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*藤袴 -thoroughwort-*

☆次回イベント予定☆                                                ★2017.8.20.SCC関西23 ふじおりさくら(ゴーストハント)★                  

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「ナルぅ!ナぁぁルぅ‥。」

それは真ん丸いお月様が空でピカピカ光る夜。
オシャレな高級マンションのドアの前で名前を呼ぶと中から不機嫌な顔をした美しい青年が現れた。
「…なんだ。騒がしい。」
血の気も凍るような冷たい視線もドアの前で『へらり』と笑う少女には威力がない。
「帰ったんじゃなかったのか…。」


それはこの日の午後の事だ。
「…ナル。茄子好き?」
「茄子?…何故?」
「もらったの。近所のおばちゃんが家庭菜園で豊作だったんだって…。きゅうりとトマトとししとうもあるんだけど…。」
「……。」
袋一杯の夏野菜は朝収穫したばかりで新鮮そのもの…。
アタシ一人じゃ手に余るし、誰か事務所に来てくれたらと思うけど…。
「今日に限って誰も来ないんだもん。」
明日は事務所休みだし…せっかく新鮮なのに置いといたら傷んじゃう。
「ナル野菜食べるでしょ?もらってよ。」
「…いらない。」
「なんでー?」
「面倒だ。」
「…適当に切って炒めたり。サラダにしたり…。あんな大きな冷蔵庫があるんだからさぁ。」
引越しの手伝いに無理矢理押しかけた時なんて贅沢なんだと思ったもんだ。
「僕にソレを抱えて帰れと?」
確かに…。
一抱えもある野菜の入ったビニール袋をナルが持って歩くのは違和感があるけれど…。
さすがにアタシも渋谷の街を歩いてくるのはちょっとアレだったかも。
「…じゃあじゃあアタシが運んで行くからさぁ。ついでに料理も作って置いとくから…引き取ってっ!」
食べ物を粗末にするなんて考えられない。
「……好きにしろ。」

確かにそうは言ったのだが、それは予定がなかった時の話で、僕とリンは急に予備調査に出る事になり
帰りはそのままマンションに直帰した。
「…事務所を閉めて帰れと連絡したはずだが?」
「だって…とにかく野菜だけでも…。」
「……馬鹿じゃないのか?お前。」
「なんだよぉ馬鹿って!」
「………。」

新品ピカピカのシステムキッチンには大きな冷蔵庫があって…電磁調理機や食洗機、オーブンも着いてるけど
まるで役に立ってない。
「…もったいなーい。」

茄子にきゅうりにトマトにししとう。
無機質な台所に青い野菜の香りが広がる。
「ナルごはん食べるよね。」
野菜をオリーブオイルと塩こしょうで炒めパスタにからめる。
スープはインスタントだけどまぁ手早く作ったにしてはなかなかだ。
「リンさんももう戻るんでしょ?隣だし一緒に食べてね。」
「…麻衣?」
「アタシも帰って家の野菜食べるから。朝浅漬けにしたお漬物もいいかんじになってるはずだし。
 酢漬け…ピクルスならナルも食べる?今度持ってきたげるよ。」
「…リンに送って貰え。」
「悪いよ。事務所に荷物置きにいったんでしょ?まだ早いから大丈夫。」
「しかし。」
「アタシ今日はホッカホカの白御飯で食べたいの。炊飯器無くてもお鍋でも炊けるけどさぁ…。
 やっぱ日本人なら白飯ないとね。」
「……。」
「じゃあね。今度野菜カレー作ったげるね。ピクルスと合うし。バケットと食べればいいでしょ。バイバイっ!」
あわただしくドアを出て静かなマンションを走っていく様子をしばらく眺めて…。
(騒がしい奴…。)


「…ナル!?これ…。」
「リンにずいぶん煩く言われた。夜遅く一人で帰すなんて非常識だと。」
「…それはゴメン。でもそれがなんで??」
「お前が言ったんだろ。御飯がないから帰るんだと…。」
「……えっ、と。」
相変わらず使われた気配のないキッチンにこの前来た時と違うピカピカの最新式の炊飯器が置かれていた。
遠赤外線厚釜仕様。
「スゴーイ。これナルが買ってきたの?」
「……リンが。」
(まあそりゃそうでしょう。ナルが電気店で炊飯器なんて買わないか…。)

必要最低限の物しかなかった高級マンションのキッチンに…お米の炊ける匂いとスパイシーなカレーの香りが漂い…。
「うん、いいできv。」

作りつけの収納棚にはまとめて揃えたのだろう白いセットの皿やグラスが並んでいる。
お茶のカップのセットだけは綺麗な青い花柄で…まどかさんかルエラの選んだ物かもしれない。
そこに並んだ淡いピンクと水色の花模様の二客の御飯茶碗のまあるい姿が…なんだかとてもかわいらしい。

「…これってやっぱりリンさんなの?」
「いや。茶碗が欲しいと言ったらこれだと…。」
「なんでこの二客?」
(リンさんと二人だからいいんだけど…。)
「…二個セットなんじゃないのか?みんなセットで箱に入ってたぞ。」
「……。」
リンさんと事務所の帰りに買いに行ったんだ…。
二人で行って一組の『夫婦茶碗』買ったのか…。
「……。」
(うーん。まぁいいのか?それって…。)
まぁこの組み合わせならリンさんが大きいのでピンクがナルだろうけど…。
「これはお前が使え。」
「…え?アタシ?」
「こんなピンクの物リンが使うわけないだろう。お前用だ。」
(ピンクがリンさんじゃ…まぁ可愛いすぎるけど…。)
「でもリンさんのは?」
「…なんでリンの茶碗がいるんだ。」
「………。」

(エヘヘ…。)
「今度は和食作るねv。」
「…ああ。」

真っ白ほかほか炊きたてご飯に夏野菜のスパイシーカレー。
ちょっぴりすっぱいピクルスがアクセント。
二人で囲んだ食卓がなんだか少し照れ臭かった。


「…ねぇリンさんは呼ばなくていいの?」
「…いいんじゃないか?」
「……そう?」





あんまり、リクエスト「お宅訪問」じゃないような?
甘くもないし、ナル麻衣でも・・・。申し訳ない。


end  



■ 美桜子さまより(悪☆オンで/ナル麻衣)'09.6.25
<一組のしあわせ>
『蒼い鳥の薔薇色人生』の美桜子さまより頂きました。
朽葉のリクエストした「麻衣がナルのお宅訪問」のお話で〜す。
通い妻♪ 通い妻♪ とウキウキしました☆
無自覚なナルの言葉に麻衣ちゃんは翻弄されつづけるんですねvv
美桜子さまこれからも宜しくお願いします。



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