?
もっとズタズタに、地の底まで、お前を落としてやろうと思っていたのに………。
誰からも愛された娘。
誰からも必要とされなかった僕。
憎い………お前が心底憎いよ、千鶴。
僕の妹。
アイツ等を殺してやろう…………お前に、地獄の底を味合わせてやろう。
そして僕と同じ場所まで、早く堕ちてくると良い。
お前がここまで堕ちてきたなら、他に誰もお前を愛さなくなったなら、そしたら僕が、誰よりもお前を愛してあげるよ。
僕の可愛い、いもうと。




 

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骨飛族も眠る真夜中
1件の居酒屋の扉が勢いよく開かれる。

カランコロン

「いらっしゃい、おう!クルー久々じゃないか?」

扉が開けた人物を見たとたん店主の嬉しそうな声がかる。
店内にいた客が扉を振り返ると王立軍の制服を着た美少女が立っていた。
赤みが強めの茶色い髪が腰辺りまで真っ直ぐ伸びサラサラと揺れている。
ぱっちりと大きな瞳は髪よりも深い茶色。一見どこにでも有る組み合わせ。
だが、見たことも無い位に整った顔立ちが全てを覆していた。
流れるように歩く様は、まるで水面を泳ぐ漁人殿のよう。
その輝かんばかりの瞳で見つめられるだけでこの世のありとあらゆる幸福を授かった気になりそうだ。
やや小柄だがそれが守ってあげたい!と言う男の庇護欲を非常にそそる。
しかし、強い意思を宿した瞳が決して弱い守られるだけのお姫様で無い事を物語る。
客全員から「ほぉぅ」と言う溜息とも付かぬ声が漏れる中、少女は店主に向かって嬉しそうに話掛ける。

「久し振り。色々忙しくってねー。ふふふ。いつもの頂戴♪」
「あいよ。飲みもんはオレンジジュースでいいかい?」
「うん。あ、はいお金」

そんな店主と少女のやり取りを呆然と見ていた客の1人が思わずと言う風に聞く。

「オヤジも隅におけないねー。いつの間にそんな可愛い子と知り合ったんだ?」
「レック羨ましいか?」

と言う店主の台詞に店内の客全員の首が激しく縦に振られる。
「?」きょとん。と言う形容詞が相応しい表情を浮かべ小首を傾げる少女に再び見蕩れる客に、店主が目を細めた時入り口から物騒な物言いが聞こえた。

「命が惜しいなら、あんま近づくんじゃねーぞ、お前ら。」
「グリエちゃん!?」
「どーも。お久し振りですお嬢さん」

明るく挨拶を交わしつつ自然に少女の隣りに座る。もちろん店の客への牽制を込めて...

「ヨザック?知り合いか?」
「ん?まあな。」
「グリエちゃんお友達?」
「いいえ、仕事仲間ってやつですよお嬢さん」
「お庭番?」
「そっちじゃありません」
「グェ、じゃなくって、えぇっと親分が言ってたお店の方?」
「えぇ。あ、ほら来ましたよ」
「ほい、クルーお待たせ」
「ありがと、オジサン」

どこの作法だろうか?いただきます。ときっちり両手を合わせて言い少女が食べようとすると「美味しそうっすね〜お嬢さん俺にも一口」とグリエと呼ばれた男が少女より先に料理に噛り付く。

「「「「「!?」」」」」

店内の客が唖然とする中、少女も男み何事も無かったかの様に食事と会話を続けている。

「美味しいグリエちゃん?」
「むぐむぐ。お嬢さんが通いつめるのも頷けますね〜この値段でこの味、中々無いですよね〜」
「でしょー」
「...おい、ヨザック」

ドスの効いた声で話し掛けてくるレックを一瞥しニヤリと笑う。

「何だ? レックそんな怖い顔してー」
「お前なぁ、何だじゃないだろう!そーんな可愛い娘と “はい、あーん” みたいな恋人的行動!!なんて羨まし....ゴホン。否...まぁ、とにかく。その...」

もごもごと口の中で言葉を濁すレックに対しヨザックは何か思い至る節があったらしく人の悪い笑みを浮かべた。

「どうしたレック? 顔が赤いぞ? もしかして...」
「な、なななな何だ!!」

意味深に言葉を区切られて、思わず吃ってしまうレック。
ヨザックはさらに笑みを深め、少女には聴こえない様に言う。

「まさかとは思うがお前、お嬢さんに惚れたか?」
「なっ!! そ、そんな、わ、訳ないだろ!!」
「そーかぁ?」

にやにやと人の悪い笑みを浮かべるヨザック。
しかし次の瞬間、瞳に載せられたのは獰猛な獣の色。

「悪い事は言わねぇ、お嬢さんだけはやめておけ。 .....命が惜しけりゃな」





 

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それは
“グレタもユーリと一緒にお忍びで城下に遊びに行ってみたいの!!”
という可愛いおねだりから始まった

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作 戦 会 議 ? 
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ここは血盟城の地下にある赤い悪魔の研究室。
鍛え上げた肉体の持ち主であろうと、どんなに強い魔力を有していようとも(特に後者の者は)決して誰も近づかない魔の部屋。
しかし今、その部屋に、この世の軌跡と称される美貌の持ち主(本人無自覚)で、稀代の名君の名高い当代魔王、ユーリ陛下とその御息女、グレタ姫が仲睦まじく紅茶をお飲みになられている。
他の魔族にとっては恐怖の部屋だが、栄えある罠女候補生であらせられるグレタ姫とユーリ陛下にとっては、お付きの者の目の届かない格好の隠れ家である。

曰く、 “誰にも邪魔をされない内緒話が存分にできる” との事。

陛下にひたすら愛を捧ぐ某閣下などが聞けば号泣しそうだ。
余談ではあるが、某閣下の娘は良く出入りし話の仲間に加わっている。
とにかく、今もその内緒話の真っ最中だったりする。

「やっぱり、クルトさんとこのベーグルは外せないと思う」
「美味しいの?」
「すんごく!でも屋台の干し肉のスープとか、子羊のルカッチャも捨て難い。う〜ん。ベーグルはお土産にしようか...?」
「持って帰れるの!? ならアニシナとギーゼラにも買ってこようよ♪」
「そうだね、うん。そうしよう♪ 良し、これで大体決まった!」
「楽しみだね、ユーリ♪」

楽しそうに微笑み合う御二人。
そーんな微笑ましいやり取りの後ろでは、 “ゴポッコポッ” という怪しさ満載の音と “ふふふふ、もう少しで完成です” という声がしているが、まったく気にならないらしい。

「そー言えばユーリは御忍びの時、何て名乗ってるの? ミツエモン?」
「うーん、一人の時は “クルー” って名乗るのが多いかな?」
「クルー?」
「うん。ロビンソン・クルーソーって探検家の名前から、正式にはフェイレン・クルーソーだね。で、ムラケンがロビンソン。通称 “ロビン” ちゃん。」
「へー。猊下も御忍び用の名前あるんだー。じゃぁ、グレタも御忍び専用の名前が欲しい!!
 ね! ユーリ!! グレタの名前、付けて♪」
「へ?」
「...ダメ?」

小首を傾げて上目遣いでの愛娘からのお願いに、お母様は落ちた。





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