2011/11/13 (Sun) Cynthiaの守護 ６

沸いたのは激しい怒り。
ふざけるな！ ナルを一体何だと思ってるんだ！！！ 頭の中では凄まじい罵声が浮かぶのに一切声にはならない。
次の瞬間、激しい音と共に射し込む光。扉を蹴破ったらしいその声の主は、一直線にナルに駆け寄る。
「ナルっ！！！！！」
「ジーン．．．．」
ぎゅーっとナルを抱き締めたジーンは、呆然と佇む男たちを睨みつける。その瞳は先程のナルより鋭い。
「何をしているんです、アナタ方は」
「な、何ってオリヴァーの能力の確認だよ」
「それはアナタの管轄外ではありませんでしたか？」
「否、お、お忙しい教授の代わりに．．．」
「誰が頼みました？」
激しい怒りを押さえ込んだ声に、男たちは一瞬ひるんだ。
男の言い訳を遮り訊ねるジーン。“ちっ” と小さく舌打ちした男は忌々しげにジーンを見る。
「僕はアナタたちを絶対に許さない！！」
「ふんっ」
睨み返すジーンを鼻で笑うと仲間を促し部屋から出て行った。
部屋に残ったのは、ナルとジーンの２人だけ。


「ゴメンね、ナル．．．．．ゴメン．．．」
「．．．．なぜ、お前が謝る」
「．．．．早く大人になりたい．．．．．．．早く」
「あぁ」



——— そしたらナルを守ってあげられるのに ———





誰もいなくなった空間で静かに涙を流すのは麻衣。
「あれは．．．過去？」
「そう。マーティンが目を離した隙に勝手にナルを連れ込んで、サイコメトリーさせたんだ」
「酷いよ．．．．」
「彼らにとっては結果が全てなんだ」
「だからってナルを苦しめて良い訳じゃないっ！！」
「うん．．．でも、アイツらにその言葉は通じなかった」
「ジーン．．．」
悲しそうに微笑んだジーンに麻衣の瞳から新たな涙が溢れる。そして、そっとジーンを抱き締める麻衣。
「辛かったよね．．．．．」
「うん」
「苦しかったよね．．．．」
「うん」
「悲しかったよね．．．．」
「うん」
「悔しかったよね．．．．」
「．．．．うん」


うぅ．．．．．．っう．．．．．．．．．っく．．．．っ．．．．．


「麻衣、泣かないで．．．．」
泣きじゃくる麻衣の背中を撫でて、ジーンは微笑む。
こうして僕たちの代わりに泣いてくれる事が嬉しいって言ったら麻衣は怒るんだろうな。
でも、そんな麻衣だからこそナルの隣りに居られる。

．．．．．．．２人とも、大好きだよ


「麻衣．．．．泣かないで」
「．．．っ．．．．．ジーン」
ようやく顔を上げた麻衣の頬は濡れていたけれど、新たな雫が溢れる事は無かった。
「麻衣、ナルを．．．」
「うん．．．．でも、どうすれば？」
「抱き締めてあげて」
「でも。それじゃぁナルに負担が．．．．．」
「大丈夫」
心配そうに眉を寄せる麻衣を安心させる様にジーンは微笑んだ。
「大丈夫．．．麻衣なら、大丈夫だよ」
「判った。やってみる」







「何だ！ これは．．．．一体何があったんだ少年！！」
「ナル！！ 谷山さん！！！」
騒ぎを聞き付けた滝川とリンが駆け寄り見たものは、床に蹲り息を詰めるナルと安原に支えられ意識のない麻衣だった。
後から来た綾子とまどかも息を呑み立ち止まる。
「麻衣！ しっかりして下さいまし！！」
真砂子が呼び掛けるが反応は無い。
「渋谷さん！！」
ナルの側に居たジョンが慌てた様に叫ぶ。
風も無いのに会場中の窓ガラスが一斉にガタガタと音を立てて揺れ出す。
「ナル！ いけません！！」
「ちっ」
リンが静止を掛ける。不意打ちだった上、襲う衝撃的なビジョンの数々にPKの制御力が緩んだのだ。
苛立たしげに床に拳を叩き付けるナル。
「これ程の衝撃を与えてもPKを暴走させないとは中々に素晴らしい」
悠然とした口調でそう言ったのは、先ほど麻衣の手を掴んだ黒スーツの男。
顔には笑みが浮かんでいる。
「お前！ ２人に何をしやがった！！」
今に掴み掛からん形相で叫ぶのは滝川。しかし返す男の表情は変わらない。
「なぁに、ちょっとした実験ですよ」
「実験、だと？ ふざけるな！！ 人を苦しめてまでするべき事じゃないっ！！！」


「その人に “その言葉は通じなかった” って言ってた」