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*藤袴 -thoroughwort-*

☆次回イベント予定☆                                                ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★                  

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※本人の安全保護の為、匿名にてお送りいたします(笑)



それは、とある晴れた日のこと。俺は遅めの昼食を終え、カフェへ足を運んだ。
思えばこの選択が間違いだったんだと思う。
いつもは結構混んでいる店内だが、中途半端な時間の所為で意外に空いている。
お気に入りのスコーンとココアを注文しソファー席を陣取った。
大きな窓側いあるこの席からは小さな湖(俺は池だと思うんだが、店員は湖だと言う)や木々が見え相変わらずの激務で荒んだ脳に心地良い。
しかし、そんな優雅な時間は長くは続かなかった。
ココアを飲み、スコーンを一口頬張ったところでなぜか斜め前の席の人に意識を奪われた。その人が特別何かをしている訳ではない。カップを傾けながら本を読んでいる。
ただそれだけである。しかしその容姿が意識の片隅に引っ掛った。
漆黒の髪に陶磁器のように白い肌。
この位置からは見えないが髪と同色の瞳もそこにあるのだろう。
オリヴァー・ディビス博士。
俺の仕事先の上司である。しかし博士がこのような場所に居るのはとても意外だ。
普段よりは空いているとはいえ、人の多いカフェ。人との関わり合いを極端に避ける彼がなぜ? と湧いてしまった疑問を無視出来ない俺はしばらく博士を観察する事にした。
すると、まず博士の前方の席に居た美女が立ち上がり、無謀にも博士に声を掛けた。

「お一人? 暇だったら私と遊ばない?」

男だったら一度は憧れる誘われ方。だが、博士には通じない。
本から顔を上げる事もなく何の反応も返さない。しばし佇んでいた美女もダメだと悟ったのだろう。溜め息をひとつ零しその場を離れた。
しかし次から次へと、何人もの女性(全て美人)がチャレンジするも、認識すらされていない。否、一人強硬手段に出た人が居た。
「ねぇ、君? 私とデートしましょう」
そう言うと博士に手を伸ばし髪に触れようとした。
その瞬間、白い手が女性の手を払い除け、凍てつく黒い瞳が向けられた。
硬直した女性に博士はさらに冷たい声で訊く。
「何か?」
初めて声を発せられた事に脈ありとでも勘違いしたのか女性は優雅に微笑んで博士を誘った。
「わたしとデート、しましょう」
「時間の無駄なので遠慮します」
断られるとは夢にも思っていなかったのだろう。女性はムッとした表情でさらに訊ねる。
「私と過ごす事は無駄だと?」
「果てしなく」
「なっ!」
あまりに素っ気なく返される答えに女性は怒りで頬を赤く染めた。
「この容姿の一体どこが不満だって言うのよ!!」
「失礼、僕は鏡を見慣れているもので」
「!!!!」
もはや返す言葉も無い女性は、唇を噛み締めその場を走り去った。
博士は大きく溜め息を吐き、時計へ視線を向ける。誰かと待ち合わせだろうか?店員を呼んだ博士は何かをオーダーしたようだ。
しばらくして運ばれてきたのは紅茶のポットと小さめの紙袋。そして2つのカップだ。
再びカップを傾けた博士のもとに、明るい声が割り込んだ。
今度は誰だ?
またもやチャレンジャーな美女かと思えば、小柄な少女だった。
「お待たせ〜、ナル」
沢山の紙袋を置き、“ふー” と息を吐き博士の隣に座るのは先日会ったばかりのマイだ。
「遅い」
「なんで〜 時間ぴったりじゃん」
「煩かった」
「あはは、ナンパでもされた?」
そう笑うマイに博士は眉を顰めた。
「終わりか?」
「うん。これ飲んで良い?」
そう訊ねるマイに小さく頷き博士は本へと視線を戻した。一口紅茶を飲んだあと “お腹空いたな〜、何か買ってこようかな〜?” と言うマイの前に博士は先ほどの紙袋を置いた。
マイがその紙袋から取り出したのは、いくつかのクッキーとスコーン、そしてシフォンケーキだった。
「美味しそう♪ ありがとう、ナル」
そう行って微笑んだマイはとても可愛かった。今もケーキを頬張るマイに自然、頬が緩む。
「ナルも食べる? そんな甘くないよ」
とケーキの刺さったフォークを差し出すマイ。ざわりと周囲の空気が揺れる。
「いらない」
「えー、美味しいのにー。あ、じゃぁこっちは?」
と今度は一口大のスコーンを摘んで博士の口元へ運んだ。再び揺れる空気。
ニコニコと博士を見つめるマイ。
小さく溜め息を吐いた博士は、スコーンを口にした。もちろんマイの手から.....
「ね、美味しいでしょ?」
「甘い」
..........博士ーっ! 感想はそれだけなんですか!!?
それが普通なんですね!?お二人にとっては普通の事なんですねーーーーっ!!!!!?
俺がその場で叫ばなかった事を褒めて欲しい。
“甘い” と呟いたあとマイの顔を見た博士は、何かに気付いたようでマイの顔に手を伸ばし引寄せた。
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
“やっぱり甘いな” という博士の声と、顔を真っ赤に染めたマイ。
そして凍り付いたかのように動かない周囲の人々。
それを見て、ようやく先ほどの光景が見間違いや、幻覚で無いことを理解した。
“帰るぞ” と言い、マイの荷物とマイ自身を連れ、博士はカフェを出て行った。
あとに残されたのは、博士に認識さえされなかった憐れな数人の女性と
マイに視線を注いでいた男たち、そしてなぜか瞳をキラキラさせた女の人たちだった。
ちなみに俺は今見たモノの衝撃から立ち直るまで 30分掛かり、休憩時間を大幅に過ぎてラボに戻った。



end





 

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