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*藤袴 -thoroughwort-*

☆次回イベント予定☆                                                ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★                  

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「「麻衣っ(さん)!!!」」
突然聞こえた声に真砂子とジョンが驚いて叫ぶ。
今まで倒れていたはずの麻衣が起き上がり、静かに男を見つめていた。
「ナルに感情がないとでも思ってるの? 痛みを感じないとでも思ってるの? だとしたら、アナタは愚か者以外の何者でもない」
真っ直ぐと据えられた視線は強く美しい。
それだけを告げると麻衣は男を放置しナルの元へと向かった。
「ナル」
麻衣は静かに呼び掛けてナルの直ぐ傍に膝を付く。
「ナル」
もう一度名を呼び、そっと背中に触れる。蹲ったままだったナルが僅かに顔を上げる。
「.....ま、ぃ?」
「そうだよ....ナル」
再度、呼び掛ける麻衣の声に誘われるように、ゆっくりとナルが身体を起こす。
ガタガタと揺れる窓の音が少し緩まった気がする。
「....っ、はぁ」
苦しそうに息を吐いたナルを麻衣が抱き締める。
「大丈夫......大丈夫だよ......」
静かに囁きながら背中に腕を回し優しく撫でる麻衣。その麻衣の肩に額を置き瞳を閉じるナル。
「大丈夫.....大丈夫......大丈夫」
時折、ポンポンと宥めるように背中を叩きながら、ただ “大丈夫” を繰り返す麻衣。
やがて “はぁぁ” っという大きな溜め息と共に、強張っていたナルの身体から余計な力が抜けた。
その事に、麻衣も詰めていた息を吐き出す。

「.....麻衣?」
恐る恐る声を掛けたのは真砂子。その小さな声に振り返った麻衣はただひと言 “大丈夫” と笑った。
その笑顔に、一同も “ほっ” と息を吐いた。しかし、視線を真砂子から男へと動かした麻衣の瞳に浮かぶのは激しい怒り。
「猟奇殺人犯が使ったナイフで、ナルにその犯行と、犯人が自殺する瞬間を視せたでしょう」
男を睨み付けながら言った麻衣の言葉に、真砂子たちが息を呑む。
「ほぅ」
薄ら笑いを浮かべると、男は実に興味深げに麻衣を見た。

「私はあなたを絶対に許さない」

「くくっ...これは、過去を思い出させる言葉ですねぇ...かつて私にその言葉を吐いた子供がおりましたよ。その所為で博士には手を出し難くなりましてね。実に迷惑な子供でしたよ」
“やれやれ” とわざとらしく嘆く男に、いくつもの怒りの視線が向けられる。
ジョンと安原は、真砂子とナルを支えたままの麻衣の前に割って入り、リンと滝川がいつでも男を捕えられるように身構える。
そんな彼らの行動を見た男は嫌そうに眉を顰めた。
「やっと居なくなったと思ったら、もっと厄介なのが周りを固めているらしい」
男の吐いた言葉に全員の動きが止まった。
「や....っと、居なく....なっ、た?」
「そうさ! 遥か東方の島国で死んだと聞いて、やっと俺にもチャンスが巡ってきたと思ったんだ!」




全身に震えが走るのは怒りの所為だろうか?
それとも悲しみの所為だろうか?
止まっていた涙が再び溢れ出すのを麻衣は止められなかった。

バキッっ!!!
鈍い音が響き渡った。
今まで薄ら笑っていた男が盛大な音を立てて床に倒れ込む。
「二度と、ナルや俺たちの前に顔を出すな」
肩で息をする事で激しい怒りを押さえ込み、滝川は静かに告げる。
周囲が息を呑んだが、滝川の行動を咎めるものは居ない。
「っ....随分と、野蛮な事をして下さいますね?」
殴られた頬を押さえながら男が起き上がった。恨みがましい目で睨むも、滝川はそんな事では動じない。
「野蛮? ....ふん! 俺の一撃なんぞ、お前がナルやジーンにした事から見れば可愛いもんだ!! その程度の傷なんぞ時間が勝手に治してくれらっ!!!」

「その辺りにしておいてもらおう」

激高した滝川の言葉の後に聞こえたのは静かな声。
振り返れば、ビルフォード卿に支えられ立ち上がったドリー卿の姿があった。
「実に聞くに堪えぬ言葉が耳に入ったのだが?」
「おぉ! これはドリー卿! そうでしょう! そうでしょう! この日本人ときたら突然殴り掛かってきて、まったく野蛮な事を....」
卿の言葉に我が意を得たりと男は語り出す。
「言いたい事はそれだけかね?」
突き放すような声に、男の口が止まる。
「ドリー卿...?」
「言いたい事が終わったのなら出て行きたまえ」
「っな、ドリー卿!!」
「君の私の客人に対する暴言の数々、ここに居る全員が証人だ。この意味は判るね?」
焦った様に声を上げる男に一切の弁解を与えないドリー卿。一瞬にして青褪めた男はパクパクと金魚のように口を開くのみ。
「判ったのなら出て行きたまえ」
その言葉を最後に、男はSPにつまみ出された。



「不快な思いをさせて申し訳ない」
元凶が居なくなった事で、呆然としていた一同はドリー卿の言葉に “はっ” とした。
「あ、えーっと。お騒がせしてすみません」
大声で叫んだ記憶のある滝川が、気まずそうに謝る。
「Mr. タキガワが謝られる必要はありません。主催するレセプション会場にあのような者を入れてしまった私どもの不手際です。申し訳ない」
そう言うと卿は一同に向かって頭を下げた。
「オリヴァー? マイ? 2人とも大丈夫かね?」
「私は大丈夫です。ちょっと呼ばれただけですから」
心配そうな卿の言葉に麻衣は笑いながら答えるが、その顔には少し憂いが浮かんでいる。
「ナル?」
「......問題、ない」
「でも...」
未だに麻衣の肩に額を預けたままの体勢のナル。おそらく腕を動かす事さえ億劫なのだ。
「疲れた」
「うん....お疲れ様」
麻衣の背中に回している手に、ギュッと力を篭めるナル。
不可抗力とはいえ、PKを使ったに等しいのだろう、身体が休息を要している。
「良いよ、休んで」
柔らかい髪を撫でながら促せば、僅かに頷く気配がする。
腕はそのままに、篭められた力のみが緩くなる。





 

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