*藤袴 -thoroughwort-*
☆次回イベント予定☆ ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★
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観葉植物で埋まったマンションの一室。
その緑の部屋に、荒んだ空気を漂わせる者が一人……。
「ちょっと、麻衣。あんた、もういい加減にしときなさい……」
リビングに置かれたテーブルの上には麻衣が空けたチューハイの空き缶が転がっていた。アルコールに弱い麻衣の許容量はそろそろ限界の筈で、地獄を見るのは自分なのにと、綾子は呆れながら麻衣を止めたのだが……。
「……ん、ん~~」
綾子の目の前で、麻衣は手にした缶の中身をくぴりと更に飲み込む。
「……あんたね…………人の話聞いてないでしょ?」
対する綾子は、冷えた透明なグラスを傾ける。麻衣が飲めば一口で落ちるであろう高い度数の酒を、容易く飲み下した。辛口のすっきりとした喉越しを楽しみながら、テーブルの上に置いた透き通った瓶に手を伸ばす。
女性的な印象を受ける細身のフォルムに、銀の箔押しが施された白いラベル。その楚々とした姿に反して、高いアルコール度を誇る。綾子のお気に入りの一つであるこの日本酒。普通の店では取り扱っていない上に期間限定で、出会って以来、毎年蔵元に訪れるか取り寄せるかして、毎年手に入れる一品だった。
今年は都合がつかずに蔵元に行けなかったのが大層悔やまれる。
手にした既に半分以上は空いた瓶のラベルを、綾子はじっと眺めた。
視界の隅で、麻衣の上体が揺れる。あっと思う間もなく、テーブルに突っ伏す麻衣に、
「ちょっと、だいじょ……」
「……なんかさぁ~」
綾子と麻衣の声が重なった。
「携帯と恋愛って似てるよね~……」
「………………はい?」
予想外の発言に思わず聞き返した綾子の前で、麻衣は空になった缶を爪で弾いて遊んでいる。テーブルの上を見れば、目を離した隙に空き缶がひとつ増えていた。手遊びに飽きた麻衣は、コンビニの袋から新しい缶を取り出して、
「あ! ちょっと……!」
綾子が止める間もなく、開けたばかりの缶に口を付ける。
「だってさ~、携帯って相手が取ってくれなかったら会話成立しないし。これが恋愛だったらカップル不成立!」
「メールって手段があるでしょうが」
「それだって一方的なもんじゃない! ……相手が返事くれなかったら、ただの片恋ー!」
「じゃぁ……留守で……」
「相手からの返事待ち!!!」
「………………」
びしっと指を突きつけて、滑らかに返って来る麻衣の回答に(しかも留守電は最後まで言わせて貰えなかった)、綾子は地雷を踏む覚悟を決めて、恐る恐る口を開いた。
「…………つまり」
「ん、ん~?」
「………………奴からのリターンが無い、と?」
その言葉に、麻衣の体がぴくりと反応する。
「ふ、ふふふ……ふ、ふふふふふふ」
手にした缶がテーブルにぶつかって、カタカタと音を立てる。その異様さに、やっぱり言うんじゃなかったー! と覚悟を決めた筈の綾子が早速後悔しているその前で、
「そりゃぁね、忙しいのは私だって分かってる、分かってますよ! でも、でもよ? 10回……いや2、30回中の1回位かけ直すか、あっちからかけてくれたってバチは当たらないんじゃないっ!?」
麻衣が、がおうと吠え始めた。
――やばい、来る……!
危険が迫っている事を察知した綾子は、そろそろと少し離れた場所にあるソファへと避難する。
「いっくら忙しいつったって限度ってもんがあるでしょー! しかも、しかもよ? たまぁ~に連絡がついたと思ったら、第一声が何の用だ? ってのはどうなのよ! 用がなきゃかけちゃいけないわけ!? あんの、あんの…………心霊オタクがぁーーー!!!!!」
ダン! とテーブルに両の拳を力一杯叩き込んで肩で息をする麻衣を眺めながら、綾子は美貌の少年の澄ました顔を思い浮かべる。思えば、突然やって来て、飲ませろ! と言った麻衣の形相には鬼気迫るものがあった……ような気がする。
――何やってくれちゃってんのよ、ナルー!!
二人の間に何かある度に被害を被るのは自分達なのだ。
ナルへの恨みを込めて、心の中で絶叫する綾子だった。
「でも……」
荒い呼吸を繰り返す麻衣をソファの上から眺めていた綾子が、グラスを傾けながら呟く。
「そんな事は百も承知でしょうが」
「う!」
言葉を詰まらせる麻衣に、綾子が更に続ける。
「無駄に顔いいし……て言うかそうよ! そこらの女より色白できめ細かいってどうなのよ、腹立つわー……」
「集中したら寝ないし!」
「……ナルシストだし。ま、今更だけど」
「ご飯だってちゃんと食べてるかどうか怪しいもんだし!」
「…………性格アレで、喋ったかと思ったら悪口雑言ばっかり」
「集中しちゃうのはナルだから仕方ないにしても、ちゃんと休まないと体壊すに決まってるのにー!」
バカヤロー! と天井を仰ぐ麻衣に、
「………………麻衣」
「なに?」
「あんた……怒るか心配するかどっちかにしたら?」
「う……ぐっ!」
言葉を詰まらせる麻衣に、綾子は、はぁと溜息を零して、
「まぁ、実際よくあんな一癖も二癖もある相手を好きでいられるわって感心はするけど?」
「そんな! ナルだっていいとこあるじゃんよー」
「例えば?」
「え? えーと……ほら、意外と潔いじゃない!」
「ああ、ぼーさん達に謝ったってアレね。……それは人として当然の事でしょうが」
「だってナルだよ!?」
「……あんたね」
褒めるかけなすかどっちかにしろと言われて、麻衣はまた言葉を詰まらせた。そして、
「はぁ~~」
深い溜息を零してテーブルに頬を当てる。
「なぁーんであんな奴がいいんだろー」
「ほんとにね~」
「そこは、そんな事ないわよって慰めてくれる所なんじゃ……」
「それはお生憎様。私、嘘はつかない主義だから」
言いながら、綾子はグラスに瓶を傾ける。
「いじわる~」
「はいはい。まぁでも……仕方ないんじゃない?」
好きなんだから、と続ける。頭では分かっていても心が付いていかない。それが人を好きになるという事だ。グラスを空にして、綾子が麻衣をちらり盗み見ると、麻衣が静かな寝息を繰り返していた。それを見て、
「ま、せいぜい青い春を楽しみなさい」
綾子はくすりと笑みを浮かべた。
もっと荒れようものなら無理矢理強い酒でも飲ませて落とそうかと真剣に考えていた綾子だった。知らずの内に我が身の暴走で危機を免れたことを麻衣は知らない。
きっと明日は地獄を見る事になるだろうと、深い眠りの中にいる麻衣を眺める綾子は思う。
「ま、それも自業自得だわね」
呟いた綾子は、ソファから立ち上がると麻衣にかけてやる毛布を取りに客室へ向かった。滅多に使わないせいで奥に仕舞い込んだ毛布を取り出すのに苦戦していると、
「…………ん?」
聞き慣れない音が聞こえた気がした。毛布を抱えた綾子がリビングに戻ると、フローリングに投げっ放しの麻衣の鞄から携帯の着信音が曲を奏でていた。
「……ああ、これ」
その緩やかに流れるバラードは、恋をする少女の幸福と切なさを歌ったもので、女子高生を中心に人気のある女性シンガーのヒット曲。もしかしたら麻衣は、その歌詞に自分を投影しているのかもしれない。きっと本人は無意識に違いないが、随分とかわいい所があるものだと、綾子は笑みを零す。そして、
「麻衣……麻衣、電話鳴ってるわよ?」
「ん、ぅ~ん……」
「ちょっと……起きなさいって、麻衣!」
何度揺すっても起きない麻衣に業を煮やした綾子が、麻衣の頬を引っ張る。それでも、麻衣は起きなかった。そして、やがて静かになった麻衣の携帯に、
「あ~ぁ……」
綾子は、残念そうな声を漏らして髪をかき上げた。過去に麻衣の携帯から聞いた事のあるものとは明らかに違うこの着信音。きっと彼専用に指定しているのに違いない。
――今かけ直せば繋がる筈だけど。
だが、そこまでしてやる義理は全くない。
「ま、いっか。……起きないほうが悪いんだしね……」
軽く溜息をついてから、綾子は麻衣に毛布をかけてやる。
例え後になって感謝されても、無理矢理起こす事の方が綾子としては心に重い。綾子の中で、ナルと麻衣、二人を天秤にかければ圧倒的に麻衣に傾く。
きっと、朝目覚めた麻衣は不在着信を見て、悲鳴を上げるだろう。そして、何故起こさなかったのだと半泣きになるに違いない。折り返し電話をしても、きっと今度はナルが繋がらない。
「ったく……飲めもしないのにヤケ酒なんて、分不相応な真似するからよ!」
これも身から出たサビと言うやつだ。綾子は麻衣の鼻をむにゅっと摘んでから、くすりと笑みを零して、
「まぁせいぜい頑張りなさい」
テーブルですやすやと眠る麻衣を振り返り、リビングの電気を消す。そして、そっと自分の寝室へと向かった。
麻衣の雄叫びが轟くのは、もうあと数時間の事。
― アーメン ―
■ はる様より (悪☆オンで/ナル麻衣)'09.12.6
<酔心地>
再び『キマグレダーリン』の はる様よりウッカリナル麻衣を頂きました〜
うふふふvv BL書き様からノーマルを貰う♪ こんな綾子姉(母)さん大好きです!!
はる様ありがとうございました!!!
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