*藤袴 -thoroughwort-*
☆次回イベント予定☆ ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★
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「こん、の……あんぽんたーんっ!」
麻衣が、ナルの胸倉を掴んだ手を乱暴に揺する。
「なんっで、あんたはそういつも……いっつもそうなのよー!」
がくがくと、ソファに座ったまま締め上げられるナルの体が揺れた。揺すられる度、締まっていく襟元に、少しずつ息苦しさを感じたナルだったが、あくまでも涼しい顔で静かに告げる。
「麻衣、苦しい。締まるから手を離せ」
「やかましいわ、このバカチンがー!」
喧々囂々。暫く終わりそうもないこの喧騒を、二人の男女がぼんやりと眺めていた。
「……なぁ?」
「……何よ?」
「あの二人、確か付き合ってるんじゃなかったっけか?」
「そうね」
答えた綾子が口元にカップを運ぶ。ストローを咥えたまま、頬杖をついていた滝川が、
「なんかさー……」
「何?」
「もっとこう、さー。いちゃいちゃっていうか、うっとりうはうはピンク色でもいいんじゃないかって、思っちゃうわけよ、俺としては」
「ぶ。何それ! て言うか、あんたの思うそのピンク色ってどんなのよ?」
むしろ、それを聞きたいと、綾子は思った。
「ん? そうだな、例えばー…………」
綾子の問いで、滝川が空想に耽り始めた。やがて、眉間を押さえて、くっと辛そうに顔を歪めた。どうやら、いらぬ妄想にまで手を出してしまったらしい。打ちひしがれて、肩を震わせる滝川に、
「……ばか?」
綾子がとどめを刺した。娘もおバカなら、父親は更にその上をいく大バカ者だ。そして、何とか立ち直った滝川は、
「じゃぁ、お前! あれ見て何色を連想するよ?」
くいと顎で二人を示した。その方向を見た綾子は、
「確かに……ピンクではありえないわね。むしろ、闘牛の赤……」
言ってから、こほんとひとつ咳をついて誤魔化した。目の前で繰り広げられているのは、喧嘩する程仲が良いでも、夫婦喧嘩は犬も食わないでもなく。むしろ本気のガチバトル。やる気のない闘牛士に、血気盛んな牛が襲い掛かっているようだった。
「しっかしまぁ……よく飽きないねぇ。つーか、またナルは何をやらかしたんだ?」
毎度繰り返される闘いを眺めながら、滝川がぼんやりと呟いた。
「さぁね? でも麻衣があれだけキレてるって事は、またとんでもない無茶でもしたんでしょうよ」
「……だなー」
でなければ、麻衣があんなに怒り狂う事は、まずない。はぁと、深い溜息を零した滝川に、
「あら。やっぱ妬けちゃう? ……お父さん?」
にんまりと綾子が笑う。そして、滝川は、うっせ! と返した。
「……あれ? 綾子とぼーさんは?」
二人がいない事にようやく気づいた麻衣が、辺りをきょろきょろと見回す。まだぐいぐいと締めてくる麻衣の手首を掴んで、
「……さっき帰った」
気付かなかったのかと、ナルが鬱陶しそうに答えた。
「えー!? 久しぶりに会えたのにー! もう、ナルのせいだからね!」
「どうして僕のせいになるんだ。それと、いい加減離せ」
「あっ!」
手首を掴む手に力を入れて、ナルが麻衣の手を無理矢理引き剥がした。まだ怒りがおさまらない麻衣は、恨めしそうにナルを睨みつけた。その姿は、まるで逆毛を立てた猫のようだった。ナルは、溜息を吐いてから、
「…………分かった。僕が悪かった」
両手を軽く上げて、降参のポーズを取った。
「ぜんっぜん! 悪いなんて思ってないくせにー!」
だが、それは逆効果だったようで、麻衣の怒りの炎に油を注いでしまった。がおうと吼える麻衣に、ナルは額を押さえる。このままでは堂々巡りだし、いい加減静かにして貰いたい。
「……麻衣」
ナルは、麻衣の手首を掴んで素早く自分の懐に引き寄せると、攫うように接吻けた。その、思いもよらない早業に、麻衣の両目が見開かれる。そして、咄嗟にどんと胸を押して、ナルの腕から逃げた麻衣が、
「なっ、ななななななな、何すんのよっ!」
「何って……キスだろ?」
首まで真っ赤になる麻衣に、ナルがさらりと答えた。麻衣が、唇をごしごしと制服の袖で拭う。その行動に、むっとして眉を顰めるナルに、
「おのれ……不意打ちとは卑怯な! て言うか、こんな事じゃ絶対誤魔化されないんだからねっ!」
びしっと指を突きつけて、威勢よく麻衣が言い放つ。しかし、赤く染まった頬が、既にナルに懐柔されかかっているのを物語っていた。
「…………へぇ?」
きらりと、ナルの目に楽しそうな光が宿る。ソファから立ち上がって、がしっと麻衣の首に左腕を巻き付けた。
「ぐぇ! く、苦しい、ナル! ギブ、ギブ!」
ナルの腕を叩く、麻衣の体をずるずると引きずって、ナルが所長室へ向かう。麻衣を部屋の中に押し込めて、ナルがドアに鍵をかけた。そして、壁に追い詰めた麻衣の顔の横に、とんと手を置いた。
「な、何でございまショウ、所長サマ……?」
顔を引き攣らせて、強張った笑顔を作る麻衣とは対照的に、ナルがふっと不敵な笑みを浮かべる。そして、
「僕の部下は随分と優秀なようで、なかなか誤魔化されてくれないんですよ、谷山さん」
にっこりと偽りの微笑みを浮かべるナルに、今の状況も忘れて麻衣は、やっぱり誤魔化す気だったんかい! と心の中で突っ込んだ。そして、
「ですから……」
「へ?」
「その優秀な部下でも、確実に誤魔化せる方法を今から試そうと思いまして……」
「はい?」
きれいな笑顔は一瞬で引っ込めて、ナルは、いつもの意地の悪い笑みを浮かべる。その笑顔を貼り付けたまま、傾いたナルの顔が、ゆっくりと麻衣に降りてくる。そして、ナルを見上げる麻衣の顔が翳る。逃げようにも、既に追い詰められていて、どうしようもない。麻衣は、ぴたりと壁に背中をくっ付けたまま、近付くナルの顔を、冷や汗を浮かべて凝視した。瞳に、じんわりと涙が浮かんだ。そして、
「ひ……ひぇ、ぇ……ぎぃぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~っ!?」
所長室から、麻衣の絶叫が聞こえた。
糖度の足りない、あるバカップルの、そんな日常の1コマ……。
― 合掌 ―
■ はる様より (悪☆オンで/ナル麻衣)'09.9.19
<例えるならそれは赤>
『キマグレダーリン』の はる様より “うっかり出来ちゃった” と
言われたナル麻衣を頂いてきました☆
タイトルが浮かばないから闇に葬られそうだった素敵作品に僭越ながら
朽葉がタイトルを付けさせて頂きました(ぺこり)
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