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*藤袴 -thoroughwort-*

☆次回イベント予定☆                                                ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★                  

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「お待たせして申し訳ありません。わたくしは、ヒッツベツガー卿 フェルナンと申します」

扉を開くといきなり名乗り、 “どうぞ御見知りおきを” と言う卿に驚いた。
卿は貴族でもかなり上位の方にしかそのような態度を取らないからだ。

「リューネ・スケサブロウ と申します。門番殿からお聞きかもしれませんが、護衛も兼ねておりますのでこの様な姿にてお目汚しをお許し頂きたい」
「とんでもありません。ご旅行の途中で軽装をお取りなのは当然の事、どうぞお気になさらず」

そう言うと卿はリューネ殿の隣りの少女....お嬢さんに向き直った。
その視線を感じたのだろう、お嬢さんが卿に向かい、にこやかに微笑まれた。

その時の衝撃ときたらもう........

言葉では言い表せなかった。
卿の斜め後ろに控えていた私たちですら放心してしまったのだから、目の前でその微笑みを受けた卿は言うまでもなく、動きを停止していた。そんな中、お嬢さんか卿へ話し掛けられた。

「この度は突然お邪魔してしまい申し訳ありません」
「い、否々! この様な美しいお嬢さんにご訪問頂き誠に光栄に存じます....えーっと、ベンカー卿。でしたかな?」
「あら、これは失礼を致しました。私ったら名乗りもせず。ベンカー卿 ルーシェ と申します」

お嬢さんはそう言われるとリューネ殿のエスコートを受け立ち上がり一礼し再びソファーに掛けられた。
その時のお2人の優雅なこと。卿も魅入られたらしい。

「いやー、こんな素晴らしい御姿を拝見出来るとは福眼です。時にリューネ殿、貴方もしやリューネ卿ではあられませんかな?確かフォンビーレフェルト卿の御親類にそのような御名を聞いた気がするのですが?」
「否々とんでもない。わたしは、只こちらのお嬢様にお仕え申し上げているだけにございます」
「ほう、ではそちらのお嬢さんは貴方より身分が上でいらっしゃる?」
「スケサブロウはわたくしの護衛が主な仕事です。ですから主(あるじ)は、わたくしで間違い無いかと」
「あぁ、そうでありましたか。否ね、御気分を害されないようお願いしたいのですが、わたくしはベンカー卿という名を聞き及んだ事がありません。もちろん、御容姿や先程の御挨拶で申し分無い御身分の御方だとは判るのですが、どちらの御出身かと思いまして」

そう訊ねる卿は、何やら意味ありげに口唇を上げられた。
リューネ殿の瞳が僅かに鋭く細められた気が.......気の所為だろうか?

「あぁ、それは仕方ありませんわ。我が家は通常領内を出ませんので」
「そうなのですか?」
「えぇ、ですから今回どうしても旅行がしてみたくって我侭を言いましたの。でも周りが賛成して下さらなくって、どうしようかと思っていた矢先に旅慣れたスケサブロウが我が家を訪れまして、スケサブロウと一緒なら、とようやく許可をもらいましたの」
「元々お知り合いだったのですか?」
「母の出身はビーレフェルトなのですが、その姉がリューネ家へ嫁いでおります。父はウィンコットの出身で私も今、共に生活しております」
「ウィンコットの方ならわたくしが知らないのも道理ですな。もしや領内から出られないのはウィンコットの血を引いておられたりするからでしょうか?」
「フォンウィンコット家とは確かに繋がりが在ったようですがウィンコットの血が現れたという事は聞いた事はありません。現に私や兄、そして父にその様な気配はありません。私が領内から出られないのは血ではなく周りがものすごく過保護なだけです」
「そうですか。その御容姿では心配なさって当然でしょう。ウィンコット家との繋がりというのは姻戚関係が?」
「有ったようです。ベンカー家直系の者はこの様にウィンコットの紋章を使用できますし」

そう言ってお嬢さんが示したのは青い宝石。

「失礼しても?」
「どうぞ」
「ほぉ、これは見事な!!フォンウィンコット家の紋章ですな。ベンカー家に代々伝わる御品でしょうか?」
「いいえ、それは兄が。こちらは私がフォンウィンコット卿 スザナ・ジュリア様より戴いたモノです」
「そうでしたか!! 御本家御令嬢から!」

“実に素晴らしい!!” と一人興奮している卿を後目にお嬢さんは本題へ移られた。

「で、本日こちらにお伺いした件なのですが...」
「あぁ! そうでした。何でしょう?」
「実は旅の途中で共の者が体調を崩してしまいまして」
「それは大変ですな! 医師を何人か御用意しましょうか?」
「否、それは癒しの手の者がおりますので結構です。ただ、その看病をする人手が足りないので、こちらの方々をお借り出来ないかと思いまして...」
「この者たちですか?」
「えぇ、治療いがいの細々とした事をお手伝い頂けないかと。駄目でしょうか?」

そう言って不安そうな面持ちで小首を傾げられたお嬢さん。
め、目眩がするわ....

「こ、この様な者でなくもっと身分の確かな従者でも何でもお貸し致しましょう!! 麗しい御令嬢がお困りな時に手を差し伸べぬなど紳士として有るまじき事!!!」
「ありがとうございます。でも、やはりここにいらっしゃる6人の方をお借りしたいですわ。他の方では最初から説明しなければなりませんし」
「判りました。ではこの者たちをどうぞご自由にお使い下さい。他にもお役に立てる事がございましたら遠慮なく御申し付け下さい。」

そうして私たちは、かつて無い微笑みを浮かべたヒッツベルガー卿に見送られこの宿に連れて来られたのだ。





 

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