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*藤袴 -thoroughwort-*

☆次回イベント予定☆                                                ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★                  

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ザァァァァァァァァ
窓を挟んでいるというのに雨の音が耳障りな程大きく聞こえる。

「はぁ....嫌になるわね」

零れた言葉は水の音に混じって誰に届くことな消えた。
憂鬱そうに窓の外を眺めるのは松崎綾子。実に稀な、本物の樹の巫女である彼女。
条件さえ揃えばその能力の素晴らしさは、かのオリヴァー・デイビス博士も認める所であ。
まぁ、彼女の場合、その条件が揃うこと自体稀なのだが.....
そんな事はさておき、ここは彼女のマンションの自室。
ベッド脇のテーブルにはワインの空き瓶が数本転がり、薄暗い部屋の中で存在を主張している。
普段ならば実に活動的な彼女の事、彼氏やら男友達やらを呼び出し食事やショッピングを楽しんでいるはずである。
しかし今日は到底そんな気分にはなれず携帯も電源を切ったまま放置している。
原因は昨晩のニュース。最近いやに増えた自然災害の情報だった。
崖崩れが起こったと.....それだけだったなら特別気にはしなかった。
しかし綾子は聞いてしまった、人ならざるものの声を....
聞きなれた優しい、優しい声にそれは酷似していて綾子の心をより深く抉った。
そう、崩れた崖の上の方には、きっちり祀られた御社があったのだ。
その地を護り慈しんできた存在が消えた。
否、大惨事にも関わらす死者が出ていないのは彼女がきっと護って下さったのだろう。
遠く、遠く離れた土地での事.......でも綾子は聞いてしまった。
自分に何が出来た訳でもない。それでも、それでも願わずにはいられない。
どうか安らかに、どうか穏やかに、どうか.....  



ピンポ~ォン
綾子の思考を一気に奪い取る、間の抜けた音が響いた。

「..........誰かしら?」

今は誰にも会いたくない。
一瞬眉を顰めた綾子は訪問者を無かった事に決め込んだ。
再び波にゆたうように思考に戻った、否、戻ろうとした。
ピンポ~ォンピンポ~ォンピンポ~ォンピンポ~ォンピンポ~ォンピンポ~ォンピンポ~ォンピンポ~ォン   

「.........五月蠅い!!」

額に青筋を浮かべた綾子は一直線に玄関に向かう。
一体こんな非常識なインターホンの鳴らし方をするのはどこのどいつだ!!
と、覗き窓から確認もせず勢いよくドアを開ける。

「誰よ!!こんな非常し...き......」

ドアの勢いと同じくらいの問い詰める声は途中で消えた。 
目の前に佇むのは某心霊研究事務所の敏腕事務&調査員の青年。
手に持った傘から落ちる雨の雫と少し湿った服から雨足は結構激しいのだと思い至る。

「こんにちは、松崎さん」
「少年? .........何してるの?」
「最近、お顔を拝見してなかったなぁ〜と思い至り寂しくなって逢いに来ました」
「....はぁ.....悪いけど私、今日は誰とも話す気分じゃないの」

にこりと笑う安原に幽霊でも見たかの様にパチパチと瞬きを繰り返した。
やっとこ事で絞り出した言葉に返って来たふざけた物言いに綾子は大きく溜め息を吐き「じゃぁ」と扉を閉ざそうとした。

「判ってます」

先ほどまでの声音が嘘のような静かな声。
外からドアノブを掴まれ、扉はピクリとも動かない。

「何が?」
「昨日の崖崩れに巻き込まれた樹をご覧になられたのでしょう?」

質問の形は取っているが断言する声に綾子の心は震える。

「だったら何?」
「一人で、泣いてらっしゃるのかと思って」
「莫迦にしないでちょうだい」
「泣けないのでしたら、僕の胸をお貸ししますよ」
「いい加減にして!!」
「でも沈んでらっしゃるのは事実でしょう?」

叫ぶ綾子にまったく動じる事なく、安原は言葉を続ける。
まるで綾子が何を言うか予測していたかのように........

「あぁ、あと傷心な松崎さんを慰めてですね〜、少しは僕を意識して頂こうかな〜と思いまして」
「........冗談はやめて頂戴よ。私は玉の輿を狙ってるんだから」
「あれ?僕って稼ぎ悪そうに見えます?」
「.......」

再びふざけたような声の調子に戻った安原に綾子も肩の力が抜ける。
そして、にこやかに笑いながら告げられた言葉に、綾子は瞳を瞬き考える。
目の前の喰えない笑みを浮かべた少年は.....
なんというか、定職に就いていなかったとしても、どっからともなくお金を稼いできそうではある。
綾子の思考を読んだかのように自信ありげに笑う少年。

「ね?僕といればお金にも人生にも困らないと思いません?自分で言うのも何ですが、結構お買い得だと思うんですけど、僕」

にこにこにこ
一見、人畜無害そうな笑顔。しかしその裏に何かある事は今までの経験上知っている。
言葉を返さない綾子に焦れたのか、カタンっという音と共に一歩安原が玄関に踏み込む。
変わらずに浮かべられる笑みが綾子の心に限りない安堵と、少しの不安を呼び起こす。

「し、少年.....」
「僕の名前、ご存知です?」
「は?」
「僕の、名前、です」 

殊更ゆっくりと区切って告げられた言葉。
目の前に居る“少年”だったはずの人は、もうずっと前に一人の青年へと成長していた。
もちろん知っていたが今更その事実を突き付けられた気分だ。

「や、安原 修...でしょ?何を今更...」
「えぇ、今更です。ですが、僕には結構大事な事です......松崎さん」

かの瞳に映りこむのは自分だけ......
伸びてきた安原の腕を綾子は振り払わなかった、否、振り払えなかった。

「僕は、ずっと貴女を見ていました」

頬を撫でる大きな手にそのまま身を委ねてしまえればどれだけ楽だろう。

「余計な事、考えてらっしゃいますね?ダメですよ。僕を捕らえたのは貴女なんですから、責任取って下さい」

言葉は何とも自己中心的だが優しく労わるように肩に触れた手と、にっこりではなくふわりと微笑んだ顔。
「逃がしませんよ」と耳元で囁く声。そのどれもが綾子をいとも簡単に絡め捕る。
動けない綾子に笑みを深めた安原は真っ直ぐと綾子を見つめ小さな声で囁いた。


「松崎さん、僕は貴女が好きです」


end  



♪ Happy Birthday ♪ LSさんへ捧げる、初☆安綾です。
既に付き合ってる甘々な2人が想像できなかったので、安原の告白(越後屋風味/笑)
な話になりました。どうかお納め下さい^^
今、私が沢山の方と仲良くなれたのは、偏にLSさんが悪☆オンを主催下さったからです。
どんなに感謝して感謝して感謝しても伝え切れない思いでいっぱいです。
これからも宜しくお願い致します。
最近、何かとお忙しいLSさんの癒しになれば幸いです(ぺこり)


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