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*藤袴 -thoroughwort-*

☆次回イベント予定☆                                                ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★                  

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目の前で行われたやりとりに私たちは言葉が出なかった。
話の内容はもちろんの事、先程のふざけた様な話し方とまったく違う男の態度。そして、普通の子供だと思っていた少女が今、紛れも無い統治者の顔をしていた。
しかし少女は、普段なら私たちが恐怖や嫌悪を覚える統治者たちとはまったくもって異なっていた。
外見がどうのという問題ではなく、私たちへ向けられる心と瞳が違うのだ。
現に、少女が私たちに向き直っても、深く美しい瞳に吸い込まれそうだとは思っても恐怖や畏怖を感じたりはしない。

「お姉さんたちからも話しを聞かせて欲しいんだけど、誰かに言わないとダメ?」
「へっ?」

少女から言われた言葉を反芻するも理解が及ばない私たちに男が注釈を加えてくれた。

「そー固くなりなさんな。あんたらが誰かに雇われてたり、住む場所が決められてたら無断外泊はマズイだろ?こっちで話し付けるからそんなのが有るんだったら言って欲しいとお嬢さんは言われてるんだ。で、どうだ?」
「えーっと、私たちは全員ヒッツベルガー卿の管理下に置かれております。外泊は愚か数時間の外出許可さえ出た事はありません」

言外に無理だと言ったのだが、少女も男も納得してはくれなかったらしい。
少女は “管理下” と呟いたあと、何やら思案しているし。男も“どーしますぅお嬢ーさーん?” なんて暢気に訊いている。

「あ、あのー。そろそろ帰らないと拙いので失礼しても宜しいでしょうか?」

怖ず怖ずと訊ねれば、勢い良く振り返った少女が手を叩き、宣言した。

「よーし! じゃぁ、一緒に行こう!!!」
「は!!!!?」

男を除く全員の声が揃った。

「あらー? 名案でも浮かびましたー、お嬢さーん?」

と言う男の声が遥か遠くに聞こえた気がした。
だからだろうか、その後ヒソヒソと交わされた男と少女の

「ヨザック? 何か知ってる?」
「ヒッツベルガー卿の事ですか?」
「うん」
「そうですねー、シュトッフェルを小物にした感じですよー」
「うわぁ、金魚のフン&ゴマ擂り男の再来? 最低ー」
「お嬢さん。そんな身も蓋も無い...」
「違うの?」
「イイエ。大正解です」
「今、やりたい放題なんだよね?」
「そーですね。どうされるんです?」
「明日の夕方までにある程度の情報を、5日以内に証拠を。“わたし” を使って」
「...拝命仕りました」

なんて精神的に良く無い会話は私たちの耳には入らなかった。







遠くで小鳥のさえずりが聞こえる。次いで人の笑い声...朝市だろうか?
........あ、朝市!!?そう確信した瞬間一気に目が覚めた。
その時間には、私たちは既に働いていなければならないのだ。
が、飛び起きた部屋を見て昨日の記憶が鮮やかに甦った。
昨日、私たちはとある少女と男に出逢った。
そして何を思ったのかその2人は私たち8人を自分たちの滞在する宿に連れ帰ったのだ。

まず無理だ。
と言う私たちの意見を無視して付いて来た彼らは門番という名の監視者が口を開く前に全ての事を運んでしまった。

「失礼。こちらの御主人、ヒッツベツガー卿に御逢いしたく彼らに案内を頼んだ者だが、御主人はご在宅か?」

いきなり主人はいるか? と訊ねる男に門番は訝しげな視線を向ける。

「失礼ですが...」
「あぁ、申し訳ない! 名も名乗らずに失礼致しました。わたくしはこちらのお嬢様にお仕えしております、リューネ・スケサブロウと申します。護衛も兼ねておりますのでこの様な御目汚しをお許し頂きたい。お嬢様のお名前は、ベンカー卿 ルーシェ様と仰います。御主人に取り次ぎをお願いしても?」

にこやかだが有無を言わせぬ様に捲し立てる男。

「ベンカー卿...し、失礼を致しました。直ちに! どうぞ御二人はこちらに。足下、お気を付け下さいませ。お前たちご苦労であった。部屋に戻っていろ!」
「あぁ! 忘れる所だった。門番殿?」
「何でありましょうか? リューネ殿」
「彼らにも関係のある話なので一緒に同行して欲しいのだが、問題あるだろうか?」
「....申し訳ございません。わたくしでは判断致しかねますので確認を取って参ります」
「あぁ、そうですね。卿のお許し無しでは...ではそれもお願いしても?」
「畏まりました。では応接室ご案内させて頂きます」



「この者たちは一時下がらせますので御了承を」

2人を応接室に案内した所で、門番はそう言い残し扉を閉めた。そして “お前達はここで待っていろ” とだけ言い足早に卿の部屋へ向かった。おそらく先程の男(=リューネ殿)の言葉を伝えに行ったのだろう。

「ねぇ、名前に “卿” が付くって事はあの娘(こ)貴族のお嬢様なのよね?」
「そりゃ、そうでしょうね。あんなに可愛いんだもん」
「でも嫌な感じしないよね?」
「それは僕も思った。僕たちを見下したり汚らわしい物を見るような目はしていなかった」
「うん。私もそう思う」

「でも話って何だろうね?」
「さぁ?」

不安は残るが廊下に響いた複数の足音に私たちの会話は中断された。
おそらくヒッツベツガー卿が来られたのだろう、私たちは廊下に跪き頭を垂れた。





 

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